獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
あの後、ダイゴから修行をみてくれる、という申し出があった。泣かせたことを申し訳なく思ったのか、崖に突き刺さっていたことの口止め料としてか、そのへんはわからないけれど、チャンピオン直々の指導となれば断る理由はない。自分でバトル戦術指南系の本を買い漁ったり、図書館で探したり、バトルビデオを見たりとかはやってきたけど、他人からちゃんとした指導を受けたのはスクールと、ローザからのものくらいだった。そのローザの指導も、ここでガンといけ!とか、ばっといけ!とかの結構あれなあれだったし(本人は大真面目だったので申し訳なかった)、スクールも教本通りというか基礎の基礎ばかりであったので、そう思うとちゃんとしてそうなダイゴの指導を受けられるというのはありがたい。
ただ、ちょっと気になることもあった。
「いいんですか、ダイゴさん。ダイゴさん、今年チャンピオンカップでしょう。防衛戦しなきゃいけないのに、私に時間割いてもらって」
「ああ、いいよ。ボクのポケモンのリハビリも兼ねてここにきてるから。スパーリング相手がいるのは助かるし」
「そう、それもですよ!この前怪我したばかりですよね、ダイゴさんのアーマルド!腕が千切れたって、」
「大丈夫、ちゃんと繋いでもらったから。その辺は気にしなくていいよ。むしろアーマルドのリハビリに付き合ってくれると助かるな」
去年のサイユウリーグを優勝したチャレンジャーはしてんのうを突破し、ダイゴのところまでたどり着いたが、ダイゴを倒してでんどういりを果たすことは出来なかった。だが、ダイゴの方もただ単純に勝利できた訳ではなかった。所持ポケモンのアーマルドが酷い怪我を負ったのだ。具体的に言うと、相手のメガクチートに腕を噛み千切られた。ソノオタウンで丁度中継を見ていたから、あの時の衝撃は今でも覚えている。
バトルは戦いだ。お互いを傷つけあうものである。余程実力差があれば加減も出来るのだろうが、基本的にはそんな加減など出来るわけもなく、相手をひんしに追い込むために必死で力を叩きつけていくことになる。だから大なり小なり怪我はする。ポケモンの回復能力の高さとかもそうだが、恐らくポケモンセンターの回復装置がなかったらバトル業界そのものが成り立っていない可能性すらある程度には、それはもう頻繁に怪我をするのだ(なので、仲間にしたいポケモンについては、そのポケモンにあった適切な手当ての仕方も一緒に調べるようにしている。いくらポケモンセンターがあるとはいえ、旅から旅への生活をしているとどうしてもいけないタイミングでの怪我も発生しがちだからだ)。
通信交換装置に代表されるように、ポケモンは生きたままデータ化出来る。それを応用し、怪我を破損データとみなして修復することで治療するのが現在の回復装置である。これだけ聞くと随分万能な装置のように聞こえるが、決して回復装置は万能ではない。ポケモンの側にデータ化に耐えうる体力もなかった場合、回復装置を使うことが出来ないのだ。それこそ人間のように、外科的な対応が必要になる。そして、回復装置が使えない場合というのはもう一つあって、それがダイゴのアーマルドのように大きく部位を欠損した場合だった。大きな破損データは修復することが出来ず、切り離された部位もまたデータ化することが出来ない。
そして大概、傷口がきれいな状態であることも珍しいので、外科手術で繋ぐことも難しいことが多い。体の一部が欠損したポケモンが、怪我を治して元の状態でバトルに復帰できるかどうかというと、非常に稀であることが多かった。とはいえ、カントー・ジョウト現してんのうのシバのカイリキーとかはバトル中の事故で盲目になったがその後もエースとして戦っているし、鎌が途中で折れたストライクをエースにしてるベテラントレーナーとか、片角のゴーゴート使いとか、盾のないギルガルド使いとか、その辺の事例もあるので、元の状態でなくとも復帰するポケモンもいるのだが。
だけど、ダイゴとアーマルドに許可をもらって見せてもらったアーマルドの腕は、それはギザギザと膨れ上がった傷跡が残っていたが、確かに繋がっていて、本ポケもほら、大丈夫でしょ?と爪先の方をくいくいと動かして見せてくれた。あんなひどく食いちぎられていたのに繋がるものなんだな、とポケモンの回復力と、担当した医者の技術に改めて驚いた記憶がある。運がよかったんだよ、とダイゴとアーマルドは笑っていたけれど。
