獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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目覚めの章

起きた時、めちゃくちゃに右の腕だけが熱かった。

 

天井は真っ白で見覚えがないから、たぶんポケモンセンターの一室か何かだ。室内は薄暗かったので、どうやら夜らしい。

右腕を見れば我が家のガーディ様が抱き着くようにしてそこにいて、すぅすぅと小さな寝息を立てている。反対側の手には点滴が突き刺さっていた。

体を起こそうとして、上手にできなくて、ぐえ、と息が詰まる。たぶんだけど、腹回りにコルセットが巻かれるか何かしている。足の感覚はなかった。動かさないように固定されているのかもしれない。

 

深く、深く息を吐く。やってしまった。色々とやらかした。

 

アニメじゃない?ゲームじゃない?そんなのわかりきっているくせに、ちゃんと理解していなかった。何がゲーム序盤で出てくる場所だから弱いポケモンしかいないだ。そもそもポケモンを持っていない自分にとっての危険度を考えていなかった。いや、手持ちのポケモンがいたとして、それでも考えなければならないのだ。

 

ここはガラルのワイルドエリアじゃない?違う、この世界は、この現実は、ポケモン達のテリトリーは全てがワイルドエリアのようなものだ。レベルの低いポケモンもいれば高いポケモンもいる。人間ににこにこしながら寄り添ってくれるポケモンもいれば、おびえて逃げ出すポケモンもいるし、襲い掛かってくるポケモンもいる。

 

キテルグマはいない?いなくてもスピアーがいたし、死ぬ思いをした。ピカチュウだって最初の接触を間違えていれば、『10まんボルト』が飛んできていただろう。攻撃として使われる技がもし、私を殺すために放たれればどうなるかは想像に難くない。ニドラン達だって、大勢で襲ってきていたら、私はばらばらになっていだろう。

 

出会った野生のポケモン達が、余りに優しくて穏やかだったから、そんなことに思い当たらなかった。

 

 

前世だってそうだったろう。野生のイノシシの群れに近づくか?立ちはだかる熊に近づくか?スズメバチの巣に近づくか?

 

どうしても近づかなければいけないのなら、せめて対策をしてから近づくだろう。

 

 

野生のポケモンを相手に、自分のポケモンを持たずに近寄るな、とはそういうことだった。

 

 

「…う、……ひっ、うぇ、」

 

ぼろぼろと涙がこぼれ出る。

 

あれだけこわい思いをしたのに。入院沙汰になるような怪我をしたのに。一歩間違えれば死んでいたかもしれない経験をして、そして、ほんの少し何かがずれていればやっぱり死んでいただろうということに気付いたのに。

 

 

それでも、私はポケモンが大好きなままだった。

 

 

またあの子たちに会いに行きたいと、無事を確認したいと思えたし、新しいポケモン達にも会いに行きたいと思えたし、まだまだ世界のどこかにいるはずの推しポケ達を手持ちにしたいという欲も消えなかった。

 

もっとよく学んで、ポケモン達を不快にさせない方法を学ばないといけない。

危険の予兆を感じ取る術を学ばないといけない。

そして、万が一の時に動けるよう、体を鍛えないといけない。

 

 

「きゅー…?」

 

決意を固めた視界いっぱいにキャタピーが現れてぽかんとなる。

 

「……えっ!?キャタピー!?あ、いっ…!あ゛ー…」

 

声を上げた瞬間に腹が痛んだ。コルセットといいもしかしてあばらもやったのか私は。思い出したようにずきずきと足まで痛みを伝えてきて、しばらく身もだえる。

 

「きゅ!?」

「あー、うー、痛い、痛いけど、大丈夫…」

 

体色に頼らなくても、最近は段々表情がわかるようになってきていたからわかる。これは心配そうな顔をされている。

どうもベッドの上のどこかでずっと私が起きるのを待っていてくれたようだった。

布団がもこもこ過ぎて全然気づかなかった。

 

「…キャタピーは?怪我してない?」

「きゅ!」

 

元気よく頷いたキャタピーが、頬を伝って落ちた涙の跡をぬぐうように頭を寄せてきて、自然と顔が笑顔になっていた。

 

「ついてきてくれたんだ…」

 

呟くと、当たり前でしょ、というように頬をぐりぐりされる。

 

「………キャファフィー」

 

ぐりぐりされすぎてきちんと発音できなかった。ぐい、ともう一度だけ頬を押したキャタピーが視界に入ってくる。

 

「……なんか言おうとおもったんだけどな……なんだっけ……」

「キュー!?」

「………ああそうだ、その、ね?お願い。私、あなたにお願いしてばっかりなんだけど」

 

そんなことないよ、とふるふると首をふるキャタピーをぼんやり見つめる。

少なくともキャタピーの無事が確認できたこと、それから気持ちの整理がついたおかげか、急に眠くなってきてしまった。ガーディ様に抱きつかれて熱いくらいだった腕の温度も気づいたらそんなに気にならなくなっていた。

 

「キャタピー…、……あのね、……目が覚めても…側にいてね……」

 

「きゅう!!」

 

高らかに鳴いて頷いてくれたキャタピーに、安心して目を閉じた。

 

隣でゆっくりポケモンの瞼が持ち上がって、ゆっくり落ちる。腕が強く抱えなおされたのに、私はついぞ気付かぬまま眠りに落ちた。

 

 

 





ピカチュウのこと。ピチューのこと。ニドラン達のこと。彼らのことは大好きだと考えられたくせに。

ビードルたちと仲良くする未来だけはすぐに思い浮かべることが出来なかった。

今思えばきっと、この時の私は根っこに残された恐怖を必死で覆い隠そうとしていたのだと思う。
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