獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
ところかわってオーキド研究所内である。
レッドとグリーンのバトルはレッドの勝利で終わった。悔しがるグリーンを引きずって私の目の前にぽいしたレッドさんはこうおっしゃった。教えてあげて、と。それだけで理解したのかグリーンはまた大きくため息をついた。
で、今だ。
回復されたレッドとグリーンのポケモンに私のポケモンはボールごと拉致され(ピカチュウだけレッドの肩にいる)、私は一人グリーンの講義を受けていた。後ろではレッドとオーキド博士が座ってるので厳密には一人じゃないけれど。
最初はほんと、伝説の講義とか急に言われてもどうしようかと思ったし、あれよあれよという間に色々整えられていて大分流された感が強かったのだけれど、慌てるだけ損だなとも思ったので大人しくノートを片手に着席した。
「さて、オレさまのありがたくて貴重な講義だ、耳をかっぽじってよく聞くように。バトルの基本はスクールでやってるだろうから、そうだな、プロの領域にいるトレーナーがバトルで何をしているかを教えてやろう!」
「よろしくお願いします」
素直でやりづらいなー、みたいなつぶやきの後に、グリーンは指を立てた。
「まず、単純なところから行くか。どうして人間がポケモン達のバトルの時に存在する必要があるのか、からだ。どうしてだと思う?」
それはポケモン達に技の指示をするためだ、と答えようとして、口を開いて固まった。
野生のポケモン達は指示をされなくてもバトルが出来る。つまり、極論、人間がいなくてもポケモン達はバトルすることが出来るのである。
……あれ、人間いらなくない?
「そこで即答しなかっただけ誉めてやろう。
なんでかというと、ポケモンの外付けの目になれるし外付けの脳みそになれるからだ。ポケモンの見れない視点からバトルが見れる。自分の行動についてポケモンが判断する必要がなくなる。タイプ相性とかこの技を何発うったら相手が倒れるとかそういうのをポケモンが計算する必要が無くなるから、ポケモンは目の前の敵と自分の放つ技に専念できるようになる。
……っていうのが定説だったな」
「違うんですか?」
「違うね。
正解は、人間が指示した技の方が威力があがるし命中しやすくなる、だ。
いや確かに定説だったやつも大事だぞ?大事だが別にポケモンだって馬鹿じゃないんだ、自分にとって苦手な技とかタイプってやつは大体察してる。いやな技は必死で避けるし、自分にとって効果がない技とわかってればケロっとして当たりにいくことすらある。ゲンガーが『はかいこうせん』に当たりながら逃げ回ってる他のポケモンを爆笑して見てた事例とかタマムシ大学辺りで動画保存されてたな、見てみるといい、笑えるぞ。
………つまりはな、力量の高いトレーナーの指示はポケモンの動きをまるっと変えちまうってことだ。レッドが指示したらレベル1のポケモンでレベル50かそこらのポケモンを倒すだろうよ。人間がバトルに参加する意味がまずそれだ。理解したか?」
「…………はい」
後ろでレッドが前にレベル5のヨーギラスでレベル70くらいのハガネール倒したけど…とか呟いた気がするけどたぶん気のせいだったと思いたい。でんせつこわい。
「………後ろの阿呆は気にすんな。そうだな、分かりやすくいうならワタルの野郎のカイリューだ。エースのカイリューの代名詞、知ってるか?」
「『曲がる無反動はかいこうせん』?」
曲がる、までなら漫画でもやってたやつである。
そもそもが『はかいこうせん』という技は高い威力を約束する反面、どうしたってそれ相応のエネルギーを求めるため、撃った後は動けなくなる技なのだ。
なのにワタルとかいうとんでもチャンピオンが連れているカイリューはどう見たって『はかいこうせん』を曲げて相手選手のポケモンにぶち当てていたし、撃った後もピンピンして動き回っていたし、なんなら『はかいこうせん』を連射してすらいた。ファイトマネーでバトルビデオのワタル戦を集めたやつを買った後などは試合中に飛び交う『はかいこうせん』のあまりの多さに、二回目に見た時には『はかいこうせん』のカウントから始めていたくらいである。
「正解は『タイプ相性とくせい無視無反動の曲がるはかいこうせん』だな」
もっとひどかった。
