獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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9匹目

 

 

「きゅるるるる………」

「きゅう!きゅうきゅう!!」

「…………えーっと、こんにちは?」

 

 

昨日と同じ時間に今度はモモンのみを初めから出した状態で洞窟にいったのだけれど、例のひびわれを通り過ぎようとした瞬間、ぼてぼてっと二匹のオンバットがもつれ合いながら落ちてきたので流石にびびった。シャンデラとかは察してたでしょこれ、なんか言ってよ、とシャンデラを見上げたが、シャンデラはにっこり笑うばかりで返事はなかった。

 

で、この有様である。一匹は昨日のオンバットだろう、完全に怯えもなく、堂々と、連れてきたよ!そのきのみちょーだい!してるし。もう一匹がバトルが好きで旅立ちたがっているオンバットなのだろうが、えーっと、大丈夫かこの子。尋常じゃなく怯えている上に涙目だし、どうにかして昨日のオンバットの後ろに隠れようとじたばたやっている。そういや系統は違うが、私から隠れようとしたポケモンって前にもいたなぁ、とちらりとバタフリーを見たけれど、バタフリーは知らぬ存ぜぬという顔だった。キャタピーの時にびっちびちしながらピカチュウに抱えられてきたのは結構強烈な思い出なんだけどなぁ。

 

少しだけポケモン達に距離をとるように指示を出し、リュックを降ろしてその場に座り込む。怯えていた方のオンバットに目を合わせると、涙目のまま昨日のオンバットの背に隠れてしまった。……この子本当にバトル好きなのかな?

 

 

「昨日の子は君だよね。……で、旅立ちたがってて、バトルが好きなのが後ろの子?」

「きゅう」

 

 

旅立ちたい方のオンバットをどうにかしないとモモンのみがもらえないのでは、と気づいたらしく、頷いた昨日のオンバットがどうにかして私の前に背中のオンバットを引きずり出そうとじたばたやり始めた。涙目でいやいやしながら背中にはりついているので難しそうだけども。これ手を出すべき?

 

 

「あー、わかった、そのままでいいよ。ここまで来てくれたってことは旅立ちたいっていう意思はあるんでしょう?ちょっとお話しようか」

 

 

そう言うと、不承不承と言わんばかりに昨日のオンバットが落ち着き、旅立ちたい方のオンバットはその背中で安心したようにほっと息を吐いた。

 

 

「えーっと、まず私の紹介から行こうか。私はラディア。ここからとっても遠いところから来たの。バトルが大好きで、他のポケモン達を見てもらえば分かると思うけれど、……まぁ、それなりの実力はあるかな。それでも人間のてっぺんにいるバトルトレーナーを倒すにはまだまだ足りなくてね、仲間集めをしているんだ。もし君がバトルに対して意欲があって、旅立ちたいと思っているのなら、是非ともついてきてほしい。一緒に強くなろうよ。……どう?」

「……きゅるるるるる…………」

 

 

なんか……なんだろうな、知らない人間と知らないポケモンの前で怯えてるのは分かるんだけど、不安がられてもいるような感じだなこれ。

 

 

「きゅう!!きゅうう!!!」

「きゅう……きゅるるる」

「きゅうきゅう!!!」

 

 

しまいにはオンバット同士で言い合いを始める始末である。……バチュルの時のようになんか汲み取れないかと一生懸命二匹を見てみるが、オンバットだとちょっと難しいな。どうも、昨日のオンバットはなんでそんな弱気なの!的なことを怒っているように見えるけれど。

 

 

「チュララ」

 

 

隣にいたデンチュラが喋っていい?と声をかけてきたので、とりあえずデンチュラに任せてみることにする。気付けば昨日姿を見せていた野生のポケモン達も心配そうに顔を出してこちらを見ていた。

 

 

「チュラララ、チュラ、チュララ?」

「…………」

「きゅう!!」

「……きゅう、きゅるるる」

「チュラ。チュラララ。チュラ!」

「……きゅう?」

 

 

デンチュラの言い分だけしかわからないんだけれど、体を動かして自分の様子を見せたり、たぶんではあるが、仲間入りの時の様子を語っていたようだったので……、えーっと?デンチュラがくいくい、と私の腕に脚をかけ、ホロキャスターの入ったポーチをしきりと見る。あー、なるほどね?

