獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
しばらくはカロスの野良トレーナーとのバトルにいそしみながらあちこちを巡っていた私達だったけれど、今日は久々に終の洞窟周辺に戻ってきてテントを張り、トレーニングに打ち込んでいた。身に着けていたホロキャスターが鳴る。立ち上げると、メールが入っていた。目を通して、手持ちを何匹か引き連れて18ばんどうろに出る。
今日はとある人物と会う予定があるのだ。
少し待っていると、道の向こう側から一人の人間が歩いてくるのが見えて、該当人物であることを確認して大きく手を振る。
「ダイゴさーん!こっちです、お久しぶりです!」
「やぁ、久しぶり、ラディア。少し身長が伸びた?」
「ほんとですか!?」
……おっといけない食いついちゃった。でも、にこにこしながらこちらを見下ろしてくるダイゴの顔は前より近く見えている気がしてちょっと嬉しいかもしれない。いや、近くなってるはずだ、たぶん。ホウエンで別れてから実に二年ぶりくらいに会うダイゴだ。彼はこの前のチャンピオン決定戦でミクリに負け、十五年君臨したチャンピオンの座を降りた。あの後もたまにメールのやりとりをしていたのだけれど、よければ久々に会おう、と連絡が来たのだ。カロスにもちょくちょく顔を出してたらしいのは報道もされてたので知ってたんだけれど、近くにいるタイミングがなかったので声はかけずにいたのだ。で、最初はミアレででも、とか色々言っていたんだけれど、お互い人目にはつきたくないね、ということで、最終的に終の洞窟前での待ち合わせとなったわけである。私からすれば洞窟でのやりとりだけで充分なんだけれど、ダイゴからするとちょっともったいない、という認識らしく、今回は変装のやり方も教えてくれるらしい。その辺伝授し終わったらカロスのお店を少し紹介してくれるそうだ。
私のテントを張っている場所に案内し(なんでデボンの買わなかったの?とさらっと言われたけれど、デボンのテントは私の求めるものがなかったから、と応えたら後でアンケート協力よろしくね、と言われた)、テント前に用意した椅子とテーブルに座ってもらって一息つく。お茶と軽めの茶菓子も用意した。マグカップやお皿は予備のものだけど、テントに来客あるってなかなかないし、まぁこんなものだろう。
「で、どうしたんですか、ダイゴさん。急に会いたいだなんて」
「弟子の顔が見たいとかじゃダメなのかい?」
「…………いや、いいですけれど。なんかメールで見てるとあちこち旅を楽しんでるみたいだったんで」
「楽しんで……うん、君に言われたくないけどなぁ」
なんでかはわからないけれど、結構なジト目でダイゴがこちらを見てくるので、きょとんとして視線を返す。
「そりゃ私旅人ですよ、楽しまなくてどうするんですか」
「そうなんだけどね。……いや、今のはボクが悪かった」
「?」
なんか……、さっきからおさまりが悪そうというか、妙な顔をしているな、と思う。思うんだけど、つっこんでいいことなのかなこれ。
「しかし、新顔も増えたみたいだし、皆の練度も随分上がっているじゃないか。頑張っているようだね」
「……へへ、ありがとうございます。後でオンバットを紹介しますね」
照れ隠しに菓子をつまむ。頭の上にしがみついているバタフリーが一つ寄こせと鳴いたので(ポケモンも食べられる菓子を選んでいる)、出来るだけ崩れにくそうなものを頭上に運んでやった。
しばらくお互いの近況を報告しあうだけの時間の後、ふと沈黙が流れて、なんとなく視線をさ迷わせる。久しぶりであるからと、ダイゴは自分の手持ちを全員ボールの外に出したし、私も全員ボールの外に出した。今は皆挨拶したり、トレーニングの続きを始めたり、何やら喋り始めたりと色々と楽しそうだ。ただ、一匹だけダイゴはボールから出さずにいることに気付いて、少しだけ首を傾げた。
「ダイゴさん」
「なんだい?」
「……その、新入りの子を迎えたんですか?一匹だけ出してないですけれど。事情があるならすみません」
「…………うん。新入り、ではないというか、新入りではあるんだけど、なんというか……、あー、その、ね」
やけに歯切れの悪いダイゴにますます首を傾げたら、バタフリーに僕がずりおちるんだけど!と抗議された。ごめんって。
「…………たぶん、君はされたくない話かもしれないし、聞きたくない話かもしれない。せっかく小さな君がちゃんと大人の対応をしてくれたのに、蒸し返すべき話ではないんだけれど…」
