獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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はじめての章

その日、私はスクールがお休みの日だったので、いつものようにオーキド研究所へと出かけて行った。もしかして邪魔になっているのではと思っていくらか前にオーキド博士に聞いたことがあるけど、昔っからマサラの子供の遊び場じゃったしのう、と本人はほけほけと笑っていた。遠慮するな、という言葉もいただいている。

 

なので、今日も私は遠慮なくオーキド研究所の広い庭を駆け回っていた。出会ったポケモンにバタフリーとガーディで交代でバトルを挑み、バトルが終わればお互いの回復をして、そしてまた走り出す。たまに休憩をはさむ必要はあったけど、前世の子供時代、こんなに活発に動けたかなぁとちょっと疑問に思うくらい、私は元気いっぱいだった。

 

だけど、その日は何かがおかしかった。ポケモン達が姿をあまり見せないのだ。なんでだろうなぁと私が許されている範囲で一番奥までいって、いないなぁと帰ってきて、それでやっと私はそれに気付いた。

 

バトルの音がしている。

それも、たぶん研究所の方から。研究所には小さなバトルフィールドがあって、ポケモンの技の検証をするのもそうだけど、オーキド研究所にポケモンを預けているトレーナーだとかもたまに使う。

 

そういう時はいつもこっそり見せてもらうのが常だった。オーキド博士と親交のあるトレーナーは強いトレーナーが多い。強いトレーナー同士のバトルを生で見れる機会はそうそうないのである。

 

でも、今回は。今回は何かが違う気がする。バトル音が異様に鋭くて、遠く離れているのに突き刺すようだった。一歩歩くごとにびりびりとした重圧のようなものすら感じる。なのに、それがひどく甘く蕩けるお菓子のようにも感じるのだ。

 

オーキド研究所の庭は一応統制が取れているとはいえ限りなく野生に近い状態のポケモン達が多かったから、注意を払ってバトルフィールドに急いでいるつもりだったけど、私は今どんな状態だろうか。寄り添ったガーディの暖かい毛並みと、たまにぱしぱしと頭を叩くバタフリーがいなければもっと我を忘れていたかもしれない。

 

ポケモン達だって、浮かれていたというか、何かが違うのだということを理解していたように思う。証拠に、異変があればいつもはどちらかが飛び出して偵察に行ってくるのに、そうしようとせずぴったり私にくっついて震えていた。いや、震えていたのは私だったかもしれない。よくわからなかった。

 

やがてバトルフィールドの端っこにたどり着いて、私は瞠目した。

 

 

そこには伝説がいた。

 

 

レッドとグリーン。

前世らしく説明するのであれば、初代ゲームの主人公とライバル。後にアニメ版のサトシとシゲルの雛型となり、その人気から後継作のバトル施設にも何度か顔を出したキャラ達だ。そして最強の二人としてのイメージが強いキャラ達でもある。

 

なら、この世界では?

 

レッドは最強のポケモントレーナーの称号を、グリーンは最高のポケモン育成家という称号を与えられている人物たちである。普通に顔写真付きで教科書に載ってるとは思わず、見たときは三度見した。

 

簡単に言ってしまうと、レッドは現在殿堂入りシステムのあるポケモンリーグ全てを制覇している唯一のトレーナーで、グリーンは世界で初めてポケモンをレベル101以降の領域に引き上げたトレーナーとして名を馳せている、といえばその異常さが分かるだろうか。

 

色んな地方のリーグ荒らしを終えたレッドがその後行方を眩ませたというのは有名な話だったし、グリーンはグリーンでトキワジムのジムリーダーをやめた後はぱったりと消息を絶っていたと聞くけれども、と、そこまで考えたところで、バトルフィールドに設けてある観覧席のような場所にオーキド博士がいるのに気付いてそりゃそうだわ、と思った。

 

この世界のレッドとグリーンがどう生きて、どう戦って今ここに至っているのかは伝聞やTV番組でしか知らないけれど、グリーンの祖父がオーキド博士であるということは変わりなくて、そしてレッドの生家がマサラタウンであるというのも変わりがないのだ。別に顔を出すのはおかしくないし、その時が今で、そしてバトルに至っているというのもライバル同士である以上おかしくもなんともない。

 

 

だから、こんな余計なことを考えている暇があるなら、バトルを見るべきなのだ。

 

 