 

いいの?と聞いたが、デンチュラはむしろ見せてやってほしい、と返してきた。

 

以前使っていたライブキャスターの後継機として発売されたばかりのホロキャスターであるが、これも最近入手したものの一つだ。まだ値段が高い上に一般向けには販売されてはいないが、そのうち少し機能を落とした廉価版が出るというのは聞いている。来年が恐らくイッシュ地方二回目のゲームシナリオの年であることを思うに、そう遠くないうちにこのカロス地方でもシナリオが発生するのだろう。ライブキャスターからのデータの移植は可能であったからもちろん全てホロキャスターに移してあるし、そのデータの中にはデンチュラがバチュルの時のデータも含まれているし、太っていた時のバチュルの姿だって含まれている。

 

操作して太っていた時のバチュルの姿をホログラムで大きく画像投影すると、デンチュラがそれを指して何やらオンバット達に力説し始めた。タイミングを見計らってこちらに合図を送ってきたので、それに合わせて痩せた時のバチュルの姿を映してやると、オンバット達が目に見えてざわめいた。それからもう一度デンチュラが私と自分の体を指しながら力説し……て…………ちょっと恥ずかしいな、要約するとこの人のお陰でこんなに変われたよ!的なことを一生懸命語ってくれているのだ、私のデンチュラは。そーっと目線をそらすと、面白そうな目でこちらを見ているバタフリーがいたので、とっ捕まえて顔をむにむにの刑にしてやった。ロトムが私の耳横を掠めて飛んで行ったのは何ですか、耳真っ赤だよとでも言う気か。

 

 

「チュララ、チュラ。……チュララ?」

 

 

話が終わったのか、こちらを見上げてきたデンチュラにうー、と呻き声をあげ、バタフリーを乱暴に放り投げた後に、よっこいしょ、とデンチュラの胴体を持ち上げて抱きかかえる。驚いたようにわさわさと足が動いたが、デンチュラはすぐに大人しくなった。ほんとそういうとこあるよね、デンチュラは。バタフリーが抗議の声をあげているが、今はデンチュラを抱きしめたい気分なのだ、諦めてくれ。ていうかちゃんと護衛してくれ。

 

心なしか期待の目つきに変わったオンバット達に、デンチュラの背中と言うか頭の上に顔を埋めながら言葉を続ける。

 

 

「君が何に悩んでいるかがちょっと、ごめんね、あんまりオンバットと触れ合ったことがないからまだ理解できてないんだけど、君が仲間になってくれるのなら、もちろんその解決は手伝えるものなら手伝うよ。デンチュラがこれだけ痩せて、これだけかっこよくなったのはデンチュラが頑張ったからだから、君も勿論頑張ってもらわないといけないけれど。

 

後はそうだね、たぶんだけどバトル好きでないと私の手持ちでいるのは難しいと思う。

 

……その辺はどうかな?」

 

「きゅるる」

「…………きゅう」

 

 

たぶんだけど、オンバットという種族は歩くのがあんまり得意ではないのかもしれない。怯えていたオンバットは少し躊躇したけれど、昨日であったオンバットに背中を押され、よたよたとではあったけど覚悟を決めたように私の方に歩み出てきた。デンチュラを降ろし、きちんと座ってオンバットと向かいあう。

 

 

「君の言葉で聞いてもいい?旅に出たいと思っている理由を教えて」

「きゅうう」

 

 

こくり、と頷いたオンバットは身振り手振りと鳴き声とを交えて、どうして旅立ちたいか、を一生懸命に訴え始めた。

 

