獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
ホウエン地方キンセツシティのホテルで、私は明日の出立の用意をしていた。キンセツシティでの地方大会も快勝し(ロトムもようやく公式戦デビューを果たしてそれはそれは嬉しそうだった)、それなりの賞金を得たお陰でかなり広いホテルの一室に滞在することが出来ている。どれくらい広いかというと、ウインディとラプラスを出しても尚余裕があるレベルで、シンオウで借りていた家のリビングくらいはあった。セキュリティもちゃんとしているし、簡易キッチンとクリーニングサービス、ポケモンフーズ無料お試しとかもついている。さすがにいつかのローザのとっていた客室に比べれば狭いけれど、それでも私たちにとっては充分だった。
ただ、ベッドが大きいのはいいんだけど、ベッドだと体の小さい組としか一緒に寝られないのでちょっと好きじゃないな、とは改めて思った。好きではないというかぶっちゃけ嫌だったので、結局ラルトスに頼んで『ねんりき』でベッドを壁際に寄せてもらい、あいた空間に寝袋を敷いて寝ている感じである。一週間ほど連泊していることもあって、その辺はホテルの人にはチップと一緒に了承を得てきた。
まぁ、うん、寝るときは皆ボールに入ってもらうとか、日替わりで一緒に寝るポケモンを決めるとか、そういうことをすればいいというか、本当はするべきなんだけど、私が落ち着かないのだ。ガーディ様がくる前は親ですらびっくりするほど一人で寝れる子供だったらしいのだが、キャタピーがきて、ガーディ様がガーディになってからはポケモンがいないと眠れなくなってしまった。頭数的にはそろそろ皆と寝るのにも限界が来ているような気がしないでもないのだけど、いけるとこまではいきたい所存である。何せ一番ほっとする時間だし、一番安心できる空間なので。
『機材』の中身を整理し、新たに購入したものをいくつか出しやすいように表示されたリストの上の方に並べ直し、クリーニングから戻ってきた洋服もそれぞれ並べ、広げておいたマントを手に取って羽織ってみる。迷彩と割り切って購入したいてだきのどうくつ用の白いマントとは違い、今度のマントはかなりしっかりとした作りになっている。防砂用なので当たり前と言えば当たり前なのだけれど。
羽織ってくるりと一周し、姿見を覗き込むと、ふわりと舞ったマントの裾がなんだかかっこよく見えて、ちょっとだけ気分があがる。普段マントなんて身に着ける機会はないし。フスベの方とかだとマントマンがたくさんいるとは聞いたけど、ジョウト地方には結局寄らなかったので実際にマントマンを見たことは無い。ドラゴンつかいをそもそもが見たことがないともいう。というかまともにみたドラゴンタイプ、ベテラントレーナーの息子が父親から借りていたガブリアスだけだし。
ドラゴンタイプはオーキド研究所にもオダマキ研究所にすらもいなかった上、結構な人数のトレーナーと戦ってきているのだが、それでも遭遇しない。せいぜいが進化したらドラゴンタイプになるチルットに遭遇した程度だ。ローザの手持ちにもいなかったしなぁ…、難しいポケモンとは聞いていたが、バトルですら遭遇しないほどとは思っていなかった。やっぱガブリアスのトレーナーのアランに頼み込んでバトルを受けてもらうべきだったか。どっちかというと息子の方が再戦希望がしつこかったので(同い年だとは思わなかったが)苦労したくらいである。あれはほんと厄介だった。
もうこの地方で仲間にしたいポケモンであるラルトスは仲間にできたから(それでもホウエンに残っているのはイッシュで行き損ねた気候の場所があるからだ)、後はカロスで1匹、アローラで1匹、ガラルで1匹、残り3匹仲間を見つけるだけだ。仲間を集め終わって皆がある程度のレベルに達したらいよいよセキエイリーグに挑むつもりでいるのだが、それにあたってカントー・ジョウト、双方の地域のジムを制覇する予定なのである。
