獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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探索の章

 

 

カンナを見送った後、教えてもらった広場に荷物を下ろす。念のため、ガーディにポケモン達の痕跡がないかを調べてもらい、天井に崩落の危険がないかをバタフリーに見てきてもらう。その間に私は『機材』からこのために持ち込んだ荷物を解凍していた。テントには元々防寒防熱の機能がついているけど、テントをはったさらにその上から防寒シートを重ねて被せることで補強をした。中の床には防寒シートを重ね、その上から毛布を敷き詰め、さらにラグを引いて地面からの寒気を防ぐ。隅の方にはもう一枚防寒シートを引いて、その上に寝袋を置いた。

 

異常がないことを確認して戻ってきたガーディに頼んで、テントの真ん中に開けておいたスペースの氷を溶かしてもらって地面を露出させる。その上に電熱ストーブ(充電式。毎日フルで使った場合、一週間に一度は充電がいるため、発電機も購入した)を設置し、稼働の確認をした。調理もできるタイプを買ったので、上に水を入れたやかんを乗せておく。

 

外に出るとバタフリーがゴルバットを叩きのめしていた。敵意をもってこちらのテリトリーに侵入してきたポケモンは倒していいと伝えてあるので、早速仕事をしてくれたようだ。お仕事したよ~とひらひら飛んでいるバタフリーをハンドサインで呼び戻して状態の確認をする。その間にガーディが小さくなったゴルバットを探しに行った。

 

レベル帯的には近かったか上の相手だったと思うのだが、きちんとトレーニングをつんでいたことが功を奏したようで、ほとんど無傷だった。むにむにと顎の下を揉んでから手を離すと、バタフリーはひらひらと空からの偵察に戻っていった。

 

ガーディが咥えてきたゴルバットに治療をしてやって、私たちのテリトリーと定めた場所から離れた場所に放逐するようガーディに指示を出す。

 

バタフリーもガーディも、こういった設営にむいた体の構造をしていない。テントをはることもキャンプ用の機材を設置することもできないから、私が一人でやるしかないのだ。まぁ、初めて訪れた野生のポケモン達のテリトリーのど真ん中だから、ポケモン達には辺りの警戒と私の護衛を任せないといけないので、どちらにせよ一人でやるしかないけれど。

 

徐々に日が陰ってきているので、設営を本格的に急ぐ必要があった。

 

 

 

 

朝、目が覚めて、寝袋から這い出す。寝ぼけ眼で抗議の声をあげたガーディも寝袋の中から引っ張り出して、電熱ストーブの前に転がしてやった。既にストーブの前に陣取っていたバタフリーが横にずれて場所をあけてやるのを見ながら、やかんに水を入れて、ストーブにかける。

 

水が沸騰するのを待つ間に、着ていた就寝用の防寒具を脱ぐ。寝巻も脱いで、一瞬の寒さに震えながら肌着を着て、その上から一繋ぎになったもこもこのインナーを着る。さらにダイビング用のドライスーツ(地球のものを着た覚えが薄っすらあるが、間違いなく地球製より出来がいいし運動性を全く阻害しない)を重ねた上に普通の寒冷地用の服を着て、昼間の活動の下準備は完了だ。

 

沸いたお湯を金ダライにはってタオルをつけ、顔まわりを拭く。その後耐熱シートをしいた上に金ダライを置きなおし、ガーディを呼んだ。相変わらずめちゃくちゃいやそうな顔をしているが、早く来てくれないとお湯が冷めてしまう。

 

 

「おいで、ガーディ」

 

 

渋々暖かいストーブの前から離れたガーディの後を、バタフリーもついてきた。

ガーディを抱き上げると、観念したように力を抜く。そのままゆっくりと、金ダライの湯の中に足の方から降ろしていった。

 

ガーディはほのおポケモンだ。水に弱い。ヒトカゲ系列やマグマッグ系列なんかのように、水に濡れると直接的に命に関わるというわけではないけども、それでも水浴びをするのは非常に嫌がる。それはよくよくわかってるんだけれども、バトルでも水が嫌なので!で、みずタイプのポケモンから逃げ回るようになってしまうと、バトルが成り立たなくなってしまう。苦手なタイプのポケモンと相対した時に、怖がっていつもより指示を聞かなくなるとか、ひどいポケモンだとパニックになることもあるのだ。『あまごい』されるだけで動けなくなってしまうポケモンの動画も見たことがある。

