獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
幸い、というかなんというべきか。まだ私より冷静だったポケモン達のお陰でわざは手加減がされており、ロトムはポケモンセンターに少し預けるだけで元気になった。割れた窓の方は大家さんにもジュンサーさんにも怒られたのだが、野生のポケモンが家の中にいたこと、戦闘になったこと、該当の野生のポケモンは捕まえることで鎮めたというのを説明して、なんとかお許しを貰うことが出来た。最終的によく一人で対処できたね、に着地したのはちょっとだけ納得いかなかったけど。後で弁償はしなきゃいけないし、心配をかけた皆さんにはいろいろと話にいかないといけないだろう。
「……あー」
ボールがなければ街中でラプラスは移動できず、ツタージャは何かを察するには幼すぎる。荷物もあちらで広げたままだったから、ヒトモシはラプラスとツタージャと、それから荷物のために花畑の方で残ってくれていた。ロトムを受け取ってから花畑の片づけをして、泣きそうなツタージャを宥めながらヒトモシにお礼を言って、もどかしそうにヒレをばたつかせたラプラスをそっと撫でてボールに戻す。家に戻って散乱した窓ガラスを片付けて、やっと出た第一声がそれだった。
やらかしたなぁ、というか、手段を選ばなかったなぁ、というか。テーブルの上、ロックをかけたモンスターボールを見つめながらため息をつく。成果としては上々…いや、上々かどうかはこれからわかることだけど、やったことは後悔してないだけ質が悪いなぁ自分、という自己嫌悪だ。
というあれだけ探し回っていたロトムが借りた家にいたってなんの冗談だ。気付いてた?と同じくへこんでいたポケモン達に聞いてみるが、やっぱり誰も気づいていなかったらしい。
ただ、ロトムという結果を前にしてみれば、ちょっと思い当たることはある。
私がここに住み始める前は、この家、ぼろで廃墟みたいな家で、しかも中には家電も置きっぱなしだったわけだから、ゴーストタイプが好みそうで、尚且つ電化製品があるというロトムの好みそうな条件はクリアしていたわけだ。後、たまに開いていた冷蔵庫。……日中は結構頻繁に留守にしていたから、今日の様子を見るに、留守の間に入っていて休んでいた可能性はある。後、心当たりのないのにいつの間にか扉が開いていた電子レンジとか、もしかしたらだが、回した覚えのないのに気づいたら回っていた洗濯機とか、あの辺も。フロストロトムにヒートロトムにウォッシュロトム。全て家電に入ったロトムのフォルムチェンジ形態だ。まぁ、特殊なモーターがついているかどうか、も条件ではあるが、定番のフォルムチェンジになるくらい、ロトムが好んでいる電化製品でもある、という証でもあるわけで。
後は、推定生息地のハクタイのもり、もりのようかんに近い借家であったこと。あそこに何かの理由で居づらくなったロトムがこちらに来ていた、というのは充分あり得ると思う。
……聞けそうだったら本ポケに聞けばいいか。
「……あー、うん、よし。ロトム、私とお話してくれる?」
モンスターボールに声をかけると、カタン、とボールは小さく揺れた。机のまわりでポケモン達が警戒態勢に入り、頭の上のバタフリーの体に力が入るのを感じ取る。
感覚的に、というか、気配的に、というか、ボール越しに漂ってくるそれは随分落ち着いてはいるが、なんとなくおびえが混じっている気がする。…オーバーキルしたもんね、ほんとごめん。バチュルに『くものす』の用意だけ指示をしてから、モンスターボールのロックを解除すると、遠慮がちにロトムが飛び出てきた。私の正面で浮遊しながら、うろうろと視線をさ迷わせる。
「とりあえず、君、……あー、私たちは君とバトルをして、私たちが勝った。そこは理解してる?」
「■■」
ロトムは静かに頷いた。野生だけにバトルにおける人間世界の公式ルールなどロトムは知る由もなく、だからあのバトルを卑怯だとも思っていない。対峙したポケモンの数とか急なバトルの発生に否やはなく、ただ私達という群れ相手に自分一匹が負けたということだけ理解していて、それに納得しているようだった。
本題はここからだ。
「君は今、私の手持ちとしてモンスターボールに紐づけられているわけだけど、まだ君を手持ちにしたという申請は出してない。
……要するに、私は別に君を自由にすることもできる、ということだよ。私は君にこのまま仲間になってほしいと強く思ってはいるけれど、あくまで選択権は君にある。
「………」
「私は君が一緒にバトルをしてくれたら嬉しいな、と思ってる。………ね、君はどっちを選ぶ?」
「…………■■■」
落ち着かせるための捕獲は勿論だが、大怪我したポケモンを輸送のために捕獲するというのだって稀にあることだ。だから、手持ちの申請をするまでには猶予期間があり、その期間中であれば逃がしたところで特に法的には問題がない。申請してからポケモンを逃がしてしまうと問題が出てくるけれど。
