獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
3か月後、ツタージャは初のバトルを205ばんどうろのカラナクシ相手に挑んで勝利していた。あのカラナクシ、頻繁にヒトモシのトレーニングに付き合ってくれていた個体とはいえ、相性差が酷いのによくバトルを引き受けてくれたものだ。無邪気にかてた!とはしゃぐツタージャをよく褒めてやって、カラナクシの手当てをし、お礼のきのみを渡す。確か酸っぱいのが好きな個体だったはずだな、と思ってナナシのみを多めにしておいたら、随分嬉しそうにしていた。
「よしよし、上々上々。そしたらそろそろ行こうかね」
『つるのむち』を悪用するのは相変わらずだが、そろそろツタージャも旅に連れ歩いてもいい頃合いに成長していた。あの最初の2週間はなんだったのか、というくらいにやり取りもスムーズになってきたし。となれば、そろそろ本来の目的を果たした方がいい。というわけで、カラナクシに別れを告げて、暮れかけた日の中、私達はそのままハクタイのもりへと向かった。
ソノオとハクタイの間には205ばんどうろだけではなく、ハクタイのもりが存在している(製鉄所や発電所もあるのだが)。そしてこのハクタイのもりには一つの館が建っている。
もりのようかん。──すなわち、森の洋館。
ゲームでも存在しているが……えー、簡単に言うならお化け屋敷である。ガチ物の。BGMは怖いわ、老人と子供の霊が出てくるわ、洋館内はゴーストタイプのポケモンだらけだわ、と、ドットで構成されたにしてはなかなかホラーな場所だった。こっちではどうか、というと、こちらでもオカルトスポットとして有名だ。ゴーストタイプの繁殖地になっているのもあって、特に立ち入り禁止とかの制限はないが、どうもポケモンではなくガチ物の幽霊が存在しているらしい、として噂が立っているようだ。何もいないはずなのに視線を感じる、とか、人影をみた、とか、光り続けるテレビがある、とかその辺の噂が多かった。
で、ここで仲間にしたいのはどんなポケモンか、というと、ロトムである。
アローラ地方のゲームが出た辺りから、ロトムずかんやスマホロトムなど色々と活躍の場を広げたロトムだが、初めて出てきたのはシンオウ地方でだったのだ。
そして困ったことに、シンオウ地方を舞台にしたゲームでのロトムはもりのようかんに出てくる一匹しか出てこない。私は自分に仲間にするポケモンはそのポケモンが初めて出てきた地方で見つけるという縛りをかけている。ラプラスもそういうタイプのポケモンではあったけど、後発のリメイク作品で生息地が追加されたお陰かどうかはわからないが、こちらでもカントーに生息地がちゃんとあってなんとかなった。…が、私の知る限りではシンオウ地方のリメイクはなく、生息地の追加もなく、そしてこちらの現実のシンオウ地方でのロトムの生息地の情報もない。何とかならないかな、と思って調べてはみたが、やっぱりロトムのシンオウでの目撃情報はなく、ロトムの生息地として有名なのはガラル地方の方だった。……ゲームでも草むらからロトムが出るの、ガラルだけだったもんなぁ…。オーキド博士も連れているので、どこで仲間にしたのか聞いたらイッシュ地方のデコロラ諸島だといってたし。
シンオウで若くしてでんどういりした天才、コウキとヒカリの公表されている手持ちにはロトムの姿はなかった。なので、一縷の望みをかけて、もりのようかん探索をしてみたわけだが…。
「まぁ、いないよねぇ……」
電気も通っていない(とバチュルが判断した)のに煌々と光るテレビの前で、私はため息をついた。もう日も暮れているからゴーストタイプのポケモンたちは活発化しているはずだったが、ウインディの威嚇のおかげで寄ってこなかったため、たどり着くのはスムーズだったんだけど、テレビの中には恐らく何もいない。バチュルとヒトモシが一回ずつ『エレキボール』と『シャドーボール』を叩き込んでくれたが、一切反応がなかったし、いる気配もしない。本来であればめちゃくちゃホラーな現場ではあるのだが、正直ロトムのいないことのショックの方が大きかった。他のいそうな場所も探し回ったけどロトムの影も形もなく、帰りもなんか必死な動きをする人影を見たような気もするが、あんまり記憶に残っていない。
けっきょく夜遅くなっていたのでそのまま一晩をハクタイのもりですごし、夜が明けてから家に帰った。皆を自由にし、ライブキャスターを前に頭を抱える。頭の上にバタフリーがどうしたの?と乗っかってきたが、ちょっと返事が出来なかった。ほんとどうしよう。確か、なんだったかな、前世の方で見た大好きクラブのHPの方だったかになんか情報が載ってた気がするのだが、大分うろ覚えだ。アニメでももりのようかん関連で出現していたがおちょくるばっかりだったし、アローラでは実は生息確認されてなくて外部からの輸入ポケだというのがゲームでも現実でもはっきりしてるし、カロス地方のゲームだとゴミ箱で……ゴミ箱。