「……蒸し返す?」
「君にね、会いたがっているポケモンがいるんだ。散々止めたし、色々説得もしたんだけれど、……どうしても、彼女、気が変わらなくて」
そこまで聞いたら大体察する。レベル90の大台に乗ったバタフリーが私の頭上で完全に戦闘態勢に入り、辺りの空気が一変した。
「フリィ……!」
「わかる、わかるよ、バタフリー、怒ってくれていい。導く側の人間が連れてきていい子ではないのは承知だとも。ただ、彼女、凄く頑張ったんだ。本当にすごく頑張ったんだよ。せめて謝罪だけでも聞いてやってくれないか?」
「謝罪?何をですか?」
「フリィ!?」
「……グルル」
たぶんその、あのナックラーの話だろうというのは分かるんだけど、謝罪ってなんの謝罪だ?バタフリーが驚いたように声をあげ、側で伏せの体勢をしていたウインディが呆れたような唸り声を漏らす。……いや、ほんとになんで?私の手持ちの仲間になりたいとか、私への告白とか、その辺の希望を断ったのはこちら側だ。終わった話だし、謝罪されるようなことはない。
「…………君、あれ本気で言ってたのかい?」
「…えーっと?」
「てっきりその、ボクは君が怒りを抑えた上で、上手に告白に返事を返したのだと思っていたんだけれど」
「…………何に怒れと?」
「………あー…」
額を抑えたダイゴが視線をさ迷わせ、私たちのポケモンが集まっている所を見やる。ちょくちょくこの辺にきているからか、終の洞窟に住んでいるポケモンや、18ばんどうろに住んでいるポケモン達とは仲良くしているし、トレーニング相手にもなってもらっている。初めてここに来たときに6個入り10000円のモモンのみを食べに来た面子なんかは特によく顔を出してくれる方だ。今日もしれっとイシツブテとヨーギラスが紛れ込んでいるくらいである。……いや慣らしたのは私たちだけど、100レベル台のダイゴのポケモンの中でも物怖じしてないのほんとあいつら強いな。
ダイゴはそのイシツブテを呼んだ。そうしたらイシツブテにぶら下がってヨーギラスも一緒にくっついてきて、二匹揃ってテーブルに着地しようとして、って待て待て待て。
「ちょっ待って待って!食べるものの乗ってるテーブルにそのまま乗るなっていっつも言ってるでしょ!」
「よぎ?」
慌てて隅に乗せていた布巾でヨーギラスの足と尻周り、イシツブテの下の部分を拭く。手持ちだったらしかり飛ばして足元に座らせてるところだ。野生の子なので必要以上に言うつもりはないけど、せめて体くらいは拭かせてくれ。
「もー……」
「あはは、ちゃんとしてるねぇ」
「だって食べ物のせてるテーブルなんですよ。そうじゃなかったらもうちょっと融通利かせますけど」
「そういうところだよ、ボクの言ってるのは。……さて、こんにちは、イシツブテ、ヨーギラス。少し意見を聞かせて欲しいんだけど、いいかな?」
「ラッシャイ!」
「よーぎ?」
いいよ!なぁに?と首をかしげた二匹に、ダイゴが問いかける。
「君たちがもしへまをして命の危機にあったとするだろう。それで目が覚めたら人間のテントの中にいて、傷が手当てされているとする。君たちだったらどうする?」
「……ラッシャイ」
「よーぎ」
二匹は揃って私のテントを指差して、私を指差して、ぺこん、と頭を下げる動作をした。その後は立ち去るような仕草を見せる。
「お礼を言ってテントを出る?」
「ラッシャイ」
「………あの、」
「何も言わずにこっそり立ち去ったポケモンがいたらどう思う?」
「ラッシャイ?ラッシャイ!!ラッシャイ!!!」
「よー……よーぎ、よぎ。よー?」
「ん?ああ、ラディア、その後ナックラーからお礼はあった?あの告白の時以外で」
「……なかったですけど」
「………よー」
イシツブテはなんだその無礼者!と言わんばかりに拳を振り回し、ヨーギラスは事情があるならわかるけど……でもその後にまたお礼伝えにいけばいいのになかったの?ちゃんとした方が後腐れないのに。という感じのことを考えながら伝えてくれた。
「ちなみにボクなら怒るとまではいかないけど悲しくなりはするね。君の場合はボクの面倒もあったろうからちょっと特殊だけど」
「………」
「次だ。その命を助けられた人間に話しかけられたらどう対応する?」
「ラッシャイ」
「よー」
そりゃ挨拶して、ちょっとは喋るでしょ、的な反応が返ってきた。……いや、まぁ、そうだけどさぁ。