「カイリューがすごいと思われがちだが、あの異様な曲がりっぷりは指示しているワタルがいるからこそ成立してる『はかいこうせん』だな。カイリュー単体だと無反動、タイプ相性ととくせいの効果を軽減する、ちょっと曲がる、とかだろ」
「それもすごいと思うんですけど……」
「まぁそうだけどな……あれはワタルの指示も育成も頭おかしいしそれにこたえてるカイリューも頭おかしいんだ………」
というかワタルの手持ちは皆はかいこうせんを覚えている上、カイリューのように無反動までとはいかなくても反動が軽減されてるのは確実だし、ゴーストタイプにも当ててダメージを通してくるし、カイリューほど曲げられなくとも軽く曲げるくらいだったら出来るポケモンももう何匹がいるそうだ。ワタルコワイ。っていうかなんでそんなに『はかいこうせん』に執着してるんだあの人。
「まぁ突き詰めた例だし、そんな真似が出来るのは一匹あたりわざ一個が限界だろうけどな。トレーナーの指示で命中力があがる、威力があがるってことの意味がわかったか?」
「はい」
こくりと頷くと、グリーンは満足そうに笑った。私もほんの少し高揚している。グリーンが教えてくれているのはあくまでバトルの一般論なのかもしれないが、私にとってはそれを教えてくれるのがグリーンだ、というだけでもちょっとだけ違う意味を持つからである。……何故なら、漫画でゴーストタイプに対してノーマルタイプのわざをあてるという神業をこなしたのはこのグリーンだからだ。あの漫画では、ポケモンだけの力ではなく、トレーナーの力も合わさることでそれを成していたっけ。漫画の彼と目の前にいる彼を重ねる気はないが、ちょっとだけ……いや、普通にテンションをあげることくらいは許されたい。だって、それが出来るという事は、この世界のバトルは私の考えている以上に面白いものだということだからだ。
「……ラディア?」
「……、あ、ごめんなさい、それが出来るなら、バトルで何が出来るかなって考えちゃってて」
ポケモンとトレーナーが力を合わせることで不可能に手が届く。その技術が一般化して各々によって研鑽されている。そんな人々とポケモン達がするバトルだ、
「あーあー、いいツラしてやがんの。……そうだな、後はそのポケモンの状態的に絶対に出せない技でもトレーナーの指示で出すことが出来る、とか、技の出が早くなる、とかもあるな。さっきのバトル、お前どこから見てた?」
「ラプラスが倒れるところからですけど…」
「ならナッシーが倒れる前に『みがわり』出してから倒れたの見ただろう?あれとかな。ぶっ飛ばしてひんしになりかけたはずのポケモンが空中から『でんこうせっか』出して逆襲かけてきた、なんてのはプロの試合じゃ結構見る光景だ。だから相手をきちんと倒すまで油断してはいけない。とどめを刺したと油断していたら寸前に『みちづれ』の指示が割り込まれてて自分のポケモンも一緒に落とされた、とかもよく聞く話だぞ」
なにそれこわい。だが、ちょっとだけ納得するものがあった。アニメのポケモンがトレーナーの声かけで奮起して、明らかにひんしになりかけなのに逆転する様な、そういう事を言っているのかもしれない。……出来るんだなぁ。
「指示の重要性ってやつは理解したとして…、そうだな、さっきのお前が到達してたであろうやつな、あれの話をしようか。あれは“指示のやり方”の方に分類されるやつだ。プロトレーナー同士のバトルを見たことはあるか?」
「レッドさんvsグリーンさんとか?」
「おっ、いいねぇ。……気づいたことは?」
「指示の回数が少ない、です。
………いろんなバトルをいっぱい見たけど、すごいバトルほどポケモンの動きが早くなってました。トレーナーの指示を挟む余裕がないくらいに。
だからずっと、訓練したから、指示がなくともポケモンが動けるんだと思ってた。……でも、さっきまでの話を聞くと違うんでしょう?」
「………まぁ、外から見りゃそう見えてたろうな」
分かってきてんじゃねぇか、グリーンは笑った。
「要するに、声を出すばっかが指示じゃねぇんだ。腕でも、指でも、目線でも、変わり種じゃ立ち方で指示だすやつもいれば武術の型で指示出すやつもいるし、自分の気配とかいうよくわからんやつで指示をするやつもいるし、サイキッカーとかの能力持ちは能力で指示することだってある。
なんでかって声じゃポケモンのバトルには遅すぎるからだ。
