獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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大人の章

 

マサラタウンの片隅には集会所が建てられている。

実際のところはただの空き家を再利用しているようなものなのだが、そこそこ使い勝手がいいものだから、マサラで何かがあれば大人達はこの集会所に集まるのが常だった。

 

そして今回もまた、大人たちは集まっていた。

議題はスピアーがマサラの少女を襲った件について。

 

マサラだけでなく、隣町のトキワの顔役まで揃った面々の中、若い男女が揃って頭を下げていた。少女ラディアの父と母だった。

 

「「この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません…!」」

 

あまりに深々と頭を下げるものだから、むしろ顔役は大慌てで手を振った。

 

「いやいやいやご夫婦そろってこんでもよかろうに!ラディアちゃんの一大事だろう!?見ていてやらんでいいのかね!?」

「いえ、この度の騒動の発端はわたくしどもの娘です、本当に、本当に申し訳ございません…!」

「落ち着いたら娘にはきちんと言ってきかせますので…!」

 

頭を下げるのは当然ではあった。

ラディアの両親にとって、娘の命は何よりも大事なものである。だが、娘の命は既に保障されたのだ。

であれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

急に殺気立ったトキワのもりの異常に気付いて誰かが様子を見に行かなかったら。

必死でかけたピチュー達が人を見つけ、少女のいる場へと案内しなかったら。

あちこちを飛び回るスピアーや、スピアーを警戒して攻撃的になったポケモン達の隙間を縫って血塗れの子供を救いだした人間がいなかったら。

 

どれか一つが欠けていたら、今、ラディアは病院にいることすら出来なかったのだ。

 

 

「……頭をあげてくれんかの」

「「……」」

「頭をあげてくれんかの、わしらの謝罪もうけてもらえにゃ話が進まんわい」

 

静かにかけられた声に、ラディアの両親がゆっくりと顔をあげた。

 

「おう、それでいい。今回のはな、わしら森衆がな、子供の足で行ける範囲にまでビードルがくるような異変が森に起きているのに気付けなかったのが悪いんじゃ。もっとはように子供らに声をかけにゃならなんだ。そのせいであんたらの大事な一人娘にケガさせた。謝っても謝りきれんわ。すまんかった」

「そんなことは…!うちの子が言いつけを破って道から外れたのが悪いんです!あれだけ危ないからいってはいけないといったのに!」

「いやなぁ、でもな、奥さんよう、あんくらいの子は言うこと聞かんもんだぞ」

「そうだな、うちのもダメっつったことからやってくもんだから、逆にやらせたいことをダメって言ってたらいいお手伝いになったなぁ」

「だからわしらじじいが暇みちゃ運動ついでに巡回しとるんじゃし」

「まだスクール前のがきんちょなんてそんなもんだしなぁ…、正直あの子はよっぽどあんたらの躾が上手だったおかげか色々と素直だったもんで逆に心配してたくらいだったが………いや今回ので安心したわ」

「おい怪我した子供の親に言う言葉じゃないぞお前たち」

「………そうだな、すまん」

「………いえ」

 

 

 

「ああ…でもなぁ……ガーディがいるのにモンスターボールが欲しいなんていうから、ちょっと変だなぁと思ったんじゃよなぁ……。欲しいポケモンが出来たのかとか、バトルで負かしたポケモンを手に入れたくなったのかとか思ったんじゃが、友達が出来とったんじゃな……。あんなにキャタピーが懐いておるのは久々に見たわい」

「いやいやキャタピーだけじゃないぞ、驚け、痕跡をたどったら、たぶんじゃがあれニドランの群れ丸ごと手懐けとるぞ。わしでもまだタグ全部つけさせてもらってないっていうのにのう。ニドキングとクインがよく許したもんじゃよ」

「後ピチューとピカチュウだったか?ようまぁやるもんだわ」

「レッドとグリーンとブルーを思い出すなぁ、ケガこそせんかったがあやつらもめちゃくちゃやっとったし」

「いやあの馬鹿小僧どもと一緒にするな、ラディアちゃんのが礼儀正しいわ」

「おう、お手伝いもようしてくれるしなぁ」

「挨拶もかかさんしなぁ」

 

 

しみじみと顔役たちは言う。両親達は黙ってそれを聞いていた。

 

 