要約すると、ビビりな自分をなんとかしたい、のだそうだ。遠くで誰かが蹴飛ばして転がった石の小さな音にすら飛び上がって怯えてしまうし、オンバット達の生活圏から出てくるのだってもってのほかで、一部のオンバーンすらも恐ろしくて仕方がないのだとか。そんな怖がりでバトルは大丈夫なのかな、と思ったが、ここで昨日出会ったオンバットから捕捉が入り、バトルに関しては恐らく問題がないだろう、とのこと。定期的に群れでバトルをしているらしいのだけど、センス自体は群れでも一番あって、わざを躱すときは少々派手に避けるくせはあるが、それでも負けたことがないのだという。しかし、元よりオンバットは臆病な個体が多い種族とはいえ、このオンバットのビビり加減は過剰に過ぎるのだとか。

 

ビビりさえなければ次期群れのリーダーも狙えるはず、的なことまで言っているので相当なのだろう。当のオンバットはそんなことない、と随分消極的だったけれど。

 

それでも本ポケ自身もこれはどうにかして治さなければならない、と思って昨日出会った方のオンバットに相談していて、そうして二匹で悩んでいたところに私達が来たのだとか。いっそ外に飛び出てみて、環境ごと変えてみるのもいいんじゃないか、と昨日出会った方が思い立ち、一日かけて臆病な方のオンバットを説得してここまで引きずり出してきたようだ。本ポケも怯えてこそいるが、自分を変えられるのなら、と乗り気であるのは間違いないそうな。

 

 

「……なるほどね?」

 

 

ぶるぶると震えているし、目もうるみっぱなしだったけれど、臆病なオンバットは語っている最中ずっと真剣な顔だった。……これだけ怖がりなのに、ここまで来れてる時点で覚悟はある、ってことかな。

 

 

「うん、わかった。君のそのビビりな性格、一緒になんとかしてみよう」

「……きゅうう?」

「大丈夫、君が変わりたいって思ってるなら、きっとなんとかなるから」

 

 

本当に?と恐る恐る聞いてきたオンバットに、力強く頷いて見せる。隣でデンチュラも同じように大丈夫だよ、と頷いた。

 

 

「ただ、代わりに君にはたくさんバトルに出てもらうことになるし、ここの環境とは全く違う世界に出てもらうことになる。仲間たちともお別れだ。……私が倒したいの、バトルトレーナーの頂点だもの、結構苦労かけるかもしれない。それでも来てくれる?」

 

 

そういいながらモンスターボールを差し出す。臆病なオンバットは怖じ気づいたように数歩引いた。……あえて強めに言ったけど、失敗したか?しかし、それを昨日のオンバットが押しとどめ、不安そうなその背中をぐっと押し出した。ちょっとよたつきながら引いた一歩を戻し、うつむいたオンバットに昨日のオンバットが一声鳴いた。

 

未だにオンバットのやり取りに関してはわからないことの方が多い。だから昨日のオンバットが臆病なオンバットになんと伝えたのかはわからなかった。だけど臆病なオンバットはそれで覚悟を決めたらしく、うつむいた顔をあげる。…あ、大丈夫そうな顔になったな、と思った。

 

数歩歩いて私の目の前に立ったオンバットが触れやすいようにさらに手のひらに乗せたボールを下げると、オンバットはボールに触れた。二回、ぐいぐいとボールが揺れて、ボタンに点灯していた明かりが消える。

 

それを見届けて、昨日のオンバットが安心したように笑った。

 

私のオンバットをボールから出すと、飛び出てきたオンバットは野生のオンバットに飛びついた。ぎゅうっと抱き着いて、きゅうきゅうと鳴き声で何事か伝え、それを聞いた野生のオンバットが抱き返す。二匹とも泣いていたけれど、それをつっつくのは野暮だろう。ちゃんと二匹が別れを終えるまで、私たちはそのまま洞窟で佇んでいた。

 

終の洞窟を出た後、オンバット系列の生息する洞窟の入り口から、オンバットやオンバーンたちが顔を出してこちらに鳴き声をなげかけてきたのが随分と印象的だった。……愛されてるなぁ、ほんと。

 

泣きながらバイバイを告げるオンバットと共に、私たちは終の洞窟から旅立ったのだった。

 

 

 





ボールが揺れた回数は“手持ちになることを悩んだかどうか”も示しています。いっぱい揺れるほど不安が強い感じですね。
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