獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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もっともっと強くなるよ
12歳の追憶


 

ホウエン地方を旅立った日から1年、私は12歳になっていた。

 

今はカロス行きの飛行機に揺られている真っ最中で、さっきまでむにむに顔を揉みまくっていたバタフリーは膝の上でうとうとと眠りかけている。向かいの席では(前にとったエコノミーの座席があんまりよろしくなかったのと、安定飛行に入ったらポケモンを出して自由にさせてもいい、と聞いて、ファーストクラスをとってみたのだが、もはや部屋というか個室だったし色んなサービスがついていた。快適である)シャンデラとラルトスが私のホロキャスターにかじりついてキャッキャと楽しそうにしていた。以前からシャンデラは格闘競技を気に入ってちょくちょく見ていたけれど、どうもラルトスも仲間に引き入れたらしい。たまに格闘家のポーズを真似してはお互い遊んでいるのを見る。

 

二匹を眺めているのも楽しいけれど、まだまだカロスに着くまでには時間があるので、この1年のことでも思い返してみようと思う。

 

まずは、砂漠を出た後のこと。あの別れの後しばらく、あのナックラーを思い出しては苦い顔をしていたように思う。好意を断るというのは、わりとこう、心苦しい気持ちになる。恋に応えてやれない以上はああするしかないだろう、と自分に言い聞かせ、いつか忘れるか、思い出にしてくれますように、と祈りながら砂漠を出て、キンセツシティに行って装備を整え、ほのおのぬけみちに行った。火山の近くにあるせいか、あの洞窟は簡単にいってしまえば熱せられたオーブンの中のようなものだ。人間の通行可能なルートこそ確保されているものの、時折高温の蒸気が予想出来ない所から噴き出すこともあって、砂漠と同じくあそこを通行することは推奨されていない。そんな環境なのもあってさすがにほのおのぬけみち内にテントを張ることは出来なかったので、入り口近くにテントを張って毎日ほのおのぬけみちに通う生活となった。砂漠の熱さとはまた違う熱さに蒸し焼きにされているような心地だったし、あちこち火傷跡を作ったくらいには大変だったけれど、ポケモン達のトレーニングという意味ではいい感じに出来たと思う。いてだきのどうくつもそうだったが、極端な環境を知り、慣れることはバトルで目まぐるしく動く天候や、特殊なフィールドに慣れることにも繋がる。勿論、苦手タイプわざへの怯えも。極端な例でいえばウインディがまさにそんな感じだろう。泳いで潜れるようになったウインディ、どうも普通のみずタイプ技にも慣れてきているようで、『みずでっぽう』程度であれば食らっても平然としているし。いくら苦手タイプに慣らすとはいえさすがにそのレベルまで皆に求める気はないが、実例がいるというのは心強かった。

 

 

で、ほのおのぬけみちを堪能した後は軽く観光地を巡り、地方大会に参加して、カロス地方にいくつもりだったのだけど、そこで待ったをかけてきたのがオーキド博士だった。私のスピアー観察とラプラス観察について、面白い報告が出来ると思う、とは聞いてはいたけど、何事かと思えばなんとポケモン図鑑に私の提出した資料が一部掲載されるかも、というのである。

 

そもそもポケモン図鑑というやつは、世界ポケモン情報機関という地方を跨いだ大機関で構築されたデータベースから必要な情報を引っ張って来て、閲覧しやすいように並べたものを指す。一地方のポケモンを全て網羅されたものから、子供向けの知育玩具のようなものまで、ポケモン図鑑と銘打たれたものは全て世界ポケモン情報機関の所有するデータベースが元になっている。発売にあたっては世界ポケモン情報機関のライセンスがいるし、認定マークのないポケモン図鑑はポケモン図鑑という名前をつけて売ってはいけない、くらいまで、法的にもガチガチに縛りが課せられている。

 

確か隣で暮らす生き物たちの情報に誤りがあって、万が一があってはいけないから、というのが理由だったっけか。

 