『かえんほうしゃ』!叫んでるのを聞き終わってから動き出すより、トレーナーが指をさし始めたのを察知して『かえんほうしゃ』を放つ、そっちの方が早いに決まってる。
……それはそれとして声での指示の方がポケモンの能力を引き出しやすいからここぞというときは声で指示した方がいいんだけどな」
トレーニングの必要はあるけど、ポケモンはその辺の感覚鋭いからトレーナーの動きくらいはバトルしながらでも把握できるようになるぞ、とグリーンが事も無げにいったのをノートに書き込んだ。
「で、さっきお前がやったやつな。指示の最上級テクニック、声での指示より上のやつ。繋がるあれとかなんかすごい指示とか言われるんだけどな、まぁ、かっこよくいうなら
「絆」
そんなおきれいな言葉を、と思ったけど、………なるほど、
「ポケモンとなんか信頼関係的なふわふわしたもので心の垣根を越えて繋がって意思の疎通が出来るようになるとかいう言語化が一番難しいやつな。でも確かに存在してる。大抵の人間が一生に一度は経験するかもしれない、ポケモンと喋れた気がしたとか、声に出してないのにポケモンが動いて指示を聞いてくれて、命の危機を救ってくれたとか、そういう感動もののお涙頂戴話も突き詰めればそれだ。誰にだってできることだけど、いつでも出来るとは限らない。
奇跡みたいな、そういうあやふやなもんだよ」
「………」
「だが、エリートトレーナーとか四天王とかチャンピオンとかの正真正銘バトルで飯を食ってるトレーナーってなると話は別だ。そういう奇跡を日常的におこせるやつが頂点にのぼってく。考えるだけで指示が出せてポケモンの後押しが出来る、それが高速化した戦闘でどんだけアドバンテージがあるかわかるか?
……まぁ、たまにそういうの関係なしに自分の技術とポケモンの力量だけで強さを維持し続けてるとんでもねぇのもいるけどな。大抵はたいそうな奇跡をバトルに使ってくる阿呆ばっかがバトルランキング上位に君臨してると思った方がいい。
実際のポケモンバトルはもっといろんなものが絡んでくるから、この辺はバトルにおける1パーツみたいなもんだが」
それに戦術とか戦略とか相手の動きをどれだけ読めるかとかポケモンの育成とかいうオレさまの大得意なやつとかその他色んなものが絡んでくるので、バトルの世界というやつは魔境なのだ、とグリーンはしめた。
「こんなもんでいいかよレッド」
「……ん?」
「聞いてろよお前はよ!!いや今更だろうけど!」
「あ、キズナ指示の話終わった?育成の方もさわりだけよろしく」
「~~~っ!!!!!!」
今のでなんとなくレッドとグリーンの関係性が読めてしまった気がする。オーキド博士に目線で助けを求めると、博士は黙って首を振った。
結局、そのあと私はみっちりグリーンに競技バトル用のポケモン育成理論について叩き込まれることになった。いやあの、系統だったポケモン別のトレーニングの仕方とか技の習熟度のあげ方とかわざにタイプ貫通させるやり方とかその辺の基礎だけでもとんでもなく勉強になったんだけど、本来覚えない技の教え方とかとくせい変化の方法とか相性不利タイプへ怯えのなくし方とかその辺は秘伝じゃないのかなと思わなくもない。今更忘れろと言われても絶対忘れないが。理解できない理論も多かったのでひたすらあれこれ聞きまくってノートに書きこむことに徹したが、いつかは絶対に出来るようになってやる。
改めてここまで、と言われたところで窓の外を見れば真っ赤だった。いつのまにか夕方になっていたようだ。
レッドはいつの間にか消えていたし、オーキド博士は録音しとるからよろしく、といってどこかに行ってしまったので、いるのは私とグリーンだけである。
「ありがとうございました」
「いやー弟子とったことねえけど案外頭ん中でまとめてること話すのって気持ちいいもんだな、オレも勉強になったわ」
「そうですか?」
まぁな、と言って笑ったグリーンが部屋から出ようとドアに手をかける。と、グリーンがドアを開く前に外からの力でドアが開いてグリーンに直撃した。
「いって!!」
「……あ、ごめん」
レッドが戻ってきたらしい。うずくまるグリーンを放っておいて、レッドは、ん、と私に向かって手を伸ばした。
「…?」
手のひらを上にして差し出すと、手のひらに二つ、収縮したモンスターボールが落とされる。……バタフリーとガーディのモンスターボールだった。
「俺らのポケモンが色々教えてたんだけど、さっき寝ちゃったから。届けに来た」
