獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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双子の章

 

ライモンシティの街を卵を抱えて歩く。

孵化装置にだっこひもを付けたような状態ではあったけど、その方が状態が見やすいので、出来ればこうやって連れて歩いて孵化促進してくれ、とツタージャのブリーダーに言われたのだ。

 

イッシュ到着後、せっせとバトルをしながら移動して(経費請求分も無事受け取った。伝えた金額より多かったので抗議したら旅立ちの祝い金じゃ!と言われて通信を切られてしまったので、変わりにお土産をたくさんサーバーにあげておいた)、無事にツタージャのブリーダーの元にたどり着いた私は、ツタージャの卵を譲り受けていた。

 

ブリーダー業、特にポケモンの売買については大分法律が厳しい。様々な登録がいるし、生体はともかく、特に卵を扱うようなブリーダーになってくると必要な免許は片手では足りないくらいになるのだという。あんまり法規制が厳しいから闇ブリーダーなんてものもいたりするのだが、今回はプロトレーナーのお墨付きなのでそんなに心配はしていなかった。だが、着いてみたらどうもブリーダーの方が怯えていたらしい。ローザの紹介はいつも変なのしかこねぇから、嬢ちゃんみたいな普通の子が来てよかった、だそうだ。……あの人交友関係どうなってんだろう。

 

たまごを()()の必要があるならオーキド博士をライブキャスターに召喚するつもりだったけど(ホープトレーナーだと卵の購入にあたっては公的な人物の承認が必要になる)、ローザの紹介だから()()の方でいいと言ってくれて、孵化装置の購入だけで済んだ。この辺も細かく決められてるのが法律のすごいところである。孵化装置は使いまわしが出来るタイプしかなかったのでそれを買ったが、今後たまごの状態でポケモンと出会うようなことはそうそうないと思うので、たぶん孵った後、装置は『機材』の中で眠ってもらうことになると思っている。

 

最近は念願のツタージャを仲間にできそうだということと、一度やってみたかった卵の孵化なのとで大分浮かれている自覚がある。ポケモン達も興味津々で、私が野営の準備をしている間なんかは三匹でずっと卵を囲んで覗き込んでいるのだ。一度うっかりラプラスの所から離れた場所に卵を置いてしまって、テントを張り終えた後に振り返ったら、たまごがみれないよ、と悲しげにうつむくラプラスと、動かしてあげたいけど迂闊に触ってなんかあったらどうしよう!と慌てる二匹の姿があったので思わず笑ってしまった。その後ちゃんと謝ったけど、三匹とも卵に好意的でよかったなと思う。

 

 

 

そんなことを考えながらのんびり歩く。頭の上にバタフリーを乗せ、孵化装置を抱えてライモンを歩く私の姿は目立つのだろう、先ほどからちらちらと見られているので、バタフリーがちょっと不機嫌だ。平日の昼間だから人通りは少なめだが、それでこれなら目的を達したらとっとと街を出た方がいいかもしれない。ボールに入るかと聞いたら無言で頭にしがみつく手が強くなったので、入りたくはないらしいが。

 

もらった観光地図的にそろそろなんだけどな、と思いながら歩くと、やっと目的の看板が見えた。

 

 

バトルサブウェイ。イッシュ地方で名高いバトル施設である。地下鉄でバトルするという世にも珍しい形式から、電車オタクやバトルオタクそれぞれにも人気が高い。そして何より、勝ち進むと戦えるてつどういん、そしてサブウェイマスター、ノボリとクダリの実力が大変高く、バトル廃人にもにっこりのバトルを提供してくれる施設として有名だ。

 

……まぁ、その、なんだ。ポケモンそのものを大変好いていたけど、一応いわゆる()()()()()()もしっかりしていたので、登場キャラの方にも一応こう、テンションあげてはいたのだ。その辺区別をつける理性はちゃんとあるので、今までだっていわゆる原作キャラというやつに遭遇してもしっかり普通に相対してるつもりだし。

 

ただ、だ。ジム戦しなきゃとか野生のチャンピオン探さなきゃとか野良のしてんのう探さなきゃとか、そういうのをしなくても、道楽の範囲内で見に行けるキャラが現実に存在するってなったら、ちょっと一目見たいな、くらいのオタク心を発揮するのは許してほしい。だって、いわゆるゲームでの廃人バトルに触れるきっかけになったのがここの二人だったのである。種族値とかせいかくとか厳選とか、そういったものを気にするようになったのはイッシュ地方のゲームが初めてだったのだが、そこから通信バトルにもはまったんだよな。ゲームをより楽しめるようになったのは彼らのおかげと言っても過言ではない。当時はバタフリーでどこまでいけるかとかよく試したものだった。

 

お金を払えば内部でバトルを観戦できるらしいから、当時の感謝も込めてしっかりお金を落としていこうと考えている。

 

我ながらわかりやすいことに、後イッシュで仲間にしたい二匹ってヒトモシとバチュルだし。パーティー的にシビシラスとかヤブクロンとかモグリューも迷ったけど、あの二匹の誘惑には勝てなかった。……何に影響されたかよく分かる選択というやつである。