研究者達の目標の一つにポケモン図鑑に研究成果が載ることがあげられるくらいだし(ポケモン一種類に対して数百文字程度データが載るだけでも栄誉なことらしいので、150種分のポケモンの基礎データが採用されたオーキド博士がポケモン学の伝説と呼ばれているのも頷ける)、大変すごいことではあるのだけど、えー、身に余るというか、予想しない所からなんか予想しないものが出てきたぞ、と思ってしまったのは許されたい。一応どんなものが求められてるかな、とか、どういった形式での提出が一般的かな、とか、実験のやり方とか、データのまとめ方とか、色々勉強したとはいえ、所詮素人のものなのに。よっぽどオーキド博士が上手に材料にしてくれたのだろう。

 

大体、スピアーに関してはいくら危険とはいえ全く研究者がいなかった訳じゃないだろうし、ラプラスだってカントーの分はカンナが結構協力していたと聞く。なんで未熟な私の資料が採用を、と思ってその辺突っ込んで聞いてみたところ、トキワのもりでの研究は、オーキド研究所が近いこともあって他の研究者は遠慮する傾向にあるらしい。……まぁ、オーキド博士が提供した150種分の基礎データにはスピアーのそれもあったわけだし、他の研究所のテリトリー内(それもポケモン学の権威のテリトリーである)に生息するポケモンの調査とか恐れ多くてやりづらいか、というのは一応納得した。

 

じゃあカントー地方のラプラスの記述は、と思ったら、記述というか音声資料の方が採用されそうなのだという。確かに合唱音声は皆の協力で録れたけれど、カンナが録れてないわけないだろうと思ってたら、写真データや実験データばかりで合唱音声はないのだそうな。敢えて録ってなかったんじゃ、とも思ったのだけど、タイミングが合わずに録ってなかったとカンナ本人に確認済みだと言われてしまった。

 

私が他地方にいたのもあってか、私のところに情報が来たのはほぼ図鑑採用は秒読み、というところまで話が進んだ時点だったし、資料提供者として名前が載るのもほぼ内定している段階だった。さすがに大事だ、通信で済ませるべきことではない。思えば仲間が増えたとはいえ、私の故郷を知るのはバタフリーとウインディしかいないわけだし、両親にも手持ちたちの紹介は通信越しにしかしていない。ちょうどいいといえばちょうどいいかと帰郷の決意を固めた私は、ホウエン地方の次はカントー地方のマサラタウンへと向かったのだ。

 

……が、スピアーの観察をしていたのが実質9歳の頃であったとか、いてだきのどうくつで一か月暮らしたのが10歳の時だったとか、博士号どころか研究者として学んだことも一切なかったとか、その辺が色々ひっかかったらしく、実際に諸々が本決定になるまでに半年もかかってしまった。

 

本来研究職に就く人間は学校と呼ばれるスクールだけでなく、大学校といわれる場所に通って知識を学んでから研究者としての道を歩むことがほとんどだ。なのに、私は最終学歴がスクールであり、というかスピアーに関してはばりばりスクール在学中にとったデータばかりであったわけで。どちらかというと、年齢の割にデータが詳細に過ぎる、これほんとに君がとったデータ?みたいな疑いがかけられていたようだった。学歴や年齢が全てではないとはいえ、まぁ、言いたいことはわかる。

 

審査員の質疑応答に全て応えて、スピアーに対して行った実験の再現性があるかどうかや(私のやった実験から発展させて色々調べてくれていたようだったので、実際私がやってみせるのは一部で済んだ)、いてだきのどうくつのラプラス達と仲良くなったことも実際に行って証明して(私の手持ちにラプラスがいる、というのが証明のような気もしたが)、合間を見てはついでに地方大会にも参加して、トキワのもりの例のピカチュウやかつてのピチュー兄弟だったピカチュウ兄弟、ニドランの群れと挨拶して交流して、と、忙しくはしていた。

 

本来あそこまで話が進んだ状態で、ここまで時間がかかることはそうはないのらしいのだが、博士がとにかく私を“()()()()()”として図鑑に名前を載せることにこだわったのが長引いた原因だった。“特別研究員”というのは“研究員”という肩書とは別で、ポケモンの素人ではないが研究がメインでもないトレーナー向けに用意された区分である。“研究員”だと称号の方に関わってきてしまうし、“けんきゅういん”称号の維持には一定の成果を提出し続けなければならないという制約がある。その辺のシステムの影響を受けないよう作られたのがこの肩書だった。抜け穴的な肩書だと言い換えてもいいかもしれない。この“特別研究員”はどちらかというと“研究所所属トレーナー”であることを強く示す肩書になる。どうもこれ、レッドやグリーンが表舞台に立った辺りで作られた肩書であるらしく、彼らに続いた各地の天才達もこの肩書にはお世話になったことがあるらしい。