ほんとに念願というかやっと出会えたロトムだし、シンオウでロトムと出会える可能性が限りなく低い以上、出来ればこのまま仲間になってほしいとは思うが、いくらバトルで負かしたポケモンとはいえ、ロトム自身が納得できずにいやいや仲間になったって私は心を預けたいとは思わないし、ロトムだって納得せずに手持ちになるのは嫌だろう。バトルこそ問答無用だったのは申し訳ないとは思うが、それでも選択はロトムに委ねたかった。
果たしてロトムはしばらく沈黙し、じっとどうするか考えているようだったが、やがて一声鳴いて、プラズマの腕で私を指さした。
じっとロトムを見つめ、そっと素手のままの手を伸ばす。こちらに伸ばされたままのプラズマの腕に触れ、…奇妙な反発感をこそ感じるが、しびれもなくただ触れることが出来た、という結果だけが残った。張りつめていた空気がほどけるのを感じ、そっと手を降ろす。
「…ありがとう。これからよろしくね、ロトム」
「■■」
ロトムはそこで初めて笑い顔を見せた。擬音をつけるのなら、ケテテ、と笑い声の聞こえてきそうな歯を見せた笑顔だった。
<ツタージャ:♂>
うまれた。現時点では多少いたずらっこな程度で、生まれたての頃に比べれば随分落ち着いた。素直な性格。最近は主人公のモノマネをするのが楽しいらしく、よくモノマネをしては主人公にだっこされて可愛がられている。
本来たまごからポケモンを育てることは旅立ったばかりの子供には推奨されていない。ポケモンによっては人間の赤ん坊を育てる以上の体力と精神力を要求されることもあり、そうでなくても10歳の子供が出来る世話の範囲を超えていることがほとんどだからだ。本来であれば15歳以上辺りから挑戦を認められる世界である。通常は一人のトレーナーがつきっきりでお世話するものではなく、少なくとも二名以上の人間が様子を見ながら育てていくべきものである。
年齢的、専門的に普通は難しいこと(例:スピアー観察、いてだきのどうくつ暮らし)でもなんだかんだで事前の調べと努力である程度なんとかなってきてしまっていたために、子育ても難しいみたいけど皆もいるからなんとかなるだろう、前例はあるみたいだし、何より子育て難易度は低めなポケモンらしいし、と判断してしまったのは完全に主人公のミスである。
ツタージャは比較的育てやすく、人間でいう乳児期までを二週間ほどで終えるタイプのポケモンであるが、これが例えばシキジカやドロバンコ、ウールーやメリープであればその期間はもっと短く、逆にドラメシヤやフカマルといったドラゴンタイプなどであれば、長くて二年は乳児期が続くため、野生のドラゴンの捕獲が無理ならたまごから育てよう!などと軽い気持ちでたまごを入手した場合とんでもないことになる。
<デンジ>
もりのようかんにいた方のロトムを手に入れたのはこの人。ジムリーダー+オーバで飲み会した帰り道、酔った勢いでオーバと一緒に肝試しにもりのようかんに突入し、光るテレビをぶっ叩いてロトムと遭遇、ゲットに至っている。ちなみにその後オーバのことは忘れてそのまま帰った。オーバは途中で酔いがさめてしまったせいで気絶し(気絶するようなものに遭遇したらしい)、怖がりのブーバーンが泣きながらオーバを背負ってもりのようかんを脱出した。最近のナギサシティの停電の多さはロトムのためにフォルムチェンジ用の機械を作っているのが原因だとか。ナギサシティの住民はもはや慣れた。
<コトブキ大会アマチュアカップ>
町の名前が冠された大会はアマチュアカップだろうがテレビ放送されることがほとんど。とはいえ流石に180人とかの参加者がいる大会なので、トーナメント後半とかからしか放映しないし、ゴールデンタイムの放送でもない。が、見てる人は見てる。セミプロ、プロカップであればゴールデンタイムだとか。
<ロトム:無性別>
親は実験のためガラルからもりのようかんに連れてこられたロトムではあるが、このロトムに関しては生まれたのはシンオウであるため、ある意味シンオウ産ロトムと言える。早い話が現在デンジの手持ちになっているロトムの子供である。何気に初のバトルでのゲットとなった。
しばらくはハクタイのもりをさ迷っていたようだが、主人公たちが借りた家を見つけてからはそこで生活していた。借家がぼろだったり安かったのは、このロトムのせいで幽霊屋敷の噂がたっていたのも原因だったとかなんとか。主人公達が家に住み始めてからは、主人公達がいないときだけ家の中に入ってくつろいでいたために、主人公どころかポケモン達も存在に気付いていなかった。一回だけ主人公たちがいるときに家に侵入しているが、孵りたてのツタージャに疲れ切っていた主人公たちの様子を見て洗濯機を回すだけ回してあげて帰っている。親切。
ああ、負けた負けた。仕方がない。いつあの家を出ていってくれるかとずっとずっと見守っていたけれど、いつしか興味を持ち始めていたのは確かでもあったから。でなければちょっとだけ助けてあげるとか、そういうことはしなかっただろう。
だから、これは偶然だ。負けたのだって仕方のない偶然だし、その結果彼女の仲間になったのは偶然だし、────それまで完璧に隠れきって気付かれていなかったのに、今回たまたま彼女に見つかったのも偶然だ。偶然だとも。言い訳のようなそれを自分で繰り返し、自分に向かってケテケテと笑う。ああ、これからの生活が楽しみだ!