「ありがとうございます…?」
ぴくりともしないモンスターボールを覗き込む。呼びかければモンスターボールの中からでも何かしら反応がかえってくることが多いけれど、今は無反応だった。……なんとなくだけど疲労困憊して力尽きてないですかねこれ。とりあえず腰に戻した。後でポケモンセンターに連れていこう。
視線をレッドに戻す。隣に覚えてろよお前…と顔を抑えたグリーンが立った。
「なんで、指導してくれたんですか?」
二人の伝説に質問を投げかける。
それは、今日一日、ずっと気になっていたことだった。
夕暮れの最後の光が部屋の中に差し込んでいる。もうだいぶ暗くなってきているから、そろそろ帰らないと両親を心配させてしまうな、と頭の片隅で思って、それで──
レッドとグリーンが揃って
どうしてだろう、ただの笑顔のはずなのに、背筋がぞくぞくする。
夕焼けの赤がレッドとグリーンの瞳に反射して、まるで真っ赤に瞳が燃えているようだと思った。
レッドが口を開く。
「君は
「お前なんも教えてねえだろふざけんな。
気持ち悪い戦闘狂の笑いをしながらぼーっとしてるの見た時には頭でも打ったのかと思って焦ったけど、あれが始めてだったら仕方ねぇわな……オレも大体似たような感じだよ。後マサラの後輩へのよしみ」
びりびりとした妙な圧を感じる。急にレッドとグリーンが大きくなったように見えた。
レッドがわらったまま、身を屈めて私の頭をぽんぽんと撫でる。なんでだろう、仕草も声音もなにもかも優しいのに、なぜか蛇に睨まれた蛙のような心地が拭えない。
「別に君はこの先どう生きたっていい。どこかの会社に就職したっていいし、勉強の道に進んでもいいし、なんなら親のすねをかじりながらぐーたらしたっていい。将来結婚して子供を育てるかもしれないし、一人で自由に生きてポケモン達と暮らすかもしれない。カントーでずっと生き続けるのもいいし、世界をめぐって楽しむのだっていい。
────でも、君がバトルの道を歩き続けるのなら、」
その時は、
汗が頬を伝うのを感じて、私はぎゅっと腰のボールを握りしめた。
<レッド>
伝説。でんどういりシステムのある地方リーグ全て、丹念にジム戦をこなしてチャンピオンロードがある地域はそこ超えてリーグ戦超えて四天王倒してチャンピオン倒してでんどういりして去っていくというルーチンを繰り返したら伝説になってた男。本人は強いやつといっぱい戦いたかっただけだったと供述している。全部回り終えてしまったので、じゃあもっかい最初から回るかーとでんどういりを返上、カントーのリーグ戦に登録しようとしたらポケモン協会から待ったがかかってしまった。もちろんでんどういりの返上も受け付けてもらえなかった。
ポケモンマスターとの称号と引き換えにこれ以上のリーグ荒らしはやめてくれ、もしくはどっかでチャンピオンに就任してくれ、と言われて全部いやです!と蹴ってシロガネ山に引きこもった男。尚、各地のチャンピオン及びリーグ出場者及びジムリーダーがせっかくレッドと再戦できると思ったのに何してくれとんじゃ!と猛抗議している。この後別地方のバトル施設に目をつけた。
<グリーン>
伝説。でんどういりを果たしたのはカントーだけであるが、凄まじく高いポケモン育成能力を備えており、人の手で初めてレベル101のポケモンを育て上げたとんでもない人物。他にも育成分野においていくつかブレイクスルーを起こしている。ちょっとトキワジムで引きこもって育成してたらなんかレベルカウンターバグってたと本人は供述している。
チャンピオンを突破した者はでんどういりトレーナーとして登録されるわけだが、数年に一度現チャンピオンとでんどういりトレーナー達とで総当たりで新たなチャンピオンを決める戦いを行っており、でんどういりトレーナーにはそれに参加する義務がある。特にでんどういりしたジムリーダーなどは強く参加を求められるのだが、ジムリーダーならともかくチャンピオンとかいやです!と蹴ってトキワジムごと放り投げて逃亡した男。この後レッドと一緒にめちゃくちゃ各地のバトル施設巡りをする。
通常、一つの地方ででんどういりは一年に一人しか登録されないのだが、レッドとグリーンは異例の同時登録となっている。
Q.ガーディって『でんこうせっか』覚えないよね?
A.脱走を繰り返すケンタロスを主人公の病室から眺めていたらいつの間にか使えるようになってた