リーグのないアローラや形態の違うガラルは置いておいて、大概の地方において、ジムバッジは持っていると就職に有利になることがある。ある、というか職場によってはどこそこのジムバッジ取得必須とかもあるし、最低限1個は持っていた方が色々と便利になることもあって、プロバトルトレーナーを目指していなくとも、バッジを取りにいく人がほとんどである。バッジはリーグへの参加権という側面だけにとどまらず、ポケモンと暮らすこの世界において、ポケモンの扱いにある程度慣れていますよ、という証明のようなものになるからだ。大体2個目くらいまでは1匹相棒がいればそんなに苦労せずにバッジを取得できるようであるし。なので、ゲームのように特にどのジムから挑まなければならない、とかはない(ガラルは興行なのでジムチャレンジの順番は固定であるようだが)。基本的に所持しているバッジの個数によってジムの難易度が上がっていくようになっている。
カントー・ジョウトは合体してリーグ経営をしているので、カントーに8つ、ジョウトに8つジムがあるけれど、カントー・ジョウトのどこのジムでも、とりあえず8つバッジを取得していればチャンピオンロードに挑む資格が与えられる。が、まぁ猛者というのはどこにでもいて、16個集めてからチャンピオンロードに挑むトレーナーもそこそこいるのだ。8つ目以降のジムは当然バッジ8つめと同等の難易度のバトルが繰り広げられるにも関わらず、だ。ゲームになかったジムなんかも各地方に存在しているので、8つ以上のバッジを集める猛者はどこの地方にもいるけれど、さすがに16個ものバッジを集められるのはうちの地元しかない。だからカントー・ジョウトのポケモンリーグであるセキエイリーグ、他のリーグに比べて魔境って呼ばれてるんじゃないかなぁと思わないでもないが。ポケモン協会の本部のお膝元の大会なのでその辺盛り上がっているのはいいことだけれど。
マントを畳み直して『機材』につっこむ。続けて薄い素材の長袖も一枚一枚確認しては『機材』に突っ込んでいく。ターバン用の布やゴーゴーゴーグルもそれぞれ確認し、こちらはリュックの方に突っ込んだ。ついでに以前購入した貯水タンクや発電装置の方も入念にチェックしていく。ラルトスを仲間にし終わったのにホウエン地方に残っているのは、ぶっちゃけた話修行のためだ。砂漠とほのおのぬけみちが存在しているので、そこで普段と違う環境でのバトルの経験やトレーニングをしたかったのだ。砂漠は色々な地方に存在しているが、ほのおのぬけみちのような熱い洞窟という環境は滅多に見られたものではない。タライ浴をガーディにしてもらっていたように(今はヒトモシがあのタライを引き継いでタライ浴をしている)、砂漠の“すなあらし”はバトルにおける天候変化の一つであるし、ほのおのぬけみちのように熱い気候の場所はほのおタイプに弱いポケモン達にはちょうどいいトレーニング環境になるだろう。弱くなくとも過酷な環境でのトレーニングがいい影響になるのはウインディが証明してるし。
とりあえず砂漠に一か月、ほのおのぬけみちに一か月、だろうか。そのつもりで用意した最後の洋服を『機材』に突っ込み終えて、ついでに今日着ていた分の洋服も脱いでしまう。このまま風呂に入ろう。脱衣所じゃなくて普通にポケモン達の目の前で衣服を脱ぐことになってしまったが、まぁ、今更だしいいか。体を冷やさないでよ、的な声こそかけられたが、ポケモン達も慣れた物だった。
