獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
「終わったー!」
「たぁー!」
カントー大使館を出て大きく伸びをする。足元でツタージャも一緒に私の真似をして伸びをして、思わず笑ってしまった。
トレーナーの元でポケモンのたまごが孵り、それを手持ちに加える場合、従来の届に加えて孵化届、そしてブリーダーから譲渡ないしは購入した時の証明書、もしくは滅多にないが、野生のポケモンの親から託されたたまごであればどんな理由で取得したのかを書類に書いたものを合わせて出す必要がある。で、この届、孵化してから二週間以内に届け出の必要があると期限が定められていて、それはトレーナーが自分の籍がない地方にいても同様だった。籍がある地方だったらその辺全てポケモンセンターで出来るのだが、そうでなかったら必要箇所の記入まではポケモンセンター、提出は自分の籍のある地方の大使館へ、もしくは自分の籍のある地方に帰ってすることとなる。
この申請、一応おやになるトレーナーでなくとも代理人にお願いすることもできるのだが、あいにくと私にはたてられる代理人がいないので、自分で提出しにいくしかない。そこで問題になったのが孵りたてのツタージャである。家に置いてポケモン達に全て任せ、私はウインディに運んでもらってハクタイのもりを抜け、大使館のあるハクタイシティに行ってとっとと手続きをし(都会のコトブキにあるかと思ってたら何故か大使館があるのはハクタイだった)、帰りもウインディに頑張ってもらうとか考えたのだけど、色々と不安が残るプランだった。たぶん私の握力がもたないし、ライド用の装備もシンオウで入手するのは難しい。
でも、ヒトモシのお陰でツタージャの最低限の外出用意が整った。行きは結構急いだし、期限は結構ギリギリだったけど、それでも全員で家を出て、全員で小さな旅をして、全員で家に帰ることが出来る。このところずっと家で缶詰だったから、気分転換になっていればいいんだけど。それどころじゃなくて最低限の運動のみでトレーニングも中断していたし、ラプラスに至っては二週間泳げていなかったし。
帰りはゆっくり帰ろう。ハクタイのもりもついでに色々下見しておきたいし。シンオウでの目的のポケモンは恐らく、というか、たぶん、というか、……まぁ、いるといいなぁではあるけど、まだいるとしたらハクタイのもりにいる可能性が高いからだ。ゲーム知識なのであんまり頼りにはならないが。色々漁ったが、文献上はあのポケモン、現在シンオウでの生息が確認されていないことになってるので、いない可能性の方が高かった。過去には生息してたらしいんだけど、シンオウでは絶滅説がまことしやかに囁かれているポケモンなのである。ぶっちゃけ野生で確実に生息しているとわかってるのはガラル地方の方なんだよな……。
それでもハクタイのもりの下見をしない理由にはならないから、ちゃんと下見をして、もりを通過したら、行きにはそこそこの挨拶しかできなかった125ばんどうろのポケモン達にちゃんと挨拶して、ツタージャを紹介しよう。トレーニングも少しはしていきたい。
そんなことを考えながら、私はツタージャを抱えてハクタイの街並みを歩いていた。抱えて歩くときに、腕の中に大人しくおさまっててくれるというのがまず色んな成果がでてるよな、とヒトモシを脳内で拝むのを忘れない。
せっかくだし、と思って、並んだディアルガとパルキアの像(ゲームだと曖昧な表現だったが、こちらでは両方並んでいた)を見ようと思い立ったのだ。実際見てみれば、思ったよりでっかい像だなぁ、くらいの感想しか持てなかったが。ついでに両親とオーキド博士に送る用の写真も撮る。ベンチがあったのでそこで少し休憩をしてメールをうち、ツタージャの写真も撮って合わせて送る。時間的に今は両親は仕事中なので、返事は今晩辺りにくるだろう。
今日はハクタイのもりで野営することを決め、もりへ続く道へと向かって歩く。ツタージャはちょっとうとうとし始めていた。これだけぽかぽかした陽気だ、気持ちはわかる。なんなら頭上のバタフリーもちょっと眠そうな気配がするし。
