獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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トレーナーに似た

 

「ら……!」

「………しゃーん」

 

 

ぽてん、と私の座っている座席の横に『テレポート』でラルトスとシャンデラが飛んできて、少し驚いて目を瞬かせる。はしゃいでいるようで大声をあげようとしたラルトスの口を、バタフリーが寝かけているのに気づいたシャンデラが飾りのついた腕で器用に塞ぐ。いい仕事してくれるよほんと。

 

そーっと腕を外したシャンデラとラルトスが顔を見合わせて、しーっと口元に手をやるような仕草をしたのを微笑ましく見ていると、ラルトスがこちらに向き直ってバタバタと手をふった。

 

エスパー能力で浮かべたホロキャスターが私の目の前に飛んできて、先ほどまで二匹が見ていた映像が映し出される。人間の格闘技からポケモンの格闘技に見るものを変えていたらしく、画面にはコジョンドとルカリオの試合が映っていた。

 

ポケモンの格闘技──ポケモン拳闘技というのだが、これは通常のバトルとはまた違い、トレーナーの指示がなく、ポケモン達がポケモン達の判断で相手と戦うものになる。使用していい技の数も回数も二つまでとか何回までとか制限されており、どちらかというと技によらない肉弾戦がメインになる。バトルにおいては私の判断だけでなくポケモン達の判断や咄嗟の動きだって大事だから、絶対参考になるぞ、と専用チャンネルを契約していたのだけど、これがどうしたのだろう。

 

確かシャンデラの推しはリングネームエクスカリバーとかいう名前のギルガルドだったはずだし(ちなみに人間の推しはマキシマム仮面である。二度目のシンオウで生で見に行ったら大変喜んでくれた)、どちらかがラルトスの推しになったのだろうか。それともすごい名勝負だったとか?

 

 

「らるる」

 

 

違う違う、と首を振ったラルトスが、思念を送って寄越す。本ポケがきちんと思い描けていないせいかぼやけた像ではあったけど、いつかラルトスに見せたサーナイトとエルレイドの写真だというのは察しがついた。

 

 

「君の最終進化系とこれがどうしたの?この前にでも出て来てた?」

「らる」

 

 

シャンデラをちらりと見るが、シャンデラもよくわかっていないらしい、彼女も体全体を傾げてなんだろう?のポーズをとっていた。

 

もう一度違う、と首を振ったラルトスがまた思念を送ってくる。今度の像は多少はっきりしていて、見せた写真のとある部分が大きく見えていた。

 

 

「……エルレイド?」

「らる!」

 

 

──カクトウ!コレニシンカシタイ!

 

 

ラルトスが小声のまま頷き、補足で思念を伝えてきた。しゅっしゅっとシャドーボクシングのような仕草をしてみたり、足を振り上げすぎて転びそうになるのを慌ててシャンデラが支えたり、というのを見ながら脳みそをフル回転させる。送りつけられた思念の感じ的に、とても真剣な打診だったのだ。

 

エルレイド、エルレイドか。

ラルトス系列の進化はラルトスからキルリアへ進化した後、そのまま普通に進化すればエスパー・フェアリータイプのサーナイトへと進化する。だが、キルリアが♂であった場合は、めざめいしという石を使うことで、エスパー・かくとうタイプのエルレイドへと進化するのだ。正直なところ、エスパーもフェアリーもこのラルトス以外で迎える気がないし、エスパーわざは使えるポケモンが増えてきているにしろ、フェアリータイプのわざはぶっちゃけ覚えるポケモンが手持ちに少ないので打点が低くなるのは困ると言えば困るのだが……、まぁ、本ポケの希望がそれなのだ、こちらでパーティ構築や戦略に関しては練り直せばいい。どちらかというと趣味パなので、タイプが被るのは今更だし。

 

問題は、エルレイドへの進化の条件の一つが♂であることなのに対し、私のラルトスが♀である、ということなのだが……。

 

 

「うーん?」

 

 