「……確か、クラブのやつ、最後らへんでゴミ捨て場に捨てられていたおもちゃにとりついてなかったっけか?」
そこでぴんとくるものがあって『機材』をひっくり返し、オーキド博士のところでコピーさせてもらった資料を引っ張り出す。ぺらぺらとめくっていると、やがて一つの項目に行き当たった。
「廃棄された電化製品内部で暮らしていた個体の発見例もあるが、一例のみであるため検証が必要…、これだこれ」
カロス地方での発見例だった。もりのようかんのテレビも一応廃棄されたテレビとも言えなくはない。……そういやしこたま技をぶちこんだのに壊れるどころかちょっとの傷も出来ずに光り続けてたな、あれ。今更だけどちょっとやべえもんに遭遇してしまったのでは、と思ったが、まぁ、特に私になんかあるわけでもないし、ポケモン達も見たとこ異常はないし、気にしないことにしようと思う。
「……いやでも、えー…?」
ゴーストタイプは人が去ったあとの廃墟、ないしは墓場を好みやすく、そういった場所にコミュニティを築くことが多い。要は、退廃的な場所やものに居つきやすいのだ。その辺はスクールでも習うことだけど。そして、人の命や感情を積極的に餌にするようなポケモンが多いのもゴーストタイプの特徴であるから、そういう場所には必ずポケモンを連れていくこと、と教わる。まぁ、人の近くで生息する以上、必要以上に人を傷つければ反撃が待っている、というのはかしこいポケモンならわかっているので、積極的に害するようなことはほとんどないのだけど。怒らせたとか、こちらがポケモンを害したとかなら話は別だが。
たぶんだが、タワーオブヘブンで私が結構な頻度でヒトモシに生命力を食われてたの、私がけろっとしていたからだと思うし。ヒトモシが食うのは単純な生命力であって寿命とか命そのものではないんだけど、食われすぎれば体調を崩す人もいるし、管理人さんはタイミングは悪かったといえそういうことだった。いくら食ってもぴんぴんしてて、本人も気にした様子がない────すなわち、【食事】が全く害になってなさそうなご飯となればそりゃ今のうちに食っとけ!で、たかられもするよなぁ、という話だ。たぶん体調を崩す気配があればちゃんと引いていたと思う。
だよね?と聞くと、そりゃ勿論、と寄ってきたヒトモシから返事が返ってきた。ラプラスとツタージャを寝かしつけてくれたらしい、二匹とも太陽を浴びながらすやすやと眠っている。ウインディも寝かしつけられてるのはまぁこの際いいやと思うことにする。泳げるようになったのはいいが、今度は水の中でわざを放つ特訓始めたからなぁあいつ……水に慣れて体力の消費は随分減ったのだが、苦手な水の中でわざを放つということはやっぱりエネルギーを消費するらしく、結局疲れ切って一日を終えるのは変わってないのだ。後最近なんか野生のブイゼルと仲良くなってこそこそやり始めてるんだけど、何やってんだか。
思考が随分とそれた。膝に飛び乗ってきたヒトモシをぐにぐにと揉みながら資料を見つめ直す。さっきからバチュルがじっと資料を見ているが、読めてんのかなこれ。数字の概念を理解して、数字を覚えるという地味にすごいことをやっているバチュルだからなんとなく出来そうな気もするが。
まぁ、要は、人が捨てた物とか、人の負のイメージが集まるようなものにゴーストタイプは興味を示すことが多く、でんき・ゴーストタイプであるロトムも似たような習性があるのではないか、ということだ。そして、多分電化製品に侵入する行為にもいたずらだけでない理由があると思う。オーキド研究所のロトムは暇なときは大体なんかの電化製品に入っていた。膨大な電子データの整理をしていたというのも勿論あるだろうが、……電化製品に入ること自体、ロトムにとっては落ち着くことなんじゃないだろうか。イシズマイ系列の宿みたいな、というと、あのポケモンほど必要ではないだろうけど。
一例しかないことや前世知識も引っ張ってきての無理やりな仮説だけど、ちょっと試してみたくはある。
「というわけなんですけども」
『というわけなんですけども、じゃないんじゃが。ロトムの資料が欲しいというから、次世代デバイスの方に興味を持ったかと思っとったが……。ワシのロトムを連れて行ったってよかったんじゃがなぁ』
「博士のロトムは博士が好きでしょ。大体助手さん達だってデータ管理が追い付いてないのに、ロトムがいなくなったらやばいと思いますよ」
『ラディアはよくわかってるロト!』
「うわっ」
急に聞き覚えのない電子音声が割り込んできて、大分ビビった。ぎゅっと握りしめてしまったヒトモシがちょっと悲鳴を上げて、ごめんごめんと撫でさする。ゴーストタイプらしく霊化して透過してくれてもよかったのだが、ヒトモシは私の側にいるときは頑なに物質化した状態でいる。だから足元をちょろちょろしている時は蹴り飛ばさないよう気を遣うんだけども。一回寝惚けたウインディが誤って踏んだことがあったが、何事もなかったかのようにウインディの足の中から霊化して出てきた時はさすがに驚いたっけ。…寄せてくれてる信頼の証のようで、嬉しいことではあるんだけど。