 

実際には“特別()()()”なんて区分もあって、ポケモンに関しては相性や命の危険や色々なことが絡み合って、研究者でない人物が下手な研究者より情報を持っている、なんていうことも多いから、こういうタイプの人はこっちに該当するし、報奨金も出るんだとか。私としてはこっちを希望したのだけど、博士は頑なに私をオーキド研究所の研究員として扱うことにこだわった。

 

 

「カントー・ジョウトはレッド、グリーン、ヒビキ……、それとブルー、リーフ、コトネ、シルバー、クリスと天才を多く輩出しながらも、そのほとんどを協会が確保できていない。イッシュは高齢だったアデクの後継としてアイリスを見出したし、ホウエンはダイゴだけでなくミクリの可能性もあることを証明した。シンオウのシロナやカロスのカルネはまだ若いし、ガラルは10歳の天才を捕まえた。……じゃが、ワタルの後継は現時点でおらん。いいとこまでいっとるのはおるけどな。

 

簡単に言うと次を見つけたら逃がさん、ってな状況になっとるのを小耳にはさんでの。お主、11歳の今の時点で地方大会7回優勝じゃったか?」

 

「……、はい」

 

「好き勝手生きたいのなら、後ろ盾を見つけておけ、という話じゃよ。ポケモンが良き友にも悪しき災害にもなり得る以上、強者はどこでも欲しがっとる。特に妙な組織が騒ぎまわり、伝説のポケモンが姿を現す今の時代ではの。たぶんお主勝つことばっかりで勝った後の結果についてなんも考えとらんじゃろ?」

 

 

図星だった。一応考えていなくもないけれど、無視しがちというか、そんなことより今のバトルに勝利する方が大事、と考えがちだった領域というか。ただ強さを追い求めて勝つことばかり考えてきたけれど、ゲームのようにハイしてんのうに勝ちました、チャンピオンにも勝って殿堂入りしてアフターストーリーも含めて全部ストーリーが終わりました!ゲームクリア!で済むわけがない。レッドを倒すまでのことも、レッドを倒してからのことも、だ。

 

 

「レッドのような例外もおるが、バトルだけで人生は回らんからの。

 

伊達にポケモン博士などと呼ばれておらん、研究所所属というだけで箔はつくが、別の公的機関からもお主がうちの所属だと認めてもらうに越したことはないじゃろう」

 

「あのう」

「なんじゃ」

「その、どうしてそこまで……。後ろ盾っていうなら、私の父も母も審判として結構高い地位にいますし、足りないことは無いと思うんですが」

「そりゃあの、お主の両親も後ろ盾というには充分な立場におるが、お主がバトルトレーナーである以上、審判職の人間の後ろ盾はいろいろと邪推されやすいからのぅ……。お主が審判を目指していれば別じゃったろうが。

 

……ちょっとな、昔よく知る子供を泣かせたことがあっての。後悔を繰り返したくないという爺の我儘じゃ。黙って受けておきなさい」

 

 

そう言われてしまうと何も言えなかった。

 

 

「そんな顔をするな。他地方のゴルバットの動画もそうじゃが、虫ポケモンの痩せる記録やら一つのどうろ全体の生態バランス観察やらロトムの捕獲法やら、お主の記録は面白い着眼点が多い。今後も続けるなら研究者としての肩書は絶対にいるし、一般人からもらったデータを使うよりかは同じ研究者からもらったデータであるとした方がわしとしてもやりやすいというのもある」

「それで特別研究員ですか?」

「称号には影響せんし、うちのお手伝いさんの肩書を大仰にいっただけのもんじゃ、今まで通りお主が好きなように出来るための処置じゃよ、何にも変わらん」

 

「……ありがとうございます」

 

「ん、それでよい」

 

