獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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“異名”

 

「…それ、“吉祥”じゃないかなぁ」

「”吉祥”?やっぱ異名持ちですか、あのサーナイト」

「特徴を聞くに間違いなくそうだろうね。いや、ミツル君の時にラルトスがどうろの入り口で待ち構えていたのにも驚いたけど、ぬしが出てきたかぁ……わたしだって“吉祥”はろくに見たことがないよ」

 

ちょっと詳細に観察させてほしいなぁと思ってるだけなのに、遭遇するとあっという間に姿が消えちゃうんだ、と続けたオダマキ博士に、多分そう考えてるから逃げるんじゃないかなぁというのを伝えようとしてやめた。予知能力のあるサーナイトと遭遇できている時点でたぶんサーナイトも譲歩してるのだろうし、それくらいはオダマキ博士もわかっているだろう。…わかっているよね?

 

あのサーナイト、腕は白いわスカートみたいな部分はちょっと膨らんでるわで、どう見ても普通のサーナイトではなかった。だからオダマキ研究所にひき返して、情報提供をしてみたのだが…、やっぱ異名持ちだったか。トキワのもりもそうだったが、人間に近い領域で暮らしているポケモン達のぬしや、目立つ個体は大抵何かしらの異名がつけられていることが多い。そのポケモンに何かがあれば、その領域に住むポケモン達に影響が及ぶ、そういうポケモンに異名がつけられ、人間たち側からもそっと観察されている。隣人たちの暮らす環境の変化は、大抵私達人間にも影響が及ぶからだ。トキワのもりのぬしの代替わりなんかはいい例だろう、結果的に年単位で人間はトキワのもりに立ち入れなくなったから。私も巻き込まれた側というか、巻き込まれに行った側の一人であるし。

 

「どうだった?“吉祥”は」

「よくわかんない厨二病みたいな感じのこと伝えてすぐどっか行っちゃいましたよ。ラルトスが仲間になるの早かったのでよかったですけど」

 

幸せな夢を見たまま死ぬとかわがままキメすぎた選択とか、あの時はある程度ノリで返答したけど、後になってから冷静になって考えてみれば、結論としては意味が分からないとしか言えない。ラルトス連れて行かないと早死にするとかそういう意味合いなのだろうか。というかぬしって普通あんな簡単に出てくるものじゃないと思うのだけど、本当になんで出てきたんだ?私が会ったトキワのもりの異名持ち、ぬしであった“割れ口”だって、合間に色んなポケモンが挟まってやっと会えたようなものだったのに。

 

「ちゅうに……、ああネットのスラングか。あんまり表で使っちゃだめだよ、そういうの。というかコンタクトまで取れてるってすごいじゃないか!具体的には何を伝えてもらったんだい?」

「将来の予言的な…?何を伝えたいかは今まで対峙したエスパーポケモンの中でも段違いにはっきりしてたんですけど、内容はすごい抽象的だったので少し反応に困りました」

「………ぬしなんだけどなぁ、あのポケモン。結構雑な感想だね君。もうちょっと取り繕うとか、なんか気を付けようとは思わなかったの?」

「何考えてようが筒抜けでしょうし、未来予知出来るなら私がどう反応するかくらいは読んだ上で出てきてて予言を伝えてきてるだろうなぁと思ったので。今更かなーって…。皆もずっと警戒しててくれましたし」

 

あのレベルのぬしポケモンに対して私たちの警戒が意味があるか、と言われるとちょっと微妙なところではあるが。バタフリーが不機嫌なのはそれを察していたからだろう。今も膝の上で顔を揉み続けているが、手が止まると無言で催促が始まるし。…たぶん察してるのはウインディもだろうなぁ。オダマキ研究所の庭に預けた時、不機嫌です!というオーラ駄々もれだったし。今晩は思いっきりブラッシングしてかまってやるとしよう。

 

「そういう考えかー…。一応未来予知にも個体差あるからね?読心どころか記憶まで読み取れるのに、未来予知はさっぱりとかいう前例もあるから、もし君が専門に関わるなら思考コントロールはきちんと身に着けておかないといけないよ。わたしはできなかったけど」

 

 

だからサーナイトが逃げるんじゃないかなぁ…。

 

 

「専門って言ってもラルトス以外のエスパータイプは増やす予定ないですし……、どっちかっていうと私とラルトスとの交信訓練とか、ポケモン達との交流の仕方とか、そっち方面ちゃんとした方がよさそうなんですよね。どうもあの子、エスパータイプ以外との交流が少なかったっぽくて」