ここまで大丈夫と言ってくれて、ポケモンの方も大丈夫であるなら、と私も納得して、ありがたく申し出を受けた。
で、肝心の修行なのだが。
まぁ、ハードだった。
「君、中途半端に才能があるせいで、明確な格上と戦ったことがないでしょ?一緒に切磋琢磨できるライバルがいればよかったんだろうけど、それもいないようだし。いつかは君に負けるかもしれないけど、今の時点ではボクの方が格上だからね。いっぱい戦おうか」
そんな一声と共に始まった修行であったが、朝から晩までバトルバトルバトル。合間の休憩にはバトルビデオを見ながらの講義が挟まり、時にはわざの指南をダイゴのポケモンから受けて、ついでに野営をいかに快適にするかとかそういう話も教えてもらいもした。恐ろしいことに、ダイゴは私達に対してそれだけのことをこなしながら自分のポケモン達のトレーニングもつつがなく行っていて、ダイゴがチャンピオンたる所以をそこに見た気もする。
ダイゴさんに育成されてるポケモンの気分がわかるかも、とぼそっと呟いたら、ボクは君を育ててるつもりだったよ、と返されたので、なんというかちょっと面映ゆい気分にはなったけれど。
後、気付くことがあったとしたら、あの溺れたナックラーがちょくちょく姿を見せていたことだろうか。遠くからこちらを見ては、がちがちと歯を噛みならすような動作をしたり、砂を掘ったりという動作を繰り返しているかと思えば、木の陰からじっとこちらを見ているだけの時もあった(隠れているつもりのようだったが、いつも口先がはみ出て見えていた)。その後体の具合は大丈夫か、くらいは聞きたかったのだけど、声をかけようとしても目が合った時点で逃げ出してしまう。何度かチャレンジしたが、毎度逃げ出されてしまってダメだった。何度目かでさすがにこれ以上は、と声をかけようとするのを諦めて、なんかこわがらせたっけ、とバタフリーを振り返ったら、物凄い顔をしてナックラーを見ているバタフリーがそこにはいた。後ウインディも。私が振り返ったので慌てて顔を取り繕ってはいたが、さすがに見逃せなかった。今までもそんな顔をしてこちらを見ていたのだろうか。……だから逃げたんじゃないよねあのナックラー?
ポケモン達に声をかけようとしたところで、ダイゴが私の頭をぽんと叩く(ダイゴにはあの処置であっていたかも含めて、ナックラーのことは相談済みだった)。
「あー……」
「ダイゴさん?」
「……ボクがあのナックラーには話をしておくよ。じめんタイプとは相性がいい方だし。君は修行に集中して」
「はい。……あの、体はもう大丈夫かって聞いてもらえますか?」
「うん、聞いておくよ。さぁ、位置に戻って。それとももうちょっとペースを上げた方がいい?」
「大丈夫です!このままで!今日はよくても明日の修行に響いちゃう!」
「お、よしよし、ちゃんとペース配分も見えてきてるね」
それから、ずっと気になっていた直感での指示のことも聞けたのはよかった。
「一手一手、指示出す前に考えすぎだってローザに言われて。それから色々試してはきたんですけど、考えないで指示なんてとてもじゃないけど出来なくて……」
「あー、ローザはそのタイプか。いるんだよね、勘で指示したことがぴったり正解で、勝利に繋がっちゃうトレーナー。タイムラグがないから早いし、どうしてその指示したか、を後から言語化できないタイプ」
「……すごく心当たりがあります」
客船での移動中、ローザはすごく張りきってバトルの相手をしてくれたし、かなりしごかれたのだけど、さっきどうしてこう指示したんですか、と聞くと、あそこでばーっといっときゃいいと思ったから!とかそういう返事しか返ってこなかったのだ。アドバイスもあれだったが質問に関しても終始この調子だった。ランクルスもざつだからくろうした、とか思念を送ってきてたけど、うん、後からそれをめちゃくちゃ実感したっけ。
「インタビューとかを見てると、天才達とかチャンピオンたちとか、でんどういり出来るトレーナーはそういうタイプが多い印象かな」
「……えーっと、じゃあ、やっぱりまずいですか、今の状況」
「いや?」
そういってダイゴはくっくっと喉を鳴らして笑った。
