獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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予言

 

 

「……さて、102ばんどうろに来たわけだけど」

 

 

ここからはどうろを外れるつもりでいるので、ロトムに追加でバタフリーとヒトモシを出す。バタフリーはちょっとロトムをおちょくるような飛び方をした後に私の頭の上に収まり(飛べる後輩が嬉しいようで、バタフリーはよくロトムにちょっかいをかけているのだ。ロトムも満更ではないようなので、今のところは放置している)、ヒトモシは私の足元でやる気十分!みたいな様子を見せている。ぶん、と私の周りを一周したロトムは、大人しく私の肩で浮遊の体勢をとった。ロトムのプラズマの体は結構不思議な感触なので、腕が掠めるたびにちょっとぞわぞわするんだけど、ロトムがいるって実感が出てくるので好きな感触だったりする。

 

 

「…まぁ、うまくいけば一番早く仲間が出来ると思うんだよなぁ……うまくいかなきゃ一番時間がかかりそうだけど。どんな場所を好んでいるかとかはオダマキ博士に聞けたし」

 

 

その代わり生態で何か面白いこと見つけたら教えて、って言ってたけれど、あの人10歳児に何を期待してるんだろうなぁ…、私が言うのもなんだけど。自分の娘のハルカが天才だったからって、ちょっと年齢感覚麻痺してないだろうか。もうじき11歳になるとはいえ、それでもまだ10歳なんだぞ私。

 

そんなことを考えながら、ある程度音をたてつつ道を外れ、まばらにある木立の中へと足を踏み入れていく。

 

 

ここで仲間にしたいのはラルトスだ。数多くいるエスパータイプの中でも特に人の感情や思考に対して敏感と言われているポケモンなのだが、

 

 

「らるぁ~~!」

「……ええー…?」

 

 

道を逸れて十歩で出てくるとは思わなかったなぁ…。『テレポート』だろうか、一瞬で目の前に転移してきたラルトスの姿に、私より手持ちのポケモン達の方が驚いている。

 

エスパータイプは人の感情や思考が読める。人の、というか、生き物全般の、だが。正確には他の生き物の感情を通して世界を見ている、というべきか。だからこそ、一番早く仲間が出来るか、もしくは一番時間がかかるかのどちらかなのだ。相対した時点でエスパータイプには嘘がつけないし、考えていることが筒抜けである以上、自分にあったトレーナーかどうかを判断するのはエスパータイプが一番早い。

 

102ばんどうろに入ってからカイナ大会のことをわざわざ思い返していたのも、私はこういう人間ですよ、こういう人間についてきてくれるラルトスを探していますよという意思表示であったのだけど、こうも早く姿を見せてくれるとは。ここに多く生息しているはずのジグザグマの姿すら見てないんだけどな。

 

 

「らる?」

「エスパー・フェアリータイプの君がこうして姿を見せてくれたっていうのはそういうことなんだろうけど、えーっと、一応。本当にいいの?君の仲間は?」

 

 

返事はなく、ラルトスは動きもしなかった。……そのまま時間が経過して、んん?と首を傾げる。さすがに何か動いてくれるとか、鳴いてくれるかしないとちょっと意思がわからない。

 

 

「ラルトス?」

「……?…!らる!」

 

 

慌てて頷く仕草をして、わたわたと腕を動かしてダイジョブ!を表現するラルトスに、あ、と思い当たることがあった。もしかして、エスパータイプの群れの中で暮らしていたから、鳴き声やジェスチャーのやり取りではなく、思考でのやり取りが基本だったとか?思考を読んでもらうのが当然の環境だったなら今の反応になってもおかしくない、かもしれない。そんな感じの論文を読んだ記憶がある。

 

 

「らる!」

 

 

この考えは口に出してはいなかったけど、ラルトスはそう!それ!ちゃんと返事はしてた!と私を指さして頷いた。…なるほどな?

 

ラルトスが急に私を指さしたことで手持ちのポケモン達が完全に臨戦態勢に入ったのをハンドサインで諫め、怯えた様子で後ずさったラルトスに苦笑しながらかがみこんで目を合わせた。

 

 

「大丈夫、ありがとう。この子、私の考えてることに反応しただけだから。

 

…ごめんよ、びっくりさせたね、ラルトス。……ただ、さては箱入りだな君?一番乗りで来てくれたのはとても嬉しいけど、一旦体験会みたいなのをした方がよくないかな?………私は楽しく過ごしてきてるけど、それは私の主観であって、君自身がどう感じるかっていうのは別の話だもの。私の気持ちに同調してテンションあげてるだけとかだと、モチベーション的に後からきつくなっちゃうかもしれないし」

「らるぅ…、らる!らる!!」

 

 

そんなことない!仲間にしてよ!と言わんばかりのラルトスの様子がなんというか、どうにも変な感じがして首を傾げる。なんというか、必死すぎる?会ったばかりなのに。何に焦ってるんだこの子。トライアル期間設けようって言ってるだけなのに。そんなことを考えていた時だった。

 

 

「フリ!」

 

 

唐突に上空から降ってきたバタフリーの警戒を促す声に体を硬直させる。足元のヒトモシも、肩のロトムも、そして見えないが、たぶん上空のバタフリーも、同じ方向を向いているのがわかる。全員、ラルトスの向こう側を見ている。

 

ゆっくり顔をあげると、離れた木立の陰に一匹のポケモンの影があった。ドレスを着た人間のようなシルエットが見えて、目を細める。…サーナイトか?ヒトモシにラルトスから目を離さないよう指示を出し、相手を刺激しないようゆっくり立ち上がって一歩下がる。

