獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
季節研究所の近くにキャンプ地があったのは幸いだった。今日中にはでんきいしのほらあなにつけるかと思って急いでいたけど、雨に降られてしまったのだ。道中でニョロトノが騒いでいた時点で気付くべきだった。
小雨に濡れながら慌ててテントをはって、中に駆け込む。察しのいいバタフリーが先にリュックからタオルを出してくれたので、ありがたくそれで体と孵化装置を拭った。靴を脱いで上がり込み、卵と荷物を下ろして今度は『機材』からバタフリー用のタオルを取り出す。
今日はもうここで野営するしかないだろう。テントの片隅にシートを引いてやると、待ちきれないと言わんばかりにラプラスが飛び出てきて、いつものことながら笑ってしまう。テントの中はある意味では室内みたいなものだから、ほんとはシートなんてひく必要はなかったりするのだが、水場のない場所ではシートの上に乗るよう癖をつけさせるために引いていた。仮にもポケモンだから別に地面の上に出したっていいのだろうけど(バトルの時は普通に出してるし)、休憩しているときくらいは氷の感触に近いシートの上の方がいいだろう。このサイズのひんやりシートを探すのはちょっと苦労したが、ラプラスも気に入ってくれているようなので何よりである。
出てきたラプラスは私の肩を軽く甘噛みした後しばらく頭を擦り付けたままじっと動かなかったから、思いっきり頭を抱きしめてやった。途端に甘えた声が響いて、やっぱちょっと寂しいんだろうなぁ、と頭の中で思う。他の二匹と違い、彼女は水棲のポケモンだ。足の代わりに生えているのはヒレで、陸上での活動には向いておらず、一番ラプラスが気持ちよさそうにしている場所はやっぱり水場なのだった。……ただ、旅してるといつでも水場に出してやるということは出来なくて、こまめにガス抜きしてやらないと不満がたまりそうだな、と思う。スキンシップは今までも多めにとってきたけど、もっとしてやらなきゃな、と思いながら頭をわしゃわしゃしてやる。
この6ばんどうろだと水場はたっぷりあったから泳がせてやることはできたけど、私が『なみのり』免許を持っていないから、背中に乗ってやることが出来ないのだ。寂しそうな顔で鳴かれて大分私も悲しかった。プールとかならまだしも、こういった野外でポケモンと一緒に水泳というのはわりと命懸けなんだよな。水の中は見えづらいから、野生のポケモンがどこから出てくるのかわからないためである。もうちょっとラプラスのレベルが上がってくればポケモンの方から回避してくれるようになるので、その辺強く気にしなくてもいいんだけど。レベル60に到達したバタフリーとウインディはその点陸上でのいい護衛と言える。
「よしよし。ご飯出すからちょっと待っててね」
「──!」
船内プールとかなら免許も気にしなくていいので、ああいう場所ではラプラスに乗せてもらうことで穏やかな時間を過ごすことが出来た。その辺の水場だけでなく、定期で大型ポケモンも入れるプールに行こうと決めて、ぽんぽんと頭を叩いて体を離す。ラプラスはご飯待ってる!と元気よく返事をしてくれた。その側に卵を置いてやってからウインディを出すと、一気にテント内が狭くなる。
一応このテント、ガーディの進化を見越して買ったものだったけど、通常のウインディより大きく進化した私のウインディにはちょっと窮屈そうだ。まだまだ仲間が増えていくことを思うと、そのうちこのテントにも入りきらなくなってくるだろう。旅立つ前にテントを色々見た時、なんでこんな大きいテントが必要なんだ?と思ったサイズのものがあったけど、今となってはあのサイズがめちゃくちゃほしい。ていうか雨の日のご飯ってたくさんポケモンを連れてるトレーナーはどうしてるんだろう。濡れるの覚悟で外で食べるんだろうか。ホウエン地方のひみつきちとかは作れたら楽な気がするが、その辺見かけたことないんだよなぁ……。プロバトルトレーナーたちの移動方法とか、普段の過ごし方とか、どっかで調べられたらいいんだけど。
