獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

21 / 78
スカウト

 

「ほんとだって、そこに落っこちて転がってるやつも食べていいよ。だからちょっとお話させてくれない?」

「「「「「………」」」」」

 

 

ほんと?ほんとに?みたいな顔で顔を覗かせ始めたバチュルたちを安心させるよう、ため息をついたウインディが一歩下がる。そろそろと動き始めたバチュルたちを刺激しないよう、ゆっくりバタフリーのところまで戻って座る。ウインディがその横に伏せの体勢をとったあたりで、やっとバチュルたちが大体十五匹ほど私たちの周りに集まった。…さっき釣り上げた分より増えてるねこれ?

 

 

「ありがとうね、集まってくれて。…で、さっきも聞いたけど、この中にバトル好きな子とか旅に出たい子いない?この中にいないなら紹介してほしいんだけど」

「ちゅる」

 

 

それより先にでんきちょーだい、みたいな目が私に注がれて苦笑する。

 

 

「先にそのお返事ちょうだいよ。いないならいないでそれを教えてくれれば電池もちゃんとあげるし、その後場所変えて他の群れに聞きに行くだけだからさ」

「ちゅー…」「ばちゅ」「…ちゅる?」「ちゅる」

 

 

ざわざわとバチュルたちは会話をして、やがて全員が一匹のバチュルを見た。群れの中ではなくほらあなの壁の方を見るので、おや?と思ったが、えっちらおっちらと、落ちた電池を転がしてこちらに向かってくるバチュルが一匹いて納得した。さっきの大きいバチュルである。全匹揃っているわけではなかったようだ。釣りに使った電池は地面に落ちたまま回収せずに置いてきたのだが、律儀に回収してくれたらしい。

 

 

「ああ、ごめん、ありがとう。巣に持ち帰ってくれてもよかったのに」

「ばちゅちゅ」

 

 

ニュアンス的に、これはほんとにぼくらのご飯にしていいんだよね?の確認のために持ってきたらしい。言ってくれれば運んだのにな、と思いながら頷くと、大きいバチュルは群れの中に電池を転がしていた。

 

 

「で、君が旅立ちたい子なのかな?それともバトルが好きな子?」

「ばちゅ!?」

 

 

驚いた様子で初耳ですけど!?と固まった大きいバチュルに、周りのバチュルが何事かばちゅばちゅ言い始めた。色々と言い募られて困惑しているというか、なんか照れているというか恥ずかしがっている感じがするような気がする。同じ虫ポケでもバタフリーのそれは鳴き声だけで大体何を言いたいかはわかるけど、さすがに今回初対面のバチュルの鳴き声の聞き取りはちょっと難しい。

 

やがてもじもじとした様子で大きなバチュルが進み出てきて、何やら言い始めた。

 

 

「ばちゅ、ばちゅちゅちゅ、ちゅる、ばちゅ……バヂュ!ばちゅ、ばちゅ!」

 

「……んっ?」

 

 

バヂュ!、と鳴いた時だけめちゃくちゃ低音だった上、劇画調のイケメン顔をされたせいでせっかく読み取ろうとしていたものが全部吹っ飛んだ。なんて?

 

 

「……ごめん、もう一回ゆっくりお願いしていい?」

「ばちゅ?」

「ごめんね…人間ってポケモンの鳴き声聞くの下手くそなの…ほんとごめん……」

 

 

いいよ!しょうがないなぁ、みたいな反応をした後、バチュルはもう一回繰り返した。

 

 

「ばちゅ、ばちゅちゅちゅ、ちゅる、ばちゅ……バヂュ!!ばちゅ、ばちゅ!」

 

 

……今度は身振り手振りもつけてくれたおかげで理解できてしまったんだけど、ちょっと頭が理解を拒否している。ちなみに今回も劇画調は健在だった。

 

 

「……バタフリー、ちょっと翻訳お願いしていい?」

「フリィ!?」

 

 

めちゃくちゃ半眼でバチュルの訴えを聞いていたバタフリーが、僕!?みたいな感じの反応をした。

 

 