まだ浮いていたホロキャスターを捕まえて、寝入ったバタフリーの上でぱぱっとメールを打って送信する。オダマキ博士からの返信は非常に早く(仕事してるよねこの人?)内容は予想していた通りのもので、ほっと胸をなでおろした。

 

前世では、片方の性別しか出現しないポケモン、というのがいた。具体的に言うと、例えばバルキー系列であったり、ベロバー系列であったり、ケンタロスは♂しか出現しなかったし、ピンプク系列やチュリネ系列、マホミル系列は♀しか出現しない。

 

だけど、私は故郷のマサラタウンで♀のケンタロスがいたことを知っている。脱走癖のある二頭がいたのでよく覚えているが、確かにあの二頭は♀のケンタロスであったはずだ。♀は数がとても少ないのに、よく逃げるから大変ね、なんていううわさ話だって聞いたことがある。ロトムのように無性別なんてのもいるが(無性別ポケモン達の繁殖についてはまだ未知の領域で解明されていない)、ポケモン達の繁殖にはたまごを連れてくるのが不可欠で、つがいのポケモンがたまごを発見するにはどうしたって♂と♀が必要になるわけで。片方の性別しかいないとかそりゃ種として成り立たなくなるだろうし、両方の性別がいるよなぁ、という感じだった。前世でも単為生殖出来る脊椎生物はいないわけじゃなかったので、そちらの可能性もちょっと考えてはいたのだけど。

 

♀のケンタロスの存在を知って調べてみたところ、片方の性別しかいないと記憶していたポケモン達は、そのほとんどが片方の性別の数がごく僅かである、ということになっていた。前世知識は某ネット百科辞典のように、参考にはするが信用はしない方が良さそう、と決めた一件であったからよく覚えている。

 

なので、♀のエルレイドも存在していたっておかしくないだろう、と思ってラルトス系列の生息地の傍に住むオダマキ博士に質問してみたのだが、思った通り♀のエルレイドの発見事例はある、とのことだった。世界で、というか歴史上で発見されたのは数例しかなく、現在生きている♀のエルレイドは一体しかいないそうだが。

 

いるとわかれば話は早い、つまりは不可能ではないのだから、目指しようはある。♀のキルリアには通常めざめいしは反応しないというが、多分条件か何かがあるのだ。それが分かれば進化できるはずだ。

 

ホロキャスターに向けていた視線をラルトスに向け直すと、真剣な目でラルトスはこちらを見ていた。私の思考を読み取ったのだろう、その顔は明るい。

 

 

「険しい道を行きたがるとこ、私に似たのかねぇ?よし、エルレイド目指そうか」

「らる!!!」

「…………フリィ」

 

 

ラルトスがやったぁ!と大声をあげたせいでバタフリーが目を覚まし、不機嫌そうな声をあげる。やっべ、という顔をしたラルトスが『テレポート』で逃げた。謝りなさい!と声をあげたシャンデラがそれを追いかけていく。それをちょっと寝起きでよろよろしながらバタフリーが追いかけていくのを部屋から出ないようにね、と声をかけて見送った。一応飛行機の中だし。

 

となると、なんか格闘技かそこらを身に着けさせた方がいいかなぁ…。かくとうタイプへの進化を目指すならその辺の基礎は入れておいた方がいいだろうし、条件の一つの可能性もある。オダマキ博士に経過観察のデータを送るから協力してくれ、情報くれ、出来れば存命の♀のエルレイドに会わせてくれ、とメールを送りつつ、今後のラルトスの育成を考えていく。人間向けの格闘技の道場は勿論だが、ポケモン達向けの格闘道場というのもあるから、通わせてみるか…?特に人型ポケモン向けの武術の流派はそれなりにあったと記憶している。

 

本来私が学ぶ必要はないけれど、いいきっかけだ、私も格闘技はちょっと学んでみたい。人間とポケモンが一緒に学べる流派なんかもあったはずだ、とネットで検索をかけていく。

 

 

