獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
ホウエンに来てから二か月ほどで、フライゴンは晴れて私の手持ちとなった。覚えているわざが豊富なのもそうだが、なんというか、彼女、私の思考を読み取るのが上手で、非常に助かることが多い。レベルが高いというのもそうなんだけれど、今フライゴンがこういう体勢であそこにいてくれればこちらの指示が楽になるのにな、みたいな場面で、そういう状態に自分で考えて体勢を変えてくれる、と言うか。無論長く共にいるバタフリーとウインディ、それからラプラスやデンチュラ、シャンデラには劣るけれど、加入したてとはとても思えない実力を発揮してくれるのだ。それがどうもツタージャやロトム、ラルトスやオンバット達小さい組のいい刺激になっているようで、特にツタージャは早朝バタフリーとデンチュラがしている自主トレにも混ざるようになったくらいだ。私としては体を休めるのは大事だからちゃんと寝てほしいとは思ってるんだけど、眠気眼でも頑張って起きて一生懸命わざのトレーニングに励んでいるようなので、今の時点ではそっとしておいている。
最初はちょっとフライゴンが馴染めるか不安な面もあったのだけど、予想に反してフライゴンは案外すんなり馴染んだ。加入後に改めて皆にちゃんと謝罪があったこと、それから本ポケのバトルへの姿勢が熱心であったし、オンバットですら臆病で自信がないというおまけはついているものの、なんだかんだで皆バトル自体は好きなのである。好きなものが同じであるポケモン同士という事で(先鋒を務めたのは案の定ラプラスだったが)、打ち解けるのが早かったのだ。特にオンバットは同じドラゴンタイプということもあってかよく懐いているし、二匹がよく空中戦の特訓をしている姿を見るようにもなった。フライゴンの羽音はそれなりにする方なのでオンバットの耳は大丈夫なのかな、と思ったのだけど(毎度女性の高い歌声のような羽音が響く)、どうやらそちらもオンバットは気に入っているらしかった。
ダイゴは、といえば、譲渡が完了した時点でイッシュに向かった。どうやらイッシュで世界規模で有力選手を集めた大きなトーナメントをやるらしく、それに招待されているのだという。そういえばイッシュ地方二回目のゲームのトーナメントでダイゴも出ていたような記憶がある。……なんだかんだでそちらもシナリオ通りに進んでいるのだろう。
ちなみに、フライゴンを手持ちに加えてから、ダイゴは私を追いかけてあちこち地方を巡っていたらしいと聞いて、ちょっと申し訳ない気持ちになった。私がシンオウからホウエンについたとき、ダイゴがホウエンからシンオウに向かって入れ違いになったのは、私が最後に地方大会に出た場所がシンオウだったのと、メールもシンオウから送ってきていたからだったという。カロスに何度か来ていたのも私の情報がカロスで出ていたのと、メールの内容がカロスからだったのもあったのだとか。……合間合間で別地方にも行ってたし、オンバット加入してからはいろいろと控えてたからなぁ…、追いかけようとしてくれてたのなら随分手間をかけさせただろう。すぐに連絡くれればよかったのに、と思ったらら、最初はすぐ会えるつもりだったらしく、存外私と会えずに意地になっていたらしい。あんまり時間がかかったので、最終的にダイゴのメタグロスが私にメールを送ったのだとか。……ダイゴのメタグロス、頭がいいとは聞いてたけど、人間の文字が読めるだけじゃなくてそういうこともできるのか。後でメタグロスがうったメールをダイゴから来たメールと比べてみたけれど、ほとんど差がわからなかったくらいである。
「らる!」
「……あ、ごめん、ちょっと考えごとしてた」
思考を戻して顔をあげると、眼前いっぱいにロトムの顔が広がっていて、ぎょっと一歩下がる。ケテテ、と笑ったロトムはぶら下げたホロキャスターを大きく振った。
今は通信講座で武術を学んでいる最中だ。世界各地に道場があるし、門下生であればどこの道場に顔を出してもいい。旅人向けに通信講座も開設している上に(動画を見れる、というのもそうだけれど、こちらで録った動画を送って指導してもらうこともできるし、通話でのサポートもしてくれる)、人間もポケモンも学べる流派と言う、とてもぴったりな流派があったのだ。名前をカラテという。……いや、私も見た瞬間なんだそのネーミングとは思った。思ったんだけど。普通は空手という武術があって、その中に色んな流派があって、というものだろうと。ガラル空手なんかもあるし、正統派の空手も武術として存在しているので、最初はどうなんだと思ったんだけれど、調べれば調べるほど、なんというかちゃんと私の要望に応えた上で、まともな流派だったのだ。尚、空手とカラテで紛らわしいとはめちゃくちゃ言われているようなのだが、別ものであるようで、どちらも名前については譲らずにいるようである。