「フリー…、フリィ、フリ、フリ、…ヴリィ!フリ、フリィ」

「顔を真似しろとは言ってない、お前までその顔をするな。………ウインディもやろうか?みたいな顔をするな。ラプラスが真似したらどうしてくれんの」

 

 

どっから出したのその低音、という感じだった。バタフリーのそんな声初めて聞いたわ。

 

額を抑えてため息を吐く。バタフリーが翻訳してくれたことで、読み取ったことが間違っていない証明をされてしまった。

 

 

「…えーっと?つまり?ここにいるといつでも電気を食べれるから、食べ過ぎて太ってしまった?」

「ばちゅ」

「体格がよくなるのは皆を守れるようになったからいいけど、最近はそれを通り越して太りすぎている気がする?」

「ばちゅ」

「ここから離れれば常にご飯を食べることもなくなるし?バトルをすれば運動にもなる?」

「ばちゅ」

「旅に出て痩せたい、あわよくばイケメンになりたい?なので連れて行ってください?」

「ばちゅ!」

 

 

力強く頷かないでほしい。ダイエット目的で旅立ちたがるポケモンとか初めて聞いたぞ。

 

 

「イケメンになるってそれどういうことなの」

「ばちゅ、ばちゅ、ちゅちゅ?」

「理想の自分に近づくのはいいことでしょ?……あーそう…」

 

 

モテモテになりたい!とかじゃないだけいいんだろうか。

申し訳ないが今の君の状態を知りたい、比較をさせてほしいとお願いしたら、快くバチュルたちが承諾してくれたので、試しにその大きいバチュルと普通の大きさのバチュルに掌に乗ってもらった。大きいバチュルはかなりずっしりきたし、胴回りも確かにぽっちゃりしている。腹を触らせてもらったが(この時点で大分気を許されていることに気づいて頭を抱えそうになった)、えらくふにふにというかぽにょぽにょで確かに……えー、控えめにいってもデブだと思われた。足も肉が付きすぎてちょっと関節を曲げづらそうだ。そりゃあ一匹だけ動きが遅いわけである。

 

 

「……あのね、私、いっぱいバトルがしたいのよ。なんなら今いる人間の頂点みたいな人を倒したいわけ」

「ばちゅ」

 

 

それは素敵な夢だね、と大きいバチュルは頷いた。

 

 

「痩せたい、っていうのはとてもいい目標だと思うんだけど、実際に痩せた後はどうするのさ、君。痩せることができたらはいさようなら、とか、バトルのモチベーションが下がっちゃうとか、そうなると結構困る。正直言うと、バトルに対する意欲ってやつは高めじゃないとしんどいと思うんだよね…、その辺はどう考えてるの?」

「ばちゅ?ちゅる、ばちゅちゅ。ちゅちゅ、ばちゅ、ちゅるる」

「……ほんとに痩せることができたらそれこそ貴女に感謝するに決まってるだろう?貴女のために戦うにきまってるじゃないか、ねぇ」

 

 

野生のポケモンとの会話は、心をむき出しにして、感情をぶつけ合うようなつもりでいなければ、まず会話をするという事だけでもとても難しい。…だからこそ、本気で言ってるとわかってしまうというのが、初めてちょっと恐ろしく思えた。随分素直で紳士的なバチュルである。周りのバチュルたちを見れば、そういうバチュルなんです、素敵でしょう?だから連れて行ってくれない?みたいな目で見られた。

 

 

「……なるほど、なるほどね?君たちの群れ、トップというか、君たちを守ってる存在みたいなのはいない?そのポケモンは君を連れて行っても怒らない?」

「ちゅる。ばちゅちゅ」

 

 

いるにはいるようだが、本ポケの旅立ちまでにはとやかく言わない主義のようだ。その辺はこちらとしても助かる。

 

 

「…わかった。それなら、最後の確認をするね。君はこれからこことは全然違う世界を見ることになる。そして、バトルもずっとずっと厳しいバトルばかりになると思うよ。食事とかも全部私の管轄になる。ちょっと君の体躯は競技バトル向きではなさそうだから、その辺も色々言うと思う。…それでも私についてくる?それでも君は私を君の主人として見れる?私の仲間になるってそういうことになるよ」

