獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
船の章
オーキド博士にめちゃくちゃ怒られた。
せっかく丁寧にまとめてレポートを送ったのに、返事は1ヶ月もあんなとこで暮らすな馬鹿もん、ときたものだ。どうも外から通うだろうと思っていたらしい。住んだ方が分かりやすいじゃん…とごねたら旅立ってそうそう経たないうちにやることじゃないとさらに怒られた。
後経費請求しろと言われたので、レシート捨てたといったらもっと怒られた。……まぁ、ほんとはとってあるし、大きな買い物だったものは説明書と一緒に色々記録をつけてあるんだけど、私が私のマネーで今後も使うつもりで買ったもんだし経費にしてもらうのもな、と思ったのでそう言ったのだが、それでこれだけ怒られるなら最初からそう言っておけばよかったかもしれない。
概算でいいから出して連絡しろ、今後もレポート送ってくるなら絶対かかった経費も一緒に送れと言うものだから(フィールドワークまたやりたい、と感想を添えてあったのを読んでくれたらしい。ちょっと嬉しかった)、他地方渡航にかかったお金も経費になる?と聞いたらしばらく返事が返ってこなかった。
「お主、今どこにおる?」
「ロイヤルイッシュ号ですけど」
絶句された。
「ロイヤルイッシュ号ってあの世界一周客船か!?」
「はい、カントーからイッシュにいくのに飛行機だと移動がめんどくさくて……、イッシュ号はちょうどクチバに来てましたし、チケットとれたんで乗りました」
「親御さんは!?」
「メールで写真つけておくったらお土産楽しみにしてるって。ラプラスもね、写真で見せたらかわいいって言ってくれたんですよ!博士もヒウンアイス食べます?圧縮してサーバーにあげときますよ?それともなんかもうちょっと胃に優しいやつのがいいですか?」
「………分かってて言っとるんなら怒るぞ」
「へへへ」
「全く……、何をしに行くんじゃ」
「勿論、ポケモンを捕まえに!3匹くらいは目星つけてますし、2匹は特に捕獲制限もかかってないので今回ほどは苦労しないかなって」
「そうそう捕獲制限かかっとるポケモンに突っ込まれても困るんじゃが………しかしイッシュでパーティ完成か?」
「それこそ分かってて言ってます?」
アマチュアバトルトレーナーはそのほとんどが資金繰りに苦労するし、フルパーティも組めないバトルトレーナーも数多い。ただ、プロ、セミプロ(プロでこそないが実力はプロ並みの者を指す)レベルであれば話が逆転してくる。つまり、地方大会の賞金を手に入れるのが現実的なレベルの実力があるトレーナーであったり、スポンサーがついているトレーナー等だ。
ぶっちゃけめちゃくちゃ儲かる、らしい。まぁ、本当に小さな大会でも優勝すれば10万円くらいはぽんと出るし、予選もあるような大きい地方大会であれば500や下手すれば1000のレベルすらもある。勿論単位は万だ。上位入賞するだけだってそこそこの賞金がでる。
そういった所で勝てるレベルのトレーナーになってくると、手持ちの数は優に6匹を超えてくる。充分以上に養えるからだ。12~20匹のポケモンを従え、大会によって調子のいいポケモンを選んだり、相手によってパーティの編成を変えるなんてのも普通にやる。さすがに毎戦変えると競技として成り立たなくなってしまうので、事前登録が8~10匹で、その中から相手に合わせて6匹選ぶ方式がほとんどだけれども。
あくまで公式戦において、一度のバトルにつき使用していいのは6匹までと決められているだけなので、普通に手持ちとして連れ歩く分には特に制限がないのがこの世界だ。だから、手持ちの数が10匹と少しになるくらいは仲間にしようとは決めている。もしかしたら道中で出会いがあるかもしれないし、その辺は臨機応変にいくつもりだけど、一応最低限このポケモンを仲間にしたい、というのだけは決めている。それ以上を仲間にするとたぶんあれもこれもと際限が無くなりそうだったから、その数にまで随分悩んで絞ったのだ。それでもプロになるなら手持ちの数としては少ない部類だろう。
「最初はイッシュってだけですよ、もういくつか地方回ってパーティ作ります」
「レッドですら最初のでんどういりまではカントーから出なかったんじゃがのう……」
