獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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Re:Birthday

 

 

しかし、あれ?テントの外に出しておいたはずのラプラスが見当たらず、首を傾げる。地面を見ても這いずっていったとか、氷で道を作ったという様子はなかった。どころか、いたはずのところに跡が残ってはいたが、それ以上の跡もない。

 

 

「……えっ、ラプラスは?というかデンチュラとランプラーとラルトスもいないよね?」

 

 

私自身の疲れと、時折ずり落ちてくるツタージャを支えて戻していたのもあって、今日はちょっとテント内部の設営には手間取った方だ。その間に何があったのか。テントの横でお座りしていたウインディがぴる、と耳を揺らしてこちらを見て笑う。反応からして何かあった、という感じではなさそうだ。

 

 

「ガウ」

「……見てびっくりするぞ?えー、あんまり離れられると不安なんだけどな」

 

 

レベル的には早々手を出されないメンバーではあるのだけど、野生のポケモン相手の交渉力が……あー、いや出来る面子か、あれ。うちでコミュニケーション能力がトップのラプラスがいる時点でそんなに心配する必要はないか。

 

 

「どっちにいったの?」

 

 

水場の方、とウインディが視線を向けたので、ツタージャとロトムをウインディに預けると、バタフリーを呼び戻してついてくるよう指示を出す。木立に隠れて水場は見えない場所にテントを設置したのだが、その木立を超えようとしたところで何やら水場の方で鳴き声が聞こえだした。同時にこちらに向かってランプラーが飛んでくる。

 

 

「ラン!ラー!!」

「……溺れた!?」

 

 

慌てた様子のランプラーから読み取れたのはそれだった。急いで駆けだし、水場に向かうと、岸辺で私のポケモン達が騒いでいる。いったい誰が、と思って素早く視線をはしらせるが、ラプラス、デンチュラ、ラルトス、そして私に並んで飛ぶランプラーと欠けた仲間はいなかった。んん?と思うも、とりあえず水場までダッシュする。…砂場のダッシュ、結構しんどいなこれ!

 

水場にたどり着くと、皆で水の中を覗き込んでいた。野性のポケモンが落ちたのか、とやっと気付いて、同じように水の中を覗き込むも、それらしき姿は見当たらない。水底が普通に見えただけだ。岩が積み重なっていたり、泥のようなものが溜まっていたりする普通の水場だ。……ええ?

 

横から皆が落ちた!ポケモンが落ちた!あそこ!あそこの隙間!と訴えてくれているのだが、見当たらないというか見えない。ヒレ先や足先であの辺!とさしてくれてるのだけど、全然見えなかった。困り果てて顔をあげると、皆も焦った顔で困っている。

 

 

「らる!」

 

 

埒が明かないと思ったのか、声を上げたラルトスと目を合わせる。ざざざ、とイメージが流れ込んできて、軽くこめかみを抑えた。鈍痛があるが今はそうもいっていられない。

 

 

大きな口のポケモン。──ナックラー?が、もぞもぞと水場に寄ってきて、一段低くなっているところから水を飲みだしたのを遠くから見ているシーン。その足元は一段低いからか泥にまみれていて、ぐい、とナックラーが頭を下げた途端、重心がずれたのか、そのままずるっと滑って頭から水の中に突っ込んだ。ナックラーの恐怖がラルトスを貫く。

 

 

そこで私はざっと青くなる。ナックラーはじめんタイプだ、水中が苦手どころの話ではない。

 

 

慌てて全員まとめて『テレポート』で運び、水辺に駆けつけたラルトスが見たのは、水中でもがきながら沈んでいくナックラーが、岩の隙間にずるずると滑り込んでいく所だった。恐怖にもがいたせいで、逆に隙間の奥まで入り込んでしまった様子がよく伝わってくる。

 

 

イメージが途切れ、慌ててターバンとマントとウエストポーチを外して身軽になり、首から下げていたゴーゴーゴーグルをつけなおす。本来の使い方ではないが気密性はある、なんとかもつだろう。

 

なんでポケモン達が動けずに助けを呼びにきたかって、それでか!ラプラスじゃあんな隙間に首が入らないし、デンチュラの体はそもそも泳ぐのに適していない体をしているし、ランプラーは水には慣れてきたが、潜ってあのナックラーを引きずり出して浮上する、なんてとてもじゃないが出来ない。泳げるウインディが規格外なのだ、下手すればもう一匹溺れてしまう。ラルトスの腕では短すぎるし、視認しないと『ねんりき』を上手に操れないのだ、あんなとこ滑り込んでたらどうしようもない。

