獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
順調に勝ち進んで、私は決勝戦に到達していた。さすがにピンプクとかププリンとかムチュールとかのベビィ系に負けてあげるほどぬるくないし(全部マダム系の方が連れていたポケモンだった。運動させてあげましょうね、という感じが見え見えだったので、こちらもよい準備運動の時間にさせてもらった)、準決勝戦の親のポケモンを借りて出場してきたっぽいたんぱんこぞうなんかはほんといい練習相手だった。ガブリアスとファイアローを登録した上で称号がたんぱんこぞうだったので、登録名簿を見たときは驚いたものだったけど、実際出てきたたんぱんこぞうくんは10歳の私がいうのもなんだが結構微笑ましかった。
ポケモンがもう、めちゃくちゃトレーナーを気遣ってバトルする体勢だったのだ。指示される前から上手な位置取りをしてここ!ここで技名指示して!そしたら当たるよ!みたいなアピールがすごかったというか、なんというか。バトルに必死なたんぱんこぞうくんはたぶん気付いてなかったと思うけど。これは赤ん坊のころから面倒見てきたんじゃなかろうか。愛されている子供だな、と思う。
まぁ、申し訳ないことにラプラスだけで対応できてしまったんだけども。ポケモン達のレベル差はかなりあったけど(ラプラスは35だが、恐らく相手は80近くに届いていたと思う)、私の指示の方がちゃんとしていたし、タイプの相性もよかったし、大体バトル相手より自分のトレーナーに必死なポケモンとバトルしたところで負ける気はしなかった。出番がなかったウインディが不満そうだったのだけ申し訳なかったかなと思う。ガブリアス相手であれば『インファイト』の練習が出来たと思うし、交代してもよかったかもしれない。
悔しそうな顔で握手して去っていったたんぱんこぞうくんを迎えた壮年のパパっぽい人がたぶん本当のポケモン達のトレーナーだったんだろう。よく鍛えられたファイアローだったし、ガブリアスなんていうドラゴンタイプのポケモンを従えていられるくらいだ、かなりの腕だと思う。どっちかというとあのパパさんとバトルしたかったな、と思いながら会釈すると、苦笑してひらひらと手を振られた。……たぶん、申し込みに行ってもバトルしてくれないな、あれ。
フィールドに立って、頭に乗っていたバタフリーをしまう。トレーナーエリアにはバトル中他のポケモンを連れ込んではいけない。トレーナーエリアからバトルエリアにこっそり技を放って援護する、なんていう違反行為を防ぐためだ。そんなつまらないことをしなくてもバトルってするだけで楽しいものだと思うんだけど、必死なトレーナーには当てはまらないんだろう。その辺野良バトルなんかだと寛容だけど、公式戦だとアウトだ。
さて、決勝の相手だ。
唯一名前を知っていたトレーナーがいて、反対ブロックに振り分けられていたので、決勝にいけば戦えるだろうと思っていたら案の定勝ち進んできていた。このゆるさの試合だから、むしろ彼女が勝てていなければおかしいくらいだと思う。
ベテラントレーナー・ローザ。
去年のイッシュリーグで優勝し、その後のしてんのう戦で惜しくも敗れた経歴を持つ、プロ中のプロトレーナーだ。エースはジャローダで、ウインディを使うトレーナーだったから、参考にバトルビデオを見たので覚えていた。こんな小さい大会に出場するようなトレーナーではないと思うのだけど、やっぱり移動の長さ的に退屈になったからバトルに出てきたとかだろうか。
ベリーショートの青い髪が鮮やかで、ビデオを見た時も思ったけど身長がかなり高い女性だ。
とても笑顔だったけど、どちらかというと、さて、どんなのが出てきたかな、揉んでやろうといわんばかりの表情にちょっとイラっとした。負けるはずがないと高を括っているのが大変気にくわない。