「……えーっと、あー…………」

「何じゃ」

「その、……、…………結構無理矢理な言い分で色々通そうとしてません?大丈夫なんです?」

「子供が妙な心配をするな、馬鹿もん」

 

 

………あの時は、また博士に頭が上がらない案件が出来てしまった、と思ったっけ。返せるお礼が思いつかなかったので、昔オーキド研究所に入り浸っていた頃のように、資料の整理の手伝いとか、ポケモンの世話の手伝いとかを手持ちの皆にも手伝ってもらいながらしたけれど、……あれで足りた気はしなかった。

 

結局私は9歳の頃からオーキド研究所の特別研究員として所属しており、研究に関してのサポートはオーキド研究所がした、ということになって、研究者として図鑑に名を連ねることになった。資料に関しては私単独の成果という扱いにはならなかったけれど、私は最年少で図鑑に名前を載せた人間ということになったのでトントンといったところか。いや、トントンも何も、あくまで趣味の範囲というか、万が一の時に食えるようにというか、バトルにおける情報の補強というか、名目上というか、……スピアーに対する苦手の克服というか、そういう一環で調査したわけだったから、研究者として名をあげるつもりはなかったのだけども。……やっぱオーキド博士がすごいんだろうなぁ。

 

 




称号は生活に関わってくる保証制度諸々の名称で、肩書は純粋に研究所内での立場を示すもの、みたいな認識でいて頂ければ。

国民保険か社会保険かを決定する=称号を決定する
肩書=社会的な立場を示すもの のような感じです。



<オーキド博士>
あの日、マサラタウンから旅立った子供は三人だった。レッド、グリーン、そしてブルー。でも、世界に名前を轟かせたのはレッドとグリーンだけだった。道中、ライバルと呼んでくれた二人のためにブルーは必死で追いすがって、それでも距離は離れていくばかりで、……やがて、ブルーは置いて行かれた少女になった。快活な姿は見る影もなく、荒んだ姿を見せるようになったブルーが拠り所にしたのは一人の少女だった。

リーフという少女がいた。レッドの一つ下の妹で、才能はブルーと同程度の女の子だった。兄が伝説となったカントー・ジョウトでその次の年に旅立った少女は、兄と同じく快進撃を遂げた。……ように見えた。ブルーだって決して弱くはなくて、一年で同じくリーグ出場するだけの実力はあったのに、一緒に旅立った二人があまりにも先を行き過ぎるものだから、置いて行かれただけだった。ブルーと同じことをリーフはやっただけだったのに、リーフにはライバルがいなかったから、リーフの道行きはとても目立った。伝説の妹は伝説。レッドとグリーンは別の地方へ行ってしまったけれど、彼女ならきっと。リーフには期待と勝手なレッテルがべたべたと貼られていった。そんな二人が再会したとき、意外にも二人に芽生えたのは不思議な仲間意識だった。お互い、伝説の影響を受けた者同士であったから。二人は今も、お互いを慰めあいながらバトルの世界に身を置いてはいるけれど、自分達が楽しんでこの世界にいるのかどうかはもうわからなくなっていた。

一般人である彼らの両親達には手の届かないところというものがある。フォローのできる唯一の大人であったオーキドが気付いた時には、既に取り返しがつかなくなった後だった。

オーキドは二人の子供を泣かせた過去がある。だからだろうか、楽しそうにポケモンの話をしながら自分に懐いてくる少女の姿が、レッドを倒すと夢を掲げたその姿が、自然とブルーとリーフの姿に重なった。恐らくは、才能も同じくらいか少女が少しだけ上回っているくらいだろうか。…………今度こそは大人の期待に押しつぶされることのないように、今度こそは過剰な何かに押しつぶされることのないように。そんな覚悟をもって、オーキドは主人公を見守っている。

尚、現在打倒ワタルに最も近いと言われているのはブルー、リーフの両名であり、両名共にせめてチャンピオンくらいにならなければあいつらに文句も言えやしないと意地をはっているが、両名共にチャンピオンカップでワタルに敗北している。

レッドとグリーンはこのことを知らず、現在も良きライバル、良き兄妹関係であると思っている。


オーキド博士が世界ポケモン情報機関に提供したビードル系列についての基礎情報は、何故か他のポケモンと比べて精度が低く、欠けが多かったらしい。
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