獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
そんな風に、今まで気になっていたことも一つ一つ解決してもらいながら4週間近くが経過した。毎日バトルと講義漬け、たまに設けた休息日でダイゴの石の話を聞きながらの4週間は、長いようであっというまだった(石の話はダイゴが該当の石を撫でまわしながらめちゃくちゃ早口で語ってくるのでちょっと反応に困った。変に詳しくなってしまった気がする)。元々行き帰りも含めて4週間のつもりだったのだけど、ダイゴがしょっちゅう食事に招いてくれたり、私達の分のどうぐ類の補填をしてくれたり、何より回復装置を使わせてくれたのが大きくて、少し日数を伸ばすことが出来たのだ。
代わりに砂漠のポケモンの生態観察は出来なかったけれど。一方的に資料を送りつけられていたとはいえ、いい情報源になっていたのは確かだったので、オダマキ博士には本人と本ポケ達の許可もとってダイゴとダイゴのポケモン観察日記を送っておいたのだが、化石ポケモンのいい資料!!と喜んでいたのでよかったらしい。いいのかあれで。
物資の関係の話をし、明日旅立つことはもうダイゴに伝えた。本当は出来る限りダイゴの指導を受けていたいし、それこそ最近は7回の試合でメタグロスを倒せるようにもなってきていたから、もっともっとと思わないでもない。でも、ダイゴだって自分のトレーニングがある。本人は初心に戻れるから気にしないで、とはいってくれていたけど、ちゃんと自分たちだけのトレーニングに専念した方がいいに決まっていた。あまり甘えているのもよくないだろう。
そんなわけで、今日は最後の講義の日ということもあって、いつもより私はそわそわしていた。ポケモン達は外にいて、ダイゴのポケモン達と一緒にトレーニングしているが、ラルトスだけは一緒に聞いた方がいい、とダイゴが言うので、ラルトスだけ一緒に講義を受けることになった。
「さて、今日はナックラーの講義をしよう」
「……!はい」
あのナックラー絡みのことだろうか、と察するものはあったので、少し背筋が伸びる。実際、何度かあのナックラーと会話するダイゴの姿は見ているし。いつものダイゴのテント内部で、設置された巨大スクリーンの横、ポインターを構えたダイゴが立っている。私はその正面にメモを構えて椅子に腰かけ、ラルトスは大人しく膝に鎮座していた。
ダイゴが手元の端末を操作し、スクリーンには大きくナックラーの図鑑表記が浮かび上がる。毎度のことながら、ダイゴが図鑑データベースから引っ張ってくるデータはかなり詳細だ。それこそ図鑑データベースに対してそれなりの権限を持つような人間でなければ閲覧できないようなレベルの情報も入っている。
……この人、本当に出来ることが多いんだよなぁ。医師免許とまではいかないものの、看護免許と同等の知識を要求される免許を持っている(本来であればポケモン看護師免許と一緒にとってしまう免許であるようだが、ダイゴは学校に通っている暇がなかったので独学でとれる回復装置免許の方だけとったらしい)、とか、デボンコーポレーションの経営周りへの口出しとか、トレーナー視点からの商品開発とか、博士号がないのにずかんデータベースへの権限高めってことはたぶん何かポケモンの情報提供したんだろうな、とかそういったところから、バトル関連だってホウエン地方の大会はプロからアマチュアカップまで全て見て情報を把握するようにし、他地方のものも最低限プロカップは全て見て自分の戦術の糧にするようにしている、とか、とにかく尋常ではない。努力の結果だよ、と本人は事も無げに言うし、他所の地方のチャンピオンも似たようなものだよ、とすらも言うけれど。すごいなぁ、と思う私の気持ちは変わらなかった。
ナックラーの生態の話や特徴の話、ダイゴが今までに出会ったことのあるナックラーの話や、その進化系であるビブラーバとフライゴンの話まで、ダイゴの講義は多岐に渡った。目のないポケモンに『フラッシュ』で目を眩ませようとしても意味がないように、ポケモンに関しての生態を知っておくことはバトルで出来ることに幅を与える。ダイゴが実際に戦ったことのあるフライゴンの戦術も一緒に教えてもらいながら、メモを取り、質問をしながら講義を聞いて、大体いつもの範囲の内容が終わったかな、と思ったところで、ダイゴはナックラーの図鑑説明を切り替えた。