ふぅー、と息を吐いて、こんこんとラプラスのボールを叩く。小さく震えたのは了承の合図だ。仲間になってくれてから約一か月、競技バトルで戦えるよう特訓を重ねてきたことを試すには不足がない相手である。たかが一か月と侮ることなかれ、最初から好意全開だったこのラプラス、既にトレーナーと繋がる
アナウンスで長々と続いていた紹介が終わった。
『イッシュリーグ優勝経験を持つベテラントレーナー、ローザ!伝説誕生の地からやってきたホープトレーナー、ラディア!それでは決勝戦、開始です!』
審判が旗を振り下ろしたのと同時、お互いにボールを投げる。
「いけ、ジャローダ!」
「頑張ろう、ラプラス!」
ボールハンドリング技術はどうしたってまだ追いつけない。わかっていたことだけど、悔しい。先にボールから放たれたジャローダが登場とともに『とぐろをまいて』自分の能力を高める。ビデオで見ていたエースのジャローダではない、たぶんサブで使ってる方のジャローダだ。
対して私のラプラスは、ボールの中から『なみにのって』フィールドに降臨した。フィールド上のあちこちに置かれたごつごつとした岩に大きく水が降りかかかって砕け、多少勢いを弱めながらもジャローダに殺到して直撃した。草タイプのジャローダに水タイプの技は効果が薄いがそれでいい、目的はそこではない。
こんな旅立ったばかりのぺーぺートレーナーがボールの中で技を準備するような戦術をとってくると思わなかったのだろうか(漫画と同じくこの世界でもレッドが考案した戦法だが、トレーナーとポケモンのタイミングを合わせるのがなかなか難しいためあまり使われる技術ではない。私達だって成功したのはこれで三度目だ)、驚愕したローザは一瞬、指示が遅れた。
それで十分だ。
「ラプラス!『ぜったいれいど』!」
「────!!」
格下相手に放てば一撃必殺の威力を誇るその技を、ラプラスの背中を押して、たった今『なみのり』でぐっしょり濡らしたフィールドそのものにたたきつけた。たちまちフィールド全面が凍り付いて、まるでいてだきのどうくつのような冷気が辺りに漂う。
ラプラスはみず・こおりタイプのポケモンで、その体の構造上陸上ではほとんど動くことが出来ない。ヒレで地面をかいてずりずり動くことはできるけど、大したスピードは出ないのだ。野営の時だって水のない場所で出すときはラプラス用のシートを引いてやっているし、当然バトルの時は水場のあるフィールドでしか素早い移動ができない。だから、途中までは相手の技を受けるのは前提で、耐えながらでも正確に相手に攻撃を当てられるようなトレーニングをしていた。
ただ、毎回痛い思いをさせているうちに思ったのだ。どうにかしてラプラスも陸上を自由に動けないかな、と。
この子はいてだきのどうくつで平然と凍り付いた陸を滑っていた子だ。氷の上での動き方はよくわかっている。さすがにフィールドを水没させるのは無理だけど、氷のフィールドを作るくらいはできるようになるんじゃないか、と思ってたどり着いたのがこのコンボだった。親からわざを引き継いだのか、『ぜったいれいど』を覚えていたのが幸いした。レベルが低いうちは相手にぶつけたところであまり意味はないが、込めるエネルギーの多さによるものか『れいとうビーム』よりは凍らせる範囲が非常に広い。
広がった氷の世界に嫌そうな顔をするジャローダの後ろで、ベテラントレーナーが笑い声をあげる。
「アハハハハ!おいおい楽しくなってきたじゃん!ジャローダ!ぶちかませ!」
「ジャロォォ!!」
「『こおりのつぶて』!」
「──!」
エネルギーを溜め始めたジャローダに先制攻撃になる『こおりのつぶて』を打ち込ませて、その隙にハンドサインで逃げろ、の指示を出す。慌ててラプラスがフィールドに散らばる岩の後ろに隠れた瞬間、ジャローダの『リーフストーム』が放たれた。
────あ、
「ラプラス!よけて!」
