獅子の隣に並ぶまで   作:ZZ

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みらいよち

 

ミナモシティに到達した日、とったホテルの一室で、私はポケモン達に軽く押しつぶされて動きを封じられていた。一応絨毯の上に仰向けに押し倒されているとはいえ、バタフリーは顔面から離れる気配がないし、ウインディは足の上に前足をのせ、ラプラスは腰に軽く噛みついて抑えつけてきているし、これだけでもオーバーなのに、ラプラスの頭のすぐ横にはデンチュラが陣取って乗っかっていて、シャンデラは油断なくホロキャスターをとりあげて部屋の入り口をふさいでいるし、ツタージャとロトムとオンバットは胸とか肩とかその辺に乗り上げているし、フライゴンも私の腕を抑えているしで結構その、重たいというか、ちょっと、息が出来ないというか。

 

そうなった原因は首の上というか鎖骨の間辺りに器用に乗っかったラルトスにある。

 

ミナモシティに入ってすぐ、私はアローラ行きのチケットを買おうと飛行場に足を向けたのだけれど、ラルトスに止められた。止められた上に、元から今日はミナモで一泊してから明日旅立とうと思っていたので、既に手配してあったホテルの一室に私ごと『テレポート』されたのである。自分の家とかならまだしも、公共の場に突然『テレポート』するのはマナー違反だ。『そらをとぶ』もそうだが、その辺は専用の発着場のようなものがあり、そこに移動するのが通常である。本人の入室確認が出来ていないのに部屋が使用されているというのはホテル側としても困ることだし(泥棒の可能性もあるので確認しないわけにはいかないし、部屋を離れている間に備品の補充とかをしたりもするから邪魔になる)、今使用中ですよというのを伝える意味でも公共の施設を利用するなら受付を通るべきなのだ。

 

その辺はラルトスにも重々言い含めていたことでもあったし、ラルトスもそれをよく理解していたはずだ。理由もなくこんなことをする子ではないのにどうしてこんなことを、とラルトスを振り返った瞬間、私はぎょっと目を見開くことになった。大泣きしていたのである。大泣きしていただけでなく、周りに感情をまき散らし始めた。最近は随分エスパー能力も上達して、初めて会った日のように酷い能力の使用をすることなんかなかったのに、すわ何事か、と思ったのだけど。

 

そのラルトスがばらまいた感情と言うか、見た情景のばらまきというか、その辺で色々理解出来てしまった、というか。

 

 

ぶっちゃけ、その、うん。

 

 

真っ赤なポケモンの太い腕に殴られて、手足がもげ飛びながら吹っ飛ぶ私の映像をまき散らしながら大泣きされればそりゃあ理解もする、というか。

 

 

ラルトスはその映像がどうしても頭から離れないらしく、何度も何度も繰り返し自分のスプラッタ映像を見せられることにはなったのだけど、とりあえずラルトスをなだめなければ話にならない。……これが未来の映像かどうかとかも、話を聞けなきゃわからないし。

 

とりあえずぎゅっと抱きしめてひたすらあやし、大丈夫大丈夫、今の私はここにいるとよしよししたまではよかったけれど、他のポケモン達にもその映像がばらまかれているせいか他の皆もかなり動揺していたので、全員を落ち着けるまでには結構な時間を要した。

 

私がスプラッタになる未来を見て周りに迷惑をかけないよう咄嗟にホテルに『テレポート』したのであれば、これはむしろ褒めるべきかもしれなかった。

 

で、なんとか落ち着いた辺りでべそべそと泣き続けるラルトスと話をしてみた結果、思いっきり未来予知の結果だというのが判明した。してしまった。で、この有様と言うわけである。場面が明らか野外だったもんな……そりゃ外に出してたまるかとなってもおかしくないんだけれども。いや自分のことだからもうちょっとこう、焦ったりとか怯えたりとかしてもよかったんだけど(何度か繰り返し見ることになったので流石に覚えてしまったのだが、左腕と左足のほとんどが吹っ飛んでいたし、他の部分もやばそうだったので、悪ければ即死、生きていたとしてもあの後すぐに病院に行けなきゃ死んでるだろうなというレベルだった)、ポケモン達の方が大慌てになってるもんだから当の予知対象である私が冷静になってしまったというか。

 

 

「……とりあえずバタフリーは少しどいてよ、息しづらいから」

「……フリ」

 

 

腕も上手に動かせないものだから、声を出すしかない。もぞもぞと動いたバタフリーが上にずり上がり、鼻と口部分は解放してくれたので大きく息を吸って吐き、一息つく。

 

マッシブーンというポケモンがいる。正確にはウルトラホールという次元にあいた穴の向こう側にある次元のウルトラスペースに住む生き物、ウルトラビーストの一種であるので、ポケモンに分類していいかは怪しいところであるが、一応モンスターボールの発展形であるウルトラボールで捕獲が可能なのでポケモンの括りでいいのだろう。ゴリゴリにマッチョで、蚊をモチーフにしたポケモンであり、アローラ地方のゲームの準伝説ポケモンとして登場した一匹でもある。

 

