獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
次の日、広いスペースで私とダイゴは向かい合っていた。ダイゴは何やら小さいテントを取り出して、その中に見覚えのある機械を設置している。見たところ、ポケモンセンターに置いてある回復装置の小さいもののようだ。あんまり考えたことなかったけど、あれ、個人所有できるんだ。
「ん?ああ、高いよ?億単位だし。使用にあたって免許もいる。ただ、長く石を感じていたい時なんかは町に戻るのが手間だと思うこともあってね。あるとポケモン達をすぐ癒してあげられるのもいい」
「いしをかんじていたい」
「うん。ない?そういうの」
黙って首を振った。あいにく趣味はポケモンバトルだ。ダイゴは苦笑すると、機械の設置を終えて立ち上がる。
「ポケモンセンターに置いてあるものと性能はほぼ変わらないから、その辺は安心してくれていいよ。さて、ルールだが、ボクは6匹だそう。君は全てのポケモンを出していいし、全滅したら回復装置を使って何度でも挑んでくれて構わない。君のポケモンと、君自身のスタミナがもつ限り何度でも、ボクの6匹を全て倒すまで、ね。それ以外は公式戦通りで、…あー、もちものはきのみ関連のものは重複可でいいだろう。質問は?」
「…………いえ、ありません」
「よし、じゃあ始めようか」
実力差はわかっている。わかっているが、それでもちょっと腹が立った。……そして、その腹立たしさが持続したのはほんの少しの間だけだった。
初戦は8vs6。倒せたのは
2回戦は8vs5。やっぱり倒せたのは1匹だけ。回復装置を使わせてもらう。
3回戦は8vs4。1匹も倒せなかった。回復装置を使わせてもらう。
4回戦も8vs4。1匹倒せた。回復装置を使わせてもらう。
5回戦目、ラルトスが試合についていけなくなった。7vs3。1匹も倒せなかった。回復装置を使わせてもらう。
6回戦目、ツタージャとロトムが試合についていけなくなった。5vs3。1匹倒せた。回復装置を使わせてもらう。
7回戦目、5vs2。1匹も倒せなかった。私の汗が酷かった。喉が痛い。回復装置を使わせてもらう。
8回戦目、デンチュラとランプラーが試合についていけなくなった。3vs2。1匹も倒せなかった。回復装置を使わせてもらう。
9回戦目、3vs2。1匹倒せた。回復装置を使わせてもらう。
10回戦目、ラプラスが動けなくなった。2vs1。1匹も倒せなかった。回復装置を使わせてもらう。
11回戦目、皆、スタミナの限界だった。回復装置はポケモンの負傷を治してくれるが、スタミナまでは治してくれるわけではない。単純に、動くためのエネルギーがもうなかった。0vs1。出せるポケモンがいない。汗だくで砂漠に膝をつく。敗北だった。色んなハンデがあった上での、圧倒的な敗北。はじめてだった。とても、……とても、これは、…………しんどい。
「うん…、うん、君のその歳で、ボクのエースのメタグロスにたどり着いたのは素晴らしいことだ。育成も丁寧だし、ポケモン達もそれに応えようとしているのが伺えるね。トレーナーの指示もきちんとしているし、色々考えているのがよくわかる。何より君たちにはやる気も向上心もある。素晴らしい。
………でも、
続けて告げられた言葉に、頭が真っ白になった。
「才能はあるだろう。その歳でその統率力、そしてポケモンとのコミュニケーション能力!観察もきちんとしているし、ポケモン達への愛情もきっとたくさん注いでいるのだろうね。スタミナ切れで倒れたポケモン達ですら、ボクらのバトルを必死で目で追っていたことからもよくわかるよ。
だけど、足りていないね。てっきり君も天才かと思っていたけど、足りていない。圧倒的に。かつて伝説に倒されたのも、この地方の天才を導いたのもボクだから言うけれど。レッドが世界に登場する前だったなら、間違いなく君は天才と呼べただろうけど、レッドもグリーンもヒビキもユウキもコウキも、トウコもダンデも世に出た後の今の世界では君は天才とは呼べない。……残念だけれど」
「……んで、」
「…………ん?」
「なんで、
ぼろぼろと涙が頬を伝う。拭う気にもなれなかった。敗北ですら上手に飲み込めないでいるのに、どうしてそれを今わざわざ伝えてくるのか意味が分からなかった。
ぎょっとしたようにダイゴが目を見開く。
「私が天才だったなら、キャタピーやニドランやピチューをこわい目に合わせずにすんだかもしれないし!ガーディを泣かせることもなかった!ラプラスとはもっと早く出会えていたかもしれないし!ローザも倒せていただろうし!バチュルにあんな悲しい初戦をさせることもなかった!ヒトモシも早く見つけられていたかもしれないし!ツタージャのお世話で皆に迷惑かけることもなかったし!ロトムも早く見つけられていただろうし!ラルトスをびっくりさせることもなかった!!ここでダイゴさんに負けることだってない!!