「グローバルっていい言葉ですよね!」
個人的にはカントー・ジョウトのポケモンだけという縛りで伝説はってるレッドがやばいと思うんだけどどうなんだろう。ゲームでいう、後から追加されたタイプのポケモンを連れていなくてあれなのだから。
「というかお主二匹は普通に捕獲と言っとったが、あと一匹はなんなんじゃ」
「……あはは」
「あははじゃないわ馬鹿もん!」
「あ、ちょっとバトルの連絡がきそうなので……」
「おい!ラディア!」
ライブキャスターを閉じる。
残り一匹は別に捕獲が禁じられているわけではないし、ラプラスのように地方によっては許可なく所持ができないというわけでもない。ただ、入手の手段がとても限定的なポケモンというだけだ。
「フゥ~~…」
流石に今のはちょっとあれじゃない?という感じの呆れた声が頭の上から降ってくる。もぞもぞと動いたバタフリーが肩まで滑りおりてきた。
「まぁそうなんだけど…バトルの連絡きそうなのは本当だし……」
「フリィ」
「後で謝っとくよちゃんと。……まだ拗ねてるの?」
「フリィ」
「今回は譲ってよ、制限二匹までだったんだからさ」
「フリィ……」
わかってるけど僕も出たかったなぁ、というニュアンスを汲み取って、バタフリーの頭をぐしぐしと撫でる。お返しにバタフリーには髪の毛にめちゃくちゃ羽を擦り付けてきた。たぶん私の後頭部はりんぷんできらきらになっているだろう。これからそれなりの人数の前に出るんだけどなぁ、と苦笑したが、甘んじて受ける。
私たちがこのロイヤルイッシュ号に乗ったのは3日ほど前のことだ。寸前まで空路か海路か迷っていたが、クチバにこの船が停泊していると知って問答無用で海路に決めた。幸いほどよく船室があいていて選び放題だったから、少し大きめの個室をとることができた。…ここまではよかった。
問題はその後だ。
端的に言うと、お金がない。
そりゃまぁ、旅に出てから負けなしだったとはいえ、ラプラスのためにあれだけ散財しまくってたわけだし、その上いてだきのどうくつに籠っている間は無収入だった。クチバに戻ってから町中のトレーナーにバトルを申し込んで大分懐も潤ったのだが、その後タマムシデパートに行ったのと、ロイヤルイッシュ号のチケット代でまた素寒貧になってしまったのだ。なので今回の経費の話は渡りに船といえばそうなんだけども、請求したとして(そうしないとオーキド博士がもっと怒りそうだ)実際手元にくるのは船を降りて少し経ってからになるのではと思う。
艦内施設の利用や食事代は無料なので乗っている間は問題ないが、降りた直後がたぶん問題だ。旅に出る前に貯めたお金にはあまり手をつけたくない。
となれば、船内でバトルして稼ぐしかなかった。幸いバトルフィールドが備え付けであったから、賭け金ありのバトルにのってくれる人を探さなきゃなぁと思いながら割り当てられた部屋に入って、それで目に飛び込んできたのが船内バトルトーナメント開催のお知らせのチラシだったのだ。とれた部屋の広さや豪華さに喜ぶより、机の上にあったバトルのチラシに目がいってる辺り、結構切羽詰まってたな、と思う。
それでよくよくチラシに目を通してみれば、上位三名には賞金が出るという。参加しない理由がなかった。
ただ、航行の関係もあってコンパクトなトーナメントにしたいのだろう(イッシュまでは二週間だが、バトルにばかりイベントごとを集中させるわけにはいかないだろうし)、手持ちの数は二匹まで、と制限があったのだ。
私の手持ちは三匹だ。どうしたって、一匹は参加できないことになる。
その時点でラプラスは確定だった。何せ、年齢的な意味でも育った環境的な意味でも一番バトルに慣れていない。慣れていないなら慣らすしかないので、仲間になってからはずっと先発がラプラスである。本ポケはそれが嬉しいようで、こちらの指示に喜んで従うのは勿論、色々と教え込んでいることにも非常に協力的で、積極的に覚えようという意思があるのが好ましい。いい子を仲間に出来たものである。しいて言うなら甘噛みの癖が強めなので、所かまわずあぐあぐやってくるのをちょっと直してもらわないといけないかな、ということくらいか。嫌なわけではないが、TPOは覚えてもらわないといけないだろう。
では後残り一匹は?