 

そういうのを防ぐためのトレーニングとして、ポケモン達が苦手な環境に連れていくとか、苦手なタイプの技をあえて受けさせることで、苦手なタイプとの付き合い方を学んでいく、とかがある。一歩間違えれば命に関わることもあるので慎重にならなければならないが、地方大会なんかに積極的に参加するようになった程度のトレーナーですらよくやっている手法だ。勿論信頼関係をきちんと築いていないといけないし、ポケモン自体にも苦手を克服したいというやる気が求められる。

 

金ダライに立たせたガーディにお湯をすくってかけてやると、嫌そうな顔をしながらもじっとしていた。

 

顔こそこれだけ嫌そうな顔をしているが、朝私が寝坊した時などは咥えてきた金ダライを顔面に落とされたことだってあるし、金ダライの前で早くしてくれとぎゃうがう言っている時もあるくらいだから、本当にガーディは熱心だと思う。それはそれとして苦手は苦手なので険しい顔をしているんだろうけど。

 

十分毛並みを濡らした後、ガーディが膝を折って金ダライの中で肩までお湯につかる。

 

 

「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10!よし、よく頑張った!」

 

 

言ったとたんにお湯が激しく沸騰し、あっという間に蒸発していく。ガーディが自分の体温をあげたのだ。テント内にむわりと蒸気が漂うが、夜の間に乾燥しきっていたテント内の空気にはちょうどよかった。バタフリーが少し強めに羽ばたいて蒸気を循環させる。バタフリーはバタフリーでこおりタイプが弱点だから、このいてだきのどうくつの環境そのものがよいトレーニング環境になっていた。

 

大分ガーディも水に濡れるという事に慣れてきてくれたから、そろそろウインディに進化させる頃合いだろうか。大きくなってしまうとその辺のトレーニングの補助をするのが難しくなってしまうし、何かあったときに私やバタフリーでは助けられなくなってしまうので、それなりに高いレベルになった今でも進化させずにいるのだ。

 

すっかり乾ききった体をぶるぶると震わせるガーディの頭を撫でる。

 

 

「ご飯食べよっか」

 

 

二匹とも元気に返事をしてくれた。

 

 

といっても人間のご飯はパックされたレトルト品を電熱ストーブにかけるだけでいいからお手軽だ(焚火に〇分埋めたらおいしいごはん!とかいう旅人向けの食品が多い。最悪ガーディのお腹の下においておけばいいから疲れたときなんかは非常に助かる)。ポケモン達にはそれぞれ専用のフードと、体づくりのために摂取させているサプリメントと、デザートにはスライスしたきのみを出してやる。ポケモン達のご飯の用意が終わる頃には私のご飯も充分温まっていた。

 

食べながら今日の予定をどうするかを固めていく。

 

いてだきのどうくつ生活一日目は結局野営地の設営だけで終わり、それから五日目まではバトルを仕掛けてくるポケモン達の相手をしながらどうくつの探索をすることで終わった。六日目くらいから、自分たちから襲い掛からなければ何もしてこない人間だと学習したのか、私たちが本格的にあちこち動き回っても、あ?いつもの人間?みたいな反応をされるようになってきて、十日目の今はどうくつ内に活気のようなものが見えてくるようになった。やっと全体の警戒が解けてきたのだろう。……異様に人慣れが早かったという意味での例外が二種ほどいたけれど。

 

好奇心の強いウリムーやデリバードがちらちらと私の側に近寄ってきてはびゃっと逃げる、みたいな行動をするほどである。たぶんそろそろ、きのみを転がしてやれば餌付けに近いこともできるだろう。

 

とはいえ5歳の頃にやっていた餌付け作戦は本来あんまり推奨されるものではないから、技を一回当てたら負け、程度のゆるいバトルをしてくれたポケモンにはきのみをあげる、とかにすればいいかなと思う。