「……あー…、えっと、もしかして、ロトム?」
『ロト!』
『ああ、こら!勝手にしゃべるんじゃない!………よくわかったな?』
「……なんか、そんな気がして」
しまった、ロトムが機械の中から喋るというのは珍しいどころの話じゃないのに。語尾的にああロトム図鑑とかかなと思ってしまったけど、この世界ではポケモンがこうやって音声で喋る事例がそもそもない。幸い、オーキド博士はその曖昧な返事で納得したようだった。
『……他言無用じゃぞ?ロトムやポリゴンに手助けしてもらうことが前提の次世代デバイスの開発に協力中なのは知っとるよな?』
「そういえば前にそんなの言ってましたね」
『ロトムが入った状態でも機能するプログラムの試験中でな、今おぬしと話しているこの装置がそれなんじゃ。……じゃが、出入りするうちにちょーっとロトムがプログラムをいじりすぎてな、簡単に言うとこの機械に入っている間、ロトムが人間の言葉で喋るようになった』
「……それ、色々とやばくないですか」
いや、前世のことを思えばいつかはあるかもしれないとは思っていたけれど。でも、この世界に生まれて生きてきた身としては、それが尋常でないということくらいはよくわかる。……わかってたのにな、ちょっと失敗したなぁ、さっきの返事。
ポケモンの知能は高く、人間並みかそれ以上のものを有していることが非常に多い。前世のように例えるのならば、言葉が通じない外国人のようなものだ。鳴き声は感情豊かだし、人間向けのジェスチャーだって使ってくれることはあるし、慣れてくれば言葉は通じなくても大体訴えたいことはわかる。だからまぁ、逐一確認しながらにはなるが、翻訳みたいなことも出来ている。大体、犬や猫だって、ペットとして長く共にすれば、あ、こいつなんかこんなこと訴えてるな、がわかるときがあるのだから、それよりはるかに具体的に伝えてくるポケモン達とのやりとりともなれば、理解はしやすい。エスパータイプのような直接トレーナーと思考を繋げてやりとりするタイプだっているし。
だが、ポケモン達が使っているらしい言語については完全に未知の世界だ。伝えたいことはわかるし、やりとりも出来るし、コミュニケーションもきちんととれるけど、本当に直接喋って会話することは出来ない。ポケモン達には人間の言葉がわかっているのに、私達にはポケモン達の言葉がわからないから。ポケモンの鳴き声のどれが「こんにちは」に相当するのかすら、ポケモンの数が膨大過ぎてわかっていないのだ。
ロトムが人間の言葉で人間とやり取りができる、ということは、ロトムによるポケモン言語の翻訳が出来る、ということだ。たぶん、この発明、この世界の常識を覆すものになる。
『やばいにきまっとるじゃろ!協力先になんと説明したもんか今でも迷っとるわ!最初は入力済みの音声から選択して応答させる方法をとっておったんじゃがな、こいつ音声をサンプリングして組み替えて合成して発声ソフトなんぞ作りおってな…、あれほど勝手にいじるなといったのに』
『ロトト!どうせこのままだったら発売された後に頭のいいロトムかポリゴンがそのうちやると思うロト!僕でよかったと思った方がいいロト!』
『というわけじゃ…将来的には入力済み音声のソフトや、その他いくつかのプログラムには厳重にプロテクトをかけた方がいいと伝えるつもりではあるが』
「はー、すごいですねぇ…」
『もっと褒めるロト!』
『調子に乗るから駄目じゃ。まったく、ちゃんとわしの研究内でやってくれてればこんなに頭を抱えなくても済んだんじゃが…。で、なんじゃったかの、ロトムが何を好むか?じゃったか?こいつに聞けばよかろう』
「あ、はい。じゃあロトム、ゴミ捨て場に捨てられてるような古いけどギリギリ動く電化製品と、新しくて開封したての電化製品だとどっちが好き?」
『それは勿論古い方ロト!研究所は古い電化製品が多くて助かってるロト!』
『………今度さっぱり入れ替えようと思っとったんじゃが、残した方がいいか?』
『ロトト…維持費もあるからあんまり無理は言いたくないロト。気持ち的にはちょっとは残しておいてくれた方が嬉しいロト』
『……後で気に入ってるものがあれば教えなさい。で、ラディア、他には?』
えーっと、と唸りながらメモを取って、続きを聞く。
「ロトムは電化製品の中にいた方が落ち着くの?」
『そうロト!普通に浮いててもいいロけど、休んだりするときは電源のある電化製品の中の方がいいロト。古ければいうことないロトね。他のロトムもそうだと思うロ。……ロト?ラディア、なんか悪い顔してるロト』
「いや、ちょっと思い付いて。ありがとう、ロトム」
その後少しだけオーキド博士と喋ってライブキャスターを閉じる。うん、思いついた。…あんまりやりたくないけどなぁ。
<“彼女”の死亡時期>
ガラル地方のゲームが発売されてほどなくである。
シンオウのリメイクも、ヒスイ地方も、パルデア地方すら彼女は知らない。