本来であればラプラスの戦術として教え込んでいることに関して、相性がいいのはバタフリーの方だった。でも、私はウインディを選んだ。
そう、
かの育成の伝説グリーン曰く、バトルするポケモンはとっとと最終進化になるまで育てるべし、だそうだ。進化するたびに大きさどころか体の骨格すらまるごと変わるようなのもいるから、進化するごとに体の使い方や技の使い方を覚え直すよりは確かにその方がいいのだろう。そう簡単に進化まで持っていけるかどうかはともかくとして。
バタフリーのような、進化するごとに大幅に姿を変えるタイプのポケモンの進化は完全変態タイプと呼ばれ、ウインディのような子供が大人に成長するかのようなタイプの進化は成長タイプと呼ばれて区別されている。この辺の仕分けについては結構曖昧で色々と言われている分野なので詳しくは突っ込まないけど、特に完全変態タイプは進化を急いでおいた方がいい、というのがグリーンの持論らしかった。早く進化すれば、それだけトレーニングに時間をさけるからだそうだ。成長タイプに関しても早めに進化させた方がいいのは変わりがないらしいが、それでも骨格の大きな変動が見られないことが多いので、新しい体に慣らす時間が完全変態タイプよりは少なくて済む。
まぁ、こればっかりはグリーンの持論だし、納得できるのは確かだったけど、うちの子たちに関しては本ポケのタイミングで進化してくれればいいなと思っている。これから仲間にしていきたい子たちのほとんどが進化するポケモンだけど、変に急いで進化していくよりは、したいときにしてくれればいいな、という感じだ。バトルは楽しいし好きだけど、本ポケの希望とかを潰してまで進化をさせたいわけではないし、一生に一度、もしくは二度しかないターニングポイントは大事にしたかった。
ただ、したいときにしてくれれば、というのが適用できないのがウインディだ。
タマムシデパートに行ったのはそれが理由だった。ガーディの進化条件はレベルによるものではなく、ほのおのいしによるものだからだ。で、このほのおのいし、カントーで手に入れようと思うとタマムシデパートでの購入が主な手段になる。街の商店とかに無いのかなと思って道中探したのだが、どうもその辺はタマムシデパートが専売契約を結んでいるのか、全然売っていなかったのだ。別地方で手に入れるという手もあったけど、レベル60に近づいたガーディだ、いい加減に進化させないと体の方が技に追いついてこなくなる。体が大きくなってしまうと子どもの私にはできなくなる世話があるというのもあって躊躇していたけど、ラプラスという水タイプの仲間を迎えることが出来たのもそうだが、ガーディ自身も進化したがっているそぶりを見せ始めていたから、そろそろ頃合いだった。
それでも船の上とかいう不安定な場所に行く前に進化させたくはなかったのだけど、買って外に出て、一晩寝て起きたらガーディはウインディに進化して行儀よくお座りをしていた。ウォン!じゃねぇわお前、朝の挨拶する前に言う事あるでしょう!とぶちギレたのはつい5日前のことである。
本ポケの供述を翻訳しながらまとめてみるに、やっと手に入ったほのおのいしだったから、気になって見てみようとしたらうっかり進化してしまった、ということらしかった。それでも本ポケに進化の意思がないと、しんかのいしというやつは反応しないと聞くから、やっぱり早く進化したかったんだな、ごめんね気持ちを汲み取れなくて、と落ち込んだら、違う!進化はしたかったけどご主人の意に沿わない進化をする気はなかった!みたいな感じの反応が返ってきたので、ほんとに事故進化だったらしい。