 

ラプラスの姿は未だに見れていないが、時折鳴き声が反響して聞こえてくるようになったから、多少警戒心は緩んでいるのだと思う。いてだきのどうくつ内では群れを形成しているはずなのだが、一体どこに隠れているのやら。なんとなく『ダイビング』が、もしくは自力ダイビングが必要な気がしないでもないが……、たぶん、あの時返事をした触手の主──ドククラゲがいるということは、メノクラゲ(カントー・ジョウトにおいてポケモン水難事故の原因ランキングナンバーワン)がそれなりの数水の中に潜んでいるであろうことを思うと、出来れば水中探索は最後に回したいのである。ぶっちゃけあまりやりたくない。

 

まぁ、今日の湖の状況にもよるけれど、人慣れが早かった二種──パウワウ達とコダック達との交流を深めるのがいいだろう。パウワウ達の群れに紛れ込んで様子を見ながら遊んでやるのと、そろそろコダックの巣の位置を特定したい。巣に案内してあげるよ!と言ってくれたはいいものの、コダックの群れはかくれんぼが大好きなようなのだ。具体的に言うと群れ全匹見つけるまで巣に案内しませんよ、みたいな。コダックを探しながら同時にどうくつを調べることが出来るのでいいといえばいいんだけれど、かくれんぼはどっちかというと群れのリーダーのゴルダックの方が面白がっているような気がする。となると、長くなりそうなことを考えるとコダック周りは最後の方かいいかもしれない。後はスターミーのところに仕掛けたビデオを回収しにいくか。

 

二日目に湖の側で見つけたスターミーだったが、次の日もその次の日も、本当にずっと微動だにしないものだから(思わずきのみをお供えしてしまった)、九日目の昨日、試しにビデオを仕掛けてきたのである。背景には湖が写るようにしておいたから、私たちがキャンプに籠った後の湖の様子が分かれば儲けものである。ビデオの様子によっては夜間の探索も視野に入れるべきだろう。

 

ビデオを回収して、パウワウが日向ぼっこに出てきていれば少し混ぜてもらって、ついでに出来そうなら遊びとしてのバトルのお誘いをしてみて、その後コダック達を探しに行くのがいいかな、と今日の予定を決め、それをポケモン達にも伝える。そのころにはポケモン達も私もご飯を終えていて、再度かけなおしたやかんがぴーぴーと音を立てていた。

 

お茶のパックとコップ、それから水筒を取り出して、お盆の上にきれいに並べてやると、バタフリーが目を輝かせながら寄ってきた。気を付けてね、と差し出すと、嬉しそうに受け取ってストーブの側に飛んでいく。最近バタフリーは私のお茶を淹れるのにご執心だ。水筒はいいようだが、やかんからコップにお湯を移すのは特に難しいらしく(たぶん大きい水筒だから狙いが定めやすいのだろう)、辺りがびちゃびちゃになることが多いが、バタフリーのホバリングの練習にもなるし、ポケモンが私のためにやってくれるお手伝いだ、それがとてもうれしかったから、好きなようにさせていた。火傷だけ気を付けてくれとは言ってある。お盆を持ったままパタパタと飛ぶバタフリーの下で、ガーディがぎゃうぎゃういいながら器用にタオルを敷いていたので、笑いながらそちらはポケモン達に任せることにした。

 

私の方は設置した貯水タンクから水を汲み、スポンジでポケモン達の食器をぬぐって汚れを落とす。水気を切ったらテントの隅にはったロープに食器をひっかけて終わりだ。後はお弁当用のレトルトを取り出して、電熱ストーブにかけにいく。ストーブまわりは、まさに緊張の一瞬、といった感じで静まり返っていた。ちょうどやかんからコップお湯を注ぐところらしい。ぴたりと空中で停止したバタフリーが慎重にやかんを傾けていく。さっきまで熱されていたやかんだから持ち手を持っているとはいえ熱いだろうに、バタフリーの表情は真剣そのものだった。ガーディが隣で固唾をのんで見守っている。

 