街と街との間はポケモンのテリトリーであることがほとんどだから、最低限の整備だけされた道が敷かれている程度であるし、街と街との間を車で移動することはほとんどない。精々が自転車とかポケモンに乗って移動する程度で、大抵は徒歩での移動になる。つまりは野営野宿は当たり前であるし、女子供の一人旅だって珍しくはない。

 

というか10歳で旅立つのを奨励すらしているし。そういった一人旅の人間を色んな意味で狙う悪いやつはいなくはないのだが、一人旅をする人間は厳密には一人ではなく一人と一匹以上であることがほとんどだ。悪いことをする人間に味方するポケモンというやつはそう多くないし(わかっていて協力しているか、もしくはそれが悪いことだとわからず協力しているか、……もしくは悪いことだとわかっているので協力しないか、のどれかだ)、主人を害そうとする何かがいれば基本的にはポケモンは容赦をしないし、なんなら野生ポケモンのテリトリーで事を起こすという事は、最悪野生ポケモン達をも刺激しかねないので、命が惜しい人間は悪いことはしないのだ。なので前世よりは治安が比較的いい方である。

 

そういうことがないことはないとはいえ、一応手塩にかけて育てた強いポケモン達を連れている身であるし、身の危険などよっぽど起きる心配はしていないのだけど、私も一緒に格闘技を学んでおいた方がラルトスにも色々言いやすいし、万が一の時を考えれば身につけておいて損はないだろう。

 

問題は私が旅人だということと、専門的な技術であるからきちんと学ぶには同じ道場に通う必要がある、ということか。どこかいいところが見つかれば、シンオウのソノオにいた時のように少しの間定住してもいいだろうけども、うーん……。シンオウのソノオに長期間いたのはツタージャの成長を待っていたのとロトム探しに難航していたからだったし、それ以外の場所では長居してせいぜい2ヶ月だ。経験のために地方大会開催を追い掛けて移動したり、観光目的であちこち見て回ったりくらいはしているけれど(前世のアニメの映画の舞台の街なんかは特に観光地として栄えていることも多いので、寄れそうな位置にあれば率先して寄っている)、基本的には仲間集めが優先だ。出来れば通信教育か、全世界で道場やってて旅先で都度よれるとかそういうのがあると助かるんだけど………。ないかなぁ……。ホロキャスターをぽちぽちいじり、よい条件の流派がないか探し回る。仲間を揃えたら道場のある街に居を構えて学ぶ方向でいくのは大前提として、旅の間も学べる流派……うーん………おっこれとかよさそう。

 

いくつか目ぼしいものを見つけたのでリストアップし、メールで問い合わせをかけていく。店とかに問い合わせるとき、今までもそうだったけど、電話だと声が幼い女子のそれであるせいか、なんというかちょっとなめられるんだよなぁ……。がきんちょ扱いされて保護者を求められることすらある。そんなに10歳以下の声に聞こえるのかな。電話の方が色々と早いから、ほんとは電話の方がいいんだけれど、ちゃんとした書式で送るメールの方がきちんと対応してもらえる確率が高いのもまた事実なのである。……まぁ、いくら10歳から旅立ちが認められていているとはいえ、12歳は普通に子供だからわからないでもないけど。10歳から就職も出来るとはいえ、就職したとてそれくらいの子供に任される仕事は精々がお手伝いさんだ。16とか17くらいまで立派に子ども扱いは継続されるのである。

 

その癖取材とかは遠慮してくれないというかなんというか……、フィールドに立つときとかバトル回りとかで大人に囲まれても特に緊張しないしむしろテンションがあがるのだけど、大会終わりにがーっと報道陣に囲まれるのはちょっとなぁ……、頑張って牛乳をせっせと飲んでいる身ではあるのだが、身長が全然伸びない私からすると、機材を構えた大きな大人たちに囲まれるというのはちょっと、その、あんまり、うん。恐怖を覚えるとまでは行かないが、気分のいいものではない。正直言うと嫌悪感すら覚える。試合終わりのポケモン達のケアをしたい時間に拘束されるというのもそうだが、圧がどうにも強くて頂けないというか。大会スタッフとかが配慮してくれるようなところならいいんだけど、あんまりなぁ……。外で声をかけられたときはバトルで私に勝ったら取材を受けるよ!でなんとかなるんだけど。

