獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
「────」
寝る準備をしようと思ったところで、ラプラスにここあいてるよ、といつものようにクッションを前ヒレの間に置いた姿勢で呼ばれて苦笑する。
「まだお風呂あがりたてで私の体が熱いから、もうちょっと冷めたらね」
「────!」
いくらみずタイプが複合されているとしても、ラプラスはこおりタイプ持ちだ。生まれがいてだきのどうくつなのもあって、あまり暑い気候は得意ではない。だからこういう風呂上りとか運動した後の、明らかに自分の体温があがっているなぁというときは出来るだけ近寄らないようにしているし(バトルの後とか喜びを分かち合いたいときは別だが)、ウインディもラプラスに触れるときはあれで随分気を使って近寄っている。ほのおタイプ持ちとはいえヒトモシは体温の高い方ではないし、他の面々も体温は低い方であるので、その辺気を付けているのは私とウインディだけだけれど。
今回の修行で一番しんどい思いをするの、ラプラスではないだろうか。むしタイプ組やツタージャも怪しいところだけど。サボネア系列ならともかく、普通のくさタイプに砂漠の環境はとても厳しいと思う。それもあって今日はゆっくりさせたかったのだが、ラプラスはかまわないよ!と首を伸ばしてヒレをばたつかせた。
ふわりと宙に浮かんだバタフリーが少し強めの風をおくってよこしてきたので、ありがとうと言いながらそれをやめさせた。……こういうとこから慣らしていくと思うべきか。
ロトムがぶら下げてきたライブキャスターを受け取って、ラプラスの前ヒレの間に座り、そっとその首筋に背中を預ける。一瞬ラプラスは震えたけれど、それでも遠慮なく顔をすりつけて甘えてきたので、腕を伸ばして顔を抱きしめる。その時間は普段より少し長めだった。やがて顔を上げたラプラスが一声鳴いて、私のやっていることを覗き込む姿勢に戻る。胡坐をかきなおすと、大体いつも我先にと膝に飛び込んでくるのはツタージャとラルトスだったのだけど(それで喧嘩を始めるまでがワンセットだ)、今日は珍しくヒトモシが飛び込んできた。高い跳躍が出来るだけの脚力を持つこのヒトモシ、当然のように移動速度もそれなりなので、追い抜かれたツタージャとラルトスがぽかんとした顔で見ている。その2匹をゆっくり寄ってきたデンチュラが抱えてぶら下げ、私達から引き離した。咄嗟にもがこうとしたラルトスがはっとした顔でヒトモシを見て、デンチュラを見て、そして最後に私を見た。
「たー!」
「らる!」
ヒトモシやラルトスにおかまいなしに、なんでなんで!ともがきだしたツタージャにラルトスが声をかけて目を合わせ、そしてツタージャは動きを止めた。ツタージャはヒトモシとラルトスを交互に見て、神妙に押し黙る。何かをエスパー能力で伝えたらしい。頷いたツタージャはラルトスと一緒に体に入っていた力を抜いた。大人しくなった2匹を見てデンチュラが床に2匹をおろし、そっと離れるよう促す。ロトムがその後ろに付き添った。
……なんだ?バタフリーとウインディと目を合わせると、2匹はなんというか、すごく優しい目で私たちを見ていた。ヒトモシとはこの前進化の話をしたからそれとか?いやでも、もうちょっとしたらたぶん踏ん切りがつくから進化できると思う、的なことを伝えてきてたし、なんだろう。
ヒトモシを見下ろすと、ヒトモシは随分満足そうな顔であぐらに収まってぽふぽふと私の膝を叩いたり、腹を叩いたりしてもぞもぞとベストポジションを探している。やがて落ち着いたヒトモシは手を貸して、と私の腕に手を伸ばしてくる。
「モシモシ」
「…?今日は指から欲しいの?」
それこそツタージャの面倒を見始めてからは指をしゃぶる動作はすっかりやらなくなっていて、生命力を食べたい時は一声かけて寄りかかってくるとか、そういう感じになっていた。オダマキ研究所で指を突っ込んだ時に素直にもにもにやったことに驚いたくらいだ。今日はヒトモシが甘えてきてくれる日かな、とちょっと嬉しくなって、ライブキャスターを降ろすと、以前していたように背中を支えてやりながら指を差し出す。今日はまだ誰の生命力も食べていなかったはずだから、食べていいよ、と伝えながら。
予想に反して、ヒトモシはすぐに口に指を含むようなことはしなかった。ヒトモシの尖った唇にふに、と私の指が触れる。私の手を抱えたヒトモシが蝋のような感触のするその手でやわやわと私の手を揉んで、つぅ、と指を辿り、もう一度口先で指にそっと触れる。
「……ヒトモシ?」
ヒトモシは返事をくれなかった。ぎゅう、と手にしがみついて自分の口元に指を引き寄せたヒトモシは、ようやく惜しむように私の指を口に含んだ。もに、と味わうように口元が動いて、それこそゆっくりと私の生命力を捕食していく。いつもはもうちょっとペースが早いのに、今日はことさらゆっくりとした捕食だった。なんというか、味わうような、そんな感じの。
やがて満足したのか口から指を離すと、もう一度私の手のひらを抱きしめる。
「……どうしたの?」
「モシモシ」
笑ったヒトモシは私の膝からぴょん、と飛び降りて、こちらを振り返り、後ずさりをして距離をとる。
カッと、その体が光を放った。
進化の光がヒトモシを包む。ぐにょぐにょと蠢きながら姿を変えていく様子を見つめながら、ようやく私は気付いた。ヒトモシには口があるが、ランプラーとシャンデラには
「ラァーン…!」
鳴き声と共にその姿がふわりと宙に浮かび、くるりと一回転して進化の光を弾き飛ばす。きらきらと光が飛び散った後、そこにはランプラーの姿があった。
「……おめでとう、ランプラー」
「ラン!」
その姿はどこか誇らしげで、ランプラーは嬉しそうに笑った。
<進化>
進化の目安は大体がレベルによるものであるが、この世界では進化可能レベルに達したからといって必ずしも進化するわけではない。進化可能になっていてもメンタルの問題や身体の問題で進化しないものもいるし、原因不明で進化しないものもいる。かと思えば、日常生活でゆっくり経験を積んでいたポケモンがある日突然進化することもあるし、身体の変化を怖がって、進化だけはしたくないと思っていても急に進化してしまうこともある。ある程度予見して止められるものもいれば止められないものもいる。
個体差が非常に激しい領域で、早い話がそのポケモンによる、と言える。姿かたちが大きく変わるということに強い怯えを抱くポケモンもおり、進化したくないとトレーナーに訴えるポケモンは一定数存在する。
……が、バトル業界においては進化済のポケモンが活躍することが多く、未進化のポケモンは強くなるための努力を怠っているとして、一時期は未進化のポケモンがプロの大会に出場しただけでブーイングが浴びせられていたこともあった。
尚、その全てを捻じ伏せたのがレッドとそのピカチュウであり、レッド台頭以降はブーイング文化は廃れていった。