とぽとぽ、とコップにお湯が注がれ、お茶のパックからじわじわと色が染みだす。今日はやかんの支えにブレがないからいいところまでいけそうだな、と見守る。

 

 

「わう!」

 

 

ガーディが吠えたタイミングでバタフリーがやかんを引き上げた。僅かに水滴が飛び散ったものの、概ね満点の注ぎっぷりだった。隣で水筒からも湯気が立ち上っていたから、今日は二つとも成功したようだ。

 

おお、と拍手すると、やかんをストーブに降ろしたバタフリーがほめてほめてと飛びついてきた。ガーディもいいとこで合図したのは俺!とじゃれついてくるのを二匹まとめて抱え上げる。撫でて、頬ずりして、めいっぱいほめて、鼻いっぱいに二匹の香りを吸い込んだ。ああ、幸せだな、と思う。

 

充分堪能して二匹をおろして、お茶をもらった。一息ついてから入念に体を伸ばしてストレッチをし、軽く準備体操をしてから、外に出る最後の準備をする。

 

顔にはダイビング用のフードを被り、首には水中呼吸用の器具をかける。その上から防寒のしっかりしたコートを着て、フィールドワーク用の機材とポケモン達用の薬品やきのみをいれたウエストポーチをしめ、背中にレトルトと水筒を入れた保温バッグを背負った。バタフリーが頭に落としてくれた帽子をきちんと被り直す。そして滑りづらいブーツをはいて、手袋をはめれば私のフィールドワーク用装備は完成だ。

 

わざわざダイビング用の装備を身に付けているのは、万が一の時のためでもある。敵意を持って襲いかかるようなポケモンだったらまだしも、水の中でも遊ぼうよ!楽しいよ!みたいなノリで無邪気に引きずり込まれただけで普通に死ねるからだ。この気候の湖に普通の格好で入ったらどうなることか。

 

それに私が会いたいと思っているのはラプラスだから、何かの拍子に水に浸かることは充分考えられた。それ故の対策だった。

 

ストーブの電源を落としてテントの外に出た後、ポケモン達が離れたのを見計らってテント周辺に念入りにポケモン避けの仕掛けを施す。帰ってきたらポケモンに壊されてたとかなったらさすがに泣くので。それはもうお高かったのだ。

 

偵察役として先行しているバタフリーの後を追いかけて、まずはスターミーのところにいく。相変わらず微動だにしていなかったけど、このスターミーは一体どう生活しているのだろうか。毎度供えたきのみがなくなっているので、ちゃんと生きているはずだけど。大丈夫かなぁと覗き込むが、スターミーの赤いコアに私の顔が反射しただけだった。

 

 

「撮らせてくれてありがとうね。これお礼」

 

 

側にきのみをいつもより多めに置いてその場を離れる。次に向かうのは最初の日にカンナがパウワウが遊び場にしていると教えてくれた広場だった。パウワウ達はこのいてだきのどうくつの中では一番人慣れが早く、3日目らへんには一緒に遊ぼー!と無邪気に寄ってきたくらいである。いくら最初の日に応えてくれたポケモンの群れとはいえ、親御さんというか群れの上位層のジュゴンさん達的にはいいのかなと思ったのだが、ジュゴンさんすら何度か混ざってあそぼー!しに来ていたくらいなのでよかったのだろう。おもちゃのボールを投げてやったら群れ全体が一つのボールに飛びついたので軽く引いてしまったくらいだった。現時点で善意でじゃれつかれてうっかり事故の可能性が高いポケモン第一位でもある。

 

 

さて、長々と現実逃避をしたわけだけれど。

………いや、スターミーのところに行く前に、薄々勘付いてはいたのだ。ちらっと見えたから。なんかいるなって。いるなって思ってはいたけど、まさかな、と思うじゃん。

 

 

「────♪」

「ええー………」

 

 

そこにいたのは一匹のラプラスだった。パウワウの群れの中で、パウワウ達と一緒に楽しそうにはしゃいでいる。見たところ体長が私の身長くらいのように感じる。よほど小型の個体でなければ、恐らくは子供だろう。カンナのラプラスは3m近い大きさはあったし。

 

