獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
二回目の大会の章
シンオウ地方を旅立って数か月、私達はホウエン地方の102ばんどうろに来ていた。本当はホウエンに着いたらすぐに来るつもりだったのだが、ホウエン地方のカイナシティに到着した時、それはもう丁度良く地方大会──それも予選もあるような大きいもの──の受付が始まっていたので、これはもう参加するしかないだろうと飛びついたのだ。お金に困ってはいなかったけれど、6vs6のシングルフルバトルに挑んでみたかったので。それにそろそろ公式戦にもガンガン参加して空気をつかんで行きたいし。
アマチュア向けの大会は大まかに言うと実は二種類あって、まずポケモンを運動させたい人向けの大会というのがある。ポケモンが本能で身体を動かしたがる、バトルをしたがる生き物なので(例外は勿論あるけれど)、バトルで食べていきたいわけではないけれど、バトル自体はさせてあげたい層向けに地域の自治体とかが主催しているものだ。こういうのは優勝賞金とかもささやかで、規模自体も控えめになる傾向にある。
今回の大会はそうではない。参加したのはカイナ大会アマチュアカップ、250人以上のアマチュア選手が集うセミプロへの登竜門だ。明確にプロを目指す者たちが集う大会である。バトルで食っていきたい人間達が、第一歩を踏み出すために用意されたものだ。いくらアマチュアカップと名がついていようが、前述の大会とはバトルの質が数段違ってくる。
あくまでもプロを目指す人間たちが参加する大会であるから、本当のプロは参加できない大会であるが、アマチュア勢だからこそのバトルが見れるのもこう言った大会の特徴だった。
大抵の地域において、プロと呼ばれる人々とはバッジを8つ集め、チャンピオンロードを超えて、その地方のリーグ戦に挑んだ者たちのことだ。ではセミプロは、というと、明確な基準はないが、バッジを6つ以上集めているか、もしくはこの大会のように200人以上の参加者のいる地方大会を5回優勝した者を指すことが多い。まず私が目指すとしたら、このセミプロからになるだろう。
カイナ大会のポケモン登録は6匹だったが、予選は時間短縮のために2vs2の形式をとっていた。少し悩んだが、私は予選のメンバーとしてラプラスとツタージャを選出した。ツタージャに経験を積ませるというのは勿論だったが、今までどんなバトルでも必ずどちらかを選出してきたバタフリーとウインディをあえて外し、殿役としてラプラスを投入したのは結構な覚悟ではあったのだが。
ポケモン達や私の体を作るトレーニングは勿論、わざの精度や威力をあげるためのトレーニングや、私とポケモン達で息を合わせてわざを放つ練習はたくさんやってきた。そこは私達が一緒になって努力できるところだからだ。ただ、私が努力するべきところであるバトル中の指揮についてはどうしても遅れが出やすい。一応幼少期からかき集めたバトルビデオを見たり、バトルの教本を見たり、ちらほらポケチューブにあげられるようになったバトルの動画であったり、オーキド研究所にあった本を借りたり、行く先々の図書館を覗いたり、情報を集めて勉強するということはずっとしてきているけれど、結局は座学であって、実践となるとやはりトレーナー相手のバトルでないと上達に乏しい、というのはトレーナー相手のバトルを繰り返して気付いたことだった。野生のポケモン達がかしこくないというわけではないが、人間とポケモンが協力して戦い合うのが公式戦である以上、やはりトレーナー相手の方がいいのだ。
未だにローザに言われた考えずに指示をする、というやつは出来ていないし。どうしても一手一手を考えてしまう。幸いそれでタイムロスが出たことは無いし、ローザ以来負けはないが、いつかそれがみんなの足を引っ張る気がして怖い。
だからこそ(金稼ぎの側面があるのも楽しいというのも否定しないが)せっせと野良バトルを繰り返してきたわけだけど、なんというか、その、大一番になるのは理解していたが、大一番だからこそ、ちょっと自分を追い込みたくなったのだ。原点であるバタフリーとウインディのいない試合で、私はどうバトルが出来るのか、というのをこの大会で試してみたかった。そしてそれはラプラスにも言えることだ。