「ばちゅ!」

 

 

バチュルは力強く頷いた。一切の躊躇すらなかった辺りは覚悟の強さがうかがえる。ダイエットが目標だろうがそれはそれ、貫き通せば立派な覚悟でモチベーションだ。きちんと応えてやらなくては。

 

 

「……オッケー、そしたら。これが君のモンスターボールだ」

 

 

ウエストポーチからボールを取り出してバチュルに差し出すと、バチュルはよっこらせ、と掌に乗り上げてボールに触れた。一回揺れてちょっと取り落としそうになったけど、無事に捕獲が完了する。

 

ボールを開いてやると、飛び出てきたバチュルは群れのバチュル達に頭を下げた。

 

 

「ばちゅ、ばちゅ!」

「「「「「ばちゅ~~!!」」」」」

 

 

別れを惜しむ声に向けて前足を振ったバチュルは、改めてお願いします、とこちらにも頭を下げた。

 

 

 

尚、本当に先の先の未来、雑誌の撮影依頼を受けるようになったころ、私の隣で共に写るポケモンは大概がバタフリーであったけど、単体でのモデルポケモンとして活躍するのはこのバチュルになる。大層かっこいいデンチュラとして引っ張りだこになり、後に♀関係でめんどくさいことをやらかすことになるのだが、それはまだ先の話。

 

 

 

 





バチュル:♂
バトルをして負けた。でも大丈夫、ご飯はいっぱいあるから、食べれば体は治るだろう。そうだ、バトルの前にもいっぱい食べれば、強くなれるんじゃないだろうか。そう思って、ご飯をいっぱい食べてからバトルしたら勝てた。次の日も、その次の日も、次の日も。いっぱい食べれば体も大きくなっていく。バトルに勝てる。そうすれば、仲間たちを守れる。………いつしか自らの群れとその縄張りがきちんと成り立って、デンチュラの庇護下に入って、もういっぱい食べなくてもそれなりに安全な生活が出来るようになったのに、食べることをやめられなかった。やがて食事で摂取するエネルギーはバチュルの体の許容量を超え、野生下のポケモンにしては非常に珍しい肥満体のバチュルとなる。

実は肥満が原因の病気になるまで相当ギリギリな状態である。進化するか、いつでも食事がとれてしまうほらあなを出るかの二択を迫られるレベルだったが、バチュル自身にその自覚はなかったし、群れのバチュルたちも気付いていない。

ただ、痩せたいなぁ、と呟いた彼が悲しそうだったから、群れのバチュル達は背中を押した。随分変なやり方でコンタクトをとってきた人間ではあったけれど、大事にされている彼女のポケモン達を見れば、きっとこのバチュルも大事にしてもらえるだろうことは容易に想像がついた。

一緒に動いて一生懸命運動しても、結局ご飯を食べすぎてしまって、悲しそうな顔をするから。それなら、いっそここを出ればいい。そうして、君が楽しく日々を過ごせるのなら、ここで君の悲しい顔を見続けるよりはよっぽどいい。

あなたがいつか、かっこよくなった姿を見せに来てくれるのを待っています。




<スカウト>
交渉によるポケモンのスカウトは決して珍しいことではない。無論、バトルによって敗北を突きつけ、強制的に手持ちにする方が圧倒的に多数を占めてはいるし、野生下のポケモンを真の意味で従えるにはそれが一番正しいが、新しいバトルを求めている、ここではない新しい世界を見たい、など、旅立ちたがるポケモンは少なくはないため、ポケモンの言いたいことをそれなりに読み取れるトレーナーに関しては交渉によるスカウトも一つの手段であるためだ。

旅立ちたいがためにトレーナーの目の前に飛びでてバトルを挑んでくるポケモンもそれなりにいる。それぞれで勝手に旅立つより、人間と共にあった方がバトルに関しても旅に関しても、それこそ生活に関してだって手厚いサポートを貰えることが多いからだ。

そして、何よりそれが運命の出会いになるかもしれないから、というのはポケモン達にとっても周知の事実である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。