 

ウォッシュ形態のロトムを呼びに行くか一瞬迷ったが、時間がない。…………私の身長くらいか、ここの水深。覚悟を決めて水場に入り、大きく息を吸ってから一気に潜る。幸い、ゴーゴーゴーグルは役割を果たしてくれて、水が入ってくるようなことはなく、視界はクリアだった。ラルトスの伝えてくれた岩と岩の隙間に腕を突っ込み、それでも何も手に触れなくて、ええいままよと頭ごと突っ込む。視界はゴーゴーゴーグルに岩がざりざりとすれているのが見えるばかりで、私はほとんど腕先だけで隙間の中を探りながら進んだ。腰半ばまで隙間に入り込んだ状態で、やっとつるんとした頭らしきものが手に当たり、べちべちと触って感触を確認する。……たぶんこれだ。

 

頭らしきものをしっかり掴み、自分の足に力を込めて体を抜いていく。息が苦しい。よほどがっちりはまりこんでいたのか、しばらく抵抗のようなものがあったけど、ずる、と引っこ抜けてからは早かった。身に纏っていた薄手の衣服が破け、下の皮膚が擦りきれるのも構わずに一気に体を引き抜くと、間違いなくナックラーだった。薄目を開けていたが、これ、意識あるか…?

 

ナックラーを掲げて水面に浮上すると、察したデンチュラが一足先に糸でナックラーを釣り上げてくれ、私の方はラプラスが首根っこをくわえて引き上げてくれた。

 

 

「……げほっ、ごほ、……ぅぇ、」

 

 

そっと地面に降ろされた途端、体を折って咳き込み、軽くえづいて呻く。結構息がやばかった。濡れた体に砂がまとわりついて気持ち悪い。

 

 

「ナックラー、は、」

「チュララ!」

 

 

デンチュラは比較的やわらかい草の上にナックラーを降ろしてくれていた。さっきまで開いていた目が閉じている。ばたばたと近寄って口元に手をかざす。……これ、呼吸、してなくないか?

 

 

「どうしよう、」

 

 

ナックラーを仲間にする予定はなかったから特に身体構造について調べたことはないし、ナックラー用の緊急救命のやり方なんてわかるはずもない。ポケモンセンターまでだって、ウインディにいくら頑張ってもらったとしても4日はかかるだろう。全然間に合わない。ボールに入れたって、別に時間が止まるわけではないし、ただ安静状態を保つことになるだけだ。怪我には多少ましかもしれないが、結局はそのまま放っておけば怪我が悪化するだけだし、安静状態なんて水を飲んだであろうナックラーに効果があるわけがない。ボールの中で死んでしまう。

 

……いや、でも、何もしないよりは何かした方がましだ、ええい、ままよ!

 

仰向けの体勢をとらせ、体に触れて心臓の拍動がある場所を探す。ざっと触ってみたけど、素人に常から触っているわけでもないポケモンの心臓の位置なんて分かるわけもなかった。……体型が近いの、ガーディか。ウインディがまだガーディだったころ、スクールで教えてもらったやり方でいこう。大体この辺にあってくれ、と願いを込めて、ナックラーの胸の中心部を少し速いスピードで心臓マッサージする。押して、戻して、押して、戻す。本来であれば交代要員に代わってもらうとかしてもらうべきことではあるが、あのテントの主が見当たらない以上、人間は近くにいないのだ。一人でやるしかない。

 

自分の顔から滴っているのが水なのか汗なのかもわからなかった。ポケモン達に固唾をのんで見守られながら、随分長い時間心臓マッサージをしていた気がする。がぼ、とナックラーの喉の奥が音をたてたのが聞こえて、慌てて心臓マッサージの手を緩め、ナックラーの腰を掴んで逆さづりにして上下にゆすり、背中を叩く。がぼ、ごぼ、と嫌な音がして、一気にナックラーの口から水がこぼれだしてきた。同時にせき込むような動作をしたナックラーの体が痙攣し、薄く目が開く。

 

口元に手をやると、わずかではあるが風が感じられた。……呼吸、し始めた。

 

 

「ふーーーー……よかった……」

 

 

へたりこんだ途端一気に疲れが襲ってきて、体が重くなる。心配そうにラルトスが体を寄せてきて、デンチュラは放り投げたマントなどを引きずってきてくれた。ラプラスは顔を上げて警戒の体勢に入っている。……あれ、バタフリーとランプラーは、と視線を巡らせると、ちょうど2匹が『機材』と出してあったタオルをぶら下げて飛んで戻ってくるところだった。……気が利くなぁ、ほんと。