「さて、いつもならここまでだけれど、今日はもう少しだけ話をするよ。
ナックラーの
「……求愛行動?」
……その話題が出た時点で、なんとなく察しがついてしまったけれど、黙って続きを聞く。
「ポケモンには進化するタイプと進化しないタイプがいる。そして、進化するタイプであっても、進化をせずに一生を終えるポケモンもいる。レベルが足りない、条件が足りない、心が追い付かなかった、など理由は様々だけれど。だからなのか、未進化であってもポケモン達はつがいになれるし、たまごを見つけてくる。ベイビィ系列は例外だけどね」
ベイビィ系列はピチュー、ピィ、ププリンやトゲピー、ルリリなどの、ゲーム的に言ってしまえば後からたまごが発見されたポケモン達のことを指す。こちらでは伝説以外でつがいにならない、たまごを見つけてこないポケモンのことを指す。……ちなみに、ポケモン達のたまごに限っては産むものではなく見つけてくるものとされている。そんなはずはない、人間も動物も交尾するのだからポケモンも交尾するだろう、と24時間様々な角度から監視することを目的としてカメラを仕掛けた例もあるが、その実験ではないはずの死角からたまごが発見されたという。……神秘である。
「だからナックラーにだって当然このポケモンこそは、と認めた相手に行う求愛行動があるわけだ。例えば顎を噛み鳴らして自分の顎は大きくて強靭だと主張してくるとか、砂地を掘ることで、どれだけ上手に巣を作れるかのアピールをしてくるか、とかね」
「……ダイゴさん、それ、」
「君は恋をしたことがある?ラルトスも、恋はしたことがある?」
聞こうとした言葉は遮られた。釈然としないものはあったが、私もラルトスも黙って首を振る。一応前世では成人はしていたと思うのだが、恋をしたことがあるのかどうかも定かではなく、していたとしてももう覚えていなかった。
「そうか、ないか。…………バトルトレーナーとして大成するトレーナーって、恋とかましてや結婚とか、そういうのは眼中にない人間が多いんだよな……、君もそうならなきゃいいけど」
「……?どうしてですか?」
「だって、少なくても6匹、多くて20匹ものポケモンを抱えて、1匹1匹に心を配りながら生活していくんだよ。ポケモンという家族がもういるのに、誰かと恋なんて出来るかって人間の方が多いんだ。後、ポケモン達側が自分のトレーナーを別の人間にとられるのを嫌がる、とかね。確か現役プロトレーナーの結婚率は5%とかだったかな?もうちょっといってたっけ?
一般人と結婚して子供を成した状態ででんどういりした人間とかもいるから、別に恋しちゃいけないってわけじゃないんだけど、ポケモン協会が婚活部門立ち上げる程度にはひどかったはずだよ」
それ、カロスのアランっていう名前のトレーナーじゃないかなぁと思ったけど、口には出さなかった。息子よりアランの方と戦いたかったのにという思いはずっと抱え続けているので。
私も今の時点で8匹ポケモンを抱えている状態なわけだけど、確かに今の時点でお腹いっぱいというか、……うーん?確かに、将来誰かに恋をするなりなんなりして、結婚をして、みたいな将来を想像するよりは、皆と静かな田舎に家でも買って、ポケモン達と穏やかに生活する未来を想像する方がよっぽどしやすかった。
大体、ポケモン達に生活の比重を傾けまくっているせいか、スクール時代の友人とすら連絡とってないし。そこまで考えたところで、ここ最近で思い出せる人間との会話が、ダイゴは勿論として、両親とかオーキド博士とか、オダマキ研究所の皆さんとか、ショップの店員とかホテルの従業員とかであることに気付いた。……まぁ、いいか?あんまり困ってないし、対人コミュニケーションが壊滅的になったというわけでもない。ラルトスが本当にいいのそれ?と私を見上げてきたけど、人間関係のあれそれは前に充分満喫したし、せっかくポケモン達と暮らせているのだ、やっぱりポケモン達に視線を向けていたかった。
ラルトスと顔を見合わせたのを別の意味に捉えたのだろう、ダイゴは穏やかに笑った。
