獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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しょくじの章

 

食べ終わったレトルトをゴミ袋に捨て、自分用の牛乳をコップに入れて電子レンジにかける。

 

そんな風に私がホットミルクの準備をし出すころには、ポケモン達全員の食事が終わっていた。食器を回収して(バタフリーとヒトモシが手伝ってくれた)、きれいに洗って水を切って乾かしておく。最初の頃は人間用の水切りラックだとポケモン用の大きい器が入らないのでどうしようかと思ったけど、よくよく見ればポケモンの食器も乾かせるようにフックがついていたので安心したっけ。そちらにウインディとラプラスの器をひっかけて手を拭いて、温め終わった牛乳を片手にリビングに戻る。ウインディが香箱座りでうつらうつらし始めていたので、バタフリーとバチュルに寝室に連れていくようお願いした。野外の川に飛び込んでいるので、寝る前にはいつも固く絞った手拭いで全身を拭いてやってからブラッシングをしているのだけど、あれは今日はダメだろう。ひっくり返すにも一苦労だし。バタフリーにウインディの頭に落としてもらったバチュルが軽くばちばちと『ほうでん』して、目覚めを促すのを見ながらひざ掛けを掴む。

 

「──!」

「はい、ちょっと待ってよ」

 

ラプラスの所へいくと、ラプラスは私のクッションを引き寄せて待っていた。前ヒレの間に置かれたクッションに腰を下ろし、いつものように首筋に背中を預けて離れたところにマグカップを下ろす。頭を擦り付けてきたラプラスの頭を抱き込んで、すぅ、と息を吸い込んで吐き出す。うーんちょっと生臭い。今度真水で洗ってやるべきかなぁ、今なら家でやれるし、と思いながら、ぽんぽんと頭を叩いて腕を離し、膝の上にひざ掛けを広げる。

 

「おいで、ヒトモシ」

 

そわそわしながら行っていい?行っていい?と待っていたヒトモシを笑いながら呼び寄せると、ぱっと輝いた顔でダッシュしてきた。両手を伸ばして近寄ってきたヒトモシを抱き上げ、膝の上に降ろす。いくら熱さを感じないとはいえ、ゆらめく炎がちょっと邪魔だな、と前は思ったけど、最近は膝に乗せてやると自分で炎を調節するようになってきた。いい子いい子、と体を撫でてやって、膝の上でもぞもぞと体勢を整えたヒトモシの口元に指を差し出す。

 

 

「よし、食べていいよ」

「モシ!」

 

 

すっかり癖になったのか、私の指をしゃぶりだしたヒトモシを眺めながら、そっとラプラスに体重をかける。分かった顔をしたラプラスは大人しく私の体重を受け止めた。

 

 

まぁ、本ポケが食事を怖いというのなら、逆にちゃんとルールを作ってから食べさせてやればいいかな、と思ったわけで。

 

時間は夜、ご飯が終わった後。場所は私の膝の上。私がよいというまでは食べてはいけない。私がダメだと言ったらすぐに食べるのをやめること。そして、出来れば私に触れている間だけ食事をとること。

 

このルールを厳守してほしいと言ったら随分安心したように頷いたので、ちゃんと管理することで安心を与えてあげる作戦は上手いこといったのだと思う。タッチしている間だけ、とかそのつもりでいたら、私の指を所望するようになったのでそこだけ想定外だったけど。しゃぶらなくても普通に食えるはずなのだが、たぶん私の指をしゃぶるというのが精神安定に一役買ってそうなのでとりあえず何も言わずに好きにさせている。

 

バチュルは一週間に数度の電気食で健康を保てるようだが、ヒトモシは毎日【食事】を与えるようにしている。病み上がりというのもそうだったけど、翌朝のヒトモシの体の艶が露骨にいいのだ。二日に一回とかにしようかなと思っていたが、今のところは毎晩続けてやればいいかな、と思っている。特に私自身の体調の変化もないし。

 

もにもにとしゃぶられる感覚を大人しく享受しながらヒトモシの様子を覗き込んで、ついでに細かな怪我がないかチェックしていると、ガン、と痛そうな音と唸り声がした。首だけ伸ばして寝室の方を見やる。さっきバタフリーとバチュルに励まされながらウインディがふらふら歩いて行ったのを見おくったが、あいつどっかに体ぶつけてない?バタフリーの気の抜けた鳴き声が大丈夫だよ~と伝えてきたので大丈夫なんだろうけども。

 

