神様が作った神様。それ以下でもそれ以上でもない。
僕は自分たちの、地球の視点に身を起きすぎていたんだ。僕達は神の世界が一つしか無いということを思い込んでいた。今思えば、最初から可怪しかったんだ。
最初の外交官は、一体どのようにして向かったのか。その残骸は確認されて居なかったし、何か手がかりとなるものも存在していなかった。まず、裏面が何処に存在するのか。其処を見定めなければならない。
整理しよう。この部隊は磁界を経由し、座標0.0地点で再び現界に戻ることで此処に辿り着いた。裏面は一体何処だ?
僕には想像もつかない。取り敢えず、分かるのは此処は絶対に攻めるべきではない場所ということだ。これ以上攻撃しても只の武器の無駄遣いだ。
テントの外は比較的緩やかな雰囲気を纏っていた。進軍速度が早いことで余裕が出ているのだろう。途中でさっきの兵士を見つけ、引き止めた。
「ああ、どうしたんですか。二釘博士」
「僕達は勘違いをしていたんだ。この進軍を止めないと拙いことになる。まだ出立時間までは余裕があるだろ。止めてくれ。」
「そんな…とにかく、私では手に負えないので部隊長に相談してください。」
「分かった。すぐ行こう。」
今気づいたが、この事に気づいた原因がイザベラさんであることがバレたら拙い。代案を考えなければ。
意外と部隊長が居るテントは近く、考える暇も無く到着してしまった。
中に入ると、其処には壮年の50代程に見える男性が居り、威厳オーラを醸し出していた。男が口を開く。
「二釘博士、貴方はこの侵攻を止めるべきだ、と仰りたいようですね?」
「ええ、僕達は重大な勘違いをしていたんです。」
「勘違い、とは?」
「…この侵攻、上手く行き過ぎていないでしょうか。」
「…ほう。」
「中心まで行った人間の話としては、容易に破壊されすぎているような気がします。確かに多くの犠牲を出していますが、地球を襲撃された時の被害と比べてみると些か“上手く行き過ぎている”。」
「確かにな…分かった。二釘博士の話を信じよう。私もこのやり易さには少し違和感を感じていたんだ。取り敢えず一旦進軍を止めるとしよう…これで良いかね?」
「ええ、ありがとうございます。」
「稀代の天才科学者に感謝されるとは、私も此処まで生きた甲斐があったもんだな。」
「いえいえ…ははは。」
その稀代の天才科学者はもう一つ重要な事を隠しているんだがな…
◆◇◆◇
…ということで、取り敢えず進軍は停止することになった。テントに戻った僕は、真っ先にイザベルさんの元へと向かうことにした。
「イザベルさん…大事な話があるんだ。」
「何だ?私はそんなチンケな誘惑には屈しないぞ。」
「今夜二人で、此処を抜け出さないか…」
「死ね。」
「言い方が悪かったな…要するに裏側に行こうってことだ。」
「私は此処を護る義務があるのだけど。」
「それはここの軍がどうにかしてくれる。一週間も経てば間違いに気づいて部隊長の首がぶっ飛ぶはずだ。そうすれば敵同士の状態から和平状態になり、誤って攻めてしまったうちの軍隊は此処を守らざるを得なくなる。どうだ、完璧過ぎるシナリオだろ?」
「私の存在意義が消えるじゃないか。」
其処は僕と一緒に行動する事…じゃなくて、裏側の残虐性、と言う物を確かめる為なんだよな。たった1度外交官を派遣しただけで地球の主要都市を滅ぼすとか、頭がイカれてる、としか言いようが無い。この僕でもそう思うんだ。
しかし、気になる。裏側が一体どういう所で、何があるのか。表側の彼女さえ知らない場所だ。調べたい。これは最先端を駆け抜ける科学者として譲ることが出来ない。この基地までの道のりの中ではやっぱ来なきゃ良かった…とか考えてたけど、やはり正解だったのだ。
「それは裏側に行くことだ。イザベルさんなら行く方法が分かるんだろ?」
「確かに分かるが…」
「教えてくれ!!」
嬉しさで思わず手を握ってしまった。直ぐに突き放されたのは少し悲しかったな。だが興奮する。この感情は一体…?
