獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
砂漠方面はさっきバタフリーが見てくれたから、このオアシス内部か、それかやっぱり岩壁の洞窟を探すか、だろうか。寝ている野生のポケモン達を刺激しないようバタフリーの先導を受けてオアシス内部を歩き回ってみたが、それらしき人影も野営地も見当たらなかった。……やっぱり岩壁?足跡とか何かの痕跡がないかと例の高くて大きいテント近くまで寄ってみたけれど、とっくに消えてしまっているのか見当たらなかったし。
このオアシスから岩壁まではそう遠くない、ちょっと岩壁沿いを歩いて、そうしたら自分のテントに戻ろう。頑張って歩いてはいるが、足が鉛のように重くなってきていた。筋肉痛の気配すらある。オアシスについて気が抜けてきている証拠だろうか。
……が、ある程度岩壁に近寄って、辺りの砂漠にごろごろと岩が多く見えるようになってきた辺りで、ランプラーが反応を示した。
「……ラァ…?」
「……あ、いるの?やっぱり」
「ラン」
ランプラーは体全体を使って頷いた。続いて、ぽん、と私を叩いたランプラーが1度鳴き、次にボールを叩いたランプラーは10回手を振った。
「…人間1人とポケモン10匹?……それだけいるなら目立ちそうなものだけど」
「ラー」
背伸びをして岩壁周りを見回してみたが、それらしき影はなかった。夜だから見えづらいだけだろうか。首を傾げた私に、ランプラーはもう一度ボールを叩く。
「……ああ、ボールの中なのか。そういうのも分かるんだ。すごいね」
「ラン!」
嬉しそうにくるりと回ったランプラーの頬を撫でて、空のバタフリーにハンドサインを送る。高度を下げたバタフリーにランプラーを指して、ランプラーの先導に切り替えることを伝える。了承したバタフリーがくるりと一回転したのを見届けて、ラルトスを見下ろした。
「ラルトスはどう?」
「……らる」
ラルトスの方は思念を拾えていないらしい。……寝てる、とかならいいけれど、そうじゃなかったら嫌だなぁ。この環境でポケモンを一体も外に出していないのも気にかかる。今までの進行方向とは少し進路を変えて、ランプラーに先導されていくと、急にラルトスがべしべしと私の足を叩いた。………今足は叩かないでほしかったかな…自宅を出ていてだきのどうくつまでの強行軍をした時以来の筋肉痛の気配がしてるから……。
「らぁ!?らる……」
「ああ、いや、大丈夫、それよりどうしたの」
「らるる!!」
頭を抱えたラルトスが、ふらふらとさ迷い歩くようなジェスチャーをして、体を震わせてこちらを見る。……どうやら思念を拾えたらしい。
「予感的中ってこと?苦しがってる?」
「らる!」
──ヌケダセナイッテ。クルシイッテ。
捕捉のように投げかけられた思念に、小さく呻く。出てきてよかったと思うべきか、なんと思うべきか。岩壁近くで抜け出せない、だと、落盤に巻き込まれたとかか?そうなると私達も不用意に近づくのは、と思って岩壁を見回してみたが、最近崩れたらしき場所は見当たらなかった。それか流砂?いや、こんな地形がしっかりしている場所で?
「とりあえず、余り岩壁に近寄りすぎないように慎重にいこう。にしても、全然それっぽいもの……は………」
さくさくと砂漠の上を歩いていた足がゆっくり止まる。進行方向に見えていた岩壁の割れ目というか、影か何かだと思っていたそれが、近寄るにつれ、なんというか、見覚えのあるシルエットに見えてきたのだ。
具体的に言うと、人間の下半身というか。
「……ええー…?」
よくよく見ると、その近くの岩陰からリュックサックの紐がはみ出しているのが見えるので、荷物も丁度見えない所に置いてあったのだろうというのはわかったけれど。
カーキ色のズボンをはいている下半身が崖から突き出している姿はいっそ異様だ。特にこんな人の領域でない、大自然のど真ん中で。………いや街中でもこんなの見たら普通に首をひねるどころかジュンサーさんを呼ぶやつだ。
中途半端に積みあがった岩がその突き出た下半身の真下辺りにあったので、たぶんあれを足場にしてあの穴に体を突っ込んだはいいけど、岩が崩れてしまったかなんかして抜け出せなくなったとかそういうあれなのだろうが。見たところボールベルトごと岩壁の穴に体を突っ込んでいるせいで、ボールの中のポケモン達も迂闊に外に出ることが出来ないでいるのだろう。下手すれば出た瞬間にあの穴の中でトレーナーを圧迫して殺しかねないし。一匹くらい外に出しておけばいいのに……何やってるんだ……。
「ラン?」
「……あー、うん、………うん……」
助けないの?とランプラーに聞かれたが、ちょっと…その…なんていうか……ナックラーを助けた後にこの、思いっきり、あー……ドジな方向にやってしまった人間を見てしまうと、大分脱力するというかなんというか。
「らる!」
「……うん、そうだね…」
ラルトスに早く!と促されてやっと歩みを進める。近づいてみればよくわかるが、力なく垂れ下がった足が纏っているズボンは、よほど暴れたのか擦り切れてボロボロだ。いつからこうだったのかは知らないけれど、こういう小さなことで悲惨な目にあうこともあるという教訓で覚えておくべきことだろう。たぶん。いやよっぽどこんなことないだろうけど。