ちょうどレッドのラプラスがグリーンのナッシーによって沈められたところだった。代わりにレッドが繰り出したのはバタフリーだ。それに私のバタフリーの視線が釘付けになったのを気配で感じる。私はそれよりも、レッドのボールさばきの方に注目していた。ラプラスを回収してからバタフリーを繰り出すまでの一連の流れがほとんど目で追うことが出来なかった。それほどまでに手の動きが早かったのだ。

 

登場と同時にレッドのバタフリーは『かぜおこし』でフィールドをかき混ぜ、ナッシーを大きく後退させた。負けじとナッシーが念動波のようなもの──おそらく『サイコキネシス』──を放つも、バタフリーはそれをあっさりとかわした。空気中を一瞬で伝播したその『サイコキネシス』をあっさりと、である。

 

続けてナッシーは紫の、たぶん毒の塊を高速で吐き出した。『ヘドロばくだん』だろうか。それもバタフリーは紙一重でかわす。かわしたところにもう一度『サイコキネシス』が襲い掛かる。そしてもう一度『ヘドロばくだん』が。あまりにナッシーの『サイコキネシス』と『ヘドロばくだん』を撃つ間隔が短すぎやしないだろうか。見ればナッシーの三つ頭のうち二つが交互にそれぞれ『サイコキネシス』と『ヘドロばくだん』を受け持って、時には同時に発射してすらいる。残りの一つは観測手だろうか。じっとバタフリーを見据えたまま目を離さない。

 

濃密な弾幕がバタフリーを包囲しつくして、いよいよその姿をとらえるのでは、と思った時だった。

 

 

「『むしのさざめき』」

 

 

その時初めて肉声を聞いた。レッドのその指示はよくとおって、『むしのさざめき』は『サイコキネシス』と『ヘドロばくだん』を貫通してナッシーに襲いかかった。攻撃に専念していたせいか、ナッシーはそれをよけることもできずに弱点に弱点を重ねた四倍弱点の技の直撃を受ける。

 

重く鈍い音が響いてナッシーが倒れた。戦闘不能だ。そのはずだ。

 

笑った、と思った。グリーンもレッドも、だ。

 

ナッシーは沈む寸前に『みがわり』を作り出していた。攻撃を受けて、瀕死になるまでのほんのわずかな一瞬に、だ。そんなことが出来るのか。だって、体力計算は?瀕死になる前に技を絞り出すだなんて、そんなことが?

 

わたしが混乱している間にグリーンが繰り出したのはウインディだった。

 

 

「ギャオォォオオオオオ!!!!」

 

 

降臨した瞬間、大音声の『とおぼえ』が決まる。レッドのバタフリーが明らかに一瞬ひるんだ、ということはウインディは今の一瞬でバタフリーへの“いかく”によるバタフリーの攻撃力の低下と自身の攻撃力上昇と、それからもしかしたらひるみ状態という状態異常の押し付けをこなしたことになる。

 

自分のガーディの目線が釘付けになったのもまた感じる。そうだ、今伝説同士が対峙したこの場で、自分の手持ちと同一ポケモンと進化系のポケモンがバトルで対面を果たす確率がこの世でどれくらいあるというのだろう?ああ、録画を撮りたい。残したい。何度も何度も擦り切れるくらいに見たい。

 

 

「『かえんほうしゃ』!」

 

 

グリーンの声に導かれるように、『みがわり』の後ろに隠れたウインディの口から恐ろしい勢いの炎が吐き出された。ほとんど直線にしかみえない、まるで熱光線のような『かえんほうしゃ』が一挙に空を薙ぎ払う。

先ほどの『サイコキネシス』や『ヘドロばくだん』と違って、それはかなり離れた私のところまで熱が届くような代物だった。

 

たまらずに高度を下げたバタフリーにウインディが跳躍してとびかかる。

 

 

「決めろ。『フレアドライブ』」

 

 

かっと閃光がはしって、気付いた時にはすでにバタフリーが丸焦げになって地面にたたきつけられたところだった。ウインディが勝利に吠えながら『みがわり』の後ろに飛び込むように戻る。

 

滑らかにバタフリーが回収され、次にレッドが繰り出したのはカビゴンだった。

その大きな姿がモンスターボールから登場して、一歩、地に足をつけ、その瞬間カビゴンの姿が消える。

 

 

「『おんがえし』!」

「『しんそく』!」

 

 

すさまじい音が響き渡った。

 

レッドの真正面、すぐ側に繰り出されたはずのカビゴンは、あっという間にウインディの近くまで到達していた。

 

ああ、先ほどから目が追い付かない。こんな時でなければヤムチャ視点などどいって笑える余裕があったかもしれないが、今はただ目で追えないのがもどかしい。

 

でもどうして?カビゴンは遅いはずなのに?100%の先制攻撃を約束する『しんそく』と同タイミングで技を発動して殴り合う?いや、たぶん『しんそく』でも間に合わない速さだったのだ、『みがわり』が既に消えているから。

 

じゃあ、どうしてそれほどまでの速さを?

