獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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交流の章

 

気合を入れ直してポケモン達を出し、もう一度終の洞窟に生息するオンバット系列の情報を確認する。

 

オンバットとオンバーンが群れを成してこの洞窟(正確にはこの洞窟の近くにある別の洞窟なのだが)に住み着いているらしい、というのは確定だ。この洞窟は元々炭坑だったのだが、あちこち掘っている間にオンバット系列が住んでいた洞窟と偶然つながったのが発端で、炭坑内でオンバットが目撃されるようになったのだそうだ。繋がった、といってもヒビが入ったとかその程度らしく、大きな体であるオンバーンの目撃情報はないのだとか。掘削の止まった夜間なんかに好奇心旺盛なオンバットがその辺を飛んでいたり、もしくは単純に迷子のオンバットが泣いているのが見つかったりしていたそうな。

 

終の洞窟が廃坑になってからはあまり足を運ぶ人間もいないようで、今や内部はポケモン達の楽園となっているとか。……カロスのシナリオが始まっていないことを思うと、もしかして奥にいくとジガルデがいるのかな?わざわざ会いに行く気はないが、遭遇してしまう可能性はあるので気を付けた方がよさそうだ。伝説のポケモンに今まで相対したことはないが、実際観察したオダマキ博士の話を聞くに、大層な厄ネタであるようなので、絶対に出会いたくない。一応色々な数値の見方は勉強しているが、ちらっと見せてもらった資料に記載されていたデータの数値はとてもじゃないがポケモンのものとは思えなかった。大体ぬしポケモン相手ですらバトルを挑んで勝てる気はしないことを思うと、伝説のポケモンは本来人間が関わるべきではない存在なのだろう。

 

 

さて、オンバットである。オンバットは逃げ足が速く、臆病な個体が多いという。ということで、今回は興味を引くために果物を用意してきた。バチュルの時にもやった手である。新鮮なモモンのみ(6個で10000円の超高級品である)を用意したので、お眼鏡に叶うといいのだけど。出来ればボールには納得して入ってほしいから、せめてお話が出来るといいなぁ。今までもそうしてきたし、唯一そうでなかったロトムだってその後ちゃんと面接の時間をとったのだし。

 

空を飛ぶポケモンである、ということを加味して、今回のお供はバタフリー、デンチュラ、シャンデラ、ロトムだ。じめんやいわタイプの目撃例も多いため、ロトムにはウォッシュフォルムになってもらっている。なのでロトムは現在でんき・みずタイプだ。カロスに到着して真っ先にロトムの機械は買い揃えたし、一つ一つのフォルムも特訓中ではあるが、この一年ずっと使っていたこともあってか、ノーマルフォルムの次に得意なのはやはりこのウォッシュフォルムだ。ラプラスと『ハイドロポンプ』の撃ち合いをして命中率を競うとかもやっているくらいだし、練度は高い。

 

ぶん、と派手に飛び回ったロトムを軽く目で追った後、自然な流れで唯一空を飛べないデンチュラが私の護衛につこうと動いたのを見て、慌てて手を振る。

 

 

「あ、待って待って、護衛はバタフリーで。デンチュラは天井に行ってヒビとか隙間をよく見てほしいんだ。シャンデラはポケモンの気配を見つけたら知らせてね。ロトムは先導をお願い。音波で辺りを探るポケモンだっていうから、最悪『さわぐ』を当ててほしいの」

 

 

聴覚に頼った生活をしているポケモンだから、『さわぐ』は結構いい感じに入ると思うのだ。実際ドラセナのオンバーンがバクオングの『ばくおんぱ』を食らって必要以上に苦しんでいるのをバトルビデオで見たし。ポケモンの生態を学んでおくとバトルに役立つ、という話のいい例だろう。

 

頷いたポケモン達が配置についたのを見届けて、終の洞窟の中に入る。放置されたトロッコが転がっていて、いかにも寂れた炭坑という感じだった。少し歩いて奥の方を見てみたが、案の定光源はなさそうだ。シャンデラがいるとはいえ念のため、とヘッドライトを装着して明かりをつけ、それとは別に腰にカンテラを下げて洞窟内を歩いていく。調べた感じガスの発生とかはなかったというし、気にするべきは落盤がないかどうか、くらいか。バトルが発生したら使用する技には注意しないといけない。あちこちに目をやりながらゆっくり進むが、目立ったポケモンの気配は今のところなかった。……まぁ、連れてるポケモンのレベル、高いもんな。今出しているポケモンの中で一番レベルが低いのはロトムだけど、それでも70に差し掛かっている。野生のポケモンの平均レベルが30くらいであることを思えば(あくまで平均なので、もっとレベルの高いポケモンも低いポケモンもいる)、好戦的なポケモンならまだしも、臆病なポケモンの勧誘には向かなくなって来ているかもしれない。

