「うぁっ!?」
唐突に突き飛ばされ、何事かと振り返れば、スレアティアがいて
「スレアティア!?何を…」
しているの
そう言おうとして
ストンと力が抜けたように、尻餅をついた彼女の後ろ
眩い光が見え、何かに吹き飛ばされた
「う…」
グルグルと回る身体、視界、思考
何が起きたのかと戸惑う思考に、直感が“爆発だ”と結論を突き付ける
つまり、スレアティアは、この状況を予測し
爆発から、私を護るために…
「っ……!!」
心に何か、ヒヤリと冷たいものを刺し込まれたような、嫌な予感
乱暴に頭を振り回し、三半規管を叩き直す
「スレア、ティア…」
そんなはずない、半ば現実逃避じみた、願望に近い思考が頭を埋め尽くす
「だい、じょう…」
それでも
「あ…」
そこに広がる光景
一面の、真紅
「あぁ…あ…」
それは、どうしても私に、現実を見せてくる
「ああぁぁぁぁ!!」
現実を突き付けられながら、現実を受け入れようとしない
“嘘だ”と、何度心の中で叫びながら
無様に、重力のいないこの空間で、“そこ”に行こうと全身で藻掻く
「スレアティア!!スレアティア!!」
まるで赤子のように、這い蹲りながら、彼女の下に辿り着き
「嫌!!嫌よ!?」
自分の頬に、彼女の命の雫が留まり
「目を開けて!!ねぇ!?」
力なく浮かぶ身体を掻き抱く
そして感じる…、感じてしまう、温もり
「あ……」
手のひらを埋め尽くす、深い、深い赤色
腕を伝う温もりに、現実が乗っている
それはようやく、私の中に流れ込んで
溢れんばかりの現実が、押し寄せてくる
そして
「ッ――――――――――――――」
私の中の何かが、決壊した
◇◇◇◇◇
誰かの声が、聞こえる
「……ぁ」
悲しい声
今にも泣いてしまいで、何かに縋りつくような
この声は…
「ミオリネ……さん…?」
ミオリネさんの声だ
何か叫んでいる
どうしたんだろう
「わた、し…」
何があったんだっけ
頭がぼーっとして、よく思い出せない
それでも…
「たすけなきゃ…」
大切な人を護るために、ここにいる
それだけは、何故か理解していた
だから、今は、とにかくミオリネさんのところに…
「…え?」
そうして視線を巡らせて
ミオリネさんの姿を捉える
そこは
「すれあ…さん?」
ミオリネさんだけじゃなくて、あの人の姿もあって
どうして、ここにいるんだろう
どうして、ミオリネさんはあんなに泣き叫んでいるんだろう
どうして、スレアさんは…
あんなに、血だらけでボロボロなんだろう
「―――――っ!?」
思い出す
ここに来るまでのこと
ここに来た後のこと
赤い光に、包まれたこと
そこに、スレアさんがいたこと
「なん…で…」
あぁ、あぁ…
全部思い出した
私は…結局、何も
「ごめん、なさ…」
護れなかったんだ
「ごめん…ごめ…な…」
赤く染まる世界に、私はもう一度沈んでいった
◇◇◇◇◇
暗い、とても暗い部屋
そこの住人の心魂を表しているかのように、暗く、そして冷たい空間だった
「それで、この度は何の御用ですかな?」
余裕綽々、といった雰囲気を醸しながら、笑顔すら湛えてこちらに問いかけてくる
「かのエアリアルを手掛けた貴方のような優秀な技術者に、私がお話できるようなことはないと思うのですが…」
「……SM-102のことで、お聞きしたいことがあります」
机の上で手を組み、貼り付けたような余裕の表情が、ほんの一瞬強張った
「……はて、申し訳ありませんが、そのSM-102というものは」
「あなた方が、あの子を“教育”し、都度“調整”を施していたことは知っています」
使っている単語は遠回しだが、意味が分かればこれ以上なく直接的な言い方をする
「………」
あまりポーカーフェイスは得意ではないようだ
貼り付けていたはずの笑みには、亀裂が幾本も走っている