一端足を止めて岩陰に隠れ、そっと辺りを見渡す。ぱっと見た感じ、子供であるならいるはずの、親の存在がないのだ。バタフリーを見上げると、首を振られた。バタフリーから見てもいないのか。とりあえずどうくつの天井間際までいくよう指示をだし、パウワウ達の視界に入らないようにさせる。

 

……一歩間違えばビードル事件の再来だった。近寄らない方がいい。そっと後退して、あの広場を見守れそうな場所に移動を開始する。数日で使わなくなったけど、パウワウの見守り用で確保した場所があったはずだ。あそこからなら湖も一緒に見ることが出来るから、ラプラスの親が迎えにきたら見つけることもできるだろう。

 

まさか水上じゃなくて地上でラプラスを見るとは思わなかった。一応地面が氷で覆われているから、たぶん上陸してここまで滑ってきたのだろうと思うけど。

 

結局その日はラプラスとパウワウの戯れを観察することになった。ラプラスもパウワウ達も、やけにきょろきょろと辺りを見回していたのが印象的だった。たまに上を見上げて何かを探す素振りもしていたので大分ひやひやしたが、バタフリーは上手に隠れていたので多分見つからなかったと思いたい。私を警戒しているのだろうか。それにしてはなんというか、こんな目立つところで遊んでおいて危機感がない気がする。

 

後、途中から私の隣で一緒になって観察を始めたゴルダック、お前はなんなんだ。かくれんぼのときも思ったけど大分人慣れしてない?無遠慮に近寄ってくるのでガーディが威嚇してくれたが、全く動じもしなかった。敵意もなく、伏せた私の隣で普通に体育座りを始めたのでとりあえず放っていたが、あんまり微動だにしないので思わず話しかけてしまった。

 

 

「……暇なの?」

「グァ」

「返事は嬉しいけど君も微動だにしないね…なんかアクションとってくんないかな……。ね、あのラプラス、親御さんの許可とって遊びに来てると思う?」

「グァ」

「あ、首振った。やっぱり?とってないよね?」

「グァ」

「だよねー……、ほんというとせっかくだから交流したいんだけど、さすがに怖いわ」

「グァ」

「なんで首振るの?つっこめって?」

「グァ」

「頷かないでくれるかな……警戒の強いポケモンの群れの子供に関わって怪我したことあるんだよ私。あんまり命をぶん投げたくないなぁ」

「……グァ」

「………あ、どっかいった」

 

 

会話が成立したので話を続けていたのだが、やっぱりうざったかったのだろうか。ゴルダックを見送ったガーディがフンスと鼻を鳴らした。

 

 

結局その日は一日遊んでいるラプラスとパウワウを観察して終わった。私に懐くのが早かったことといい、パウワウのコミュニケーション能力が半端ないなこれ。ラプラスが湖の方に戻って行って、ちゃぽんと水中に潜っていったのを見れたのが収穫だろうか。やっぱり自力ダイビングの必要があるかもしれないと思うと気が重い。

 

 

「どーすっかなこれ。ガーディ水の中いける?無茶言ってるのはわかってるけど。ガーディの分の呼吸器は買ってあるから後はほんとガーディの気合次第なんだ…」

「……うー、わふ」

「フリィ!?」

 

 

露骨に嫌そうな顔をしたガーディに、だろうなぁと思いながら、僕の呼吸器は!?と頭に飛びついてきたバタフリーを甘んじて受け止めた。

 

今はテント内で暖かいお茶をすすりながら、スターミーの所に仕掛けておいたビデオを早送りしているところだった。しかし微動だにしないポケモンである。背景の湖でたまにトサキントやアズマオウ、コイキングが跳ねていて、よっぽどそちらの方がメインに見えるくらいだ。

 

 

「だって虫ポケモン用の水中呼吸器なんて売ってなかったんだもん…。ぶっちゃけバタフリーが口呼吸なのか気門呼吸なのかもわかんないし……。ガーディのはたぶん警察ポケもやってるからあったんだろうけども。ほのおポケモンで水中呼吸器があるのガーディとウインディくらいじゃないかな、わりかしレアだし高かったよ」