 

次の瞬間にはサーナイトがすぐ近くに立っていた。予想はしていたので、警戒を強めるにとどまる。恐ろしいほどに存在感のないサーナイトだった。目視していなければそこにいるとは気付けないくらい、なんの圧もない。無に近い印象すら受ける。よくバタフリーは気付いたな、これ。……、………いや、これは気付かせてもらったのかな?じっと目を合わせた時の感覚が、いてだきのどうくつの老齢のラプラスとそっくりだった。高度を下げたバタフリーが私とサーナイトの間に割り込む。

 

 

「………」

 

 

バタフリー越しにサーナイトがゆっくり微笑む。…何故だか、正解ですよ、と言っているように見えた。その()()腕のサーナイトは身を屈めてラルトスの頭をそっと撫でると、もう一度私を見る。

 

 

何もその感覚に根拠はない。ただ、あ、全部()()()()、と思った。

 

 

 

──この子を置いていくのなら、貴女は幸せな夢をみたまま死ぬことになる。

──この子を連れて行くのなら、貴女はエゴにまみれた選択をすることになる。

 

 

────どちらを選ぶ?

 

 

脳みそに直接叩き込まれたその思念に、ぐわんと頭が揺れる。サーナイトから目線を外さなかったのは意地だった。……ローザのランクルスやタワーオブヘブンのリグレーやオーベムがそうだったように、エスパータイプは他の生き物と直接思念でやり取りが出来る。出来るが、ここまで具体的なテレパシーじゃなかった。

 

()()()()。素直にそれがわかってしまった。

 

サーナイトの足元でラルトスが抗議するようにサーナイトの足を引っ張っていて、バタフリーは今にも襲い掛かりそうな様子を見せていた。ヒトモシの体は震えているし、ロトムが帯電しているのもわかる。

 

一度大きく息を吸って、大きく息を吐いた。

 

 

「……私の未来を見たの?」

 

 

笑むばかりでサーナイトはそれ以上は語らなかった。自然災害への対策の例として、エスパータイプの予知能力が大真面目に頼りにされる程度には未来予知は存外身近な存在だ。天気予報とかでも頼りにされてるくらいだし。個体によって精度はまちまちとは聞くが、……ずかんに載る程度には、サーナイトの予知能力は高いとされている。意味がある予知なのだろう、たぶん。でなければわざわざ伝えにこないだろうし。

 

予言めいたその思念に答える前に、聞きたいことがあった。

 

 

「………そのラルトスにとっては、どっちの未来が幸せなの?」

「らるぁ!!」

 

 

答えたのはラルトスの方だった。つんざくような高い声で鳴きながら私を真っ直ぐに指差す。サーナイトはなにも伝えてこなかった。

 

 

「……ん。うん。ありがとう。………答えになるかわかんないけど、私、今まで自分の楽しみとか欲とか、勿論ポケモンもだけど、そういうの優先して生きてきたから、我欲を貫いた選択って今更なんだ。だから、ラルトスが幸せに生きられるなら、私は是非仲間になってほしいと思うよ。やる気十分なのは伝わってきてるしね」

「…!らる!」

 

 

サーナイトはやっぱり何も伝えてこなかった。……、いや、悲しそう?なのか?サーナイトはラルトスの頭をひと撫ですると、空気に溶けるように消えていってしまった。しばらく近くにいるのでは、と警戒していたが、全く気配が捉えられず、恐る恐る緊張を緩める。寄ってきたバタフリーの代わりにロトムが空高く舞い上がって代わりの警戒に入った。……いや、なんだったんだ。

 

 

「フリィ?」

「ああ、大丈夫。皆もかばってくれててありがとう。エスパー能力でのやり取りがあっただけだよ、ローザのランクルスみたいな感じ。頭飛び越して会話しちゃってごめん」

「……フリィ」

 

 

うーん不機嫌。拗ね気味だったが、顔をムニムニしてやると多少機嫌が上向いたらしく、バタフリーは大人しくラルトスの方を向いてくれた。

 

 

「……さて、ああ言ったし」

 

 

ボールを取り出しながら屈みこみ、ずっとラルトスから目線をそらさずにいてくれたヒトモシの背中を軽くたたく。ラルトスに向けてボールを差し出すと、ラルトスは腕組みをして待っていた。早速体を動かして気持ちを表現する、をやってくれているらしい。なかなか様になっていて思わず笑うと、もう!とラルトスが体を揺らした。

 

 

「待たせてごめんね。これが君のボール。一応聞くけれど、」

 

 

皆に聞いている、環境が変わることやバトル中心の生活になるけど大丈夫か、という質問をする前にラルトスは既にボールに飛び込んでいた。あ、と思う間もなくボールは揺れることなく沈黙し、捕獲が完了したことを示していた。

 

 

 





ラルトス:♀
あまり予知能力が達者な方ではないが、生まれた時に朧気ながら自分の未来を垣間見ている。大事にしてもらいながら一緒に戦って、楽しい仲間たちが出来る未来を。そのため主人公が自分の住む地域を訪れるのを心待ちにしていた。すぐ連れて行ってくれるかと思ったら、急にトライアルなどと言い出したのでとても焦ったとか。

ちなみにミツルのラルトスも似たような理由でミツルの前に姿を現したらしい。未来を知ることのできるエスパータイプにはままあることである。
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