獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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才能の章

 

ダイゴのキャンプに招かれて、それはもう上等なご飯をふるまわれていた。ダイゴ、野営ご飯は手作り派だったらしい。さすがにレトルト品や長期保存品を組み合わせた手料理ではあったけど、久々においしいご飯を食べたような気がするくらいおいしかった。てっきりお高いレトルト単品とかかと思っていたのに。最後のデザートもなんだかしゃれていて、ちょっと悔しい思いをしながら完食してしまった。

 

 

「どうだったかな、お味は」

「おいしかったです。……こういうお料理、初めて食べました」

「あちこちでキャンプしてるとね、同じレトルトだと飽きがくるから凝るようになっちゃって。手早く見目好くおいしく出来るならそれに越したことは無いからね」

 

 

ダイゴが私を見る目は随分微笑ましいものを見るものだった。散々な泣き顔を晒した後なのでなんか何も言えないのが悔しい。

 

 

「……さて、さっきの話、もし、君が大丈夫ならちゃんと掘り下げて聞かせたいと思うんだけど、どうかな?」

「…………是非」

 

 

そう答えると、ダイゴはまぶしいものでも見るように目を細めた。

 

 

「じゃあ、レッドの話からしようか。君の出身地、マサラタウンから生まれた神童。後に続く天才たちの原点にして頂点。伝説と言えば彼のことを指すくらい、レッドと、そしてグリーンは有名だ。それはどうしてかわかる?」

「……10歳ででんどういりして、その後はでんどういりシステムのあるポケモンリーグを全て制覇したから?」

「そう、そうだね。ボクも倒されたから、あれは刺激的な体験だったとも!じゃあ、10歳ででんどういりしたことがどうして驚かれたかって、それは知っている?」

「旅立ったその年にでんどういりしたからじゃないんですか?」

「うん、勿論それもそうだけどね。もういくつかあって、それまでのでんどういり最年少記録は17歳だったというのもそうなんだよ。15歳でチャンピオンロードを超えて天才ともてはやされ、17歳がでんどういりしたことに世間が湧いた時代があったんだ。それが突然7年も更新された当時の衝撃と言ったらなかったよ」

 

 

レッドのことはいろいろ調べたつもりでいたけれど、それは知らない話だった。でも、自分でポケモン達と一緒に旅してきた身からすれば、そうだろうな、と思う。たかだか一年で、頂点に上り詰めることが出来るほどこの世界は甘くない。本来なら、そのはずなのだ。

 

 

「そんな天才が同世代に二人も現れた。だけでなく、後に続く者達すらも現れた。同時に悪い組織の暗躍や、伝説のポケモン達が活発化するとか、そういった世界の動乱も起きているのはちょっと笑うしかないけれど。神に愛された天才というのはまさにああいう子供たちのことを言うんだろうね……」

 

 

ダイゴの目は遠くを見ていた。ゲームのシナリオだ、と一言で片づけるのは簡単だったけれど、現実に起きていることだし、特にダイゴはそれに巻き込まれたであろう人物だ。言葉が返せずに、ただダイゴの目を見るしかできなかった。

 

 

「うん、他の天才たちの話に飛んでしまうとちょっと話がずれるかな。そうだね、……ポケモン達の努力の度合いとかもあるから一概には言えないけれど、ざっくりまとめてトレーナーの才能を簡単に例えてみようか。例えば、一般の人たちの才能を1としよう。君はベテラントレーナーと戦ったことはある?」

「イッシュのローザと」

「ああ、あの子か……、そうだね、一般の人たちが1だとして、チャンピオンロードを超えて、ポケモンリーグを優勝できる才能がある人は4かな。ローザがその辺だね」

「…………」

「…?なんだい?」

「ダイゴさん、そういうファイリングというか、データ分けとか、ランク付けみたいなの、するの好きなタイプですか?」

 

 

ちょっとダイゴの顔が赤くなった。顎に手を当てながら、ダイゴがそっと目をそらす。

 