ぺたぺたと風呂場に向かう途中、ふと、自分の姿が姿見に映って足を止める。子供故か傷の治りも早いし、跡も大抵は残らないけれど、既に小さいものではあるがいくつか消えない傷が残っている。それはトレーニングの最中に負ったものであったり、バトルの際に事故で負ったものであったりと様々だ。……一番大きいのはスピアーに受けた傷であるけれど。ケロイドのようになってふくらはぎにべったりと残った跡はあまり晒したくないので、常は長ズボンやレギンスで隠しているが。というかそもそもが余計な怪我を負いたくないから、長袖長ズボンは徹底していた。
気になったのはそこではない。そこではなくて。
鏡の前で正面を向いて立ち、そっと顔に触れる。ぐに、と動いた頬は、私の記憶していたよりも随分と弾力が失せていた。
久しぶりに見たからだろう、というのはよくわかっているんだけれど、記憶していたよりも、ほんの少しだけ、私の顔は大人びていた。
そうか。………そうか、もう、大人になり始めているのか。
ついこの前11歳になったけれど、もう11歳なのか。自分の体の成長を目の当たりにしたようで、ぎゅう、と胸が苦しくなる。
結果は出ているのだ、地方大会で3回優勝したから。自分自身のバトルへの成長は少しずつ積み重ねて形になっている。そのはずなのに、レッドの背中は遠い。レッドは10歳の時にはカントー・ジョウトで殿堂入りを果たして、次の地方へと旅立っていた。
なのに、私は。
他地方を巡っているから、仲間集めに執心しているからと言えばそれまでだけど、カントー・ジョウトのみを巡っていたとしてもきっと、私の実力はポケモンリーグを超えられていないだろうという自覚があった。たぶん、チャンピオンロードは超えられるだろうが、リーグ何回戦目かで負けるだろう。体はどんどん成長していくのに、置いて行かれていくような心地が気がして心が逸る。
……まだ、まだいいだろう。でも、そのうち大人らしい振る舞いをしなくてはいけないときがくる。身長は大きくなりたいとか思っているくせに、急に現実が襲ってきた気分だった。
「らるぅ……」
諸々を読み取ったのだろう、心配そうに近寄ってきたラルトスの頭を撫でる。オダマキ研究所での訓練を終えたラルトスは(データ取りにも快く協力してくれた)、エスパー能力のあれそれについては随分達者になった。こちらに対してのテレパシーの投げかけも、控え気味だし拙くはあるけれど、少なくとも恐怖をもって身構えるようなことはしなくていいレベルには上達している。ツタージャとも、まぁ、なんか変な関係というか、なんかことあるごとに張り合うような関係性を築きだしていて、……うん、言えば張り合うのをやめるし、TPOはちゃんとわきまえるようになったからいいかなぁ…。お互いの刺激にもなってるっぽいので現時点ではそっとしておいているけれど。
大丈夫だよ、と声に出さずに伝えて、今度こそ私は風呂へと向かう。浴槽につかって念入りに体をほぐし、綺麗に体を洗い流してさっぱりした後、持ち込んでいた石鹸やシャンプー類を回収し、ホテルの寝巻を着てドライヤーで頭を乾かしてから寝室へと戻る。石鹸類がちゃんと水気を切れているのを確認して、こちらも『機材』に突っ込むと、随分と部屋の中がすっきりした。砂漠の手前辺りでいったんテントをはって砂漠用の装備に変えるつもりなので、明日ここを出るときはとりあえず通常の衣服で問題ない。
調べるべきことは調べたし、買わなければならないものは一通り揃えた。水はかなり多めに用意してあるし、スポーツドリンク系統の用意は私だけでなくポケモン達用のものも万全だ。ラプラスだけ移動が難しいので連れ歩いてあげることは出来ないのだけど、他のポケモン達は数頭ずつ外に出て一緒に砂漠を経験してもらうつもりでいるし。街中やある程度の人通りのある道では出しているポケモンは出来るだけ小型にするとか、多くても2匹程度に抑えるとかのマナーはあるが、その辺ポケモン達の領域に踏み込めば気にするべきはポケモン達のマナーだけだ。問題なく皆を外に出してあげられるだろう。