「うわっ、本当に気持ち悪いな。目に見えて気持ち悪い。」
「すまなかったな。取り敢えず、本当に裏側へ行く方法を知っているんだろう?それならすぐ連れて行って欲しいんだが。」
「転移装置を使えば行けるが…」
「それは何処に有るんだ?」
イザベルさんは僕の質問を聞くと、心底不思議そうな顔をした。
「転移装置なら…あのバッグに入ってるじゃないか。」
「は?」
僕はバッグの場所に行って球を取り、イザベルの所に持っていく。
「これがまさか転移装置だと言うのか…?」
「そうだぞ。
「…先に言ってくれよ。」
「お前が問答無用で持って行ったせいだろ。」
この陰陽玉のパチもんみたいなので場所を移動できると言うのか。白と黒だから白核と黒核に関係してそうだな程度の感じだったけど持ってきて正解だった。
「因みに…ガラスの中は何で構成されてるんだい?」
「裏側に存在している『陰の魔力』と表側に存在している『陽の魔力』で作られているぞ。本来は二つの魔力は成分的に同じ場所で存在できないはずなんだが、このガラスの中だけ存在している。構造は全く不明だ。
話はある程度分かるが、これは完全に魔法や魔術の領域だ。ここまで来るとほぼ異世界ファンタジーの世界だな。『このすば』とかの異世界系アニメは見てみたが、だいぶ新鮮で面白かった記憶がある。特に神様が現世に持ってかれるっていう設定が面白い。
この世界ではそんな事起きな…起きるな。僕がイザベルさんを持ち帰れば
…話が脱線してしまった。兎に角、これを使えば裏面に行けるという事だ。
「じゃあ、取り敢えず裏側へ送ってくれないか。」
「…そこまでして行きたいのか?」
「ああ、僕の探究心は無限大だ。勿論イザベルさんも連れて行く。さあ、出立準備だ。」
イザベルさんは納得してくれたらしい。心底嫌な顔をして準備を始めてくれた。
僕も準備を始める。懐中電灯と拳銃、命綱に帽子を小さめのリュックサックに入れた。
「さて…これで準備も終わりか。これはどうやって起動するんだ?」
「簡単だ。魔力を流し込んで、行きたい場所、行く人数を念じる。そうすれば転移装置が勝手に場所に移動させてくれるんだ。」
「やっぱり謎が多い機構だな。」
「私はそんな事どうでも良いんだがな…」
そう言いながらイザベルさんは球に手を乗せる。
彼女が少し目を閉じたかと思うと、三角形で構成された魔法陣のようなものが周りに展開され、僕達は光に包まれていった。暖かいナニカに包まれるような感覚。僕の生きてきた人生では感じることが無かった物だ。
意識が収束していく。二つが一つとなり、未知の路を駆け抜ける。
―――僕は冷たい石畳の上で目を覚ました。
横ではイザベルさんが気持ちよさそうに寝ている。天使かな?カメラを持っていれば此処ですかさずフィルムに焼き付けただろうが、生憎持ってきていない。
…それにしても、余りに暗い場所だ。光はポツポツと見えるが、さながらイギリスの古都をそのまま寂れさせたような雰囲気を感じる。ここは本当に裏側なのか?
取り敢えず路の端にイザベルさんを移動させ、周りを見渡す。よく見ると奥の方に人影が見える気もしないが、暗闇に覆われている今は分からない。
「んぅ…」
イザベルさんも目を覚ましたようだ。そういえば、僕達は何故眠ってしまったのだろう。此処を調べ終わったら今度は球の研究もしなければな。
「私は…ああ、お前と一緒に裏側に飛んだのか。使えば寝てしまう、という馬鹿みたいな伝説は本当だったんだな。」
それは伝説じゃなくて只の副作用では?という意見をぐっと堪える。
「イザベルさん、取り敢えず街を散策しないかい?このままここに留まる訳にもいかないし。」
「…お前か。てっきり昔飼ってた
何だよトジュウって。しかし貶められているのは確かだろう。意味の分からない言葉で罵倒されても言葉の方に意識が行ってあんまり興奮しないな。
「…何か変な事考えてないよな。まあ良い、さっさと進もう。」
「分かった。」
そしていざ進もうとすると、誰かに肩を掴まれたような感覚になった。
「…すいません。俺ったら少しせっかちな女でして。」
僕とイザベルは恐る恐る顔を後ろに向ける。
「初めまして。
その妖しい、しかし美しい顔をした女性は長い間を開けて言った。
「―――無償で。」
…僕達はとんでもない場所に来たのかも知れない。
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