「次。その人間に恋をしたとする。君たちだったらどう求愛する?確かイシツブテは体をぶつけあうことで自分の固さを示して求愛を、ヨーギラスは蓄えたエネルギーの量を主張するために、相手の上に乗って重量をアピールするんだったっけ?」
「ラッ!?…ラッシャイ…………ラッ………ラッシャイ、ラッシャイ。ラッシャイ?」
「よー…………よーぎ。よぎ。よーぎ?」
ちょいちょい、と腕を貸してくれ、とアピールされたので、手を伸ばすと大分慎重に腕をつついたり揉まれたりした。なんだなんだ?二匹はしばらく考え込んだ後、求愛すると怪我しそうだし、人間の求愛はなに?調べてそれやると思う、と返してきた。
……いいたいことはわかってきたといえば分かってきたけれど。
「フリー」
頭上からバタフリーの声が降ってきて、バタフリーを見上げようとして、頭にしがみつかれているのでそういえば無理だと思い直す。
「バタフリーも何かあるの?」
「フリィ」
するすると私の膝の上まで降りてきたバタフリーは、私とダイゴを短い手でさしたあと、バイバイをするように手を降る。そこにウインディが横から急に顔を突っ込んできた。その状態のまま一瞬固まった後、揃って二匹がこちらを見上げてくる。
「あー……、ダイゴさん達と私達の別れに割り込んできたこと?」
「フリィ」
「ギャウ」
私は他に割り込むタイミングがなかったんだろうな、と流していたんだけれど、そうか、別れの邪魔されたと思ったんなら、ポケモン達も嫌な気持ちになったろうな。そう思うと私がなんか言うべきだったか。
「フリー、フリ、フリィ。フリリ」
「ギャウ。ワフ」
「急になんだあいつと思ったし腹立ったって?あー、ごめんって……」
「フリィ。フリー!!」
「優しすぎ?いや、私が怒るべきって言われても、その……」
「それはボクも思ったかな。逆に怯えてるとか、気味悪がっててもおかしくないと思ってたし。……そう考えてもいいくらいには、あの子の動きは性急だったよ」
「あの子のレベルとかを考えれば、手持ちの皆がいるんで危険とかはあんまり……、ダイゴさんとの修行に集中してたので調べられなかったですけど、色々やってるのもなんかの習性なんだろうな、っていうのは察してましたし。野外なんで警戒はしてましたけど」
「前も聞いたけれど、何か感じるものはなかったの?」
……えーっと。ちらりとダイゴの腰のボールを見た。
「いいよ、彼女も聞くべきだから」
「……その、はい。
「あー……」
命を救った、という点では印象には残るけど、それだけだった。私側からしたら、それ
「フリー。フリ」
なぁーんだ、そういう理由か、安心した、とバタフリーが腕の中で鳴いて、背中を私に預けてきた。ついでに菓子もとって、と鳴くので、手持ちをテーブルにあげるわけにもいかないから、しょうがないなぁ、とさっきと違う菓子をとってやった。菓子をバタフリーの手元に運んでやったところで、ウインディも横から顔を出してきて、顎をもふりと私の肩に乗せた。そのまま軽くぐりぐりと頭を擦り付けるような動作を見せるものだから、少し押されてのけぞる。
「わっ……とと、もう。で?安心って何さ」
「ギャウウ」
「ポケモンには甘いとこあるから心配してたって?……まぁ、そりゃ好きなものには甘いけどさ、人間の世界で暮らして、私が責任を持つべき手持ちと、ポケモンの世界で暮らして、ポケモン達が判断して生きてる野生の区別くらいはつけるよ。線引きはちゃんとしてるってば」
腕を持ち上げてウインディの頬のあたりをもふもふと撫でると、ダイゴがイシツブテとヨーギラスにそれぞれ菓子を与えて立ち上がる。……それ私が用意したんですけど。どうせあげるつもりだったからいいけども。
「ダイゴさん?」
「ちょっと彼女と話してくるよ。………ちなみに、今の感じだと、出会って話をするとかにも忌避感はない?」
「私個人はあんまり。謝罪して気が晴れるなら大丈夫ですよ。……バタフリー達もいい?」
「フリー……」
「…………グルル」
「嫌そうな顔しないの。それでその子が前向けるんならいいし、二匹ともナックラーが変わったって実感になるでしょ?そうだ、他にも怒ってくれてた子がいたならそっちも呼んだ方がいいかな」
「フリ」
それはいい、俺達が代表になるから、とウインディが首を振り、話を聞くくらいなら、とバタフリーが鷹揚に頷いた。
偶然を装って久しぶりだね!ってやろうとしてたら全然弟子を捕捉できなくてちょっと意地になっていたので、業を煮やしたメタグロスに勝手に主人公に連絡をとられた