 

オンバットの目撃情報は入ってすぐの階段下辺りに集中していたので、たぶんその辺にオンバット系列の居住区に繋がるひび割れがあるのだろう。階段を降りたところからは殊更ゆっくりと歩みを進めると、シャンデラの明かりが大きく揺らめいた。おや、と天井を見上げると、階段の辺りでデンチュラが止まっているのに気付いた。

 

……下からではわからないが、どうやらいるようだ。

 

ちらりと視線を飛ばすと、心得たようにシャンデラとロトムが頷き、バタフリーが私の側に控える。腰に付けたボール達も小さく震えたので大丈夫だろう。

 

とりあえず、そーっと背負っていたリュックサックを降ろし、中から熟れたモモンの実を一つ取り出す。……やばいちょっと色変わっちゃってるな、運ぶの大変なわけだ。それでもその甘い香りは辺りに広がり、思わず私も匂いを鼻いっぱいに嗅いでしまった。より上品な甘さであるのは勿論であるが、このモモンのみ、お高いだけあって可食部が多めになるよう品種改良されたものでもあるので、普通のモモンのみよりはたくさん食べることが出来る。自分達用にもいくらか数は揃えたので、後で食べるのが楽しみだ。

 

もう一度天井を見上げると、デンチュラが止まっているところより少し前の辺りのひび割れから、涎をだらだら流しながら一匹のオンバットが頭を覗かせていた。

 

目が合うといったんぴゃっと引っ込んだものの、恐る恐るもう一度顔を覗かせる様子に思わず笑ってしまう。ああ待って、笑っただけだから引っ込まないで。今度こそ目を合わせながら、そーっとモモンのみをオンバットに向けて掲げる。

 

 

「オンバット。もしよければ一緒に食べない?」

 

 

オンバットは目を輝かせて頷いた。流石6個入り10000円。…………でもごめん、ちょろい、とちょっと思ってしまった。

 

ちょっと進んでは隠れて、というのを繰り返しながらオンバットは近づいてきてくれたけど、オンバットだけでなく、辺りで様子を伺っていたコドラやサンド、ヨーギラスやアイアント、イシツブテまで寄ってきたのはほんとなんなの君たち。別にきのみ食べなくても生きてけるタイプでしょうに。追加でラプラスを出して牽制を試みてみたが、足を止めただけで、皆期待に目を輝かせていた。……もしかして他のトレーナーも似たようなことやって餌付けしちゃってるんじゃないよね?

 

しょうがないなもう、と息を吐いて、おいで、と声をかけると嬉しそうに寄ってきてくれたのでまぁいいか。数は揃えてあるし、なくなるようなら自分達の分はまた買えばいい。代わりに色々教えてよ、と言うと、元気よく返事が返ってきた。現金だなこいつら。

 

綺麗にカットしたモモンのみをオンバットに差し出すと、両手で抱えて少し私から距離をとって嬉しそうにかじりつく。一口かじってぱぁっと目を輝かせ、こちらを向いて嬉しそうに一鳴きすると、大事そうに食べ始めた。うーん可愛い。他のポケモン達にもモモンのみを転がしてやって一息つく。一応野生のポケモン達に囲まれているので私の手持ちにはモモンのみをあげていないのだけど、皆心なしか恨めしい目つきになっている気がする。ごめんって。

 

野生のポケモン達が大体食べ終わったかな、というくらいを見計らって声をかける。

 

 

「オンバット、ちょっとだけ私の近くに来てくれる?もう一個モモンのみをあげるから」

「………きゅうう」

 

 

オンバットは少し悩んだ様子だったが、構わずにモモンのみを切り分けて、皮を剥きはじめた辺りで涎を垂らしながらよたよたと近寄ってきてくれた。ありがとう6個入り10000円。

 

そっと皿の上にモモンのみを置いて膝に降ろし、近寄ってきてくれたオンバットと目を合わせる。目が大きいなぁ、と思いながら、じっとオンバットと視線を合わせ、……これは完全に感覚なのだけれど、なんというか、呼吸を合わせる、というか。本当に息を吸って吐いてのリズムを合わせるわけではなく(必要そうであればそれもやるが)、ただゆっくりと目の前の生き物に寄り添う姿勢を見せるというか、うーん。なんだろう、ほんと感覚なんだよな。たくさんのポケモン達と触れ合ってきた成果なのだけれど、そう、ポケモンを落ち着かせる感じ、というのか。前世風にいうのなら、野良猫に心を開いてもらう感じ?

