獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
夕方になってどうろのポケモン達に今日もありがとうとさようならを告げ、ポケモン達をボールにしまう。今日はバチュルをお供に出しての帰宅だ。肩に収まったバチュルの体毛が、たまにふわふわと耳元をくすぐるのがちょっとこそばゆい。いっそしっかりくっついててくれた方がこんなくすぐったくもないと思うのだけど、お願いしてみた方がいいだろうか。
ちらりとバチュルを見れば、なに?と首を傾げられた。
「…?ばちゅ?」
「ん?ああ、なんでもないよ。バチュルもハンドサインとか覚えるの早くて助かるなって。トレーニングと並行してたから大変だったでしょ。大会もよく頑張ってくれたね」
「ばちゅ!」
そんなことない、と激しく首を振るものだから、やっぱりくすぐったくて笑ってしまう。
正直に言えば、この前の地方大会、コトブキ大会アマチュアカップであるが、私が参加する初めての地方大会だった、というのを差し引いても、バチュルを出すつもりはなかった。ヒトモシ同様まだ早いと思ったのだ。
私との連携の仕上がりは悪くなかったんだけど、気にしたのは純粋にバチュルの体型についてである。競技バトルにおいて、単純な肥満体型のポケモンというのはまずもって出てくることは無い。野良のバトルや地域のポケモンの運動用で定期に開催されてる大会ならともかく、きちんとした大会に出るのは競技のために鍛え上げた体を持つポケモン達が多いし、太っていることが有利に働くようなポケモンであったり、そもそも種族的に太っているカビゴン(あれが通常体型なので太っていると言っていいのかは疑問だが)とかならまだしも、である。
人間の短距離走競技に出場する選手に極端に太った人間が出ないのと同じことだ。野生のポケモン相手にバトルをしてみて、激しい運動の際に自重で自分を傷つけるということはなさそうなのは承知していたが、それでももう少し痩せてからにした方がいいだろうと思っていた。だが、大会の出場を決めた時、バチュル自身が出たがったのだ。
早くたくさん戦えるようになりたい、それには実戦が一番だろう?と主張して。
一生懸命訴えてきたそのニュアンスは充分汲み取れたし、なるほど、言いたいこともわかる。バチュルでなくて、例えばラプラスが主張してきたのなら、私は躊躇なく出しただろう。でも、太ったポケモンが競技のバトルで衆目に晒される、その意味が分からないほど私だって馬鹿ではない。私は第一印象を大きいなぁとか体格がいいなぁとかの遠まわしな印象でとらえたけれど、まぁ、うん、体重とかの数値的な面からみるようになれば視点も変わる。はっきり言ってしまえば馬鹿にされてもおかしくないレベルの
ただ、なめていたのは私の方だったというか。バチュルだってただの真面目な子ではなかった。
未だ馬鹿にされる容姿であることくらいわかっている。でも、野生のポケモン相手に貴女と一緒に戦えた。だからこの大会とやらでも戦えるはずだ、と。衆目に晒される覚悟など、とっくに故郷を出るときにしてきたものだ、と。
短い手足を必死に振って、とつとつと鳴かれて、そこまで訴えかけられてしまったら、私だって覚悟を決める。他のポケモン達も、彼を尊重して先鋒を譲ってくれた。実際出てみれば設置されたスクリーンに観客向けのずかん説明が写真付きで表示されたものだから、………考えていた中で最悪の状況でバトルが始まってしまった。ずかん説明がでた瞬間の静まり返ったあの空気、絶対に忘れないだろう。でも、バチュルは対戦相手を見据えて堂々としていた。……私もそれが出来ていたと思いたい。少なくとも、対戦相手から目をそらすようなことはしなかった。
心無い野次は観客からも相手のトレーナーからも、なんなら相手のポケモンからもとんだ。…まぁ、本来であれば、競技で、スポーツに近いようなものだから、だらしのない体型で出てきたこと自体が、彼らからすれば自分達を馬鹿にしているように見えただろう。