 

決まってる、今もウインディと殴り合うその盛り上がった体躯を見ればわかるというものだ。あの巨体、全てが筋肉なのだ。“あついしぼう”という名のとくせいを取得していることもあるカビゴンのその肥満体型が(そのポケモン特有の体質なので肥満と呼んでいいのかは知らないが)、すべて筋肉に置き換わっているが故のスピードだろう。筋肉の重さとその筋肉の能力を比べて、圧倒的に能力の方が勝った、そういう速さだったのだと思う。もしかしたら他にもタネがあるのかもしれないが、未熟な私にはわからなかった。

 

しかし四足の身ながら二足歩行のカビゴンと殴り合うグリーンのウインディもまた凄まじい。たぶん『しんそく』から『インファイト』に移行しているのだろうが、先手を許したとはいえほぼ前足と体捌きのみでカビゴンと渡り合っている。

 

 

それを瞬きする間も惜しみながらじっと見つめていた時だった。

ばぎゃごん、と。そんな轟音がした。

 

 

そして、気付いた時には目の前に瓦礫が迫っていた。

 

後から聞いたが、均衡していたウインディとカビゴンのバランスが崩れて、地面に技を叩きつける形になったのだという。結果、地面をたたき割って瓦礫を巻き上げ、そのうちの一部が私たちのいた茂みに飛来した、とそういうことだった。

 

 

私の頭より大きい瓦礫が二つ、迫ってくる。

まごうことなく、それは死だった。

 

 

瓦礫を見て、キャタピーだったころのバタフリーを思い出して、ガーディ様だったころのガーディを思い出して、暖かい両親との思い出を思い出して、スクールの学友と笑いあったのを思い出して、前世の薄らぼんやりとした記憶を思い出して、オーキド研究所の庭を思い出して、ピチュー達を思い出して、ニドラン達を思い出して、ピカチュウを思い出して、思い出して、思い出して、思い出して──

 

 

()()()()()()()()()

 

 

ああ、でも────  ()()()()()()()()()()()()()()()()()

迫ってきているけど、まだ遠い。

 

───なら、できることがある。

 

 

 

「サ」

 

ぴくりと腕が動いた。何かが繋がる。意思が伝わる。

──死んでたまるか。

 

 

「イ」

 

腕が持ち上がる。ガーディが地を蹴ったのを感じる。

──死んでたまるか。

 

 

 

「ケ」

 

まっすぐ瓦礫を指さして。

──死んでたまるか。

 

 

 

「こ」

 

 

バタフリーが頭から飛び立つのを感じる。 

──死んでたまるか。

 

 

 

「う」

 

繋がっている感覚がした。意思をくみ取ってくれる感覚がした。

──死んでたまるか。

 

 

「せ」

 

なんだろう、これは。私は今何をしているのだろう。

 

繋がっている感覚が陽だまりの中にいるように心地よくて、甘ったるくて、快い。それでいて、刺し込むようなピリつきを感じる。これはなんだろう。

 

確かなのは私は何かと繋がっていて、その何かはとてもよく知っているものであるということ。

 

そして、その繋がりの先の何かから、私の身を守るにはほんの少し早さが足りない、そんな焦りと、でも、大丈夫でしょ?という信頼が伝わってくる。

 

だから私は、その信頼に応えて、ぐっと“何かたち”の背中を押し出した。

 

感覚だ、これは。本当は背中とかそういうのはないけれど、足りない早さを補うような、ほんの少しを手助けするような、そういうもの。

 

 

そして私はバタフリーの『サイケこうせん』の準備と、ガーディの『でんこうせっか』の準備ができたことを感じ取った。

 

 

 

───二度と!死んで!たまるか!!!