 

 

 

 

ちなみに現地でも彼らは人気があるらしく、ライモンのお土産屋さんを覗いたら、ご当地芸能人コーナーみたいなところにカミツレのグッズとサブウェイマスターのグッズが並んでいた。両方とも黒のシルエットだったのでどっちがどっちだかわからなかったが(グッズに顔出しはしない主義らしく、いつもシルエットだけらしい。それもファンは買っていくとか)、熟練のプロだとどっちがどっちだかを一発で言い当てるのだという。クリアファイルを掲げて首をかしげていた私に、親切な店員さんがそう教えてくれた。

 

 

そんなわけで辿り着いたバトルサブウェイの階段をゆっくり降りていく。やっぱり平日の昼間なので人が少ないのだろうか、誰ともすれ違わなかった。

だっこひもで支えているとはいえ、たまごを抱えたまま階段を下りるのはちょっとだけ不安だったので、卵を改めて抱えなおして地下に降りきると、丁度正面に案内所のようなものがあった。気だるげなてつどういんが番をしている。近づくと、不思議そうなものを見る目で見られた。

 

 

「…?いらっしゃい、バトルならあっちだよ。希望があれば卵も預かるけど」

「えっ」

 

 

初っ端からそういう心が揺らぐことを言わないでほしい。正直バトル施設のバトルってどんなものか是非とも体験してみたかったし、電車でのバトルというのも大変燃える。狭いフィールドでの室内戦の経験なんてそうそう積めるものではないだろう。

 

そもそもバトル施設というやつは、入場料を払えばファイトマネーや薬代を気にせず好きなだけバトルが出来る場所という触れ込みで広まったのが最初のはずだ。それが段々勝利回数によるポイント制度とかが導入されたり、バトルサブウェイのようにエンターテイメント性が取り入れられたりと発展を遂げてきて今に至るわけで。個人的にもバトルだけして後は気にしなくていい施設とかほんと最高だと思うし。

 

うわー、と内心唸るが、私の心変わりを察したのかバタフリーが不機嫌そうに髪の毛を引っ張った痛みで我に返った。

 

 

「あ、いえ、見学をしたくて。お金を払えば今やってるバトルを観戦できるって聞いたんですけど、それはどこでできますか?」

「見学?そうなの?」

 

 

てつどういんの目がバタフリーを見て、私を見て、腰のボールを見て、首を傾げた。そうなの?と言ってくれながらも手は案内のパンフレットでも出そうとしているのか忙しなく机の上を動いていたから、なんとなくそちらに目線が移ったその瞬間だった。

 

 

「本当に?バトルしてかなくていいの?」

「ヒェッ」

 

 

リアルでヒェッとか言ってしまった。誰だっててつどういんの後ろから突然人が起き上がって出てきたらそりゃ驚くと思う。

 

真っ白な制服と特徴的なセットの髪の毛、そして吊り上がった口元。長身のその男は、サブウェイマスター・クダリだった。

 

受付所のカウンターの裏側で寝転がって隠れていたようで、あくびをしたクダリはてつどういんの横に収まって帽子をかぶった。

 

 

「ああボス、いいんですか出てきて。バレますよ」

「ん、ノボリならこっちにきてるし一緒。それより君、ほんとにいいの?バトル好きそう。列車でバトル、楽しいよ?」

「………バトルしたいのは、ほんとうにほんとーに山々なんですけど、うちの子たち、今この卵に夢中なので。私だってあんまり目を離したくないですし。今日は見学だけで」

 

 

私だって流石に大事な卵をほったらかしてまでバトルにいそしむつもりはないのだ。本当である。お金のために野良バトルはしなきゃいけないかもしれないが、完全に道楽のためのバトルをする気はない。本当である。

 

しっかりそれを伝えると、ふうん、とクダリの目が細められた。

 

 

「そう?…じゃあ、いつか挑みに来るの、待ってる。ぼくクダリ。サブウェイマスターをしてる」

「そして、わたくしサブウェイマスターのノボリと申します。……クダリ、マルチトレインにお客様がみえました。準備を」

 

 

途中からカツカツと革靴の音がしているなとは思ったけど、後ろから急にそんな声がかけられて流石にちょっとびびった。振り返ると、クダリと全く同じ顔と髪の毛をしていながら、真っ黒な制服とひん曲がった口元だけが違う、サブウェイマスター・ノボリがそこにはいた。

 

 

「…ああ、驚かせてしまいましたか。お客様にこれは失礼」

「いえ、こちらこそ。……お仕事頑張って下さい」

 

 

そう伝えると、表情は変わらなかったが若干気配が和らいだノボリが少し帽子を持ち上げて私を見下ろす。

 

 

「ありがとうございます。…いつかシングルトレインに乗車される日をお待ちしておりますよ。本日は存分に勉強していって下さいまし」

「はい、ありがとうございます」

「ではクダリ、参りますよ」

「はーい!」

 

 

