獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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休憩の章

 

「………ぇ、ねぇ!ちょっと!」

 

 

呼びかけられているということに気付くまでしばらくかかって、そうして自分が寝ていたことに気付いて、がばりと起き上がる。

 

 

「────!」

「え、あ、…!」

「あっぶな、!」

 

 

ラプラスの首を背もたれにしていたのを忘れてうかつに動いたものだから、うっかり転げ落ちそうになってしまった。ラプラスが咄嗟に片ヒレを上げてくれていなければ、謎の人物に体を支えてもらっていなければ、私は湖に落ちていただろう。危なかった。

 

 

「ごめんなさい…!」

「まったくだわ!こんな気候のこの場所で!しかも仮にも野生のポケモンの上で寝てるだなんて!」

 

 

ダイビングスーツを着て、大きなラプラスに乗っている謎の人物───カンナに素直に謝る。正論過ぎてぐうの音もでない。支えてもらって乗っていたラプラス(あの子供の個体だ)の上に戻った。

 

腹から抗議の声が聞こえてきたのでコートの胸元をあけると、ガーディが出てきた。うとうとするまではラプラスの背に一緒に乗っていたはずなので、たぶん寝てしまってから入ってきてくれたのだろう。バタフリーも頭の上に降りてきた。見張り役をしていてくれたようだ。

 

ガーディがいたということで多少険が緩んだものの、それでも!とカンナさんが怒鳴る。

 

 

「もう少し警戒心を持ちなさい!ほんと、テントが無くなっていたからまさかと思ったら…!」

「ははは……」

 

 

笑いどころではないのだけど、この辺は笑うしかない事情があるのでちょっと許してほしいところがある。

 

あの日、ラプラスの群れのど真ん中に浮上した後、めちゃくちゃ怒られたのだ。この子ラプラスが。あまりに怒気がたたきつけられるものだから、すわ戦場かと覚悟したら、ラプラスの群れは私達の方にはめちゃくちゃ優しくて、真面目に意味が分からなかった。普通逆じゃないのか。

 

それはもう大歓迎で、頭を擦り付ける、甘噛みされるなどの挨拶をたくさんされながら子供の背から大人の背に移され、陸につれていかれたと思ったらそこには私たちが張っていたテントが鎮座していたのでさらに意味が分からなかった。水中トンネルの向こうに置いてきたはずのものだったからだ。横ではゴルダックがサムズアップしていた。やっぱり意味が分からなかった。

 

一応、本来であればゴルダックは『テレポート』を覚えないのだけど、たぶんあの個体は『テレポート』を覚えていて、テントを丸ごと輸送してくれた……のだと思う。なんか違う気がひしひしとするのだが、それ以外に説明がつかない。

 

とりあえず疑問は尽きなかったけど、一応それで水に濡れた体を温めることはできたし、そこで眠りもした。

 

問題は次の日だった。水辺に行くと、私たちの、というか私の前にラプラスの列が出来たのだ。

 

 

ここのラプラスは色々な被害を受けてきているポケモンではあるが、ラプラスは本来、人を背中に乗せるのが好きなポケモンである。

 

 

簡単に言うと一日中ラプラス達のおもちゃにされた。

 

 

「それが昨日で……」

「あー……」

 

 

5匹目くらいまでは感動しながら大人しく乗せてもらっていたが、30匹を超えたあたりで宇宙が見えてきていた気がする。ラプラス達も段々私の扱いが雑になっていって、最終的にはニャースのように首根っこを咥えて背中の上をやり取りされたくらいだ。一匹につきこの奥のどうくつの湖を一周、と決めていたようだったのだけ御の字だろうか。ずっと上空をついてきてくれていたバタフリーと私の側にいてくれたガーディには感謝である。

 