進化の瞬間を見たかったな、とめちゃくちゃ思ったけど、ある意味自分のタイミングで進化してくれたと思えばよかったなと思う。いや見たかったけど。ウインディの一生に一度の進化の瞬間だ、是非とも見たかったけど。
ウインディを抱き上げてやることはできなくなってしまったけど、代わりに私が抱き着いたり、腹に埋もれたり、背中に乗せてもらったりができるようになった。丁寧にブラシで梳かして整えてやった体にダイブするのは、それは大変な心地よさがあったし、そのままべっとりくっついていたらいたで、もふもふの毛並みとほどよい暖かさが天国にのぼるような気持ちよさだった。うっかり寝てしまうところだったレベルである。
確かウインディの平均的なサイズは2m行くか行かないかだったと思うのだけど、うちのウインディは随分大きく進化したようで、2.5mほどの体高がある。1.4mちょっとくらいの私からすると、丁度ウインディの胸元くらいに頭がくる感じで、またその胸元の毛に飛び込むのが結構楽しかった。
ちなみにラプラスの体高は大体1.5mとかそれくらいだったので、それまで一番大きかったラプラスはウインディの変化に随分戸惑ったようである。今まで背中に乗せることのできた対象が急にこんなに大きくなったのだからそれはそうかもしれないけど。後進化という現象を間近で体験したのもたぶん始めてだったのじゃなかろうか。今はおっきくなったねー!くらいのノリでいるようだけど。
というわけで、進化した体に慣れる、という意味で、二匹目はウインディになったのだ。進化したことで『インファイト』を覚えたようなので、そちらの修練もしていきたいし。それを発表したらバタフリーが分かりやすく拗ねたのである。バタフリーはバタフリーで色々と調整を始めているからバトルに出したいのはやまやまだったけど、優先順位でいえばやっぱりラプラスとウインディの方が高いのだ。その辺はバタフリーもわかっていることだろうけど、それでも一匹だけ出れないというのはそりゃ嫌だよな、と思う。その分いっぱいかまってやらなくては。
賞金が手に入らないなら、ほんとあんまりしたくないけど、最悪貯金に手を付ければいい。それよりも二匹がバトルに慣れることの方が重要だった。
それは私もなんだけど。野良バトルばかりでまだ地方大会に出たことがないから、こういった企業主催の小さい大会から経験を積んでいくのは悪くないと思う。全く知らない人々が観客として試合を見にくる、そんな環境でいつも通りのパフォーマンスを発揮しないといけないのだから。時には声援も、野次も飛ぶだろう。まずは私が慣れないと、ポケモン達が観客に動揺した時なにもサポートが出来なくなってしまう。
幸い発表されたトーナメントは、一人を除いて見た覚えのないトレーナーの名前ばかりで、登録されたポケモンも未進化とかが多かった。仮にも世界一周中の客船だ、道楽で参加している人の方が多いんだろう。ざっと見た感じ、順当に勝ち進めば5回試合ができることになる。ウインディのレベルの高さ的にバトル回数の少ない方に振り分けられるのではないかと思って震えていたけど、ラプラスのレベルがまだ低いのと、私の称号がホープトレーナーだったのがよい方向に働いたようだった。
参加トレーナー24人となると大会の規模としては小さい方だと思うけど、船内と思えばこんなものだろうか。
部屋に据え付けられた電話が鳴って、思わず口元が吊り上がった。
バトルの時間がやってきたのだ。