カウンターをひょいっと乗り越えたクダリを、ノボリがはしたないと叱りつけながら去っていった。…いや、運がよかったというか、悪かったというか。強そうだなぁ、と思ったし、バトルしたいなぁ、と思ってしまった。会えたのは運がよかったけど、バトルせずに見学だけと決めた日に会えてしまったのは運が悪かった。

 

まぁでも、あの二人相手はパーティーメンバーが全員もっと戦えるレベルになってからじゃないとそもそもバトルにならない気がする。今戦っても楽しくなさそうだ。

 

 

「…で、その、見学所は?」

「あ、ごめん、この地図を見て行って。ちょっと奥にあるから」

 

 

渡された地図通りに見学所に行くと、ほとんど人が居なかった。広めの休憩所のような場所にパラパラと人が座っているだけだ。平日昼間だとそりゃ人もいないよなぁ、と思いながらたまごを抱いてバトルを観戦して、その日一日が終わった。

 

……電車ならではのバトル方式が根付いているのはよくわかった。閉所空間だから成り立つけど、広いバトルフィールドだと出来ませんみたいな戦術が多かったのだ。参考になったものもいくつかあったし、サブウェイマスターの所にたどり着いたトレーナーも何人かいたので、全体的には実りのある見学ができたと思う。

 

 

 

バトルサブウェイを出ると当然のごとく夜だった。ライモンの夜はきらきらとしていて、昼間とは一転して人が多い印象を受ける。あまり遅くまでさ迷い歩いていると補導されてしまうから、とっととホテルに戻らなくては。それに、なんだかんだでずっと付き合ってくれていたバタフリーが頭の上でちょっとばてている。

 

明るい道を選びながら少し早歩きでホテルに向かう最中、人混みの中に()()()()()を被った人間が何人か見えて一瞬固まってしまった。彼らが揃いで着ている制服も大変に特徴的で目を引く形をしているのがわかる。どうも、彼らは人々にチラシを配っているようだ。ポケモン解放を、なんて声が聞こえてきて、気付かれないよう慌ててその場を通り過ぎる。

 

……そういえば、イッシュ地方、ポケモン盗難事件もそうだが、あちこちで所有ポケモンを勝手に逃がされる事件だったり、規定賞金以上のファイトマネーが巻き上げられていたりと妙な事件が多いって去年くらいから騒がしくなってたけど、でんせつのポケモンが出たとか、若いトレーナーがでんどういりしたとかは聞いてない気がする。そしてさっきのは間違いなくプラズマ団だ。

 

 

ひょっとしてこのイッシュ地方、今まさにゲームシナリオが進行中なのでは?

 

 

となると、早めにバチュルとヒトモシを見つけて仲間にして、早めにこの地方を出てしまいたい。ぶっちゃけた話、シナリオの進行に関してはどうでもいいと考えているからだ。それにシナリオがゲーム通りに進むのだとしたら、色んな事に巻き込まれたくはない。いや、どうでもいいというと言い過ぎかもしれないが、関わりたくない、というか。今まではおよそゲームシナリオ通りに事が進んできたようだけど、今後もそうやって進むのかもしれないし、進まないかもしれないし、それはたぶん誰にも分からない。それってつまりは知りもしない未来についてやきもきするのと同じことだから、積極的に触れたくはないのだ。

 

この世界には人間がいっぱいいるし、ポケモンだっていっぱいいて、ささやかなバタフライエフェクトだっていっぱいあるだろう。今までだって大筋はその通りになってはいたようだけど、もしかしたら細部はいろいろ違ったのかもしれないし。あえて調べる気もないし、その辺は気にするだけ無駄だな、というのが結論だった。おきるかどうかも曖昧なことを気にしながら生きていくより、好きなことのために走って、好きなポケモンのために生きた方がよっぽど楽しい。今度は楽しい人生を長生きしたかった。

 

オーキド博士やナナミさんに何かがあれば流石にキレるだろうし、家族に何かがあればキレるどころではない。そういったことがわかっていれば何か事前準備をしたかもしれないが、そんなシナリオは知っている限りではなかったはずである。心配する根拠がゲームシナリオである以上は、ということだ。大体、私が生まれた時点でカントーメインのシナリオはもう終わってたし。

 

うん、明日にはライモンを出よう、と決めて帰路を急いだ。

 

 





<店員のお姉さん>
ほんのちょっとだけ前の記憶を持っている人。シビシラスをパートナーにしている。本筋とは全然関わらない。


<せいかくについて>
この世界におけるせいかくでの能力補正は存在していない。一応分類のようなものはあるが、どちらかといえば地球で言う血液占いのような位置づけである。アマチュアなどはそれを信じてなるべく希望に沿う個体を探そうとする場合もあるが、ポケモン側も人を選ぶため、うまくいく人間はそう多くない。

プロに性格の話をすると、笑い話として返答されるか、もしくは単純にそのポケモンはバトルが好きか、バトルのために努力できるか、何よりトレーナーと信頼関係を築けるか、それだけの話だと答えられるだろう。



<N>
実は結構ニアミスしてる。世界で唯一()()()()している存在。

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