「がう……」

 

 

発電機とストーブを合わせたくらいはしたし。頭の上でフゥ~~と拗ねた声を出すバタフリーを下ろして顔をむにむにといじってやる。相変わらずのひやっこさで適度な弾力もあるので、このコミュニケーション、私はわりかし好きだった。バタフリーもマッサージのような気持ちよさがあるのか、結構気に入ってるようではある。

 

 

まぁ、話を戻せば、こんな環境の場所にくるのに、みずタイプ、もしくはこおりタイプのポケモンを捕まえずに来ているのが一番悪いんだけども。

 

この世界、ゲームと違ってパソコンにポケモンを預けるシステムはない。精々が遠距離交換通信の際にパソコンを使う程度だ。ボールに入れることはできてもご飯は適宜与えないといけないし、運動もさせてやらないといけない。ボールには一応最低限の生命維持装置はついているものの、一年間ボールから出さなかったポケモンの衰弱具合をTVなんかで一度でも見たことがあれば(虐待ポケモンを救えみたいなTV番組とかがある)そんな阿呆な真似はしないだろう。そうでなくても生き物をそんな風に扱う時点で頭がおかしい。

 

パソコンシステムがないということは、つまり、ポケモンを捕まえた時点で維持費が発生するということだ。もしも食費、生活費が払えなくなるような数のポケモンを捕まえてしまった場合、人間の生活すらも脅かされることになる。

 

旅立った子供が出戻ってくる理由の多くが金銭的理由によるものなのは、そういうことだ。ポケモンを捕まえすぎてファイトマネーだけでは生活できなくなった、もしくは捕まえたポケモンが大きく進化してしまい、必要な食費が跳ねあがったことでやりくりできるお金が無くなってしまうのだ(単純に金銭計画がきちんと立てられないという子供もいるが)。

 

旅立った子供に限らず、一般家庭でもそういった話は起こりうる。ポケモン達はバトルとか、お手伝いとかをした方が経験値の上がりがいいというだけで、普通に生きているだけでも経験を積んでいく。だから、ある日突然進化するというのは珍しい話ではなく、────ある日突然進化した家族によって家庭崩壊が起きた、というのも、実際聞く話ではあった。

 

ポケモン貧乏、ポケモン破産、という言葉があるくらいだ。一応、そうならないようにトレーナー称号による補助制度があるのだけども(かいじゅうマニア系列なんかは大型ポケモン所持者への生活補助が多く与えられる称号だったりする)。

 

だからこそ、一生に一度の出会いを大切にする人が多い。

 

ちなみにその辺の折り合いが一番難しいのがバトルトレーナーである。いくら強いポケモンをたくさん手に入れたところで(従えられるかどうかは別として)、バトルに勝てなければポケモンの維持費ばかりが嵩んでいくからだ。その上どうしたって最低6匹はそろえる必要が出てくるし(別に6匹が必ず必要というわけではないが、数が多い方が勝ちやすいのが普通である)、その場合は地方大会の賞金なんかも狙っていかなければ、とてもではないが生活していけないだろう。もしくはスポンサーを探すかだ。別に通常のファイトマネーで生活したっていいが、たくさんお金をくれるトレーナーと毎度出会えるわけではないし、いつでも勝てるとは限らないので、それなりの覚悟はいる。とてもシビアな世界だと思う。

 

つまりのところ、そう簡単にほいほい手持ちを増やせないということだ。ポケモンを捕まえたら都度申請がいる世界なので、当然逃がすことになっても報告の義務がある。なので、あのポケモンが欲しいのでこのポケモン捕まえて挑む、目当てを捕まえられたのでこのポケモンとはさようなら、なんてこともできない。

 

その辺逆手にとって、水中とか森の中とか洞窟の中とか、特殊な環境下にいるポケモンの捕獲を手伝ってくれる業者も存在しているし、それ用のレンタルポケモンなんていうジャンルもあるくらいである。

 

……ラプラスの生態観察の体で来ているので、業者利用するわけにはいかないんだけどね!ラプラス捕まえる気満々だけど!