「じゃからの、お二方、大丈夫じゃぞ。一発お説教するかもしれんが、ラディアちゃんのことを嫌いになったりせんし、あんたたちのことだって、忙しくたって色々頑張ってるの、ようわかっとるでの」

 

「この前くれたお菓子はおいしかったなぁ、奥さんとラディアちゃんとで作ったんだって?ラディアちゃんが落ち着いたらでいいからまた顔出してくれな」

「旦那さんもな、連日夜遅いのにな、無理して草刈りに参加せんでもええんじゃぞ?眠そうなのに鎌持っとるの心配になるわい。うちのストライクは若いでな、こっちに任せてくれてええぞ」

「また今度うちきんしゃい、うちのおいしい野菜分けてやるで」

「大丈夫じゃ。な?さ、お子さんのとこに戻ってやんなさい。今一人なんじゃ……ああ、いや、キャタピーがいたか」

「一応まだ野生じゃろ?あの子が捕まえてやった方が安心じゃろうけど、寝とるんじゃそれもできんだろうし」

「ガーディをつけてありますが…、はい、お言葉に甘えます」

「すみません…」

 

「……クサス、キジカ。一旦子どもの側でゆっくりするとええ。起きた時にちゃんとしかってやれるように、……あんまり自分達を責めすぎないようにな」

「…………」

 

ラディアの両親は、黙って頭を下げた。

 

 

去る両親を見送る顔役たちの表情はひたすらに優しかった。

これが普段から雑に暮らす様な親子であればまた違ったのかもしれないが、あの家族はちゃんと幸せそうで、ちゃんとご近所づきあいをして、そうしてちゃんと関係性を築けて、マサラの民として生きている家庭なのだ。

そして父親クサスはマサラの権威、オーキド・ユキナリの遠縁の親戚であるし、母親キジカはトキワの名家の出である。どうしようもなく身内であって、ラディアが足のケガだけで済んだこともあり、今回は困ったときはお互い様、の範囲におさまった。だからこその表情だった。

 

 

 

ラディアの両親が立ち去ったのを確認した後、顔役たちはため息をついて議題を戻した。その中にはオーキド・ユキナリの姿もある。少し前まで出歩いていたのか、その姿は白衣ではなく、動きやすく目立ちにくい格好だった。

 

 

「さての、本題に戻るかの」

「森の様子はどうじゃった」

「いろいろ見てきたがの……、うん、簡単に言うとな、ポッポ系統の群れの長が変わってたな」

 

オーキドの報告に重いため息が広がった。

 

「そうかぁ…」

「そうか、あのじじいめ、“鳳雛”も寄る年波には勝てなんだか」

「いやまぁわしらがこんだけ年とってりゃなぁ」

「そうだがなぁ…だがなぁ、あれが落ちる日がくるか」

「変わりは誰だ、“割れ口”か?」

「“ギザ羽”だよ、あの腐れピジョットめ、あんな若いのに負けよった」

「“ギザ羽”かぁ……いや待て“ギザ羽”ってオニドリルの長とめちゃくちゃバトルしとらんかったか」

「そのせいでポッポ系統の群れの統率がばらばらになっとる上にオニスズメとオニドリルもちょっかいかけられすぎて気がそぞろじゃもの、そりゃスピアーが勢力広げやすくもなるわ。バタフリーは渡りに入ったばっかで残っとるのは進化前のキャタピーとトランセルしかおらんし。ニドランどもは引きこもりばっかじゃし、ピカチュウの群れは逃げるばっかじゃし」

「「「あー……」」」

 

納得の声だった。

 

「トキワジムにスピアー狩りを頼んだ方がいいじゃろうな、縄張りが広がりすぎて他のポケモンが押しやられとる。最悪レンジャー要請も考えんとな」

「そうするかぁ」

「オーキドよ、もうちょい早くなんとかならなんだか」

「最近コガネに出ずっぱりでなぁ…いや言い訳にはならんな。そういうお主らはどうしてたんじゃ」

「「……」」

「ちょっとな、こいつらのケンタロスの長達が難しい時期でな」

「ケンタロスの長?……あの♀達か?」

 

ケンタロス牧場を経営する老齢の男たちはこっくりと頷いた。

言われてよく見てみれば、確かにやつれた様子が見える。

 