「SM-102についての記録、身体測定や生活記録まで、そちらでお持ちのものを全てお渡しいただけますか?」
コイツの隣に立っている秘書官も、焦りが垣間見える
あちらこちらと視線を彷徨わせていて、大人しく主人の決断を待つこともできないようだった
「あぁそれと、ユニコーンについての機体データも、一緒にお願いします」
「……また、どうして今更?」
ようやく誤魔化すことを諦めたのだろう
表情を消し、研究者らしい目付きの悪さで睨んでくる
「そうですわね…、あの子を救うのに、必要なものかと思いまして」
「はっ、何があったかは存ぜぬが、あの化け物に救済は無用だろう」
節々から滲み出る、侮蔑、軽蔑、差別、嫌悪
あらゆる負の感情を、この男はあの子に向けているようだ
「あら、どんなに普通とかけ離れているとしても、あの子もまだ子供です」
「まだ子供だというなら丁度いい、今のうちに殺しておくんだな」
化け物でも、子供だから守る
化け物だから、子供でも殺す
私とこの男とで、意見は全くの正反対だが
互いに、“子供を道具にした”という業を背負っている点については、同じだ
「仔細は省きますが、あの子は今、心身は勿論、立場的にも非常にデリケートです」
道具とした子供が、化け物になったというなら
その子供を化け物に仕立て上げた大人は、一体何になるのだろう
「ここは、“人道的な”決断を下すことが、貴方達にとっても大きなメリットになると存じますが」
「抜け抜けと…」
一体、どっちが本当の“化け物”なのだろう
いや、少なくとも…
「ご協力感謝致します」
「1つ忠告だ、アレを人間として見ない方がいい」
大人に、世界に、あらゆる理不尽に運命を狂わされ、痛めつけられた子供を、まだ利用しようとしている
「ご忠告、肝に銘じておきますわ」
人間と呼ぶには純粋で
化け物と呼ぶには、醜悪過ぎた
◇◇◇◇◇
ベネリット・グループ フロント
その医療施設の一角
「脊髄の回復は長期戦になります、ミオリネお嬢様も、少しお休み下さい」
「…ありがとう」
クソ親父が眠るポッドを、私は見つめていた
「いつまで寝てるのよ…、クソ親父」
毒吐いて目を覚ます訳でもないのに、つい言ってしまう
プラント・クエタの件から、今日で3日目
クソ親父は、脊髄損傷で意識不明、これは今後長期に渡る治療が必要になる
スレッタは、パーメットの異常活性による重度の憔悴と診断されたが、昨日意識が回復した
もう2~3日程の経過観察で問題なければ、軽い聴取の後、学園に戻ることになる
私は、あのときの現場の判断で緊急時鎮静処置をされたが、数時間後には目を覚ましていた
身体的には何の問題もなく、健康そのもの
あとは、あの場に居合わせた人間として聴取が待っている
そう、あの場に…
「っ……」
自然と、拳を握り締めてしまう
あの場にいたもう1人
スレアティア・バルミオは、“一命は取り留めた”ということ以外、私は何も聞かされていない
事件後、状態を見た救急救命士が頭を抱える程で、今でもICUの中で完全面会謝絶状態
彼女がそんなことになっているというのに…
「何で、こんなにピンピンしてるんでしょうね…」
自己嫌悪に、潰されそうになる
答えなんてわかりきっていた
スレアティアに、護られたからだ
「………」
あの子を、助けたいと思っていた
だから、あの場に自分は居たのだ
だが、結果はどうだ?
撃てたはずのテロリストを撃たず
ただ茫然と彼女が戦うところを眺め
挙句の果てには、彼女に助けられた
「あの場に、私がいなければ」
何度も、何度も何度も、そう自問する
スレアティアは、救うために私を突き飛ばし
そして、自分は間に合わずに、爆発に巻き込まれた
私さえいなければ、今頃彼女は、地球寮のみんなとともに学園への帰路についていたのではないか?
私さえいなければ、スレッタがガンダムの呪いを知ることもなかったのではないか?