 

 

 

「ん!!」

 

 

未知の感覚が消え、引き延ばされた時が戻ってくる。

 

バタフリーは『サイケこうせん』を、ガーディは『でんこうせっか』を、それぞれが放ち、迫った瓦礫を弾き飛ばして遥か遠くに着弾させた。また、轟音が響く。レッドとグリーンが驚いたようにこちらを見るのが見えて、ウインディとカビゴンの動きが止まったのも見えた。オーキド博士が何か叫んでいる。

 

いや、そうじゃない。そうじゃなくて。

 

 

今、私は何をした。

ポケモン達は何をした。

 

 

言葉でいえば簡単だ。私は声でバタフリーに、腕でガーディに、それぞれ指示を出して瓦礫を遥か彼方へ弾き飛ばすことに成功した。結果はそれだ。でも違う。今の繋がったそれはなんだ。明らかに間に合わないはずの指示が間に合ったのはどうしてだ。

 

もしかしたら本当は声すらいらなかったかもしれない。ただ指をさすだけで、指示がダイレクトに伝わって、ポケモン達が何を考えているのかだってダイレクトに伝わってくるあれは、なんだ。

 

 

それに私、今、物理的にポケモンの技をてだすけしなかったか?

 

 

息があらい。消えてしまったあの未知の感覚が恋しい。でも口元が吊り上がっている気がする。初めてバトルした時も強い快感を覚えたし、勝利した時などはこんなに気持ちがよいことはないと思ったけれど。それとは比較にならないこの楽しさはなんだろう。もし、今の感覚のまま、バトルして、勝利したら私はどうなってしまうのだろう。

 

エスパーポケモンが近くにいたのだろうか。それとも転生特典とかいうやつか?なんだこれ、なんだ?

 

 

「おい!」

 

 

肩をがっしりつかまれて揺さぶられて、声をかけられてはじめて目の前にグリーンがいることに気付いて、私は現実に戻った。

 

足元でガーディがきゃんきゃん鳴いていて、バタフリーが髪の毛をぐいぐいひっぱっていることにもそれで気づいた。というか今ぶちぶちっていったし痛かったんだけど抜けたよな髪の毛。

 

 

「……、………!…!!???」

 

 

後ろからレッドも私を覗き込んでいる。息をきらしたオーキド博士が二人を押しのけて、孫と同じくやっぱり肩をつかんだ。

 

 

「大丈夫かラディア!?怪我は!?」

「だいじょうぶ……です、それより、あの、」

「おい…?」

 

 

オーキド博士をそっと振りほどいて、二人の伝説の前に立つ。バタフリーは捕まえて頭に押し付けて、ガーディは抱き上げた。

 

 

「バトルの邪魔をしてごめんなさい。勝手に見ててごめんなさい。離れるので続けてください」

 

 

そのうえで深々と頭を下げたので、バタフリーが抗議の声を上げた。人の髪の毛を抜くからだ。

 

すごい試合だった。学ぶところもたくさんあったのに、私がこんなところで盗み見なんかしていたせいで中断させてしまった。なんて失礼なことをしてしまったのだろう。

 

顔をあげるとなぜか目を見開いたグリーンと、なんとなく、本当になんとなくだけど、嬉しそうなレッドがいた。

 

レッドは近寄ってきてかがんで私と目線を合わせてくれる。

 

 

「いいよ。

 

────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

質問の意味が分からなくて固まる。

 

指示?今までだってしてきたに決まっているじゃないか。

でも、それに頷けない私がいる。

 

だって、あの感覚を知ってしまったから。

 

 

「……たぶん、そうだと思います」

「そう。………おめでとう」

 

 

それだけ言って、レッドは私から離れていった。

大きくため息をついたグリーンが頭をがしがしとかく。

 

 

「怪我がないならよかった。…じーさんと一緒に見てろよ、続き」

 

 

それだけ言ってグリーンも元いたところに戻っていく。

見送って振りかえると、こう、なんていうのだろう、説教したものか誉めたものかどうしたものか、と言わんばかりの顔をしたオーキド博士が立っていた。

 

 

「怪我は本当にないんじゃな?」

「はい。………ごめんなさい」

 

 

オーキド博士にも頭を下げる。

 

 

「……お前じゃなくて研究所のポケモンが見に来ることもあるからの。フィールド外に技をかっ飛ばさないなら使ってよいと言ってあるのを破ったあいつらが悪い。嫌な予感がしたんでロトムをつかいに出したんじゃが……その様子だと会わんかったようじゃな」

「はい」

 

 

下げていた頭を上げると、オーキド博士は苦笑いをしていた。

 

 

「…………わしと一緒に見るか」

「…はい!」

 

 

 

 

 






Q.こいつなにやったの?
A.この世界におけるヒト種の祖先は猿ではない。
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