獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
『……ラル地方に新チャンピオンが誕生しました!新たな天才として君臨した少年、ダンデは……』
惰性で流していたラジオが急に大きな声を出したことで、びくっと震えて目を開ける。いかん、思考どころか意識も飛んでいた。ウインディの腹にもたれかかって意識を飛ばしていたらしい、目の前では腰(?)に手を当てたような恰好のヒトモシが、ちょっと!みたいな顔をして、ふんふんと鼻息を鳴らしている。遠くで洗濯機がピーピーとやかましい。あれ、回したっけか?なんかもうその辺も定かじゃないというのがやばさの証明のような気がしてきた。溜め込んでたからたぶん意識が落ちる前に回したのだろう。
ツタージャは、と見ればラプラスの体の上で寝落ちしてずり落ちかかっているのを、なんとかバチュルが引き戻そうとして奮闘しているところだった。微妙な位置過ぎてラプラス自身だとどうにもならないらしい、首だけひねってハラハラした様子で見守っている。バタフリーは、と見れば、私が抱き込んで押さえつけていた。……ああ、うん、ごめん。ウインディも私が背もたれにしていたせいで動けなかったのだろう。バタフリーは手を放すと心なしかふらふらとバチュルの救援に飛んで行った。
「ごめんよ、頼んだ!…ヒトモシはどうしたの?」
「モシモシ、モシ!」
言いたいことがあるんだけど!的なニュアンスで鳴いたヒトモシは、びしりと私に腕を突きつける。
「モシモシ、モシ。モシモシ、モシ、モシ、モシ!」
「えー……」
まだ頭がしゃっきりしていなくてちょっと翻訳が出来なかった。今なんとかラプラスの背に戻されたツタージャを指さし、私を指さし、ヒトモシ自身を交互に指さしながら鳴かれたのだけど、えーっと、ええー…。
「ツタージャの面倒の話?」
「モシ!」
どうもまだぽやっとしていると気づいたのか、ヒトモシはぴょんと跳ねて私の膝に飛び乗った。軽くぺしぺしと腕を叩かれて、ようやく意識がはっきりする。
「ごめん、もう一回お願い」
「モシ」
もちろん、と鳴いたヒトモシはさっきのジェスチャーをもう一度繰り返した。やっと何が言いたいのかを理解して、あー、と顔を覆う。それを言わせるほど酷かったか。
「……躾とか、世話とかにもうちょっと口出ししていいか、ね」
「モシモシ」
トレーナーがおやなので、世話もしつけも私が主導でやるべきだし、そうしては来ていたけど、一週間でこの惨状なのでヒトモシが見るに見かねたようだった。
一番新参者だったのは私だし、主人が面倒を見ると頑張っていたから控えていたが、怪我という意味でも、体調という意味でも、このまま私達がサポートしているだけの方がやばいと思う。的なことも伝えられて、もう一度ああー…と情けない声が漏れた。
「ごめん…」
「ガウ、ギャウウ…」
「モシ」
一緒に聞いていたウインディも同じく、余り手伝えない身だからこういうのもなんだけど俺も心配してた、的なことを伝えてきて、ぐうの音も出なくなる。ポケモン達に心配させるようじゃ、色々と失格だ。
表情が陰った私を励ますように。ヒトモシが腕を再びぺしぺしと叩く。こればっかはしょうがない、私達だって新しい仲間が生まれたら交代交代で面倒見ていたし、それでも毎回体調を崩す仲間はいたから、とヒトモシは続けて、よければ躾というか、叱る役は任せてほしい、的な感じで胸をはった。私があなたの下に位置しているとツタージャに分からせておけば、上下関係の方も問題ないだろうとも。
他のポケモン達に比べると、まだヒトモシの伝えたいことを汲み取るのは上手ではないのだが、ヒトモシもそれをわかっていてくれているので、やり取りは丁寧だった。伝えてくれたことをじっくり吟味して、考える。……まぁ、私がこのざまな時点で、返す言葉は決まっていたけれども。
「……いいの?」
「モシモシ!」
膝の上でふん!と胸をはるような仕草をしたヒトモシは、腕をぐっと曲げて……あ、力こぶかこれ?それを作るようなポーズをとってくれた(マキシマム仮面の番組があるというので見てみたら、ポケモン一切関係ないただのプロレス番組だったことがある。熱心に見てると思ったらパフォーマンス真似するくらいには気に入っていたようだ)。
ヒトモシを持ち上げて、ぎゅっと抱きしめる。…全く、元気になったと思ったら、こんな頼りになることを言ってくれるとは。
「ありがと。お願いしていい?……別種族のポケモンだし、えーっと、分かってると思うけど、手ごわいよ?」
「モシモシモシ、モシ、モシ!」
腕を緩めると、まぁ任せて、とヒトモシは笑ってくれた。あの子が私にいたずらするの、許したことないんだよ?とも。………そういえばそうだったっけ?
そこからは、なんというか、凄かった。言葉でちょっと説明できないのだが、飴と鞭が上手すぎるというか、ダメなことはいかにダメかを分からせた上で、その上でしても大丈夫なことは何かにシフトさせるというか、その辺のさじ加減がものすごく上手なのだ。言葉が通じないし、理解力も低い相手によく分からせることが出来るな、と思ったけど、野生下では分からせることが出来なければ赤ん坊が死にかねないので、必要な技術なのだろう。
何せポケモンはわざが使える。生まれた直後は無理でも、大体2~3日もすれば使えるようになる個体がほとんどだ。つまりは、じゃれつくだけのつもりで他の生き物を攻撃できてしまう。本能で身を守るための行動をするのは当たり前として、その上で赤ん坊が無意識の行動で強者を刺激してしまう事のないように、自分を守らせるため、そして一緒に暮らす群れの仲間を守るためのルールを叩き込むという感じだった。というか赤ん坊同士でわざの撃ち合いしてお互い瀕死になるとかもありそうだ。
自分はどちらかというと矢面に立ってバトルをする方だったからそういうのはあんまり上手な方ではないが、群れにそういった指導がとても上手なランプラーがいたので真似してみた、というのは後から聞いた話だ。いやあれで上手でないとか嘘でしょう!?と全員で突っ込んだものである。
私達も勿論世話は尽力したが、ヒトモシ主導のお世話になって5日後、私の湿布は無くなった。やっていい遊びとやってはいけない遊びをヒトモシが教え込んでくれたこと、それと私とヒトモシでそろって、私に対する力加減を教え込んだのが幸いしたようだ。無邪気に『つるのむち』でどこかにすっ飛んでいくこともなく、一声かけてからすっ飛んでいくようになったし、ダメと言われればちゃんと止まるようになった。本ポケの成長も勿論手伝っているとは思うが、ヒトモシ様々である。
当のヒトモシは少し疲れた様子を見せるようにこそはなったが、……なんだろう、何かが吹っ切れたような感じがする。遠慮がなくなった、というか、最後の壁がなくなった、みたいな。バタフリーに向かってそこで甘やかすな!とか抗議するようになったし、何を差し置いてもまず私に頼ってくるような様子だったのが、自分で判断して、自分で動くようになったというか。【食事】で指をしゃぶる動作もいつの間にか卒業していた。