覚悟はしていた。していたし、どう見えるかも理解していた。けれど、……それでもやっぱりカチンときたので、結果で黙らせた。太っている短距離走の競技選手が大会に出てきたのなら、それは野次すら捻じ伏せるほどその選手が早いということだ。だから私たちもそうした。
バチュルのスピードが足りないのなら私が見切って早めに指示をすればいいし、覚えてもらった『まもる』ですかしてやってもいい。バチュルだって伊達に太ったまま野生でバトルを繰り返してきたわけではないのだ、ポケモンの技の起こりの見極めや、相手が狙っている場所の見極めに関しては抜きん出ていたから、指示される前から避ける先を予見していた辺り、むしろ私がバチュルに教えてもらうことが多い試合だったかもしれない。それほど上手に私達のバトルは噛み合った。
ただ、とふわふわしたバチュルの頭を撫でながら大会の思い出を振り返る。
全体的に見れば、(野次のことは抜きにして)バチュルのポテンシャルを見るにはいい大会だったし、私も成長できたし、賞金という意味でもおいしい大会ではあったけど、ハラハラさという意味ではちょっと物足りない感じだったなぁ、と思ってしまうというか。アマチュア向けという事もあって4vs4縛りの登録で、7回戦ったが、3回戦まではバチュルで全部4タテ出来てしまったのだ。バチュルを出した瞬間に馬鹿にしてきた時点でそりゃお察しではあったけど。知識のない一般の人が野次を飛ばしてくるならまだしも、対戦相手が体型の違うポケモンを出して来たら普通は亜種とか変異種を疑うべきだと思うのだが(うちのバチュルはどちらでもないが)。私だったらむしろ警戒する。
リーグ戦のバトルビデオを見ればわかるが、通常より角が長くて太いヘラクロス程度ならまだしも、通常の姿とアローラの姿が融合したっぽい姿でタイプもほのお・こおりタイプなキュウコンとかいうとんでもな変異種とか(親の影響を受けたらしい。本来は起こりえない事象である)、通常の姿のバリヤードが出てきたと思ったら、実はガラルのこおりタイプも複合で持ってたので奇襲が決まり、あっさり相手のサザンドラ落としたとか、その手の話が普通に出てくる辺り、完全に魔境と化している訳だし。バトルにおいては図鑑通りのことばかりではないとはよく言ったものだ。めちゃくちゃ楽しそうなので早くその領域に行きたいものである。
4回戦目あたりからやっと警戒されるようになったせいか、4タテはさすがに厳しくなったけど、それでも次鋒のバタフリーで残りは倒し切れた。最近ウインディとラプラスが頑張っていたから、ガチバトルで自分の実力を試せたのはバタフリーにとってはいいモチベーションになったらしい。終わった後は随分はしゃいでいたっけ。
たぶん、その前のローザとバトルした時の思い出が鮮烈すぎたのだ。ハラハラしながら全霊で考えて、一手一手を突き刺して勝利を目指すあの感覚が、心地よさ過ぎたのだ。ああ、でも、ローザに勝てていたらもっと楽しかったろうな、とも思うから、これでいいのだろう。一個ずつ積み重ねていけばいい。
大会の終わりにちょっとだけ嫌な思いをしたが、……あれはなぁ、慣れないといけない。わかってるけど、……マスコミ相手、今後本当にどうしよう……。
嫌なことを振り払うように首を振り、揺れたたまごを抱えなおして、片手でバチュルの体を撫でる。ウインディのそれとはまた違うふわふわの体毛は触っていて非常に心地がいい。笑った気配がして、体をいっぱいに使って私の頬に体を擦り付けてくるので、やったな、と足の付け根のあたりをくすぐってやる。この分だと髪の毛が黄色の体毛でいっぱいになっていそうだ。静電気が強くてブラシで梳いた程度では落ちないので、たぶんお風呂に入るまではこのままだろう。
大会
ご地域のポケモンの運動用で開かれている大会から、プロを目指す人間たち向けのアマチュアカップ、セミプロカップ、プロオンリーのカップなど、一口に大会と言ってもその種類は非常に幅広い。採用されるルール、フィールド、賞金もまた多岐にわたり、こういった大会に審判を派遣する審判派遣会社も数多い。
主人公が初めて参加したのはコトブキ大会アマチュアカップ。将来プロになりたい人間たちが腕試しに初めて参加するのであれば、ちょうどいい大会である。