今日は、一昨日昨日と散々怒られていたらしい子ラプラスが姿を見せて、今日は私の日!と宣言してきたので、水に潜らないことだけお願いして背中に乗せてもらっていたのだ。甲羅の上に乗るのはやっぱり安定感に欠けていたので、ラプラスの首の根元に尻を落ち着けて、首筋に背中を預けていたのだが……、たぶん、穏やかな水音と、ゆったり揺れる心地よさに負けてしまったのだろう、我ながら図太いものである。危機感が足りてないともいうが。

 

 

「……そう。………そうなの」

「カンナさん、何日かごとに様子を見に来てくれてたのも助かりましたけど、こっちまで追いかけてきてくれたんですね」

「気付いてたの?……オーキド博士の紹介の子が死んでしまったら寝覚めが悪いから」

「ありがとうございます」

 

 

素直ねーほんと…、とつぶやいたカンナがこちらに手を差し伸べてくれる。

 

 

「一端こっちにいらっしゃい、陸に戻りましょう。疲れた顔してるわ」

 

 

落ちたら大変でしょう、という言葉に甘えて、ガーディをボールに戻し、子ラプラスからカンナのラプラスの背に移る。

 

と、

 

 

「──────!!」

 

 

猛烈な抗議の声が響き渡ったと思ったら、胴を生暖かいものが覆って、ぐう、と圧迫される。

 

 

「ひ、わ、ちょ、」

 

 

子ラプラスに胴を咥えられて持ち上げられたのだ、ということに気付くのにちょっとかかった。頭から振り落とされたバタフリーが間一髪水面すれすれで持ち直したのが見える。

 

 

「ラプラス!」

「────!」

「フリィ!」

 

 

子ラプラスよりは幾分か低いカンナのラプラスの声がした。放せ、と言ってくれているのだろうが、子ラプラスはいやいやと首を振る。合わせて私も一緒に振り回されて、腹に圧力がかかった。やばい中身が出そう。

 

 

「ちょっ、ぐぇ」

「──!────!!」

 

 

私を咥えていながらも出した抗議の声はカンナに届いたらしい。

 

 

「わたしが乗せてく、ですって?………わかったから、いったんうちのに乗せなさい。そのまま放せばその子水の中に落ちるわよ」

「────」

 

 

いかにも不満そうな表情というか、声をしたのだと思う。とても、とてもしぶしぶと子ラプラスはカンナのラプラスの背に私を下ろした。よろめいた私をカンナが支えてくれる。

 

 

「……怪我は?」

「たぶんないです…ちょっとお腹周りが痛いけど」

「そう、気を付けて」

 

 

小声のやりとりの後、私は子ラプラスの背に戻った。途端に機嫌が戻ったのか、嬉しそうな子ラプラスはゆっくり泳ぎ出した。

 

陸にたどり着いて、その後もついてこようとする子ラプラスをそっと押しとどめて、カンナと一緒にテントに戻る。

 

 

「…随分懐いてるわね」

「いや、ちょっと私も驚いてます……会ってからそんな経ってないんですけど」

 

 

ガーディのように長く一緒に暮らしたわけでも、バタフリーのように口説き落としたわけでもない。

 

あの子ラプラスについては本当になにもしていないので、どうしてこんなに懐いているのかわからない。

 

そう正直にいうと、ふぅん、と頷いたカンナは私に防寒着を脱ぐよう促した。

 

 

「そのまま寝袋に入りなさい」

「えっ?」

「えっじゃないわよ。さっきも言ったでしょ、かなり疲れた顔してるわ。……あなた、10歳って言ってたわよね、旅に出てそんな経ってないでしょう?旅の最中に休息日はちゃんと作った?」

「きゅうそくび」

 

 

仕事も学校もなくする旅なのだ、毎日が休息日みたいなものでは…?