……それに、それに、スピアーや、あのビードルとだって!友達になれていたかもしれなかった!!
足りてないのなんてそんなの最初っからわかってるんですよ!それでも!それでも皆、ついてきてくれてるんです!だからずっと、ずっと頑張って、いっぱい勉強して、それで、ここまできたんです!」
ずっとずっと溜め込んできた負の感情が噴き出す。止められなかった。涙も感情も、何もかも。最初から知っているとも、御大層な能力なんて持ち合わせていないことも、天才でもないことも。ただ、ほんの少し大人の考え方を知っていただけ、前世から続くポケモン愛を持ち合わせていただけだ。だから楽しさをバネにして、努力して、努力して、積み上げて、そして勝って、そういう繰り返しでここまで来たのだ。いつか、…いつか、それがレッドに届くと信じて。……なのに、どうして、それをわざわざ外から突きつけるような真似をするのか。君にはいろんなものが足りないのだと、11回に及ぶ敗北で現実を叩きつけておきながら、どうして。声をあげてしゃくりあげながら乱暴に目をこする。止められない。べたんと砂場に尻を打ち付けて、顔を覆う。体力切れで動かない体を引きずってきたバタフリーが、よたよたと膝に這い上がってきてくれたのを衝動的に抱きしめて、ひくひくと啜り上げて泣いた。それでも、止められなかった。
「…ごめんよ」
影が私を覆って、顔をあげる。つらそうな顔をしたダイゴがいた。バタフリーの威嚇にも構わず、ダイゴは膝を折ると、そっとハンカチで私の頬を拭う。
「……ごめんよ、気付いていないと思っていた。後から気付いて絶望するよりは、今教えて選択肢をあげた方がいいと思ったんだ。……でも、そうか。君は、その歳でもう気付いているのか。気付いた上で、尚も上を目指そうとしているんだね。ごめんね、ボクは君を応援してあげるべきだった」
「…~~っ、」
「ああ、ほら、泣かないで。可愛い顔が台無しだ。目を擦らないの」
「…ひっ、うぇ、ううう、」
「ほら、押さえてあげるから、鼻をかんで」
「う、ううー、ズビーッ」
「よしよし、………うん、頑張ってきたよ、君は。それは確かだ。才能とかそういう話を抜きにしても、君たちのバトルは素晴らしかったもの」
「うぇ、うう、ひぅ、ぇ、」
「ほら、落ち着いて、深呼吸して」
「ひっ、うぇえええ……、知らないおじさんに鼻水の世話された……」
「…しっ、おじっ……!?いや、おじさんでいい、うん、ボクが悪かった、ごめんね」
「あほな理由で崖に突き刺さってたの、助けたのに……!わたし、あの日、疲れてたのに…!助けたのに!!」
「うん、もうそれでいいよ、好きなだけ言いなさい、ほんとごめんね!?」
「警察とレスキューとマスコミを呼んでやればよかった……!」
「的確にボクの社会的な尊厳をを削ろうとしてくるね!?マスコミ以外はあそこじゃなきゃ正しい対応だけど!」
すんすんと鼻を鳴らし、自分のハンカチをポーチから引っ張り出して顔を拭う。ボールにポケモン達を戻し、抱えたままのバタフリーとふらふらと寄ってきたウインディだけ残す。
「……酷い
「うん。……でも、バトルの世界は厳しいからね」
何も、言い返せなかった。