また遠い目をしそうになって、どうにかやる気を取り戻そうと思考を変えてみる。うん、いや、中の人がしんどいことには変わりがないのだ、いつからこうなのかは知らないけれど、脱水症状を起こしていてもおかしくないし、見たところ砂漠の昼間用の装備だから夜の今は寒くて仕方がないだろう。低体温症の可能性すらある。というか、どこぞのポケモンに尻に噛みつかれてたっておかしくなかったわけだから、そう思うとよく無事でいたものだ。
…………とか考えてみたけど、うん……うーん……あんまりやる気でないなぁ…いや悲惨だし間違いなく助けがいるであろう状況なんだけど……絵面が絵面だから………。だって人間が崖に突き刺さってんだよ……ほとんどギャグじゃん……。
……………ああ、そうだ、助けついでにこれをネタにバトルを強請ろう。そうしよう、と心に決めた途端、気分が上向いたのが分かってちょっと自分に笑ってしまった。
下半身の近くにまでいって、まずは声をかけてみる。
「……すいませーん…大丈夫ですか……?」
「~~!!!???」
一瞬飛び上がったような気配がして、中で何かぶつけたのか、痛そうな悲鳴が響く。
「……大丈夫ですか?」
「~~……、~~?」
何かを喋っているっぽいのだが、くぐもっていて完全に聞こえない。どんなはまり方してるんだ、この人。
「あの!声聞こえてます!?」
「~~!!?」
あっこれお互いの声聞こえてないやつだな、と早々に判断して会話を諦め、とりあえず足を掴む。一瞬足は暴れそうになったが、すぐにくたりと力をぬいてくれた。察してくれたらしい。ただ、大人の、たぶん男の足のせいか、持ち上げるだけでも結構重い。というか普通に私の身長が足りてない気もする。
それでもなんとか両脇に足を一本ずつ抱え、ふん、と気合を込めて引いてみるが、びくともしなかった。バタフリーが心配そうにこちらをちらちらと見ながら警戒してくれている中、ランプラーとラルトスも加わってくれたが、それは変わらずである。大きなかぶか何かかこれ。
一旦足を降ろし、背伸びをして埋まっている穴の辺りを見てみるが、どうもベルトかなにかが引っかかっているようだった。いやまぁ、足の力で体を抜こうとしたりとかはしただろうし、成人男性かそれに近い体格の人間の力で抜こうとして無理だったんなら……私の力じゃ無理なのか、やっぱり?
「……どうしよう」
こんな絵面でナックラーより苦戦するってそんなことある?
ふと思いついてラルトスを見下ろすと、私の思考を読み取ったのか、ラルトスは嬉しそうに胸を張った。お願いするか。
辺りを見回して柔らかそうな場所を探すと、ちょうど岩の見当たらない砂場があったので、そちらを指さす。頷いたラルトスが、よっこらしょ、と飛び跳ねてぶら下がった足に抱き着く。それを確認して念のため後ずさりし、ランプラーも察したのか一緒に距離をとってくれた。
「………よし。ラルトス!『テレポート』!!」
「らる!」
次の瞬間、抱き着いた人間ごと転移したラルトスが、先ほど指さした砂場に人間ごと落下した。空中でラルトスが上手に人間の足を蹴ってちゃんと体勢を立て直して着地したのが見えたので、体捌きの訓練の結果が出ているのだろう、後でほめておかなきゃ。人間の方はくの字の体勢のまま頭から砂場に突っ込んでいた。悪いがそっちは知らん、自業自得だ。
駆け寄ってきたラルトスを抱き上げ、ゆっくり近づくと、その人はくの字の体勢のままべしゃん、と横倒しになった。…その後動きがない。あんまり近づきすぎてその人が連れたポケモンの方を刺激してもことだ(主であるトレーナーが傷ついた場合、正常な判断が出来なくなるポケモンというのは多い。トレーナーの方ももちろんそうだが)、ほどほどの距離を保って声をかける。
「……あの?大丈夫ですか?」
「あー…………、うん、ありがとう……たすかったよ……死ぬかと思った…」
「でしょうね……」
申し訳ないがでしょうねとしか言えなかった。
「えーっと、人間のお手伝いがいりますか?それとも貴方のポケモンで十分ですか?」
「…!……ああ、いや、……そうだな、申し訳ないが少し手助けを頼んでもいいかい?さっきから動こうとはしているんだが、体が固まってしまっていて……。移動はメタグロスに頼むから、少しだけ付き合ってくれると嬉しい。勿論その分のお礼もするよ、本当に助かったから」
「わかりました。……近寄っても?」
「大丈夫。……メタグロス、彼女のサポートを」
しかしメタグロスの名前が真っ先に出てくるってすごいな、強力なポケモンとして名高いが、まともに手懐けている人間なんてそうはいなかったはず……、…………いや、待って、まさか、そういう?
ボールから出てきたメタグロスが色々と察したのか沈黙しているのを横目に、その人の頭部側に回って、そーっとその人が頭部につけていたターバンを外す。
「……あのー、今聞くことじゃないとは思うんですが、何してらっしゃったんですか、チャンピオンダイゴ」
「ははは………」
ターバンの下から現れたのは、まぎれもなくホウエン地方チャンピオンのダイゴの顔だった。……いやほんと、何やってんですか。
壁 尻 大 誤 算