ぽかんとした顔でカンナを見上げたような気がする。ため息をついたカンナが腰に手を当てる。

 

 

「あなた、旅立つ前は毎日移動して、毎日気を張って、毎日バトルする日常をおくってた?そうじゃなかったでしょう」

「……わりかしそんな感じでしたけど」

「………そうね、あのマサラの子だったわね。いえ、そうでなくて、あなたの家はあったでしょ?家で寝る時まで気を張っていた?」

「……あー…」

 

 

言いたいことがわかって、なるほど、と納得した。マサラからこのいてだきのどうくつにくるまでほぼノンストップで移動してバトルして備蓄増やしてバトルして移動して、たどり着いたいてだきのどうくつはいてだきのどうくつで環境が恐ろしく過酷で、そんな中野生のポケモンと共に暮らす。そのうえで氷点下の気候に存在している湖にポケモンとダイビングである。テンションのままに動いてきたように思うが、確かに疲れるわけだ、と思った。

 

 

「…作ってなかったですね、休息日。目的のラプラスにまず会えたから、その時点でちょっと安心しちゃったのもあったかも」

「あなたはラプラスに会ってからが本番でしょうに……。今日は寝なさい、私が見ててあげるから」

「してんのうの護衛なら安心ですね…、なんかすいません」

 

 

あんまり好かれていないと思ってたけど、と思いながらカンナを見上げると、どうも顔に出ていたらしい、うっすらと微笑まれた。

 

 

「…あそこまでポケモンに好かれているのだもの、悪いトレーナーじゃないことくらいはわかるわよ。それが分かればあなたは私たちのお客様で、その上小さな子供だし。少しくらい面倒は見てあげるわ」

「……ありがとうございます」

 

 

素直にお礼を言って、ストーブをつけて二匹のポケモンを出す。…あー、と頭をかいた。なるほど、確かに、バタフリーもガーディにも疲れが見えた。言葉に甘えて寝よう、と声をかけ、大人しくコートを脱いで、就寝着に着替える。

 

ふと思いついてやかんをストーブにかけ、予備のコップとお茶パックをお盆に並べ、モモンのみもスライスしてお皿に並べる。それからクッションと予備の毛布、それからタオルを何枚か『機材』から解凍して引っ張り出し、ストーブの側に置いた。

 

 

「あの、これをどうぞ。寝付かなかったら私がお茶をいれますけど、もし寝ちゃってたら……」

「あら、おかまいなく。……ふふ、最初は子どものキャンプなんて大丈夫かしらと思っていたけど、あなた、密猟者よりちゃんと準備が出来てるわ」

「…それ、誉め言葉なんですか……?」

 

 

違うような気もするんだけども。ダイビングスーツの水気を落として、上半身だけ脱いだカンナがストーブの側に座るのを見届けて、私も寝袋に潜った。ガーディのために少し入り口をあけてやったが、ガーディは首を振って、寝袋の上で丸くなった。バタフリーは枕元の自分のクッションにもたれかかって眠る体勢だ。

 

 

「……あの、」

「…何?」

「さむくないですか?」

 

「……大丈夫よ、ありがとう。私からもいいかしら」

「…はい」

 

「あなた、バトルトレーナーにはならないの?ポケモンに好いてもらえるってとても大事な才能よ。見たところ、バタフリーもガーディもよく鍛えられているようだし」

「あー……」

 

 

 

私はバトルトレーナーで、仲間集めのためにこういうことをしているわけだけど、カンナからしたら私はオーキド博士の使いっぱしりみたいなものに見えるだろう。フィールドワーカーの卵のようなものだと思われているようだ。もったいないわ、と続けるカンナに、さてなんと返事を返そうかと悩む。

 

完全に知らない土地でのフィールドワークをしてみてわかったことだけど、たぶん性にはあってるのだと思う。何せ好きなだけポケモンを観察できるし、今回こそオーキド博士に頼み込んでこういう形になっているけど、本来はポケモンの生態観察だけで飯を食っている人もいるくらい、立派な職業の一つなのだ。

 

 

「……目指してるのは、バトルトレーナーです。プロの」

「…へえ?」

「でも、ポケモンっていっぱいいるじゃないですか」

「……そうね、たくさん、たくさんいるわ」

「だから、まずはポケモンを知らなきゃなって思って。それを続けてけば、道中で仲間になってくれる子も見つけられるだろうし」

 