彼らに気を付けてよ、と声だけかけて、びっくりして【食事】を止めていたヒトモシの体をぽんぽんと叩いて【食事】を再開させる。やがて十分炎の色が鮮やかになったのを確認して、そっと指を引き抜いた。ちゃんと【食事】をやめたことも褒めてやって、抱き上げて目線を合わせる。今日のトレーニングの感触的に伝えたかったことがあるのだ。

 

 

「モシ?」

「……ね、そろそろトレーニング、次の段階いく?」

「……!モシ、モシ!」

「ちょうど明日休息日だし、少し勉強してみようね。君、かなり動けるから私もちょっと方向性相談したいし」

「モシ!」

 

 

やったー!と手を振り上げたヒトモシを、やる気があるのはいいことだー!と高い高いしてやってから膝に降ろして、温めた牛乳をすする。ちょっと温めすぎたかな、あっつい。将来的に身長が欲しいのでせっせと牛乳を飲んでいるけど、今のところ効果があるという実感はなかった。こういうのは継続性が大事なのだ、バトルのトレーニングと一緒で。たぶんだけど。

 

ぐっと牛乳を飲み干してマグカップを下ろし、ラプラスの冷たい皮膚を背中で感じながら、ぼんやりヒトモシの炎を見つめて体を撫でる。やがてバチュルを抱えたバタフリーが飛んで戻ってきたのを見て、思いっきり伸びをする。

 

 

「モシ?」

「──?」

「…ん、よし、私も風呂に入るか」

 

 

家というのは、毎日風呂に入れるというのがいいことだよなぁと思っている。旅から旅の野営生活をしているとどうしても風呂に入るのは難しい。お湯に浸したタオルで体を拭うくらいしかできないし、髪の毛を洗うにも一苦労だ。旅のお供に携行式お風呂!『機材』にもばっちり入ります!なんてのもあったけど、ちょっと手をだすには躊躇するお値段なのだあれ。云百万単位だったし。清潔でいることは健康のためにも大事だし、私の感覚としてもさっぱりした体でいたいのでいつかは購入したいものだが、まだ先の話になるだろう。

 

清潔といえば、洗濯機も使えるのはいいことだよな、と思う。旅の最中、下着とか肌着は意地で洗ってたけど、上に着ている分はちょっと洗えないので、次の町までが遠い時はたくさん洋服を買っておいて着回すか、水場で洗濯するかしかないのだ。なので町についたら速攻でランドリーに駆け込むか、もしくは泊まる宿のサービスに任せるかしている。コインランドリーの方が割安なので大体コインランドリーに行ってるけど、旅人って皆同じこと考えるからコインランドリーって大体混んでるんだよな…。金がある時は宿に任せた方が楽できる、というのは最近学んだことである。旅人用のコインランドリー(結構機能も充実している)が大抵の街にある辺り、この世界の旅人の多さが伺えるというものだ。

 

旅立ってから数か月がたった今、5匹のポケモンと人間一人を養うだけの計画性というか財力というか勝負力というかバトル力というか、そういうものは身についていると思うが、利便性とかちょっとした贅沢とかを追求するには少し足りないかな、という感じの金銭事情かな、と……いやまぁいてだきのどうくつに挑む前の一式装備の購入とか地方をまたいでの移動費とか、その辺の出費がなければたぶんもうちょっと贅沢できたんだろうけど、必要経費だしなぁ…。タマムシで買いまくったわざマシン代も必要経費だし、ソノオで家を借りたのだって、コトブキやハクタイに宿をとって長期間滞在するよりは安上がりだろうという計算もあってのことだし。今のところ懐は潤っているままだが、お金はあって困ることは無い。たまごが孵って落ち着いたらばりばりバトルしようと心に決めて、脱衣所に向かった。

 





交通事情
人間の町と町を繋ぐ道路の通行は、一般的には徒歩、ないしは自転車が主流である。人間の町ならいざしらず、ポケモン達の暮らす場所に車が行きかうだけの道路を通すのはどこも難しいためだ。例外としてサイクリングロードや鉄道が存在しているが、あくまであれらは例外であって、一般的なものではない。

『そらをとぶ』には難易度の高い免許資格が必要で、車もメジャーでなく、ポケモンに騎乗しての移動も種が限られるとなれば、やはり一般的な移動手段は徒歩が多くなる。俗に“旅社会”とも言われることもあるほど、旅人に対する施設、サービスも地球よりは発展していると言えるだろう。
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