 

「……まぁ、ボクも男の子だしね。うん。そういう簡単なランク付けとかはしたくなるさ」

「…………えーっと、ごめんなさい」

 

 

微妙な空気が流れた。いや、トレーナーの戦力分析を専門に食ってるライターやらコメンテーターやらもいるくらいだし、うん。別に恥ずかしいことでもないんだけども。私のツッコミがちょっと意地悪だったかもしれない。

 

 

「……んんっ、話を続けるよ?」

「はい」

 

 

耳が赤いのは突っ込まない方がいいだろうな、これ。

 

 

「まぁ、4じゃでんどういりに足りない。リーグ優勝できるのと、でんどういりは別の話だからね、5は欲しいかな」

「じゃあ、チャンピオンになれるのは?」

「最低限6だろうね。それ以上の人たちも多いけれど」

「……10歳ででんどういりした人たちは?」

 

「10」

 

 

ふー、と息を吐きたくなった。

 

 

「…………あの、私は?」

「聞きたい?」

 

 

ダイゴが笑う。私は恐る恐る頷いた。

 

 

「君はたぶん、7くらいじゃないかな。このまま修練を続けていけばどこかの地方でチャンピオンになれるくらいにはなるだろう」

 

 

返事が返せなかった。実感がわかない。今、当のチャンピオンに叩きのめされたばかりなのに。

 

 

「私ってそんなに才能ある?って顔じゃないか。……そうだね、ローザとのバトルはどんな結果になった?詳細を教えて」

「詳細?えーっと、レベル30代のラプラスと、レベル60代のウインディがこちらで、ローザはレベル50代のジャローダと、レベル90代のウインディでした。ラプラスでジャローダを倒したけれど、ウインディには歯が立たなくて、それでウインディ同士の一騎打ちになって、いいところまではいったんですけれど、結局負けました」

「そうか。タイプの対面はともかく、ポケモン達のレベルもトレーナーとしての経験値も圧倒的にローザの方の方が上だものね」

「……はい」

「でも、君はギリギリまで追い詰めた訳だ?」

「追い詰めた、んですかね……、後から聞いたらギリギリだった、とは言ってましたけど」

 

「そこだねぇ」

 

 

ダイゴはそういって笑った。

 

 

「本来、君は何もできずにボロボロに負けているべき対面だね。ローザが辛勝を勝ち取る場面では断じてない。だからローザの才能は4くらいで、君は7くらいなんだ。ローザの実力や才能がきちんとあるのであれば、彼女はリーグ優勝した勢いのまま、してんのうを突破して、アデクさんを倒してでんどういり出来ていただろう。でも、彼女は出来なかった。そこ止まりの才能だということだよ。……まぁ、この後も頑張ればでんどういりは出来るかもしれないけれど、チャンピオンには遠いだろう。たぶん、さっきみたく対戦しても、彼女じゃメタグロスにはたどり着けないだろうね」

「それは、」

 

 

ローザの屈託のない笑顔と、そのポケモン達の顔と、そして自分のツタージャが頭に浮かんで、何も言えなかった。

 

私はずっと、あの時の条件のままローザに勝てないかとシミュレーションしてきたし、悔しがってもきた。けど、今言われた通り、例えば私の手持ちたちがローザのポケモン達と同じレベルであったなら……?あの試合の後、ローザの手持ちとは実際にバトルもさせてもらったし、バトルビデオもたくさん見た。だから、想像が出来る。

 

 

ダイゴの言うとおりだ、今なら、多分、勝てる。

 

 

先を目指すならと色々と教えてくれて、ツタ―ジャとの縁を繋いでくれた先輩。ローザはまだまだ高い壁だと思っていた。……今、冷静にシミュレーションした結果はたぶん2vs0。ローザの成長もあるだろうからやってみないとわからないけど、……今の私達なら、負ける気が、しない。その事実に思い当たってしまった。血の気が引くような思いだった。

