獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

32 / 78
おめでとう!

 

「フリィイイイイ!!!」

「ばちゅ、ばちゅ!!!」

 

 

朝の早い虫ポケ勢の雄たけびを聞いて飛び起きる。相変わらず寝起きの悪いウインディの頭をべしんとひっぱたき、移動のためにラプラスをボールに戻し、飛び跳ねるように寝室から出て行ったヒトモシの後を追う。

 

 

「何事!?」

 

 

リビングの扉をバタンと開けると、突進してきたバタフリーが顔面に貼りついてきた。のけぞりかけたのをなんとかこらえて、顔面で騒ぐバタフリーを無理やりずらして部屋の中を見る。テーブルの上、孵化装置の横でバチュルが飛び跳ねていて、いや、待て、待って、孵化装置!たまご!!!!

 

 

「ひび入ってる!!」

 

 

叫び声が聞こえたのかウインディが後ろで飛び起きた音がしたし、ラプラスは勝手にボールから飛び出てきたし、ヒトモシはテーブルの上に飛び乗って、ひっぺがして放り投げたバタフリーも勝手にテーブルの上に着地した。ええい普段だったら叱るところだが今ばっかりは見逃してやる!

 

ひびが入ったのに気付いた時点で孵化装置は開けてやらないといけない。震える手で開閉ボタンを押し、開いたカバーを机の下に降ろす。まだひびが大きくなっていなかったから、猶予はあると判断して、慌てて昔ウインディが使っていた金タライに水を張った。任せて!と鳴いたヒトモシがとても弱く放った『かえんほうしゃ』を水に沈め、お湯が出来上がる。タオルはすっ飛んでいったバタフリーが大量にぶら下げて戻ってきた。

 

 

「えーっと、孵ったら粘液をあたたかいタオルでとってやって、それで…」

 

 

すぐ見れるところに置いてあった「ポケモンのあかちゃん」の冊子(ツタージャのブリーダーさんに貰った)をバチュルが引きずってきてくれたので、何度も読み返したそれをもう一度確認する。

 

 

「体温が下がりやすいから、こまめにはかって、低くなったら適度に温めてやる、はウインディとヒトモシに助けてもらうって言った、孵化にあまりにも時間がかかりそうならポケモンセンターに人を呼んできてもらう係も決めた、ご飯は孵ってから半日は大丈夫だからまだいい、それで、後は…」

 

 

ぶつぶつ呟きながら冊子とたまごを交互に見る。余りに挙動不審だったのか、あえて体温の下げられたラプラスの顔が私に触れて、その冷たさで我に返る。

 

 

「……ごめんよ、ありがと」

「──!」

「よし、よし、気合入れよ。焦ったところで何にもなんないもんね」

 

 

とりあえず、椅子に座って見守る体勢に入る。カーテンを開けて日光を入れた方が、と思ったら、もうウインディが部屋の中を歩き回ってカーテンを開けて回っていた。差し込んだ日光がたまごを照らして、瞬間、ひびの入る速度が上がる。

 

ぴき、ぴきき、と明らかに今までとは違う音量でたった音に慌ててウインディが戻ってきて、全員でたまごの様子を見守る。こつこつ、ぴき、ぱり、かりかり、と中から音が響く。命が孵ろうとしている音だった。

 

ずっと揺れるたまごを見守ってきた。どんな子が生まれてくるだろうと皆で笑いながら話し合った。ずっとずっと、君を待っていた。

 

だから、

 

 

「…がんばれ」

 

 

思わず出た言葉に、追従するようにポケモン達も思い思いに鳴く。

 

じっと見守っていたのは、どれくらいだったろうか。たぶん、一時間もなかったと思う。

 

やがて、ぴしり、と大きな亀裂がはしって、そうして。

 

 

「………たぁー……?」

 

 

孵化装置のクッションの上、ばらばらになったたまごの殻に囲まれて、小さなツタージャが産声をあげた。

 

 

体に異常がある様子は一見してない、と思う。緑に艶めく肌は瑞々しいし、瞳が曇っている様子も特にない。

 

たまごから出たばかりで色んなものが新鮮なのか、辺りを緩慢な動作で見渡しながら、しきりと目を瞬かせている。覗き込むポケモン達を不思議なものを見る目で見て、そして、私と目が合う。

 

 

「…たー、じゃぁ!」

 

 

その瞬間、それはそれはにっこりと。ああ、花が咲いたような、という慣用句がこれほど似合う表情もないだろうと、それほどにかわいらしい表情で、小さな両手を私に向けて精いっぱい伸ばして、ツタージャは笑った。

 

 

「かわいい…」

 

 

かわいい。真面目に。いやあの、手持ちの皆かわいいんだけど、これ、これはずるい。ずるいというか、これ以上ないかわいい。語彙力がバグる。赤ちゃんってこんなかわいいの?なんか流れ球を背後のポケモン達が受けた気配がするが、いいか、これは私に向けられた笑顔だぞ。

 

そっと手を伸ばしてツタージャのわきの下に手を差し入れると、きゃあ!みたいな感じのテンションでさらに笑ってくれて、いや待ってかわいい。抱き上げてやって、積んであったタオルを膝に敷いて、その上にツタージャを下ろす。たまごの中にいた時の名残か、未だに体に粘液がまとわりついているが、気にならない可愛さだ。もう一度異常がないかをころころ転がしてやりながら(それにすらはしゃいで笑ってくれた。かわいい)確認して、最後にツタージャの目の前に指を持ってきて動かしてやると、無邪気にツタージャは私の指を伸ばしたつるで絡めとった。…目も問題ないかな、これ。いやしかしかわいいな、ちょっとつるが痛いけど、いやめちゃくちゃ痛いけど、かわいいので問題ない。

 

 

「……いや問題ないわけあるか。ツタージャ、いい子だからちょっとそのつる緩めて。私の指がもげちゃうから」

 

 

可愛いに思考が汚染されすぎだ、紫色に変色した指をなにこれ、どうしたの?とつるでゆらすツタージャの首のあたりをこしょこしょとくすぐってやると、気がそれたのかつるが戻っていった。

 

痛みで我に返るとかどういうあれだ、ツタージャ、恐ろしい子、と震えながら何度か指を曲げ伸ばしして、異常がないのを確かめる。かわいさに感動しきりで、言ってあげたい言葉があったのがすっかりすっぽぬけていた。

 

もう一度抱き上げて、無邪気に笑うツタージャとしっかり目を合わせて、私も笑う。

 

 

「はじめまして、ツタージャ。私があなたのトレーナーだよ。君をずっと待ってたんだ。これからよろしくね」

「たぁ!」

 

 

ツタージャはにっこり笑って鳴いた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。