仲間にしてからずっとラプラスはバタフリーとウインディの背中を見てきている。でも、ラプラスより後に仲間になったポケモン達の方が今はもう数多い。弟だって出来たのだ。子どもであることと、水棲ポケモンであるゆえに世話されていることが多いとはいえ、バトルにおいては四匹より先輩であり、私の手持ちの三番手であるという自覚というか、自信というか、覚悟というか、そういうものを持ってほしかったのだ。
そして、ラプラスはちゃんと期待に応えてくれた。勿論ツタージャも頑張ったし、1回戦、2回戦などは一匹で相手を倒す活躍を見せてくれたが、駒を進めるたび相手もどんどん強くなる。ラプラスが後ほんのちょっと競り負ければ私達の負け、みたいな場面はひやりとしたが、それでもラプラスは殿をやり遂げてくれた。私達は本選出場を果たしたのだ。
で、…まぁ、その。優勝、出来たのだ。コトブキ大会のようなそこそこの規模の大会ではなく、この、地方の隅々から人が集まってくるとても大きい大会で。人々の驚愕と歓声が入り混じって響く中、勝ったことを自覚した時はバタフリーと一緒に思わず叫んだ。まだバトルの世界の入り口も入り口なのは承知している。でも、それでも入り口に立つことが出来たのだ。どうして喜ばずにいられようか。
私は観客のいる試合、怯えるとか緊張するとかするのではと自分の状態がどうなるか怖かったのだが、コトブキ大会で薄々勘付いてはいたけど、私達の一挙手一投足で観客がボルテージを上げるのがむしろ楽しく感じられる質だったようだ。それはポケモン達も同様で(ツタージャは最初少し怯えていたが、途中から楽しむ顔を見せ始めていた)、わざが決まるたびに周りから上がる歓声にたまらなく興奮する。それを繰り返して表彰台のてっぺんにのぼった時の心地よさといったら!ざわめく群衆の歓声と、アナウンサーの捲し立てるような賛辞の言葉と、そしてほんの少しあった敗者達の嫉妬の目線。全てが快感だった。バトルは楽しいが、勝ったときはもっと楽しいし、優勝出来れば気持ちがいい。…大会終わりの取材だけは頂けなかったけど。
でも、あの場に参加したトレーナー全てを捻じ伏せて皆と一緒に頂点に立った、それは最高以外の何者でもなかった。
ああ、あの快感がもっと
んひ、と唇の端から笑いが漏れる。もっともっと努力しなくては。
「………って待って待って痛い痛い、指を挟まないで」
「■■■……」
抱えたブリキのロボットのおもちゃの中から響いた恨み言のようなロトムの声に、慌てて添えていた方の手を離す。ロボットの関節部分に私の指を巻き込んではさむって一歩間違えればやばいことになるんだけどなぁ、と思いつつ、拗ねきったロトム入りのロボットを改めて抱えなおした。ロトムも最低限の加減はしてくれているし、気持ちはよくよくわかるので、注意することは無いけれど。
カイナ大会に登録可能だったのは6匹までだったのに対し、私の手持ちは7匹だ。1匹だけ参加できないことになる。そうなると誰を参加させないか、という話になるのだが、ツタージャとロトムで最後まで迷って、私が出さないと選択したのはロトムの方だった。で、自分が参加できなかった大会で皆が優勝までいったとなればそりゃ拗ねもするだろう。ロトムだって色々覚えるのは頑張ってくれていたのに、試合に出ることも出来なかったのだから。
代わりと言ってはなんだが、大会後カイナシティにとどまって局地的かつ短期的な知名度を利用して、めちゃくちゃにバトルしまくった。で、その時の先鋒はずっとロトムにしていたのだけど、あんまり足りていなかったらしい。カイナ大会を思い返した時の私は大体だらしのない顔になっているらしく、その度にロトムはこうして拗ねてます!を主張してくる。カイナシティでも機嫌取りにお気に入りのおもちゃに入っている状態で連れ歩いていたせいで、カイナシティを出る頃にはあのおもちゃ好きの優勝者、で私の印象が固定されていたくらいだというのに。
「そろそろ機嫌を直してよー…。大体君、たぶんすごい忙しくなるんだから拗ねてられると困っちゃうんだけど」
「■■■■?」
「前に見せたし説明したでしょ、フォルムチェンジするロトムの画像。ロトム用の特殊なモーターを組み込んでる機械が必要になるけど、君のフォルムチェンジはタイプごと変わるんだ。面白いタイプの組み合わせばっかになるからさ、是非とも君にはあれやってもらいたいんだよね……嫌ならそのまんまでもいいけどさ、それならそれで君と一緒の戦い方を考えるから」