 

濡れている現状がいいわけがない、ランプラーの手にかけられていたタオルを受け取って綺麗にナックラーを拭き上げ、新しいタオルでくるんでから砂をはたいたマントでくるみ直す。体温が下がりすぎるのが怖かった。『機材』からはまだもちもの処理をしていなかったオボンのみを取り出し、握り潰してナックラーの口の中に流し込む。……嚥下したのかわかりづらい。覗き込むと一応口内の果汁は無くなっていたので、何度かそれを繰り返した。都度口内を覗き込むのは手間だったが、それ以外に確認法がないのだから仕方がない。オボンのみを絞りつくしたところで丁度ナックラーの目が閉じた。少し焦ったけれど、単純に体力回復のために眠りに入ったらしい、小さく寝息が聞こえてくる。

 

回復効果のあるオボンのみが効いてくれればいいけれど。……窒息をHP消費に含めていいのか悩ましい、状態異常と考えるならラムのみも試した方がいいのかな。正直きずぐすり系も適応かというとそうでもない気がする。溺れて水を飲んだポケモンの蘇生法にその辺を使うものはなかったはずだった。大体、トレーナーが教わるレベルのポケモン緊急救命法は現状維持しながらポケモンセンターへ、が基本であることがほとんどなのである。……くそ、ポケモンセンターに行けない場合の勉強もしとくんだった。

 

果汁でべたべたになった手は水場で洗い、ラプラスをボールに戻し、ナックラーを抱えてキャンプへ戻る。さすがにツタージャとロトムも目を覚まして、ウインディと一緒に心配そうに待っていた。なんとかなったよ、と声をかけると、ほっとしたような反応が返ってくる。

 

しかし、自分も濡れているので居心地が悪い。ちらりと辺りを見回すと、察したらしい上空のバタフリーから誰もいないよ、ポケモンもいない、と伝えられて、ナックラーをいったんデンチュラに預ける。デンチュラは器用に背中にナックラーをのせてテントに向かっていった。後にバタフリーとウインディ以外のポケモン達も続く。

 

ぐっしゃぐしゃになった上下を脱いで下着姿になり、キャンプから離れたところで思いっきり絞る。ある程度水を抜いてからはたいてキャンプの中に戻り、洗濯紐にひっかけて、一瞬迷う。ストーブをつける?……いや、ウインディに頼もう。『機材』から下着を出して取り換え、洋服を出して身に着けて、外のウインディをボールに戻し、テントの中に出し直す。代わりに腰に付け直したボールからはラプラスが飛び出て行った。

 

 

「ラプラス?」

「────」

 

 

ラプラスは任せて、今一番元気なのわたしだから、とそのままそこで鎮座する姿勢をとった。シートもいらない、と重ねてラプラスは首を振る。今まで野営にあたって本格的な警戒をするのはバタフリーとウインディの役目だった。レベルが高く、警戒慣れしているからだ。二匹とも他のポケモンにその辺教え込んではいるようだけど、移動中のそれではなく、キャンプをはった状態での警戒を他のポケモンにやってもらったことはまだない。当然ラプラスも、だ。

 

バタフリーが見てくれているとはいえ、ここにきて初日だ、ナックラーという不安要素もいるから警戒するに越したことはないのだけど……、いや、自分から言ってくれたんだ、任せよう。ちらりと上空のバタフリーを見ると、心得たように頷きが返ってきた。

 

テントに引っ込んで、ウインディに頼んで前足の間にナックラーを突っ込ませてもらい、私くらいの体温で、と注文をつけると、ウインディはわかった、と頷いた。

 

そこまでやって、今度こそ体から力が抜けて、くたりと座り込み、ウインディの腹の方にもたれかかる。わらわらと皆が寄り添いに来てくれて、ますます力が抜けた。

 

ポケモン達は1日交代だったけど、私は普通に毎日砂漠を歩いていた。道中何度かウインディに乗せてもらったとはいえ、それなりの速度で走るウインディに乗り続けるのにも体力がいる。やっとたどり着いたオアシスで突然の全力ダッシュと潜水、そして全力の心臓マッサージだ、疲れないわけがなかった。明日はもともと休息をとるつもりだったけど、……今からもうなんか、ちょっと休みたかった。少し寝るか。ナックラーに何かあれば誰かが起こしてくれる。夕方になる前に起きればいいだろう。

 

 

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