「君、ボクに会えたのは本当に運がいいよ。ボクは勘で動くタイプじゃない。それこそ戦う前から情報を端から端まで集めて武器にして、考えながら指示を出すタイプでね。……結果的に多少のタイムラグが出てしまうから、ポケモン達にはわざを受けてもらう前提の育成をしているけれど」
「……だから、手持ちにはがねとか、いわとか、じめんタイプが多いんですか?」
「いや?君、わかってて聞いてるでしょ。彼らのことが好きだから手持ちにしているに決まっているだろ?たまたまボクのスタイルとポケモン達のスタイルが噛み合っていたに過ぎないよ」
「ですよね」
私の指示の仕方では先にいけないのかと悩んでいたから、チャンピオンであるダイゴにそれでも問題はないといってもらえてちょっとほっとしてしまった。ただ、タイムラグは出るものとして考えないといけないらしいというのは少し困る。相手の攻撃を受けて耐えながらバトル出来るような防御力や体力のあるポケモンというと、ラプラスとロトムが該当するだろうが……、正直なところ、その2匹しかいないのだ。他のポケモンは被弾前提で考えるには種族として脆いポケモンばかりであるし、2匹にしたってわざをわざと受けることが出来るような育て方はしてきていない。
「ボクの基本の戦術が君の基本にはならないだろうし、その辺りはまだまだ考えていけばいい。……そうだな、そこも同じタイプなら、講義の時間をもう少し増やそうか。いっそボクのテントで寝泊まりするかい?その方が君も楽だろう」
「あー、えーっと、ダイゴさんが善意で言ってくださってるのはわかるんですけど、その……。親に怒られちゃうので……」
「…………?……、ああ!そうか、いやごめん。女の子だもんね。ボクの方がデリカシーがなかった。すまない」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
完全にえっなんで親に怒られるの?という顔をしていた。ダイゴ、私のこと女児だって忘れてないか?いや、弟子扱いされているというか、そういう感じなので、私もあんまりその辺気にしてないのだけど。現状保護者のようなものでもあるし、保護者と旅するのであればテントを同じくして寝るのはむしろ奨励されていることでもあるので、ぶっちゃけ親にも事情を話せば怒られることは無いだろう。というか今私がいる場所的には身の安全という意味では一緒にいてもらえと言われるかもしれない。
断った理由は、どっちかというと他人のポケモン達と共に眠れる気がしないというのが大きかった。ダイゴのポケモン達は私達によくしてくれているけれど、それはダイゴの目がきちんと行き届いているからであって、機嫌を損ねないだろうかというのはいつも気を張っている。寝る時まで機嫌を損ねないかと身構えながら眠るのは、とてもじゃないが出来そうになかった。なんというか、私と私の手持ちたちで一つの群れを形成しているとして、ちょっと仲良くなった他の群れにお邪魔することは出来ても、そこで眠るまで身を任せられるかというと別というか……私が警戒しすぎなのかもしれないが。
後、たぶんではあるが、私、メタグロスとの相性がよろしくない。ダイゴはエースのメタグロスと色違いのメタグロス、二匹のメタグロスを連れているのだが、二匹とも似たような感覚だったので、種族的に相性がよろしくないのだろう。いや、普通に可愛がってもらってるし、いっそ愛玩動物相手のような愛で方をされているので(ちょくちょく腕とエスパー能力で高い高いされたり背中に乗せられて飛び回るとかをされていて、飛べる三匹とラルトスがエスパー能力で対抗しようとして出来ずに怒るまでが常だった。最後はダイゴが止めてくれるが、ダイゴも面白がっている節がある)かなり気に入られているようではあるんだけど、そういう仲良くできるかという意味での相性ではなく、将来もしメタグロスを仲間にしたとして、従えられないだろうな、という、漠然とした悟りがあったのだ。トレーナーとポケモンの相性というか、タイプごとの相性というか、そういう方面の話でたぶんメタグロスはダメなのだろう。……メタグロスほど完全に無理というレベルではないし、仲間にしたとしてもたぶん普通にやり取り出来るだろうけど、はがねタイプ相手の触れ合いは若干、こう、違和感を感じたことはあったので、はがねタイプに対しての才能は他のタイプに対してのものより低めであるのかもしれない。