「……■■■」
ロボットの顔面奥に取り付けられた電球が明滅し、ブリキの顔面についた目と口がぴかぴかと光る。出てきてくれればもうちょっとこう、色々とコミュニケーションがとりやすいのだけど。まぁ、このロボット入りロトムにも慣れたので、今のは意欲的な反応だったくらいはわかる。
「お、興味はある?」
「■■■」
「君次第だけど、私としては出来れば今確認されてるロトムのフォルムチェンジ、全部使いこなせるようになってほしいんだよね。将来的に大きい舞台に出るようになったとき、絶対手持ちは研究されるから。君が1匹いるだけで、6匹分のタイプと技の可能性があるってなったら、……ほら、結構面白いと思わない?」
「■■■!!」
ケテテ、とも聞こえるような声で、ロトムが笑いながら同意した。どうやら提案をお気に召してくれたらしい。現時点ではヒート、ウォッシュ、カット、スピン、フロスト、そして通常の形態で、全部で6つのフォルムを持つロトムだが、フォルムチェンジ自体はロトムのとりつく機械に強い影響を受ける。とりつく、というか、見た目的にはロトムが取り込んでいる、という方が正しいかもしれないが。6つの形態を使いこなすって結構な無茶ぶりをお願いしている自覚はあるのだが、これだけ乗り気なら機械の収集にも気合が入るというものだ。
その辺のロトムが使用する機械たちの研究についてはゲームではカロス地方が本場のようだったが、現時点では野生の生息地がはっきりしているガラルの方が本場だ。こちらでも同じような道筋をたどるのであればたぶんシトロンが色々開発するのだろうが、シトロンはミアレシティのジムリーダーに就任したばかりで、発明家としての情報はまだ聞こえてきていないし。だが、幸いなことにロトムのフォルムチェンジ用の機械は既に販売がなされている上に、一つはゲットできているのだ。
「昨日ミシロにいったでしょう?オダマキ博士に色々話を聞いた時にね、ロトムを連れているならって一つフォルムチェンジ用の電化製品譲って貰えたの。サンプルで貰ってたけどロトム連れのトレーナーが近くにいないからって。…これで機嫌直してくれない?」
オダマキ博士に会っておいで、といってくれたのはオーキド博士だったけど、思わぬところで縁があったものだ。私のスピアーの観察記録を元にして、この前オーキド博士は一つ論文を発表したらしいのだが(ラプラスの観察記録の方もオーキド博士はこね回しているらしい、近々面白い連絡が出来ると思うといっていたが、さてなんだろう)、それを見たオダマキ博士がフーズによる生態観察法が丁寧だったから、と私に興味を持ってくれていたというのだ。
フィールドワークの第一人者でもあるオダマキ博士だ、是非一度話は聞いてみたかったから、オダマキ研究所にお邪魔してきたのが昨日の話だった。ためになる話はたくさん聞けたし、色んな所でキャンプをはって肌で感じたポケモン達の縄張りの話なんかをしたら大層喜んでくれて、よかったら、と譲ってくれたのがロトムのフォルムチェンジ用の洗濯機だったのだ。代わりにロトムについて何か所感があれば、とかの下心もあったっぽかったので、電池で動く古びたおもちゃをゴミ捨て場や廃墟に置く実験をしていた、という話はしてきたが。結局あれ、効果があったのかなかったのか確認する前に自分の家でロトムが見つかったので何とも言えないんだけど。
……まぁ、他の電子レンジとかの機械は貰えなかったし、いくら機械の販売があるとは言っても販売されている地域は限られている上、通販で買うことは出来なかったから、残りの機械を手に入れるならカロスかガラルにいく必要はあるのだが。カントーもイッシュもシンオウも、そしてホウエンでもロトム用の機械の販売はなかったので。
「■■■!」
しょうがないなぁ、的な鳴き方をしたロトムがやっとロボットから飛び出してきて、私の周りをぶんぶん飛び回る。照れてる?かな、恥ずかしがってる?なんとなく拗ねる行動のやめどきを失っているっぽい気配があったので、きっかけをあげれてよかったな、と思う。その証拠に『機材』におもちゃのロボットをしまったが、ロトムは何も言わなかった。