ちなみにシャンデラお気に入りのギルガルド、エクスカリバー氏もこの流派らしく、それに気付いたシャンデラが猛プッシュしてきたし、ラルトスもめちゃくちゃ乗り気だったので、カラテ道場から色よい返事が返ってきた時点で選択肢はほぼなかったともいう。
セミプロであることを伝えたら上級者向けのプランを組めたので、ラルトスには専用のメニューが用意されている。私にもラルトスに近い感じのメニューを組んでもらったので、最近は毎日の日課に組み込んでいるのだけれど、ちょっと気が緩んでいたようだ。せっかく動画を掲げてくれていたロトムにも悪いことをしてしまった。
一度水分をとって大きく頭を振り、タオルで流れる汗をぬぐう。カラテの訓練は体をあたためるにはちょうどいいと言えばちょうどいいけど、今の気候を思うとあたたまりすぎでちょっと暑いくらいだ。少しクールダウンしたいな、と思って視線を巡らせると、察して『サイコキネシス』でふよふよと近づいてきたラプラスがんべぇ、と口から『みずてっぽう』を吐き出してくれた。だらだらと流れる冷えた『みずてっぽう』にタオルを浸し、よく絞って顔と体を拭く。
「ありがと、ラプラス」
「――!」
嬉しそうに鳴いたラプラスが体を寄せてきてくれたのでひっつくと、ラプラスの体もいつもより低めにしてくれているのか随分とひんやりしていた。気持ちがよくて全身をつかって抱き着くと、ラプラスも嬉しそうに目を細める。暑いとラプラス自身もしんどいはずだし、人間の上がった体温だってつらいときはつらいはずだ。私だって、あんまりラプラスの冷えすぎた体にくっついていればと凍傷になってもおかしくない。でも、お互いくっつくのは好きなので、この辺はお互いさまと言うか、お互い気遣いながら自然にしていることだった。
私が休憩に入ったので、ラルトスは訓練を一旦切り上げることにしたようだ。ロトムに一声鳴いて礼をいって、と思ったら、ラルトスはするするとツタージャの元へと走って行った。どうやら組手の相手を所望しにいったらしい。最近ツタージャが練習中の『リーフブレード』相手に、体捌きとカラテのみで対抗する様だ。そうなるとロトムも手があくので、ホロキャスターを降ろしたロトムはふらりと空中戦をしているバタフリーとシャンデラの所に飛んで混ざりに行った。ありがとー、と声をかけながらその後ろ姿を見送って、一息つく。
フライゴンを仲間にしたし、ダイゴにくっついてトーナメントを見に行こうかなとも思ったのだけれど(何なら関係者チケット融通しようかとまで言ってくれた)、……レッドとグリーンの参戦を聞いてしまって、行くのを止めたのだ。なんていうか、こう、まだ挑みにいくまでの研鑽をつめていないのに、生の彼らを見に行くのもなんか違う気がしてしまった、というか。いやバトルビデオとかは散々見てるんだけどさ。完全に意地というか気持ちの問題だった。どう考えても経験つみたいなら生で見た方がいいのはわかってるんだけどな。
「────?」
「あー、……なんかこう、気が散るというか、溜まってるというか、…………最近ちょっとやな方向に考えが行きがちだなぁと思って…」
「──!?」
「おわっ」
急にがばりとラプラスが首をあげたので、慌てて体勢を立て直す。
「──!?―!!──!!!??」
「あっ大丈夫、大丈夫だってば!そんな心配させるようなことじゃないって、こら!!」
構わずラプラスが私を咥え上げて、皆!!リーダーが!!リーダーが!!と騒ぎ立てるものだから、皆もすっとんできて大騒ぎになってしまって、それを諫めるのに必死になったものだから、結局この時抱いていた私の気持ちは有耶無耶になったのだった。
フライゴン:♀
私、ちゃんと笑えていただろうか?ちゃんと、気付かれなかっただろうか。そんなことをボールの中で思う。手持ちにしてもらえたのだから、きっと気付かれなかっただろうけど。
さて、彼女の起こした行動を羅列するのであれば、
・命を救われたのにお礼も言わずどっかいった
・話しかけられても無視して逃げるを繰り返す
・人間側のことを理解しようとせず、威嚇と勘違いされてもおかしくない行動をとった
・恩師との別れを邪魔した
・相手と親しくなる努力もせず、初めてまともに交流した場で突然告白に至った
5アウトである。
客観視をして、与えたであろう印象を素直に考えて、諦めるべきだと思った。身を引くべきだと思った。会いに行くとして、どの面を下げて会うのだと思った。……図々しいだろう、厚かましいだろう、それでも、……それでも、彼女のいない砂漠で、もう生きていける気はしなかった。
恋慕の情は彼女を困らせるだけだと分かっている。だから、もう伝えない。けれども、せめてそばにいたかった。その一心で、砂漠で一年研鑽を積みビブラーバになり、主人公を探すためにダイゴの元に身を寄せた後も、彼女はダイゴの手は一切借りずに自己研鑽のみでフライゴンという最終進化形態へとたどり着き、レベル81にまで上り詰めた。
主人公はフライゴンの伝えたことを現在も信用している。