獅子の隣に並ぶまで 作:ZZ
旅立ちの章
何はともあれ足が痛い、が旅立ってからしばらくの感想だった。一応毎日その辺走ってたし歩いていたからこんなに足が痛くなるとは思っていなかったのだけど、きちんと負荷をかけた状態での1日歩きっぱなしというのはさすがにやっていなかったので、結果としては仕方ないのかもしれない。
ということにしておきたい。さすがに毎日毎日あれだけ動き回っていたのに、運動不足という判定なんてもらってしまったら泣いてしまう。
大体、圧縮技術を使用できる『機材』を使っているとはいえ、圧縮せず持ち歩いている荷物ももちろんあって、全体的な重量はそれなりの重さにはなっているのだから、そんなのを背負って徒歩で長距離移動するとなれば、皆最初のうちはこうなると思うのだ。
旅立つ前などは両親には持ち運ぶ荷物の取り回しとか金銭計画とかそっちの方をひたすら心配されていたし(お金の使い方を誤って一文無しになって帰ってくる子供も多いのだとか)、ナナミさんには女の子の一人旅のあれそれについて心配されていたし(両親は旅の経験がないので旅の経験があるナナミさんの指導は助かった)、オーキド博士には拳骨を食らったしだったけど、誰も体の心配はしなかったし、私もしていなかった。なんせ怪我して入院してたとは思えないやんちゃっぷりを発揮して、10歳の私はこんがり小麦色に焼けた肌と非常に健康的な体を手に入れていたので。
現実は筋肉痛だったけども。
筋肉痛が絶賛やばかったのはおつきみやまを越える辺りまでだろうか。あの辺昼は痛みでボロボロ、暗くなったら速攻寝落ちを繰り返していたせいであんまり記憶がない。せっかく満月の日の近くにおつきみやまにいけたのだから、ピッピ達を見てみたいなと思っていたのに、非常に残念だった。あそこを乗り越えた辺りから、体が慣れたのかちゃきちゃき歩けるようになったので、強制的な山越えが荒療治にはなったのかなと思う。
この数週間、基本的にはポケモン達は出しっぱなしでの旅になった。マサラトキワニビのトレーナーとオーキド博士が預かっているポケモン達、それから出入りが解禁された後のトキワの森のポケモン達とたっぷり遊びまわったお陰で、バタフリーとガーディはレベル50に到達していて、出しているだけで野生のポケモン達へのけん制になっていたからだ。少なくとも、例えばスピアーなんかが「あ!縄張り侵入者!ころそ!」と考える前に、「あ!縄張り侵入者!でも強そう!やりすごそ!(※ただし巣に近寄ってきたらころす)」と考えるくらいの差は出ていたと思う。
それに自分で移動することになるから、本人たちのトレーニングにもなるし。
バタフリーなどはちょくちょく飛ぶのに飽きて私の頭で休憩していたのでかわいいやら一緒に歩いてくれているガーディを見習えという気持ちがわいてくるやらで、大変微妙な気持ちだった。前から薄々思ってたけどお前私がなんでも許すと思ってないか?
道中トレーナーとバトルしたりひいひい言いながら野営準備をして野営したりトレーナーとバトルしたり野生のポケモンとバトルしたり町でホテルに泊まったり(アニメのようにポケモンセンターに無料で宿泊できるサービスはない。代わりに14歳までの子供の一人旅、その他該当申請をしている場合は補助金が出るため安くホテルに泊まることが出来る)トレーニングしたり野生のポケモンとバトルしたりトレーナーとバトルしたり手持ちのポケモンをかわいがったり野生のポケモン観察をしたりトレーナーとバトルしたりを繰り返し、旅立ってほんの数週間で、私はクチバシティに到着し、さらにその先を目指していた。通常マサラから徒歩で移動してジム戦もして、をすると、下手をすれば数か月かかることを思えば、我ながらいいペースでここまでこれたと思う。
……だってジム戦してないからね!
旅立ったんだからジム戦しろよ、と思われるかもしれないし、実際奨励されてもいるが(ジム戦には生活に必要な免許を取得するための経験という側面もあるからだ)、これには理由がある。
一年前、たった一日きりの伝説達との邂逅は、私とポケモン達にとてもいい影響を与えていた。教えてもらった様々な技術が役に立ったことは勿論だが、具体的な目標が出来たのも大きかった。
打倒レッド。
そう、私は打倒レッドを決めたのだ。
バトル界の頂点の打倒、つまりは、最低限でんどういりする実力を目指さなくてはならないということでもある。
では、でんどういりするために目指さなければならないのはなんなのかといえば、プロバトルトレーナーだった。地方によってプロの定義は違うが(ガラルなんかはジムチャレンジの推薦をもらった時点でプロ扱いと聞いた)、大抵はジムバッジを8つ集めてチャンピオンロードを超えた者をプロと呼ぶことが多い。エリートトレーナーなんかの称号はプロ向けの称号になる。
ちなみにゲームと違って期間内にチャンピオンロードを超えた者たちによるトーナメントが開催され、トーナメント優勝者が四天王とチャンピオンに挑むという形式がとられているので、正確に言うならこのトーナメント戦出場経験者がプロと呼ばれることになる。
で、私の手持ちは現在二匹。六匹のフルパーティを組むには程遠く、プロバトルトレーナーにもまた程遠い数である。
じゃあどうするのか?