その指示に、岩の陰に隠れたよ?まだ足りない?とラプラスが一瞬迷った。その迷いをふき飛ばすように重ねて指示を出す。慌てて岩の陰から脱出したラプラスの背中の後ろで、『リーフストーム』を隠れ蓑に近づいてきていたジャローダが『リーフブレード』を叩き込む。間一髪ラプラスの避難が間に合ったが、岩は丸ごと砕け散った。
続けて次こそあてる!と迫ってきたジャローダに、どうしよう追いつかれる、とラプラスが一瞬ひるみ、動きが止まる。止まってしまった。
スローモーションのようになった視界の端で、勝ちを確信したローザが笑うのが見えた。…………いや、
短く息を吐いて手を動かす。
大丈夫、大丈夫だよラプラス。私がついてる。だから私の声を聞いてくれ。
「『なみのり』!」
「────!」
悲鳴のような声と一緒にラプラスの周囲から噴き出した水流に、蛇のような体ではふんばることもできず、氷で滑ったジャローダが押し流される。岩にぶつかって止まったジャローダが天に何かを打ち出したと同時に、追撃の『れいとうビーム』が決まった。それで決着がつく。
『ジャローダ戦闘不能!これは大番狂わせです!ホープトレーナーラディア、ローザの不動の一番手、ジャローダを破りました!』
ラプラスからおびえてごめんなさい、が伝わってきて、謝らなくてもいいのに、と苦笑する。逃げ方については指示の出し方が悪かったし、放った後はとくこうが二段階も下がる『リーフストーム』は大技だ、たぶん虚脱があるだろうとちょっぴり油断したのは私の方だ。後で謝らないといけない。
すぅっと滑ったラプラスが私の前に戻ってくる。空には倒れる前にジャローダが放った『にほんばれ』の効果が漂っていた。せっかく作った氷のフィールドの気温がじりじりと上がっている。素早い交代もローザというトレーナーの持ち味だったから、すぐ次のポケモンを出してくるかと思っていたのだが、予想に反してローザは今ジャローダを回収したところだった。
なめられているな、と思う。当然だ。優勝後にインタビューでジャローダについて尋ねられた時、彼女はサブとしてもう一匹ジャローダを育成中だと答えていた。あのジャローダはまだ育成中のポケモンなのだ。それに今回登録された残り一匹は、イッシュリーグにも参戦した彼女のレギュラーポケモンだった。
「いくら調整中ってったってなぁ、おいおい…!将来有望で何より!だがここまでだ!ウインディ!新人に負けを教えてやれ!」
「ガァアアアアアアアア!!!!」
威嚇というより制圧にかかってくるような咆哮が聞こえた。あ、やばいと察してラプラスに『なみのり』を放たせようとして、間に合わなかった。一瞬でラプラスが叩きのめされて戦闘不能になって地面に横たわる。凄まじい速度の『しんそく』だった。
思わずごめん、と呻く。
後は任せろ、と伝わってきた意思に正気に戻って、素早く倒れたラプラスを回収し、同じ位置に私のウインディを繰り出す。
「ギャウウゥウアアアア!!」
「ガォオオオオオオオオ!」
飛び掛かった私のウインディが相手のウインディを『かみくだき』にかかる。それを相手のウインディは胴体にもろに受けたのもつかの間、私のウインディは『かえんぐるま』のような炎をまとった回転で弾き飛ばされた。『にほんばれ』によって溶け始めた氷の上に難なく着地した私のウインディが、続けて『インファイト』で殴り掛かり、相手のウインディも同じく『インファイト』で迎え撃つ。前足で殴り、頭で振り払い、体ごとぶちかましをかける。
もつれあう二匹の咆哮が船内スタジアムに響く。伊達に一か月いてだきのどうくつで暮らしたわけではないのだ、溶けかけた氷の上での足さばきに関しては私のウインディの方が僅かに上回っているようだったし、体躯に関してもこちらの方が大きいけど、それだけだ。一撃の重さと技の熟練度はあちらの方が何倍も上手だった。考えろ、ウインディが競り負け始めている今、私はどうすればいい?
