獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
「ちょっとね、素敵な石の気配がしたから深追いをしたらああなっちゃってね……、死を覚悟したのは久しぶりだったよ、本当にありがとう」
「いえ、困ったときはお互い様ですし」
次の日の昼、ダイゴのキャンプ内で私はダイゴと向き合っていた。一応無難な返事を返しはしたが、私の今の表情はどうなっていることやら。あの後真っ青な顔でガタガタ震えだしたダイゴの様子をみれば、案の定色々な症状を引き起こしかかっていたので、大慌てでキャンプ地まで運んだのだ。一応ダイゴも色々と指示してくれようとしたり、動こうとしたりはしてくれていたのだが、正直使い物にならなかったのでかなりばたばたしてしまった。自分の『機材』から毛布を引っ張り出した辺りまでがダイゴの限界だったのだろう、すぐ力尽きて眠りに入ってしまったし。
最悪町の方まで看病しながら連れて行かなければいけないかと身構えていたのだが、大分回復していたのでほっとした。
しかし、昨日は夜まで忙しい日だった。ダイゴの面倒を見ていたせいで、保護していたナックラーが出て行ってしまったのにも気付かなかったし。ご飯はきっちり食べたようだけど、その後のばたばたのせいでいつの間にか姿を消していたのに誰も気づかなかったのだ。まぁ、あちらは元気になったならいいと思うしかないだろう。元より野生の子だし。
「そういってくれると助かるよ。……にしても、最近話題の子に助けられるなんて、なんだか懐かしい気持ちになるね」
「……話題ですか?」
「君だろう?マサラタウンのラディア。色々チェックしてるからね、アマチュアカップだろうとカイナ大会の最年少優勝記録更新した子の名前くらいは知ってるさ」
「……ああ」
ユウキもハルカもミツルもカイナ大会に出たことがなかったようで、確か私が最年少記録を更新することになったんだっけか。あの時はまだ10歳だったし。今は11歳だけど。
「チャンピオンに知っていただけているなんて光栄です」
「……もうちょっと興味がありそうな顔で言ってくれてもいいんだよ?さて、本題に入ろうか。お礼は何がいい?素敵な石の詰め合わせ?それとも換金できるきんのたまセット?デボンにかけあって、何かを格安で買えるように頼んであげてもいいよ」
「それは勿論、バトルで」
途端に空気が冷えた気がした。キャンプに設置されたベッドの上で身を起こしただけのダイゴがとても強大に見えて、膝に抱えたバタフリーの前で握った手を強く絡み合わせた。
「…間抜けを晒しはしたけれど、ボクはチャンピオンだよ?バトルを挑む意味、分かってる?」
「ええ。……いずれレッドを倒したいんです。強い人とはいっぱいバトルがしたくて」
じっとダイゴの目を見返す。チャンピオンとはその地方のバトルの頂点に立つものが持つ名前だ。数多のジムを、チャンピオンロードを、ポケモンリーグを、してんのうを超えてやっと戦える頂点の名前。野良でバトルを挑むべき存在ではないし、挑んだところで応えてくれる存在でもない。チャンピオンとのバトルにはそれ自体に多大な価値がある。野良でバトルをして自ら価値を下げるようなチャンピオンなんてどこの地方にもいない。どのチャンピオンだって、どれだけちょっとイカれた言動をしていたとしても、そこだけは譲っていない。わかっている。これはルール破りの願いだ。……でも、今挑みたかった。今の自分たちの実力が知りたかった。
「……、レッドを倒したいとは大きく出たね。本来は協会から理由のない野良バトルは禁止されているんだけど……、命を救われているからね、うん。理由がないわけじゃない。いいだろう」
「…じゃあ!」
「バトルは明日でいいかい?ボクも本調子じゃないし、君だって無理をしただろう。今日はゆっくり休むといい」
「はい!ありがとうございます!」
「ふふ、どうせこんなとこにくる人間はいないだろうし、派手にやろうか」
よっしゃ、と小さくガッツポーズをしてしまいそうになって、慌てて止める。……微笑ましそうな目で見られてしまった。
自分のキャンプに戻り、うきうきしながら皆のコンディションを確認していく。昨日のばたばたに結局皆つきあわせてしまったから(ダイゴの手持ち、悉く人間のお世話に適していない形状のポケモンばかりだったのだ。精々メタグロスとネンドールがエスパー能力でサポートできるとかそのレベルだったので、ポケ手が足りなくなって皆を起こして手伝ってもらうことになった)、疲労が見られるけれど、今日ゆっくり休んで一晩過ぎれば問題ない範囲だろう。しいて言うなら私の筋肉痛が酷いくらいだけれど、こっちは若さに期待するしかないかなぁ……。そんなことを考えながら、一匹一匹軽くマッサージをしつつ丁寧に体のメンテナンスをしていく。テント内には最近導入した巨大シアターを設置して、持っていたダイゴのバトルビデオを流し続けることにした。前から見ていたものではあるけれど、ダイゴを掘り下げて対抗策を練ったことはまだ無かったのが痛い(このトレーナーに対して私達ならどう戦うか、というのをポケモン達と相談しながら掘り下げる、というのをちょくちょくやるようにしているのだ)。今からやっても付け焼刃にしかならなさそうだが、メンテナンスが終わったらもう一回皆で頭から見直そう。
「────?」
「ん?」
ラプラスの体を綺麗にしてやっている時、気持ちよさそうな顔をしていたラプラスが、そういえば、と一声鳴いた。交互に私とラルトスを見て、もう一度鳴く。ラルトスの方も立ち上がってこちらに歩いてきた。
「何?外に出たいの?」
「────」
どうやら見てほしいものがあるのかな、と読み取ったところで、そういえば昨日のラプラスの移動の謎を解き明かせていないことを思い出した。あの話か?