 

それは本心だった。こうやってポケモン達の観察をしながら一日を過ごすというのもとても好ましい日々だと思うし、こうやって色んなポケモンの生態観察をすることは、私がこの先出会うバトル達に絶対に役に立つ。目当てのポケモン達を捕まえに行き、育てる傍らでフィールドワークをして、それが副収入になればいいな、ともちょっと思っている。

 

だって、楽しいのだ。フレーバーテキストとか、ずかんの説明とか、漫画とかアニメで出てくる一瞬とか、それしか知らなかった生き物たちの生き方を、自分のこの目で見るというのは、本当に、本当に楽しいのだ。

 

例えばゴルダックとコダックはあれできちんとコミュニティを形成していて、統率がきちんととれていたのに比べて、ジュゴンとパウワウはちょっと雑っぽいコミュニティだったと思う。上位層には従うが、それはそれとして気ままに生きているといえばいいのかもしれない。ゴルバットとズバットはそれぞれ別の群れを形成していて、進化したら群れを移動する生き物だったし、つがいになったゴルバット同士がお互いになつくことで、二匹ともクロバットに進化する瞬間だって見た。写真を撮れなかったのが悔しかったくらいである。デリバードが尻尾の袋に食糧を入れて巣に運んで子供に与えているのも見たし、イノムーがウリムーを乗せて移動しているのも見た。氷の上で太陽を浴びるウパーとヌオー達だって見た。もっともっとたくさんの生態と、彼らが生きるために行うバトルを見た。

 

いてだきのどうくつで、たかだか二週間近く暮らしただけで、これだけ見れた。これだけ、楽しい生活をおくれた。いいなぁ、好きだなぁ、と思った。

 

 

──ただ、それよりバトルの方がもっともっと好きだというだけの話だ。

 

 

徐々に重くなってきた瞼を必死で持ち上げて、カンナを見る。やかんがピーピー鳴き始めた音がした、お茶を淹れないと。

 

 

「そう、そうだったの。最近は生き急いでいるんじゃないかってくらい、旅に出たらすぐにジム戦に行って、どこかで挫折してバトルをやめていく子供が多いものだから。皆レッドに続け、ヒビキに続け、ユウキに続け、だなんて、あのスピードで殿堂入り出来るのなんて、本当に一握りの天才達しかいないのに。

 

………いい心がけだと思うわ、とても」

 

「……そうですか?」

 

「ええ。…でも、そう、プロを目指しているの?じゃあ、いつか貴女が挑みに来る日がくるのかしらね」

「いきますよー…。……だって、打倒れっどさんですから…。まっててください」

「あら大きい夢。……眠そうね、お話に付き合ってくれてありがとう」

「……おちゃ…」

「大丈夫、自分で淹れるわ」

「………」

 

 

完全に眠りに落ちた少女を見やって、カンナはダイビングスーツを着直した。置かれたお盆を見て、くすりと笑う。きのみまで添える気づかいをしてくれているのに、それにフォークはついていなかった。やはり疲れていたのだろう、眠りにつくまでも随分早かった。色々とかしこく喋るが、寝顔を見れば完全にただの子供である。可愛げがある、というだけでカンナには十分だった。

 

それにオーキド博士の紹介だからというのは勿論だが、最初に出会ったときに威圧してしまった分くらいは面倒をみてやらねばならない、とも考えている。顔を上げたバタフリーと、片目を開けたガーディに微笑んで、腰のボールに手をかけたまま、そっとテントの入り口をくぐった。

 

 

テントを出てすぐのところに、あの子ラプラスがいた。

 

 

「……困った子ね?いくらあの子が好きでも、こちらの縄張りにまで立ち入るのは感心しないわ」

 





<ゴルダック>
してんのうカンナの祖父の手持ちだったゴルダック。そこそこレベルが高く、カンナの祖父を見送った後野生へと戻った。仕草が人間染みているのはカンナの祖父の影響。尚、いてだきのどうくつのぬしはスターミーである。
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