簡単だ。ゲームでもアニメでも漫画でも、どんなポケモン世界でも、何ならこの世界でだって、バトルトレーナーは旅をしながら仲間を集めていくのが常識だった。
だから、私もそうするのだ。最高の仲間を集めて、最高の仲間たちと強くなって、そうしたらジムに挑んで、倒して、そうしてトーナメントも突破して、四天王もチャンピオンも超えて、レッドも倒す。準備をしすぎて困るということはそうそうないだろうし、一個一個着実に、もちろんたっぷりバトルもしながら、この世界を見て巡って、まずは仲間を集めようと決めていた。
……かっこよくまとめてみたけど、簡単にいうと、推しポケをそのポケモンが初登場した地方で捕まえて推しポケパーティーを作って、世界を巡って鍛えて鍛えて鍛えまくってから推しポケでレッドを倒したいという欲まみれの夢である。
世界も見よう!ポケモンも見よう!バトルもしよう!という、この世界をエンジョイする気満々の計画だった。
とはいえ世界にある地方を全部巡るとなるとさすがに多すぎるし、レッドに挑むのが20年後とかになりそうだったので(カードとかレンジャーとかダンジョンとかそっち方面の地方も普通に存在しているし、なんなら知らない地方どころか知らないポケモンだってたくさんいる。いつか見てみたい)、とりあえず私の知る限りのアニメ化された地方に的を絞ることにしていた。すなわち、カントー・ジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロス、アローラ、ガラルだ。
そんな感じで始めた私のパーティ構築旅、最初の地方であるカントー・ジョウト地方で捕まえたいと思っているポケモン、実は残り一匹となっている。
そのポケモンのために私はクチバシティの先──つまりはナナシマ諸島、4のしまにやってきていた。
ゲームからの説明をするなら、ナナシマというのは初代ポケモンゲームのリメイク作品で追加された新たなフィールドのことである。カントーのクチバシティからパスを入手することでいけるようになる七つの島があり(正確には七つではないけど)、それをまとめてナナシマと呼ぶのだ。
で、現実のこちらではカントーのある大陸からはほんの少し離れた場所にある小島群をナナシマ諸島と呼んでいる。定期船が存在しているにはいるのだが、たどり着くには結構苦労した。
さすがにゲームのようにでんどういり後でなければ全ての島にいけないということはなかったけれど(というかレインボーパスが存在していなかった)、その定期船シーギャロップごうのきっぷがまぁまぁ高かったからである。
片道なんと5万円。往復になると10万円だ。ナナシマ諸島にたどり着くまでがそれだけかかって、ナナシマ諸島内の航行費は無料なのでありといえばありなのかもしれないが、いやそれにしたって多いと思う。前世の金銭価値感とあんまり変わらないんだぞこの世界。
聞いた話では、島民や島民が利用している業者なんかのきっぷ代を引き下げている分だけ、外部からの訪問者がシーギャロップごうを利用する値段が高くなってしまっているらしい。色々と逆効果じゃないかなぁと思うのだが、それでここの地域の人たちは何年もやってきているのだから、外部の私が口を出すことではなかった。
14歳以下一人旅割引制度が使用できるだけ温情があるのかもしれないが、それでも2万円ずつしか負担してくれないので6万円の出費である。自分のご飯もポケモンのご飯も宿をとるにもその他細々した生活用品を補充するのも、全部ファイトマネーから出すしかない私にとっては、とても痛い出費だった。その他にも購入しないといけないものだってあったし、それでさらにお金が飛んでいく。後、ナナシマ諸島にどれだけ賞金ありのバトルをしてくれるトレーナーがいるのかもわからなかったから、その分の蓄えがお金とご飯的な意味で必要だった。
なのでここまでくる道中、どれだけ筋肉痛で悲鳴をあげていようが、トレーナーとバトルをしまくったわけである。別にバトルが好きだからというだけではなく、必要だからバトルをしたのだ。しょーがないのである。