私さえいなければ
私さえ…
「っ………」
唇を噛む
涙が滲む
爪が掌に食い込む
あらゆる可能性が、未来が頭に過る
もしかしたらと思い浮かべる、ほんの少し口角の上がった、彼女の無表情
それは、今となってはどうしようもなく遠くて
今となって欲するには、あまりにも遅すぎた
・
・
・
・
・
「お互い、自由になれないのは辛いわね?」
「!」
フロント内、展望ロビー
誰もいないその場所で、一人黄昏ていたら、あいつが来た
「プロスぺラ…」
彼女は、事件の際にプラント・クエタに居合わせ
改修後の最終調整中だったエアリアルを守るために、乗り込んできたテロリストと戦闘状態に
その末に、複数人を射殺したらしい
今この場にいるのも、そのことに関する聴取のためだろう
「元気がありませんね?顔色も悪いわ、何か心配事?」
「っ…、アンタも、娘があんなことになって、何か思わない訳?」
突然現れて話しかけてきたかと思えばこれだ
娘が先日目覚めたばかりのだというのに、まるで気にもしていないかのように…
「あの子は大丈夫だと、信じているから」
「大した親子愛ね」
「まぁ嬉しい」
自分も、娘も命の危機にあったことを理解していないのか?
そして、こんな会話をするために来た訳ではないはずだ、だから
「それで、本題は何?」
単刀直入に聞いて
「スレアティア・バルミオの現状、ご存知?」
「!!!」
彼女の名前が出たことに、目を見開く
「……何か知っているみたいな口ぶりね?」
「えぇ知っているわ、少なくともあなたよりね」
この女…!
一々癇に障るような言い方をしてくる
内心の焦りを見透かされたのか、口元に手を当ててクスクス笑い始めた
……落ち着け、乗せられるな、冷静に
「へぇ?それで?それは教えて頂けるのかしら?」
「あら、大人の対応ね?」
「残念ながらまだ学生よ、…それで答えは?」
「取引をしましょう」
ようやく本題の話に入った
プロスぺラは、胸元から端末を取り出すと、話始める
「スレアティア・バルミオ、今現在彼女は非常に危うい、右足の他にも、今回の件で失った機能がある上に、今後の生命すら、普通のやり方じゃ繋げないでしょうね」
「………」
動揺を、無理矢理押し込める
噴き出そうになる疑問を、願望を、救済を、あらゆる叫びを喉の奥で絞め殺し、話の続きを促す
「そこで、彼女の過去データを手に入れました、これまで彼女に施された、あらゆる処置の歴史。これには、彼女に対してどのような治療が効果的かも記されているわ、勿論、なくしちゃった機能の一部も、取り戻せるでしょうね」
「……それで?」
今この女が、今後のスレアティアの命を握っているということは理解した
だが、それを易々と受け渡すような人間でないということも、この話の流れで十分に理解できた
この女は“取引”といった
つまり、こちらへの要求があるはずだ
「話が早くて助かるわ、…これを」
そして、もう1つの端末をポケットから取り出し、こちらに手渡してくる
「クワイエット・ゼロ?」
「デリング総裁が極秘裏に進めていたプロジェクトよ」
「!?」
お父さんが…?
一体それは…
「GUNDフォーマットのネットワークを利用して、戦争のない世界に書き換える」
「戦争…?どういうこと?」
表現が抽象的で、核心が掴めない
何か、この世界を大きく動かすようなことをしようとしているのは、何となくわかる
「ミオリネ・レンブラン」
戦争のない世界?
書き換える?
そんな大それたプロジェクトに参加させられるのなんて、普通は願い下げだ
だが…
「あなたにクワイエット・ゼロを、引き継いで欲しいのです」
今、目の前にある、あの子の命を前にして
「取引成立、ですね?」
「………」
私に、選択肢はなかった
もしかしたらストーリー破綻してるかもしれん(今更
曇らせすぎ?
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今すぐやめろ、人の心とかないんか?
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やりすぎだ!加減しろバカ!
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もうちょっとこう、手心というか…
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ままええわ、いい塩梅や
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ここに追加でひとつまみ…wwww
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頂戴頂戴!そういうの頂戴もっと!!
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構わん、行け