 

今更ながら密猟すれすれのことをやろうとしているなと思うが、大丈夫、向こうから懐いてついてきたがった場合は合法だ。何も問題はない。………たぶん。

 

となれば、頼るのは今の手持ちの二匹しかいないわけで。

 

 

「さすがに最初から潜らせるようなことはしないよ、呼吸器をつけた状態でボール待機、有事の時は出てきてもらって『いわくだき』とかその辺のわざうったら即戻るみたいな……、バタフリーも、なんかあったら一瞬出して一瞬戻すみたいなやり方でいけないかなと考えてる」

 

 

バタフリーの羽は水に強いし、ガーディほど水中でのダメージがないので十分行けるとは思う。本当を言うと『エレキネット』を覚えてくれていればかなり役立っただろうけど、あれはイッシュやアローラ、ガラル生まれのキャタピー系列が覚えるわざで、カントー生まれのうちのバタフリーには覚えさせられなかった。……ただ、キャタピー系列にはその素養があるということだから、見本とか見せながら教え込んでいけばなんとかなりそうな気もしている。なのでバタフリーに進化した今でも、『いとをはく』の練習は定期でさせていた。

 

 

「……どう?」

 

 

じい、と二匹のポケモンが私を見つめる。私もじっと二匹の顔を見る。目をそらして、お互いの顔を見合わせたのは、ポケモン達の方だった。

 

 

……しょうがないなぁ。

……しょうがないねぇ。

 

 

二匹が鳴いた。それを受け取って、ふぅ、と息をはく。

 

 

「ありがとう。苦労かける」

「ぎゃう、がう!」

「フリー!」

 

「まぁ、でも、潜らずいける方法もあるかもしんないから、あがきまくってからにしようね…私もこの気温の湖に潜りたくないし………」

 

 

今覚悟を決めたのに!と抗議してくるガーディの顎の下をわしゃわしゃしながらビデオに視線を戻す。

 

 

「っていってもなぁ、出来ることがね………試しに一旦ボートで湖の反対側の方に行ってみる?簡易ボート持ち込んでるし。ただ、ちょっと怖いんだけどなー……入り口の方とか通路の方とかの湖より、断然いるポケモンのレベルが高そうなんだもん………うわ今顔だしてんのギャラドスじゃんこっわ……いくらカンナさんの声かけがあったとしても下手に刺激したくないな、やっぱやめとくかこれ。湖のふちを自力ロッククライムの方が行けそうな……白いマントでごまかせるかな?」

 

 

白いマントは一応雪用迷彩として買ってある。ガーディに一端毛皮を汚してもらって白くして私の体にくくりつけ、バタフリーには空中から偵察してもらう形で、水面より少し高い位置を移動していけばなんとかならないだろうか。幸い氷まみれとはいえ結構岩肌はごつごつしているし、体重をかける岩の見極めと、滑らないようということに気を付けていけばなんとか行けそうな気がしないでもない。

 

 

「うーん……やっぱり。湖の奥の方のどうくつの壁、ひびっぽいものがあちこちにあるんだよね。ラプラスはずっと水に潜ったまま生活できる種族じゃないから、潜った後にどっかで浮上してると考えると、たぶん『ダイビング』すれば行けるどうくつの先があるんだろうな」

 

 

たまに聞こえるラプラスの鳴き声は、水中からではなく洞窟の中を反響して響いていた。たぶん、ひびがどうくつの先に繋がっていて、そこから声が聞こえるのだろう。私がくぐれるくらいの大きさの穴があれば儲けものだ。

 

明日またラプラスがパウワウの所に来ていればそちらの観察をして、来ていなければどうくつの壁を移動できるかどうかの確認をしてみるべきだろう。

 

 

「ごめんよガーディ、潜る前に一回、色違いになってもらわないといけないかもしれない」

「わう」

 

 

まぁしょうがないな、という顔でガーディが頷いてくれたのが頼もしかった。

 

尚、スターミーは夜に一度コアが点滅しただけだったし、きのみは私達が離れた後、一瞬で姿を消していた。……どういう生態してるんだろう。怪我してる訳でもなさそうだし。

 

 

 

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