さて、そこまでしてこの島に来たかったのはなんでかというと、目当てのポケモンを今の私が仲間にできる場所は、この4の島にあるいてだきのどうくつしかないからだった。カントー・ジョウトで確認されているもう一つの生息地、つながりのどうくつ最深部という手もないではなかったけど、あちらは『なみのり』免許が必要になるし、『なみのり』を習得したポケモンも必要になるから、必然的にこちらになる。いや、こちらもぶっちゃけ『なみのり』と『たきのぼり』が欲しいといえば欲しいのだが、いろいろと調べた結果、ギリギリ『なみのり』とかがなくてもなんとか洞窟内の移動が出来そうだったのは此方の方だったのだ。現実万歳。崖のぼり講習をしてくれたスクールの先生ありがとう。十歳未満の子供たちにハーケンの打ち込み方まで教えこんでいたのはほんとどうかと思ったけど、さっそく役立ちそうです。
という訳で4の島に降り立った私がまずしたのは、ポケモン達を出すことと、ポケモンセンターに向かう事だった。
この世界では登録されたどうぐ類を電子圧縮することができる。ゲーム風にいうとパソコンにどうぐを預けることのできるあれだ。全てのどうぐが電子圧縮できるわけではなく、発売の際にそういう技術屋に登録されたどうぐだけ、その処理ができるようになっているのである。旅に使われる道具類や食料品などはそのほとんどが登録済みなので、旅に出る人間が持ち歩くのは大抵はあえて圧縮せずに持っていたいどうぐ類であったり、登録されていないどうぐであったり、電子圧縮、保存、解凍するための『機材』であることが多い。
私は背負っているリュックにその『機材』を一つ入れていて、リュックとは別に貴重品を入れるためのポーチを首から下げて洋服の下に隠し、ポケモンの緊急用品をウエストポーチに、モンスターボールはウエストポーチのベルトにつけるスタイルをとっている。
この『機材』がまた曲者で、防水はもちろん耐衝撃耐熱耐寒対でんきその他諸々に対する耐性を持っているかどうかでも値段が変わるし、バッテリーのもちによっても値段が変わるし、単純にどれだけ圧縮して保存が出来るかの容量でも値段や大きさが変わってくるので、選ぶ時にはとても慎重になった。両親と、わざわざ来てくれたナナミさんが一緒になってカタログを囲んでくれたのはいい思い出である。
結局耐性を全部つけた上でバッテリーのもちは一回の充電で数年、ただし容量は大人が持ち歩くには少な目、というやつに行きついたのだが。旅立ちのお祝いに買ってもらったそれは、将来的にはアップグレードパーツなんかを組み込むことで色々な改造ができるタイプのもので、機械も進化する!?驚きの成長性!なんてキャッチコピーがついていた。届いた日にははしゃぎながら親に見せびらかしてしまったっけ。
ちなみにこの『機材』、旅の真っ最中にうっかり壊そうものなら次の街にたどり着くまで中身の荷物が取り出せなくなってしまうから、必ず複数持ち歩く、もしくは非常用の小さな『機材』を持ち歩く、そのどれもができない場合は必要最低限のものは圧縮せずに持ち歩くか、もしくは自分でどこかに借りたサーバーにどうぐを預けておいて、街につくたび必要なだけ取り出すか、などの対策が必要になる。
今回は事前に買い込んだ物資の量が多すぎて、容量不足で『機材』に入りきらなかったので、いったんクチバシティで物資を全てサーバーに預けておいたのだ。
4のしまのポケモンセンターの、パソコンが使える個室を借りて、今まで使っていたものをいくつかサーバーに預けなおし、着替えて荷物を入れ替え、『機材』の中身も整理しなおして綺麗に整える。大分リュックが重くなったし、抱える鞄が一個増えてしまったけど、まぁなんとかなるだろう。
もっこもこになった状態でポケモンセンターの外に出ると、ちょうどいい感じに地元の人っぽい感じの人がいたので話しかける。
「すいません、オーキド博士の紹介で来たんですけれど、カンナさんはどちらにいらっしゃるかご存じですか?」
<『機材』>
本当はもっと小難しくてしっかりした名前がついているのだが、親しみやすく『機材』と呼ばれているもの。作者が思いつかなかっただけともいう。
テント、携帯コンロなどなどのキャンプ用品にとどまらず、日常生活用物品から生鮮食品まで世界中の様々なものが電子パッケージ化可能となっており、この世界の物流事情に関しても大きな革新をもたらした存在である。
尚、開発者の博士は「こんなものなんかより、俺はいつになったら
Q.某セウス「他のはともかく生鮮食品の電子パッケージ化は世界の仕様外なんですけど?」
A.開発者「