「いいぞ、そのまま叩きのめせ!」
「ウインディ、『かえんほうしゃ』!」
知っている、ローザのウインディのとくせいは“いかく”と“もらいび”だ。奇襲が決まったお陰で“いかく”の効果が発生せずに済んだが、ローザのウインディは世にも珍しい複合とくせいもちのウインディである。だから本来ほのおタイプのわざは全く持って意味がないし、むしろ相手にバフをかけるような所業だというのもわかってる、でも目くらましくらいにはなってくれ!祈りながら出した指示をウインディが汲み取って相手の顔面に炎を吐き散らし、一瞬目がくらんだ相手の首を『かみくだき』に躍りかかる。
「『だいもんじ』」
だが、ローザは冷静だった。ポケモンのくらんだ目の変わりはトレーナーがする。果たして、相手のウインディは目をつぶったまま『だいもんじ』を撃ち放った。
さて、リーグ優勝経験のあるトレーナーの手持ち+『にほんばれ』によるひでりの効果+『かえんほうしゃ』から“もらいび”した効果+ほのお特殊攻撃技のの中でも高威力を誇る『だいもんじ』=その威力は?
答えは吹っ飛んだ私のウィンディが示していた。かなりのダメージが入っていることに気づいて眉根を寄せる。
私のウインディのとくせいは“もらいび”だ。ほのおタイプの技はダメージが入らないはずだが、……とくせい貫通とかそういうのは抜きに、これは純粋に
「ガゥッ!」
体に煤と火の粉を纏わせながら私のウインディが吠える。ダメージはあったけどなんとか堪えたし、そうだ、今のでさっきの相手のウインディと条件は一緒になった。
叫んで指示を出す。
「お返しだ、『フレアドライブ』!」
「グゥルルルルルァアア!!」
限界まで吸いきった『だいもんじ』の炎にひでりの加護を受け、自分の炎を上乗せしてウインディが駆けた。通り道の氷が一瞬で蒸発していく。対して相手のウインディはどうやら『インファイト』で迎え撃つ姿勢のようで体に力を溜めている。
ワタルとワタルのカイリューはタイプ相性を無視して『はかいこうせん』を当ててダメージを通すことが出来る。あれは他にもある付随効果がやばいので異常視されているらしいが、後から調べたらタイプもとくせいも無視してダメージを通してくる技の使い手程度はそれこそゴロゴロいた。グリーンがその辺教えてくれたのは、もしかしたらこの世界では普通の技術だったからかもしれない。
相手のウインディは“もらいび”持ち。だからこそほのおタイプのわざに対して、相手のウインディは悠々と構えているんだろうけど、その油断が命取りだ!
物理威力最大のほのお技がとくせいを貫通して相手のウインディに突き刺さる。一人と一匹で届け、と念じたそれは確かに相手のウインディに届いて────、確かにとくせいを貫通したはずなのに、大ダメージを受けながらも相手のウインディは持ちこたえた。一瞬私とウインディが驚愕で意識に空白を作る。その隙でもう決着はついていた。『インファイト』で弾かれた私のウインディが高く舞い上がり、地面に落下する。
戦闘不能だ。
審判が高らかに告げ、アナウンスが何やらまくし立てているのが聞こえる。
実のところ、初めての敗北だった。ふー、と息を吐く。結構くる。目の前が真っ暗になった、とまではいかないけど、なるほど、楽しくない。ウインディを回収してぐっとボールを額にあてる。バタフリーが勝手に飛び出てきて肩に乗った。
ありがとう、と囁いて、腰に戻すとローザに向かって歩み寄る。フィールドの真ん中で相対したローザはからからと笑っていた。握手をする。
「いや、いい試合だった!楽しかったよ!よければこの後飯でも食わねぇ?おごるぜ?」
「…船内の食事は無料でしょう?こちらこそ、ありがとうございました」
「私がとってる部屋は有料のルームサービスがついてんだよ、いいもん食わせてやるからさ!プロ目指してんだろ?今の試合のレビューしてやる。いらなきゃやめとくけど」
「いえ、是非」
プロトレーナーからの評価なんて、アマチュアの私がそんなそうそうもらえるものではない。大体地方大会だってアマチュア向けとプロ向けで分けられていることがほとんどだ、こんな風にプロと戦える機会があったことの方が奇跡に近かった。
食い気味に返答すると、きょとんとした表情になったローザが直後爆笑した。
「食い気よりバトルか!アッハッハッハ!!ポケモンの回復が終わったらラウンジで待ってな、迎えに行くよ」
「はい!ありがとうございます」