「おや、よくわかったね」

「エスパーの群れで暮らしていると、思考を読み取り読み取られが当たり前過ぎて、ジェスチャーや外的表現が乏しくなることがあるってジョウトの方で論文が出てたんですけど、たぶんそれかなぁ、みたいなのがあったので。言ったら本ポケも自覚したのか色々と試し始めてくれてますけど」

 

ちなみにその論文をかいた人間はネイティとネイティオのコミュニティを主に観察していたらしいが、二か月くらい失踪した後、発見された時にはトゥートゥーとしか言わなくなっていたので病院に担ぎ込まれて出てきていないらしい。……その辺の情報見たのが確か二年前だったけど、今は出てこれてるのかな。

 

 

「ははぁなるほど、いや、よく勉強しているねぇ!ハルカもこれくらい熱心だったら嬉しかったなあ、あの子は実践派だから、あんまり座学の方には興味を持ってくれないんだ」

「噂じゃカイオーガ手持ちにしてるとか、グリーンさん並みに育成早いとかって聞きましたけど、実践派で片付けていいんですかそれ」

「……一応秘匿されてるはずなんだけど、広がってるのかな?」

「わりと」

 

 

頷くと、そっかぁ、とオダマキ博士は遠い目をした。それこそネットでの情報収集もそうだが、カイナのようにトレーナーが集まっていたところにしばらく顔を出していればそれなりに噂は入ってくる。年齢もあってユウキとハルカとミツル、ホウエンの三人の天才達とは比較されまくったので、彼らの噂話は特によく耳に入って来た方だった。レッドはダイゴを倒したが、ユウキだってダイゴを倒しているし、その後表に出てきてないだけでユウキもとても強い、レッドとユウキだったらユウキの方が強いはずだ!とか私に言われても困るんだよなぁ……、張り合うのは別に楽しみ方の一つとしていいだろうけど。レッドには私が勝つし、ユウキがもしレッドより強いのなら、ユウキにだって勝つだけの話だ。

 

 

「あー…、やっぱり噂にはなってるか。オーキド博士のとこの子だから言っちゃうけど、カイオーガの捕獲はほんとだよ。わたしも色々と観察させてもらったけど、伝説のポケモンをあれほど近くでまじまじと観察する機会はもうないだろうねぇ。ユウキ君にもグラードンは見せてもらったけれど、あれほど興奮したのは後にも先にもないと思う」

「いいなぁ……えっなんかお手伝いするので繋ぎつけていただくとかできませんか?私も伝説に会ってみたいです。ラルトス系列の群れお邪魔して観察した記録とか、たぶんできそうですけどやってきましょうか?」

「わっはっは、気軽に言うねぇ!悪いけど無理だよ、二匹とも捕獲させてやった、みたいな感じだったから。観察させてくれたのが奇跡みたいなもんさ。マスターボールまで使ってたけど、役割を果たしたら二匹ともボールを壊してどっかいっちゃったんだ。もう二人の手持ちじゃないよ」

「マスターボールを壊してったんですか…、ていうか実在してるんだマスターボール」

「ありゃ、余分なこと言っちゃったかな。あれも一応秘匿事項だったっけか、わっはっはっは!」

 

 

オーキド博士の紹介とはいえオーキド研究所の一員というわけではないので、普通に一般人なんだけど口が緩くて大丈夫かなぁこの博士。意図はわからなくもないけど。

 

ちなみにゲームではどんなポケモンでも必ず捕まえることのできるボールであったマスターボールだが、こちらの世界では完全に都市伝説扱いである。んなもん存在してるわけないだろ&実在してたら夢あるよね&使えたらどんなポケモン捕まえる?の三点セットで語られることが常の、そこそこ有名な都市伝説だ。私もああこっちにはないのかなぁ、とずっと思っていたのだが、普通に実在してるらしい。

 

 

「あれね、伝説のポケモンとかの通常の対応では対処出来ないポケモンが暴れた時の対抗策で作られてるから。一つの地方につき片手の指の数より少ない数しか支給されてないし、制作方法も秘匿されてるけど材料もよっぽど特殊らしくて、そもそもが数作れないんだってさ。なのにあの騒ぎで3つも消費させられちゃったからホウエン地方のポケモン協会はバッタバタだよね」