「二匹ともそろそろたまごはとってこれる時期じゃなくなるからなぁ、いい友達になればと思って引き合わせたら相性が良すぎて……」

「なんというか、お互いを求めて脱走するようになってな……、脱走をやめてくれればもうちょいこう、二匹のためにしてやれることもあるんじゃが、話をな、全然聞いてくれなくてなぁ……」

「また珍しいことが起きとるのう……」

 

ここに少女がいれば、そもそもケンタロスに♀いるの!?と驚いていたかもしれないが、生憎と少女は病院である。ゲームデータ上では存在しないケンタロスの♀であったが、この世界においてはごく少数ながら存在しているのだった。少数しかいない以上、ケンタロス牧場の繁殖における重要な役割を果たしていて、かつ♀の貴重性をケンタロス側もわかっているものだから、ケンタロスに♀が生まれた場合はほぼ100%の確率で群れの長となる。

 

その二匹もそんな個体で、それぞれの牧場でながく長をしていたのだが、余生を始める前に運命の出会いをしてしまった結果、酷く暴走してしまっているようだった。

 

「……最悪捕獲を考えた方がええぞ」

「わかっとるわい……」

 

オーキド含めて四人いた顔役たちは、最後の一人に顔を向ける。

 

「わしはすまんな、ぎっくり腰」

「………………ああ、だからストライクに抱えられとるんか。いつツッコもうかと思っとったんじゃが」

「そういうことじゃ。いいって言っとるんじゃが聞かなくての……我が強い……」

 

尚、ストライクは大事な主人が怪我をしてしまっているので、当然自分が面倒を見ますが……という顔をしていた。なんやかんや言って主人側も迷惑かけられてるの自分だけだし、で許しているようである。

 

 

「歳は取りたくないなぁ……」

「言うな」

 




“ケンタロス♀”
原作では本来存在していないが、拙作では「本来存在しない性別のポケモンは、発見されづらいだけで極小数存在している」としている。


“鳳雛”
ホウスウ。年経た大きなピジョット。
トキワの森のぬしともいえる地位に君臨していたが、寄る年波には勝てず隠居の運びとなった。そのせいで現在トキワの森の生態系が若干荒れている。そのトサカは大きく立派で、翼の先はほんのり青く、遠目で見たオーキド博士がホウオウのようにすら見えた、といったことからそう呼ばれるようになった。

長く生き、研鑽を積み続けてきたことで進化を超えたその先を掴みかけているピジョットである。


ガーディ:♂
ほどよく大きすぎず小さすぎず、主人に忠誠心があることや、早めにポケモンのいる生活に慣れさせようという考えや、一緒に旅に出ても最後まで側で活躍できるのではという考え、そして何より両親が共働きのため、寂しいであろう娘の孤独を埋めるために、ということで選出されたポケモン。まだ子ども。主人公の親の手持ちという事になっているが、将来的には主人公に譲ろうと考えられていた。

最初、ご主人の子供に急に突撃されてびっくりしてちょっとガルガルした。
びっくりしただけなので、後から怒ってないと距離を詰めるなどしているが絶望的に距離の詰め方が下手くそな上にいじっぱりなせいで色々と悪戦苦闘しているのをご主人たちに微笑ましくみられていた。ご主人たちは子供のわんぱくさに気付いてなかったので時間が解決するだろうと思って見守る姿勢だった模様。

毎回誘ってくれるのに素直になれずに悩んでいたら、子供は外から知らないポケモンの匂いをつけて帰ってくるようになってしまい、拗ねて冷たい態度をとってしまう悪循環に陥っていた。


結果、子供はスピアーの針に足の肉を削り取られ、あちこちの骨を折って帰ってきた。




ちょっとモチベ下がってるのでリハビリ中です。



Q.牧場のポケモンってモンスターボールで捕獲されてないの?
A.牧場が成り立つレベルの大量のポケモンをボールで捕獲するとそれはそれでこの世界の法律とかでややこしいことになるので、牧場経営者はポケモン達を捕獲するのではなく、契約を結ぶような形で牧場で暮らしてもらっています。求めることをやってもらう代わりに快適な衣食住を提供する感じ。なので厳密にはトレーナーと手持ちの関係性を結んでおらず、上手に機嫌をとれなければ言うことが聞いてもらえないこともあります。

そんな感じなので、この世界では牧羊犬の役割を果たすポケモンを手持ちに加えるなどして、群れを御していることが多いです。
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