 

じっと視線を交わしていると、最初はちょっと怯えを見せていたオンバットの様子がやがて落ち着き、ゆっくりと私に対して瞬きを返してくれる。掌を上にしてそっと手を伸ばすと、オンバットは鼻先で私の指に挨拶を返してくれた。顎の下を撫でてみて、逃げずに気持ちよさそうにしてくれたことに安堵する。

 

そーっとオンバットを抱き上げてみるが、オンバットは抵抗しなかった。皿を片手で持ち上げ、膝に乗せたオンバットに手ずからモモンのみをひと切れ与えてみるが、おとなしく食べてくれた。よしよし。……途中で奪い取られたのはまぁご愛敬だろう。皿から直接持っていっていいよ、と声をかけると、オンバットは膝の上でモモンのみを一切れ一切れ大事そうに食べ始めた。

 

 

うーん、うん。

 

これ、はがねタイプよりドラゴンタイプの方が相性いいくらいでは?

 

 

はがねタイプに感じていた相性の悪さも致命的なものではなかったとはいえ(手持ちに加える予定はないけれど、仲間にしたとしてもそんなに問題はない程度だ。流石にメタグロスは無理だろうけど)、そういう相性が悪そうだ、とか、そういった感じの感覚は一切ない。懸念事項が一つ消えてほっと息を吐き、顔をあげると、驚いた様子でこちらを見る野生のポケモン達の姿があって少しだけ目を細める。ちょっぴりどや顔になっていたかもしれない。私のポケモン達の方は間違いなくどや顔してたけど。

 

 

「オンバット、もう一つお願いがあるんだけどいい?」

「きゅう?」

「君の友達にバトルが好きなオンバットはいない?旅立ちたがってる子だともっといい。……君がそうなら君がついてきてくれると嬉しいけれど。どうかな?」

「…………きゅ」

 

 

一瞬固まったものの、残念ながらオンバットは首を横に振った。うーん駄目か。固まったのも驚いたからっぽかったし、迷いすらしなかったな。この子の勧誘は無理か。

 

 

「お友達の方はどう?そういう子いない?いたら紹介してほしいんだけれど。バトルでてっぺんとりたいの。どう?」

「きゅ~…………、……きゅ」

 

 

オンバットは随分悩みながら首を捻っていたが、やがてこくりと頷いた。心当たりがいたようだ。ぴょん、と膝から飛び降りたオンバットがちょっと待ってて、と鳴き、パタパタと飛び上がって出てきたヒビへと戻っていく。

 

 

「時間かかりそうだったら明日もまた同じくらいの時間にくるからね!」

「きゅる!」

 

 

その後ろ姿に声をかけると、元気な返事が返ってきたので大丈夫だろう。最悪オンバット系列の住んでいる洞窟に乗り込むことまで考えてたしなぁ……、終の洞窟の近くの崖の高い位置に入り口があるらしく、夕暮れの決まった時間にそこから飛びだつオンバーンの姿が見れるそうだ。人間がそこまで行く手段は『ロッククライム』でポケモンに連れて行ってもらうとか、『そらをとぶ』で連れて行ってもらうとかしかないようだけれど、大抵オンバーンに捕捉されて追い払われるのだとか。それなら人力で隠れながら登っていけばなんとかならないかなと思って、一応用意はしてきているのだ。スクールで教えてもらった崖のぼりのあれそれ、技術が鈍らないようたまに街中でボルタリングしてみたり、旅の最中でよさそうな場所があれば練習したり、崖のぼりのことだけに限らず、スクールで習った野外で役立つ色んな事の復習は旅立ってから欠かさずおこなってきている。

 

オンバット系列は色んなことを音で判断しているようだから一発でばれそうな気もするが、その辺は空を飛べるポケモン達に囮役をしてもらえばいけないかな、というちょっとガバガバの計画ではあるが、試してみて損はないと思ってはいる案ではあった。ラプラス、シャンデラ、ラルトスが『サイコキネシス』を覚えているので、最悪落下しても何とかなるし。

 

その前にこちらの終の洞窟で出会えたから結果オーライだけれど。

 

モモンのみを与えた野生のポケモン達はその後周囲でくつろぎ始めたので、ついでにここでの暮らし方やオンバットの話やらを手持ちのポケモン越しに聞いてみたり、体の手入れの仕方を聞いてみたり、と雑談交じりにコミュニケーションをとって過ごしたのだけど、日が暮れてもオンバットが戻ることは無かった。

 

 

 

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