「3つ?2つじゃなくて?」

「………わっはっはっはっは!………あー、これとさっきの伝説がもう手持ちじゃない話、この2つはほんとに内緒にしてもらっていい?ばらしたのがバレるとやばいところにめちゃくちゃ怒られる」

 

 

大丈夫かこのおっさん。…まぁ、最後の一つはたぶんレックウザに使ったんだろうけど。グラードンとカイオーガの出現は他地方にいる私でも調べることが出来たけど、レックウザに関しては一切情報がなかったから、隕石が降ってきたとき(こちらは降ってきた隕石が突然砕けたことも含めて世界規模のニュースになった)どうしたのかなと思ってたんだけど…この分だとレックウザに頼ったっぽいな。デオキシスとの遭遇はあったのかどうかはわからんけど。

 

 

「………わかりました。で、ぼろっぼろと色々教えていただきましたけど、私に何かご要望でも?」

「話が早くて助かるよ!君とラルトスの交信訓練、データをとらせてくれないかい?ポケモン側もトレーナー側も未熟な交信訓練って、わたしの所でわざわざやってくれるような子達はなかなかいなくてね」

「さっき言ってたミツルとかいう子のは出来なかったんですか?」

「引っ越しちゃったからね、普通に引っ越し先のポケモンセンターでやっちゃったってさ。あの子すごく条件はよかったんだけどなぁ」

「……、設備がちゃんとしてるなら構いませんよ。でもすごいですね、教導役のエスパータイプもこの研究所にいるなんて。オーキド研究所にはトレーナーから預かってるエスパータイプしかいませんでしたよ」

 

 

かくれんぼが大好きなポリゴンとか、通り道に透明なバリヤーをはってぶつかった人を笑うバリヤードとかによくからかわれていたものだ。バリヤードは紆余曲折あって最終的にマサラのとある一家に貰われていってたけど。

 

が、それを聞いたオダマキ博士はさっと目をそらした。……教導役、いないんですか??

 

 

「大丈夫大丈夫、102ばんどうろにラルトス系列が生息してるからね、コトキタウンやトウカシティのポケモンセンターにベテランのドクターとポケモンがいるんだ。そっちの協力あおぐから」

「……ならいいですけど……、あー、最後にラルトスの意見を確認してからでも?彼女が嫌っていったらだめですよ」

「勿論!君が乗り気なだけでも助かるよ、ラルトスはダメでも君のレポートは貰えるだろ?」

「……いやまぁそうなんですけども…」

 

 

 





サーナイト:♀
ぬし。別名“吉祥”。フェアリータイプを所持しておらず、エスパー単一タイプのサーナイト。通常サーナイトは緑の腕を持っているが、このサーナイトは白い腕を持っており、スカートにも見える部分は小さく膨らみを見せている。……要するに、どこぞのピジョットのように独力でメガシンカの領域に手を掛けた変異種。

主人公の未来どころか今の思考も過去の記憶も、そのまたさらに昔の記憶すら筒抜け。要は異界の記憶を持った子供に興味を持って出てきた。ラルトスが大事にされるのは当たり前として、ちょっとした助言をしたくなるほどの未来だった模様。


<厨二病>
この世界には学校(スクールのこと)と大学校と専門学校があるのみで、中学校というものはそもそも存在しない。なのでそもそも厨二の語源である中学二年生略して中二が言語として成り立たないのだが、地球における厨二病と似たような意味合いの言葉として定着が進みつつある。ネットが発祥と言われているが、この世界ではそもそもの語源ははっきりしていない。

……一人ではない、それだけの話。


<ユウキ&ハルカ>
ホウエン地方の騒乱は大体ゲームシナリオ通りに進んだが、ひょんなことからユウキはグラードンを、ハルカはカイオーガを一時期入手するに至っている。でんどういりしたのはユウキの方。ハルカはオダマキ博士の娘。レックウザは紆余曲折の上でヒガナがマスターボールでの捕獲に至っているが、隕石破壊後帰ってきたのはレックウザのみで、しかもマスターボールからは解放された状態だった。ヒガナは現在も行方不明であり、残されたゴニョニョはユウキが一時的に引き取っている。

現在各地で捕獲の報が流れる伝説のポケモン達は、ユウキとハルカの例と同じように一時的な捕獲には至っているものの、その後全てボールから逃亡して行方不明になっている。例外はNとレシラムのみである。


<トゥートゥー論文の人>
一緒に長く生活しすぎた上に本人もそれを強く望んだこともあり、精神が完全にネイティ系列のそれと一緒になってしまった人。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている。


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