「君の場合、まだ11歳だし想像しづらいかな?する運命にあるのなら、きっと自然にすると思うから、好きなように生きればいいよ。
さて、途中で話が逸れてしまったけれど、聡明な君ならボクがこの話をした意味がわかるね?」
「……ナックラーが恋をしている、という話ですか」
「ナックラーが
口を開いて、言葉は出なかった。誰か別の人の話をしているようにすら感じた。私が関知する前から好意を向けられることには慣れた、というか、ポケモン達に慣らされた。ラプラスやロトムのように事前観察をされていたこともあるし、このラルトスに至っては、生まれた時にあなたの姿を予知で見たから待っていた!なんてことを伝えてきたくらいである(あんまり好意が高いわりに白状するまでが長かったが、調べたところ、エスパータイプには稀にある話らしい)。つまりはポケモンの側がトレーナーを見定めて、このトレーナーについていきたい、と思ってくれたという事なので、それはとても嬉しいことだ。
……ただ、恋、となると話は変わってくる。どの辺に恋する要素があったのかもわかってないし。命を救ったのは私だけでなくポケモン達のお陰でもあるし、吊り橋効果にしても救助の時ほとんど意識はなかったはずだ。……それに、ナックラー式の求愛に感じるところがあるか、というと、まずそれが求愛だと分かるほど交流していないし、知識として知った今でも申し訳ないが人間なのでときめきを感じるかと言われるとちょっと、という感じである。
上手に言葉が紡げず、口を開いては閉じ、閉じては開けてを繰り返すと、ダイゴが苦笑しながら手を振った。
「……ラディアの方はもう少しそのまま考えていて。
ラルトス、君だけ呼んだのは、君がエスパータイプで、そして種族特性として他の生き物の感情に敏感だからだ。野生のポケモン相手であれば今でもバタフリーやウインディ、ラプラスが特に頑張っているようだけど、人間同士の感情のやり取りや、ポケモンとの感情のやり取りにおいて、彼女を補佐するのは君の仕事になる。エスパータイプの技を使えることと、エスパータイプであることはまた違う話だからね。
ラディアはレッドを倒すと言った。この世界の頂点を、伝説を倒すと言ったんだ、夢を叶えたなら、有名になることは避けられない。そうなったら君たちも一緒に有名になるだろう。……そうするとね、色々とあるんだよ。勝手な気持ちを勝手に叩きつけてくる人間も、ポケモンも増えるんだ。多くに知られるってそういうことだから。
ラルトスはナックラーがラディアに抱く感情を、よく覚えておくといい。恋は美しくて綺麗なだけではなくて、厄介なものでもあるし、拗れやすいものでもあるんだ。……そして、知らないファンに向けられることもある。怒りとか、害意とか、そういったものと同じくらい、それを感じ取った相手には慎重になった方がいい」
「……らる」
ラルトスは私の膝の上でこくんと頷いた。たぶん、ダイゴの感情も一緒に読み取ったのだろう、その顔はいつになく真剣だった。
先の話だし、私なんかにそんなこと、と笑えたらよかったけど、……ぶっちゃけ、カイナ大会優勝後には取材の話やスポンサーの話が舞い込んでいた身としては、ちょっと身につまされる話ではある。スポンサーの話を持ってきていた人間は私がカントーから籍を移すつもりがないことを知ると名刺だけ渡して引き下がってくれたけど、取材の方は本当に態度が悪くて、それなりに必死に逃げることになった程度には追いまわされた。
客観的に見れば、マサラタウン出身で10歳の大会優勝者となれば、アマチュアといえど注目も集まるのだろうが。この世界は苗字がない人間が多く、名乗りは生まれた街の名前+自分の名前、であることがほとんどだ。そして、バトル前には名乗りを上げるのが慣例であったから、レッドも名乗る時はマサラタウンのレッドと名乗りながら伝説への道のりを歩んだわけで、同じマサラタウンの出身者であればそりゃあ、おっ?という目でも見られるのだろう。実際、ビシャモンにもそういう感じの煽りをされたし。