『機材』から電熱二口コンロを取り出して、私の食事と飲み物用のお湯を温めている間にポケモン達のフーズを出してやる。バタフリーとウインディはいつも与えているフード慣れているようだけど、ラプラスの好みがどうにも安定しないので、彼女のものだけその日によってブレンドして味を変えて出すようにしている。その辺のアクセントは今までデザートのきのみを日替わりで出すことでつけてきてたんだけど、そろそろそれだけでは満足できなくなってきているようだ。それどころかデザートのきのみのヘタ周りの少し硬いところをきちんととりのぞいておいてやらないと、そこだけ食べないのだ。今まで何を出してもおいしい!おいしい!とがっついて食べる野郎どもしか面倒を見てこなかったので(実際のところ、その中からバタフリーとウインディの好みのフーズを探し出すのは結構苦労したのだ。どれもおいしそうに食べて反応がほとんど変わらなかったので)、美食家の片鱗を見せるこのラプラスの舌をどう満足させてやろうかというのは最近の私の課題だった。
そんなことを考えながら支度をしていれば、あっという間に準備が終わって手を合わせる。
「いただきます」
ポケモン達も続いて唱和して、一斉にご飯を食べ始めた。バタフリーはいつも通り一個ずつフーズを抱えてガジガジやっていて、ウインディはガーディの時より増えた食欲でがっつくものだから、大きな皿に盛ったフーズが飛び散りそうになっていた。それを私が見ていることに気付いたのかちょっとだけ食べるスピードが落ちる。野外ならともかく、テント内で零した後の処理をするのに私が苦労していたのを覚えてくれているようだ。ウインディについては食べる量は増えても味の好みが変わらなかったからちょっと助かったんだよな。一応食べ比べをさせたが、やっぱりガーディの時に一番好んでいたフーズにがっついていたし。バタフリーも進化を重ねてきているが、彼も一貫して好きな味は変わらなかった。
当のラプラスはといえば今日のご飯はあんまり好みのブレンドではなかったらしく、ちょっと食の進みが遅かった。色んなフーズを少量ずつ買って色々ブレンドして出しているんだけど、そろそろ全部の組み合わせを試し終わる。それなりに食べてくれた組み合わせで分量を変えて様子を見てみようとは思うが、……これはいっそハイブランドのフーズに手を出すのも考えた方がいいかもしれない。地方大会に出るようになってからその辺買おうかと思ってたのだけども(地方大会に何度か優勝すると声をかけてくる企業や協会があるというのはローザから聞いている。そのうちの一つにプロ向けブランドのフーズ専売企業があるらしいのだ)、食事で苦労させたくはないもんな。出来れば毎食美味しく食べてほしい。
皆して食事を終え、後始末をして、そっとテントの入り口から外を覗く。真っ暗な空からは相変わらず雨が降り注いでいた。雷の気配がないのだけまだましか、と思ってテントの入り口を閉める。卵を抱えながらテントの床に座ってラプラスのヒレの間に収まり、ラプラスの首筋に背中を預けてウエストポーチを開ける。バタフリーがひらひらとマグカップを持って飛んできたのをありがたく受け取り、私たちを囲うように伏せの体勢をとったウインディの頭を撫でてやった。
取り出したライブキャスターを開けば、予想通りこの辺りは明日も雨のようだ。元々でんきいしのほらあなにいくのに感電対策をして入るつもりだったけど、濡れるとちょっとめんどくさいなと思ってため息をつく。
卵は最近はたまに揺れる姿を見れるようになってきた。譲渡してもらったその時点で生まれるには後一か月はかかると聞いた。抱えて歩いてやることで多少促進されるらしいけど、それでも一週間縮まればすごい方らしい。連れ歩き始めてそんなに経ってないので、孵るにはまだ先のようだけど、ちょっとずつ成長が見えているようで、まだかな、と期待しながら覗き込むのは結構幸せな時間だ。
「ラプラス、この子が生まれたらお姉ちゃんになるんじゃない?生まれるのは弟かな、妹かな」
「──?」
「フリィ」
「ワフ」
「ああ、うん、バタフリーやウインディにとってもそうだけどさ。私もおやになるわけだし。群れの中では歳の近い子はいなかったっていうから、ラプラスの方が感慨深いかと思って。……ホドモエで植物系ポケモンの幼児食買えたし、気に入ってくれるといいなぁ」
「フリィ?」
「うん、……バトル好きな子だといいよね。まぁ好きになってくれるよう頑張って育てるけどさ!どんな子に育つかなって思いながら眺めるの、なかなか楽しいね」
一人と三匹で卵を覗き込む。それが分かったかのように卵が揺れて、皆で思わず笑ってしまった。
「どんな子が生まれてくるのかな」