2匹を連れて外に出ると、昼過ぎの砂漠はオアシス内とはいえ随分と暑かった。どっと汗が噴き出してくるような心地がする。ちょっと目を細めて辺りを見回してから、2匹に視線を戻した。ボールに入れたラプラスを少し離れたところに出すよう伝えられたので、私はテント側に立ち、ラプラスをテントから出来るだけ離れたところに出してやる。ラルトスはててて、とラプラスの近くに駆け寄った。
「────!」
「らるる!」
見ててよ!と2匹が鳴いた。頭を下げたラプラスの顔によじよじとラルトスがよじ登る。ちゃんと登り切ったところでラプラスが頭をもたげ、ラルトスはなんとか落ちずにバランスを保って立っていた。大丈夫かな、あれ。
微笑ましく見ていると、唐突にラプラスが浮いた。浮いた!?そのまますーっとこちらに滑ってきて、泳いでいるような仕草でゆっくり旋回する。ひれがわずかに動いていて、本当に宙を泳いでいるようだった。よくよく見ると、ラルトスが『ねんりき』を発動していて、ラプラスの思考を読み取りながら、ラプラスの行きたい行き先へとラプラスを運んでいるようだった。じょ、上手にエスパー能力を使えるようになって…!
くるりとテント前を一周した後、私の前でふわりと着地した二匹に飛びついて、思いっきり抱きしめる。
「よく考えたねぇ!すごいじゃない!」
「──!」
「らる!」
話を伝えてもらうと、どうやらキンセツシティでラルトスにベッドを運んでもらったところを見て、ラプラスが思いついたことだったようだ。最初はラルトスも驚いたようだったが、自分の鍛錬にもなるから、と二匹で夜に色々と相談していたらしい。昨日オアシスについて、やっと完成したのだそうだ。
「────、──?」
「いいにきまってるじゃん!」
地上の移動法としていいと思うの、覚えられそうな気がするから、ラルトスにこれ教わりたい、いい?そんな感じのニュアンスの鳴き声を聞いてもう一度ラプラスに抱き着き直してしまった。ラプラスの頭の上のラルトスが落ちそうになったので、慌てて抱き留めながらそちらも抱きしめる。バタフリーの朝の自主練もそうだし、ウインディの泳ぎたいという意思もそうだけど、ポケモンの方から色々考えて動いてくれることのなんて嬉しいことか!
「ラルトスも頑張ったねぇ、気持ちを読み取りながらわざを使うって難しかっただろうに!」
「らるる!」
昨日の体捌きもそうだったけど、やっぱりポケモン達の成長が感じられる一瞬というのは何度味わってもいいものだった。
「そうか、ラプラスには『サイコキネシス』とか『みらいよち』を覚えられる素地があるものね、そうか…!」
ラプラスにはわざマシンで覚えられるわざの一つとして確かにエスパータイプのわざがあった。しかし、よく気づいてくれたものだ。確かに自分のサイコパワーで宙を飛んでしまえば地上での移動速度の遅さは改善されるだろう。問題は使いこなせるかと、攻撃の時に上手にわざを切り替えることが出来るかだけど、方向性としてはとてもいいと思う。『ぜったいれいど』による氷のフィールドづくりと合わせて選択肢の幅が広がるし、何よりラプラスが普通に陸上を移動できるようになるのは日常生活をおくる上でもとてもいいことだった。
いくつか今後のプランを考えて、ざっと方針を固める。
「よしよし…、そしたら、ちょっと提案させてもらってもいい?今、私の手元に『サイコキネシス』のわざマシンがあるの」
使い捨ての安いものではなく、ちゃんと複数回使えるものだ。バタフリーに覚えてもらおうと思って用意したものだけど、結局バタフリーは『サイケこうせん』の方を好んだので使わずにお蔵入りになっていたものだ。
「ラプラスはこれで『サイコキネシス』が覚えられると思う。ラルトスもこの前『ドレインキッス』を覚えてたから、もうちょっとしたら『サイコキネシス』を自分で覚えられると思う。だけど、ラプラスと一緒に先に覚えちゃおうか。それで、2匹で練習するの。どう?」
ホウエン地方のラルトスが『ドレインキッス』を覚えるのは大体22レベルとされている(キルリアへの進化は20レベル程度とされているので、とっくに進化が始まっていてもおかしくなかったけど、彼女が進化しないのはたぶんツタージャと同じ理由だろう)。『サイコキネシス』の方は27レベルだったので、本当にあと少しではあったけど、ここまで色々操れるようになったのなら先に教えたところで問題はないだろう。
果たして、2匹は元気よく頷いてくれた。今日新しいわざを覚えてしまうと明日のバトルに響くかもしれないから、わざを覚えるのは明後日ね、と伝えると、ちょっとがっかりした顔をしていたけれど。強力なわざや今まで使ったことのないタイプの技を覚えた後は、慎重に使い方を覚えていかないと色々怖いのだから仕方ない。それを伝えると、2匹は渋々頷いた。