キンセツシティに滞在していた折、セキュリティの高いホテルを選んだのもそういう理由からだった。今後もこんな感じでめんどくさくなるのであれば、セキュリティの高いホテルに泊まることは必須事項になってくるだろう。……そもそも街に寄るのを最低限にしてもいいかもしれない。街中でのバトルもとても楽しいんだけど、気付いたらギャラリーにマスコミが混ざってた、とか、そういうのが多かったのだ。ロトムが拗ねてたのはそれもあったかもしれない。最終的に逃げ回るのもめんどくさくなったので、私たちに勝ったら取材を受けるし記事でもなんでもどんとこい、ただし負けたらネタにするのは許可を出さない、とか言ってなんとかしたけれど。
「……さて、ラディアはどうだい?」
ダイゴに問いかけられて、別方向に飛んでいた思考を引き戻す。
「……ナックラーが告白してくるのなら、ちゃんと考えて返事をしますけど、告白してこないのなら、私はそのまま旅立ちます」
感情を受ける側である以上、それしかないだろう。それを聞いたダイゴが、おや、と目を瞬かせた。
「ポケモンからの恋慕について、もうちょっと感想があるかと思ったけれど」
「……珍しい話でもないですし、シンオウ神話も知っているので。生きてればこういうこともあるのかな、って感じです」
「ああ、……そうか、前はシンオウにいたんだっけ?」
厳密にはシンオウで学んだわけではないので違うのだが、とりあえず頷くと、ダイゴはボクはシロナに語り尽くされたんだけどねぇ、と遠い目をしていた。……シンオウチャンピオンのシロナ、どっちかというと、アイスクリームに関して並々ならぬ感情を抱いていて、雑誌のコラムで語りまくっていたり、TVでフードリポーター紛いのことをしていたり(シンオウ滞在中に見たTV番組で普通にシロナがハイテンションで出てきた時は牛乳を噴きそうになった)という印象が強かったので、てっきりそっちにやばい人だと思っていたのだけど、考古学にもやばいのか。
シンオウ神話とは、世界創造に関する一連の神話大系を指す。その辺の情報が一番多く残っているのがシンオウなので、考古学のメッカとしても有名だった。私が知っているのは神話というか昔話の類の話であるけれど、ゲームの方でも出てきていた話であったので、マサラにいた頃に一度全部調べてみたことがあったのだ。
そのうちの一文にこうある。
人と結婚したポケモンがいた
ポケモンと結婚した人がいた
昔は人もポケモンも同じだったから普通の事だった
というものだ。……前はオタク的解釈として盛り上がった一文だったと記憶しているが、現実に向けられたとなれば、あの一文の重みも違ってくる。
「じゃあ、相談に乗らなくても大丈夫かな?」
「ええ、たぶん。あー、身の安全だけ、もし皆が追い付かなかったらお願いします」
「……わかった、任せておいて」
<世界ポケモン情報機関>
ポケモン図鑑として銘打たれ発売された機械然り、アプリ然り(主人公はアプリの方をライブキャスターに入れて使っている)、そこに乗せられる情報は、全世界共通のデータベースから引っ張ってくるよう義務付けられている。なんなら販売の元締めというか、図鑑販売に関わるライセンスを発行しているのがこの機関。どんなポケモンとも友達になる可能性も、仲間になる可能性も、敵対する可能性もあるのだから、と、ポケモンの正しい情報の流布をすることを理念に掲げた世界的機関である。情報の閲覧レベルが段階的に設けられており、無料で閲覧できるレベルから博士号の取得が最低限のレベル、果ては各地方の上層部にのみ閲覧可能な情報であったりと、情報の種類、閲覧レベルは多岐に渡る。この機関の管理する図鑑データベースに自分の研究成果が載ることを目標にする研究者は数多いが、当然ながら厳重な査定と調査があるために、なかなか目標を叶えられる研究者は少ない。
であるにもかかわらず、150種ものポケモンの基礎データを提供し、それが登録されたオーキド博士に“ポケモン博士”の異名がつくのはある意味当然ともいえる。
尚、当初の図鑑はムック形式であったり、本として実際に持ち歩く必要があったりしたものであるが、近年は電子化が進んでおり、必要なデータだけ購入してアプリに保存しているようなトレーナーも少なくない。主人公は現状買える限りのデータを購入し、自らの機器に保存している。
子供向けの知育玩具としての図鑑も存在し、温厚なポケモンをスキャンすることでそのポケモンの情報を開示していくようなタイプも存在しているとか。