獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
降りると面倒くさそうだったので、ウインディに乗ったまま案内されてフィールドに向かう。ツタージャはいつになくそわそわと辺りを見回していて、まるで孵りたての時のようだ。高い視界が新鮮なのだろうか。私もウインディに乗って街中を行くのは初めてだから、新鮮と言えば新鮮だけれど。あの人混みがそのままギャラリーとして後をくっついてきていて、ちょっと変な気分である。
フィールドに到着してからウインディの背を降りて、スキンヘッドの男に歩み寄る。ジムトレーナーさんはそのまま審判をしてくれるつもりらしく、フィールド内に入ってきていた。
「ルールと賞金、どうしますか」
「公式通りがいいだろうな、賞金は…あー、規定通りの称号基準でかまわないか?俺は“スキンヘッズ”だ。お前は?“こんちゅうマニア”辺りか?」
「あ、いえ“ホープトレーナー”です」
「“ホープ”?バッジ持ってねぇのか、お前」
「まぁ、はい」
「ふーん…、地方大会の優勝経験は?」
「あれしか参加してないのであれだけです。大型客船の船内のやつも含めていいなら準優勝が増えますが」
「俺はバッジ6つ、地方大会優勝は三回だ、だけど頭数ハンデが欲しそうな面には見えないな……と言いたいが、その…あー」
「…………、ツタージャですか?えっと、含まないで頂けると嬉しいです、まだ孵ってそんな経ってないので…。この子の見学許可も貰いたいんですけど」
「お、ひょっとして初バトル観戦か。そんならトレーナースペースでの見学はやめさせといた方がいいぞ。おい、あんた子守できそうなポケモン持ってねぇのか?」
「はいっ!?」
スキンヘッズに唐突に話を振られ、ジムトレーナーさんがびっくりした顔でこっちを見てきた。
「ボールに入れておけばよいのでは…?」
「察しが悪いな、赤ちゃんに俺たちのバトルを見学させたいっつってんだ、そんな野暮なことさせんじゃねぇよ。で、持ってんのか?持ってねぇのか?」
「あの、そこまで言わなくても…、見学が難しそうなら戻しますから」
「ガキは黙ってろ。で?」
「……スボミーたちの面倒見てましたから、ロゼリアが出来ますよ」
大きく息を吐いたジムトレーナーさんがボールからロゼリアを繰り出したが、ロゼリアはめちゃくちゃ不機嫌そうな顔でスキンヘッズを見ている。昨日倒されたって言ってたしそりゃそうもなるのか。そんなロゼリアに、ジムトレーナーさんが何事か言い含める。話が終わった後、ロゼリアがこちらにぱっと向けた顔は笑顔だった。両腕のバラをこちらに差し伸べてくれる。
「……いいんですか?」
「いいわよ、……おめでたいことだものね、その子の初めてのバトル観戦なら。うちのロゼリア、子どもに関しては百戦錬磨だから、任せて」
「…ありがとうございます」
ツタージャをロゼリアの両腕に上手に乗せると、むずがるようにツタージャは私に向かって手を伸ばした。
「たぁ!たーじゃ!」
「ツタージャ、いい子にして見ていて。そのロゼリアのいう事をよく聞くこと。じゃないと帰りはずっとボールの中だよ。
今からバトルをするの。君の先輩たちが一番かっこいいとこを見せてくれるんだよ。よく見て。それで、どう感じたか、後で教えてね」
「……たーじゃ…」
伝えたいことが 全部伝わったかというと微妙だったが、それでもツタージャは大人しくロゼリアの腕に抱かれた。ロゼリアにもお願いします、その子『つるのむち』でよくいたずらするんで、と伝えると、まぁ任せなさいよ、みたいな感じで笑って頷いてくれた。
「…話の途中でごめんなさい。ありがとうございました。それで、5vs5形式だと嬉しいんですが……ああ、いえ、
さっきの言い草、まるで俺の方が強いから頭数を減らしてハンデつけてやろうか?みたいな感じだったのがちょっと腹が立ったので、仕返しだ。この前の地方大会に出てた人たちよりは強そうだからそれでもいいんだろうし、たぶん善意だったのもわかるんだけど、……
「よくお前この流れで挑発かませるなぁ…………いいだろう、その気概にのってやる。本気でやろうや、ギャラリーも増えたしな、とっておきをかましてやる」
「わかりました」
お互いもう一度ルールを確認しあってからトレーナースペースに移動し、準備期間として『もちもの』整理や登場順番を決める時間をとる。
基本的にゲームであれば、『もちもの』はポケモンに持たせたとき、ポケモンがバトル中に使用できる道具の総称をさすことが多い。様々な効果の『もちもの』が存在し、『もちもの』によっては戦略上重要な役割を果たすこともある。