街の出口に向かっている最中、人だかりが見えて、おや、とそちらに意識を向ける。こういうときは下手に関わらずにスルーしておくのが一番いいが、なんというか、バトルがどうとか聞こえたような。ちょっとうずついた私の様子を察したのかバタフリーがべしんと頭を叩いてきたけど、それもポーズだけだ。眠気が飛んで、そわそわしている様子が見える。さっとボールにいる面々を見れば、こちらもちょっとそわそわしているのが伝わってくる。二週間缶詰で、バトルらしいバトルはヒトモシが訓練でしていたものを除けば地方大会以来ほとんどしていない。どうせハクタイのもりをじっくり歩くのなら多少バトルはすることになるのだ(行きは野生のポケモンとの接触を避けながら移動した)、野生下のポケモン相手に急にバトルをして慣らすより、何かあってもなんとかなりやすい街中でバトルをした方がよっぽどいいだろう。
問題はツタージャだけど、バトルに出すには早すぎる。せめて生後半年…は長いにしても、三か月くらいは出すわけにはいかないので、とりあえずバトルに興味があるかを試してみる感じで、見学させてもいいか対戦相手に聞いてみよう。
うきうきしながら人混みに近づいたけど、大人達ばかりで小さい私の体では向こう側が見えない。かきわけようにも微妙な感じだ。近くの人に声をかけてみる。
「あの、すいません」
「ん?おや、旅の子?」
「はい。……この騒ぎは?」
「いや、ちょっと戦法が、……あー、派手な旅のトレーナーがいてね。バトルをするのはいいんだけど、もう少し控えるかどうにかしてほしいと苦情が出てたんだ。ジムトレーナーさんが注意しに行ってくれたんだが、俺の戦法にケチをつけるな!負けるまで出て行かんぞ!とかヒートアップしちゃって…」
「あー……」
街中でのバトルはそれなりの頻度で発生するが、通行人も普通にいるので大体は1vs1、2vs2とかに抑えた上で、周囲にわざの被害がいかないよう調整しながらバトルをするのが通例だ。ガチめのバトルをしたければ、どこの街にも大抵は公営のバトルフィールドがあるので、そちらですることになる。が、それにしたって街の中だ。さすがに公営とは言え最低限の設備しかないバトルフィールドで、『はかいこうせん』でもぶっ放したら周囲の建物や通行人に被害が出かねない。だからそういった強力なわざの使用は控えるのがマナーだけど、たまに強いわざを使えば強い!みたいな勘違いをした手合いなんかが気にせず使って、対戦相手や観客が大慌てでわざを撃ち落とす、みたいなことはあるようだ。クチバで聞いたんだっけかな、あそこはやらかしても駄々をこねていると、最終的にジムリーダーのマチスが出てきてジムに連れ込まれるとか言ってたような。……ああ、勝ち抜き型入れ替わり式ルールのフィールドで長時間居座り続けた時だっけ、言われたの。お金が必要だったのでいてだきのどうくつにいく前と後、両方お邪魔したんだけど、どうくつに行く前はともかく、帰ってきてから顔をだした時の扱いがね、あそこ……はーい敗北希望の方並んでーじゃないんだよなぁ…。皆さんノリノリだったので楽しかったけど。
あれ、でもさっきジムトレーナーが対応してるとか言ってたような?ハクタイにもジムはあるし、ジムリーダーのナタネがいたはずだけど。
「ナタネさんは?」
「今ちょうどハクタイのもりに行ってるんだよ。迎えにはいかせてるらしいけど、あの人森に呑まれるとしばらく出てこないし見つからないから……」
森に呑まれるってなんだ呑まれるって。ハクタイについたのは今日だけど来たときは見なかった。ちょうど入れ違いになったんだろうか。
「……バトルはしたんですか?」
「昨日負けてるね、あのジムトレーナー。……というか、あのトレーナー、言うだけあって強くてね、ここに来てから一度も負けてなくて、ハクタイのトレーナーもだいぶネタ切れなんだよね…。僕らもナタネさんに出てきてほしいんだけど、もう一週間は見てないし」
「大丈夫なんですかそれ」
「………」