……予知の映像の腕、完全にマッシブーンだったんだよなぁ、あれ。

 

ウルトラホールの向こう側、ウルトラジャングルに生息しているか、もしくはメレメレの花園に出現するかのどっちかだったんだけど、背景にはジャングルっぽさも花園っぽさもなく、単純にただの森の中っぽかったのが気にかかる。

 

 

「ラルトス、あれ、今アローラに行くとああなるってことで大丈夫?」

「……らる」

 

 

ちょっと間はあったが、ちゃんと予知を辿り直したのだろう、ラルトスは肯定を返してきた。

 

現状、ゲームのシナリオというやつは大体ゲームの発売順で発生して進行していると思われる。アローラ地方のゲームはカロス地方のゲームの後に発売されたものだから、てっきりもうちょっと先におこるものだと思っていたけれど……、もうアローラ地方のゲームシナリオは始まっている?……、いや、始まってなくても、シナリオ前から何かのきっかけでウルトラホールは開いていたようだったし、マッシブーン自体はウルトラスペースでは珍しくない生き物だとゲームのずかんに記載があった。こちらでもそうかはなんともいえないけど、迷い出てきている個体がいても不思議ではないし、それがメレメレの花園であるとは限らない。となると、アローラのどこで遭遇してもおかしくはない、ということで。………アローラ、しばらくお預けかなぁこれ。

 

 

「えーっと、まず、私、あのポケモンに心当たりがある」

 

 

心当たりがあるって言うだけでちょっと拘束の力が強まったのはなんでかなぁ……。伝説ポケモンとか捕まえにいく気は一切ないし、捕獲済みならまだしも、野生の伝説を観察しにいく気もないのに。というか遭遇したら全力で逃げる、手に負えないのが分かりきってるし。いや、たぶん今この世界でマッシブーンがでんせつのポケモンに近い生き物であるとわかっているのは私だけなんだれけども。

 

………こう考えてるのにマッシブーンにやられてる未来があるってことは、たぶん遭遇したあと逃げ切れなくて、手持ちの皆も突破されてああなったのだ。なんでマッシブーンに狙われることになったのかまでは予想しようがないけれど、手持ちの皆が私を捨てて逃げることはないだろうから、私がやられてるってことはそういうことだ。

要するに、全滅の予知なのだ。……ラルトスがいなければ普通にアローラ行ってただろうから、いつぞやのサーナイトの予言である『幸せな夢をみたまま死ぬ』が実現してたんだろうな、これ。

 

 

「たぶんだけど、あれ、アローラの伝説のポケモンみたいなもんだと思う。アローラに行かなきゃ遭遇はしないはずだから、今外に出てすぐどうこうってことはないと思うよ。アローラ行きはやめてしばらく様子を見よう。……で、どうかな?」

「………………フリィ」

 

 

ものすごく、ものすごく不承不承という声でバタフリーが鳴いて、それを受けた皆がちょっとだけ抑える力を緩めて、シャンデラもこちらに寄ってきてくれた。……いやどいてほしかったんだけど………、まぁいっか。腕を動かすと、察したフライゴンが抑えていた手をどかしてくれた。そうして、体の上の方に乗っているツタージャ、ロトム、ラルトス、オンバットのチビどもをまとめてぎゅっと抱きしめる。

 

 

「ラルトスの予知頼りになっちゃうけど、あの未来が回避出来たって予知が出るまではアローラ禁止にしよう」

 

 

そうするしかないだろう。ってなると、別の地方に行くか……?一旦カロスに行こうか、確か大きい地方大会が一番近いのはカロスだったはずだ。オンバットが小さい地方大会に慣れてきてるから、大きい地方大会に出るにはいい頃合いだろう。フライゴンもなんだかんだでまだデビュー戦してないし。

 

アローラに今いけばそうなる、という予知であるのなら(特にマッシブーンなんて見かけないポケモンだろうし、目撃されれば何かしら対策される可能性はある)、時間がたてば予知が覆る可能性は十分にあるのだし、言い方はあれだけれど、時間つぶしをするのは悪くない案だと思う。それを伝えると、やっと皆はほっとしたのか、体からわらわらと離れてくれた。

 

 

「…………アローラ、行きたかったな」

 

 

ポロっと出た言葉に自嘲して笑う。行けば私は死ぬだろうし、ポケモン達も死ぬ。それを予知してくれたラルトスには感謝の気持ちしかない。私は夢も叶えずに死にたくないし、何かあって死んでしまうにしろ、手持ちたちまで巻き込んで死ぬなんてまっぴらごめんだ。絶対に今は行かない。

 

……ただ、それなりに楽しみにしていたのも確かだったし、やりたいことのために自由に生きる、それを阻まれるのがとても嫌で、どうしようもないことでも阻まれてしまえば腹が立つ。立ってしまう人間だ、私は。

 

うーん、この我の強さ、もうちょっとどうにかしないといけないなぁ、これ。あんまり引きずってていい感情じゃないから、早めに気分転換して、ちゃんと気持ちを切り替えないといけない。

 

 

「……、やめやめ、今日はなんか他のことしよう。一日とってあるわけだし。皆なんかしたいことある?」

 

 

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