こちらの世界でも『もちもの』ルールは存在していて、なんと『もちもの』はデータとしてポケモンに付与することが出来る。『もちもの』自体は実際に物体として存在しているのでポケモンに普通に持たせることもできるが、データ化してから付与した方が対戦相手に何を持たせているかを悟らせずに済むのでこちらの方が主流ではある。メガストーンやZクリスタルなんかはデータ化を嫌ってそのまま持たせる人もいると聞くが、それも少数派だし。
電子パッケージ化して現物をデータ化するだけの『機材』とは違い、ポケモンに付与するためのデータ化なので、似た技術ではあるがちょっとだけ種類が違う。データ化した『もちもの』をライブキャスターに登録して、ボールをライブキャスターと同期することでポケモンにデータ化した『もちもの』を『もたせる』ことが出来るのである。多少の手間はいるが、随分楽になっているな、とは思う。データのきのみやジュエルだろうが任意、ないしはオート消費すらも出来るし、ほんとその辺の技術ってどうなってるんだか。
ただ、ポケモン側にもいわゆる『容量』というものがあるらしくて、データ化した『もちもの』の付与は一個に限られる。というか『もちもの』による恩恵を一個以上受けようとするとポケモン側に悪影響が出たりする。進化したくないポケモンが身に着けている『かわらずのいし』なんかは、戦闘中にうっかり落としてしまえばそのまま進化が始まってしまうこともなくはないからデータ化してもたせてやるのが主流だが、それによってポケモンバトル用のどうぐを持たせてやれない、なんてこともあるようだ。
現状尖った性能の『もちもの』はまだ入手できていないので持ち合わせがないが、いてだきのどうくつで拾った“とけないこおり”(持たせたポケモンのこおりタイプの技の威力が上がる)なんかは常にラプラスに持たせているし、きのみもバトル用のものはたくさんデータ化して持ち歩いている。ただ、公式ルールだと『もちもの』重複が不可なのでその辺どうしたものか。
相手の構成がわからないのでなんともいえないが、“スキンヘッズ”は確かあく、どく、かくとう辺りを多く所持するトレーナーが所持する称号だったはずだ。たぶんあのスカタンク、エースのような気配がしたから、どくタイプが一体出てくるのは確実なんだけど。……あくとかくとうが多いといいなぁ、バチュルとバタフリーで倒せる確率が上がるから。
とりあえず、ラムのみ(ポケモンの状態異常をすべてかいふくするきのみ)をウインディに、モモンのみ(ポケモンのどく状態をかいふくするきのみ)をラプラスに、そしてオボンのみ(ポケモンの体力をかいふくするきのみ)をバタフリーに持たせることにした。ほんとはバタフリーにはきあいのハチマキ(ひんしになるダメージを受けたとき倒れず食い縛ることが出来る。効果は確率で発動)を持たせてあげたいのだけど、どこの店でも売っていないのだ。ローザが教えてくれた通常では売っていないわざマシンのように、実力を示さないと売ってくれないのかな、とちょっと思っている。バトルサブウェイの景品にあるか調べておけばよかった。
バチュルとヒトモシにはそれぞれ、イッシュで購入したむしのジュエルとゴーストジュエルを持たせる(ジュエル系列は一回だけ該当タイプのわざの威力を引き上げる効果がある)。
順番はバチュル→ラプラス→ヒトモシ→ウインディ→バタフリーでいく。相手のポケモンによっては途中で切り替える可能性も勿論あるが、とりあえずはこの流れでいこう。ヒトモシのデビュー戦でもあるので先鋒に持ってこようかと思ったけど、かくとうタイプが出てきたときに緩衝材になれるヒトモシは後に回しておきたいし、あのスキンヘッズがどこで私が地方大会優勝者だと知ったのかは知らないけど、あの地方大会で唯一登録していなかったポケモンだ、場合によっては意表をつける。コツコツとボールを叩いてその順番を伝え、小さく震えたそれから了解を感じ取る。
ライブキャスターを閉じると、相手の方もちょうど準備が出来たらしく顔を上げたところだった。
「準備大丈夫です。そちらは?」
「俺も問題ねぇ。……審判!」
「分かりました。両者、名乗りをお願いします!」
「俺はアルトマーレのビシャモン!」
「マサラタウンのラディア」
「名乗りを確認しました!ビシャモン対ラディア、6vs5のシングルバトル!ルールは公式戦に則るものとします!ギャラリー有ですのでくれぐれも両者ともに配慮を忘れずに!では、────バトル、スタート!!」