あ、目をそらした。ほんと自由だなジムリーダー。……シンオウに来てから知ったけど、ナギサシティ停電情報!ジムリーダーが○○したので本日は停電しております!とか普通にライブキャスターでやってるくらいなので、少なくともデンジも自由なんだろうなぁ…。どっかのみずタイプジムリーダーはプロレスラーやってたし。私の一番身近なジムだったトキワジムとかはグリーンの後釜が未だに決まらずジムリーダー不在状態だったので、ジムリーダーという存在が町にいるというのがあんまりぴんとこないんだけども。というかジムリーダーをちゃんと見たのはニビに行ったときにタケシを遠目で見たことくらいしか記憶にない。ちなみに上半身裸ではなかったけれど、きちんとイシツブテ合戦はおこなっていた。
尚、現チャンピオンたちの、えー、なんというか、奇行のようなものも口コミの噂で広がっているので、バトルに強いほど変人奇人が多いのではとちょっと疑っている。はめを外したくなっちゃうのかなぁ……。
この道は通らない方がいいよ、と忠告してくれたお兄さんにありがとうございます、と頭を下げて、何歩か後ずさる。人混みから離れて、人の迷惑にならない程度のところまで来てからツタージャを降ろしてじっとしているようにいい、ウインディを出した。
「ガウゥ」
どうしたいのか理解してくれたらしい、ウインディは伏せた状態で出てきてくれた。さっきのお兄さんがぎょっとした顔で振り返り、周囲の人たちもざわついている。伏せていても私の身長だとちょっと背中にのぼるのはしんどかったりするんだけど、なんとかウインディに痛い思いをさせずに背中に乗ることに成功する。バタフリーも頭から降りてくれた方がもうちょっとのぼりやすかったと思うんだけど、こちらは意地でも私の頭から離れなかった。お陰で頭皮がちょっと痛い。
「ギャウ?」
「ん、大丈夫」
のぼった背中からよじよじとウインディの後頭部ににじり寄り、たてがみに埋もれながらもウインディの頭の上から自分の顔を出すことに成功する。じっとしてろと言ったのに、ツタージャは『つるのむち』ですっ飛んできて私の肩に飛び乗った。…まぁいいか。私がしっかりしがみついているのを確認したウインディは、ゆっくりと立ち上がった。
平均的なウインディの体高は2mいくかそこらであるが、うちのウインディの体高は2.5mある。つまりは、人間の身長より立ち上がったウインディの方が大きいわけで。人混みのざわめきが別の種類のそれに代わり、こちらを見上げる人たちの姿が多くなるが、気にならなかった。それよりも、人垣の向こう側にいたそいつを見つける方が大事だったからだ。
会話をしながら、こちらをえっ?という顔で一瞬チラ見したのはジムトレーナーだろうか。そのジムトレーナーの正面、こちらに背を向けた状態で肩をいからせているスキンヘッドの男がいた。たぶん、あいつだ。足元には強そうなスカタンクが侍っている。
────
その瞬間、そいつはぐりん、とこちらを振り向いた。
目と目が合う。それはすなわち、トレーナー同士のバトルの合図だ。
にっこり笑うと、狂暴そうな目でそいつも笑う。辺りが静まり返った。
「おいおいおい、こんなところで喧嘩うってくるたぁ嬢ちゃんも豪気じゃねぇか?おい」
「あんまり迷惑かけちゃ駄目ですよ、お兄さん。皆困ってるみたいです」
「そーはいうけどよー。お前、俺に喧嘩売ってくるってこたぁお前も迷惑かけるようなもんだぜ?」
「最後の迷惑になるならいいと思いませんか?バトルしましょう、お兄さん。そっちの方が話が早い。負けたら出ていくんですよね?」
「いーぜ乗った。だが後からどうなっても知らねえぞ?
群衆がざわざわとざわめきだす。そういえばあの子この前テレビで見た、とか、2匹しかポケモン使わずに優勝した子じゃ、とかそんな声が聞こえてきたが、わりとどうでもよかった。そんなことよりバトルがしたい。
「たぁー…?」
「……ああ、ごめんね。びっくりした?」
「じゃ!」
ふるふると首を振ったツタージャの首筋を撫でてやって、固まっていたジムトレーナーさんに声をかける。
「その人とバトルをしたいです。フィールドの使用許可ってどちらにお願いすればいいですか?」
「…………、許可はいりません。いりませんが、くれぐれも壊さないようにだけお願いします」
「承知しました。私は善処しますね」
そういうと両者ともに苦虫を噛み潰したような顔になった。……なんで両方に刺さってるんだこの皮肉。
A.ジムトレーナーさんもバトル中にヒートアップしてフィールド壊したから。