 

 

「そして、同じレベル、同じ条件で戦ったローザが君に勝てないように、君は才能ではレッドに届かない。……ボクがしているのはそういう話だよ」

「………そう、ですか」

 

 

納得できてしまった。才能とかよくわからない基準を比べるのもおかしな話だけど、納得は出来てしまったのだ。

 

 

片や、10歳で旅立って、10歳で仲間を集めきり、悪の組織を倒し、でんどういりをした少年と。

 

片や、10歳で旅立って、11歳になっても仲間は集まりきっていないが、地方大会の優勝を3回経験している少女と。

 

片や、10歳で旅立って、16歳で地方大会初優勝をし、17歳で仲間を集め終え、19歳でチャンピオンロードを超え、23歳でリーグ優勝した女性と。

 

 

その違いを、ただの才能という一言で片付けるのは嫌だったけれど、確かにああ、そうだ、と納得できてしまうものがあった。

 

 

「実際の今の君たちの実力は3かそこらだろうけれどね。努力して才能の限界値の7にたどり着くかどうかは君たち次第だよ。どれだけ才能があったとしても、努力してなきゃ何も活用ができない。ただの持ち腐れだから」

「……それは、はい」

 

 

「そしてそこから更に積み上げて、実力を8にするのも9にするのも君たち次第だ」

 

「……え」

 

 

知らず俯いていた顔をあげると、ダイゴはやっぱり笑っていた。

 

 

「そりゃ才能の限界はあるさ。でも、持っている才能と実際の実力は別の話だ。元々ある才能に重ねて努力して、1か2くらい実力を伸ばすことは出来る。ボクがそうであるように」

「えーっと、?」

「ボクの才能はたぶん5くらいでね。大体、ボクはバトルより石が好きなんだ。でも、バトルで負けるのはそれより嫌いだったし、石と同じくらいポケモンが好きでね。だから、ちょっとだけ頑張った結果がチャンピオンだよ。今の実力は7くらいなんじゃないかな」

 

 

ちょっとだけ、な訳がないだろう。何か言葉を探そうとして、何も出てこなかった。

 

 

「努力するってなかなかつらいことだよ。ひたすら自分の技術を磨いて、知識を集めて自分のものにして、それを毎日毎日ずっと続ける。続けるだけで凄いことなのに、その上で自分を追い込んでいかないといけない。それに、才能が足りていないのなら、天才ならほんの少しやるだけで出来ることも、たくさんやらなきゃ覚えられない。……でも、やらなきゃ勝てないんだから、やるしかない」

「…………」

 

「ボクは頑張っているトレーナーとポケモンが好きだよ。大好きだとも。インタビューとかでも公言している。何故って、頑張ることのしんどさと、つらさをよく知っているからね。勿論、頑張る楽しさだって知っているけれど。

 

……まぁ、才能論も努力論も、今言った数値も、あくまでボクの見立てだから、違ってくることもあるだろうし、あまり深く考え込まなくてもいい。ただ、君が目指そうとして、倒そうとしている人間は、そういう次元の人間なのだということだけ、頭に入れてほしかった。

 

君は、ポケモンが好き?」

 

「はい」

 

「バトルが好き?」

 

「はい」

 

「目指す先がどれだけ険しくても、君は夢を掲げられる?ポケモン達と歩んでいける?」

 

「はい。勿論」

 

 

ポケモンを真っすぐ見つめる、レッドのあの瞳に憧れた。あの強さに憧れて、倒すのだと決めたのだ。それがどれだけ困難だろうとも。

 

ダイゴはまた、私を見てまぶしそうな顔をした。

 

 

「そうか。………それなら、ボクは君を応援するよ。何せ、ボクだってチャンピオンになれたんだ。君だってレッドを倒せるさ」

 

 

 

 

 




数値についてはダイゴによるざっくりラベリングなので深く考えなくてもいいやつです。
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