 

12歳の私でこれなのだ、過去の天才たちはどうしていたんだろう、と思ったが、ざっと経歴を調べてみた感じ、どうも皆地方大会に参戦せずにジム一本にしぼっていたようだった。野良バトルとジム戦だけで一年で頂点とるなよ、と言いたくもなったが、悪の組織ともバトルしてたろうからそっちがいい刺激になったのか。アイリスなんかは地方大会にも参戦していたようだが、シャガにお世話になっていたのもあり、地元の地方であったこともあってかしっかり大人のお付きがいてあんまり参考にならなかった。

 

図鑑に正式に研究者として名前が載ったのと、大きな地方大会での5回優勝という条件も既にクリアしているのでセミプロになっていることもあって、テレビ番組やら雑誌やら書籍の出版の取材希望から、スポンサーの打診のメール連絡がじゃんじゃん来ていて鬱陶しいし、その辺もマスコミ周りを好きになれない一因かもしれない。とても丁寧な取材の打診から子供向けを考えてかひらがなの多い、それでも丁寧なもの、スクール生でももう少しましな文章打つぞ、みたいなものまで様々なので見ていて面白くはあるけれど、まずメールアドレスを晒した記憶はないのだ。精々が大会参戦の時の緊急連絡先としてメールアドレスも一緒に書いたくらいの記憶しかない。……漏れたのかなぁ。それとも流していいかって聞く規約書とかあったっけか?記憶にないけど。大体公的な所属は一応オーキド研究所の方なので、本来はそちらに打診するべきものである。それはそれで迷惑かけそうなので嫌なんだけど。後ろ盾になってくれる、というのはその辺込みでだろうけどあんまりなぁ……。というかオーキド研究所所属でもこれなのか。

 

スポンサーも打診の手段があれとはいえ、結構名前を聞く有名企業なんかも紛れているので、どれか受けてもいいのかもしれないけれど、ぶっちゃけファイトマネーだけで十分生活出来てしまっているので、あんまり必要性を感じていないというか。なんかめんどくさいことが増えるくらいならポケモン達とバトルの研究をするか、ポケモン達の手入れをするかの方がよっぽど有意義だし楽しいというか、……せっかくの謳歌の時間を邪魔されたくないというか。

 

思考が逸れたなぁ、とメールが送信された後のホロキャスターを見ながらぼんやり思う。

 

ラルトスが追い回されている間にしれっと出てきたツタージャが膝の上に陣取っていて、同じくしれっと出てきたデンチュラが隣の席で足を折り畳んで鎮座しているのをぽすぽす撫でる。ホロキャスターの電源を落とそうとしたところで、ロトムが興味深そうにホロキャスターを覗き込んできたので、変に弄らないでよ、中に入らないでよ、と念押ししてから適当な番組を付けてロトムにホロキャスターを渡した。ロトムに補佐させるタイプの機械(要はロトム図鑑やスマホロトム、ロトミのようなもの)は今のところはまだ販売されていないが、開発の話を博士から聞いた感じではそのうち販売されるのだろう。メールとかに勝手に返事してくれたり、欲しい情報をすぐに引っ張ってきてくれるって結構欲しい機能なので早いとこ販売してほしいものである。

 

ウインディとラプラスは体重の問題があるので飛行機内では出せないが(ウインディは速さ重視なので、大きさの割に体重は軽めの調整をしているがそれでも180kgあるし、ラプラスもこの前150kgを超えた)窓辺に二匹のボールを置いてやったら雲の上の景色を見てはしゃいでいるようだった。それにほっとしながら伸びをして目をつぶる。もうちょっとしたら機内食の時間だし、それまで少し休もう。

 

 

 




<ポケモン拳闘技>
略してポッ拳。
尚、この世界にアーサー王伝説やそれに類似しているものは存在していない。
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