キヴォトスでサバイバル生活 作:ころんあっと
「...すごい...。」
見渡す限りの砂の大地に、遠くに見える建物群。空気は乾燥しきっており、ギラギラとした太陽光が照り返し眼を刺激する。
前世ではテレビの画面越しにしか見たことない景色。その自然が作り出した壮大な大地を目の当たりにした私は、一種の感動すら覚えた。
「ここが、アビドス...。」
全力ダッシュすること数時間、私はアビドス自治区に到着した。
ここに着くまではてっきりただ砂の土地が広がっているだけかと思っていたが、それはどうやら違うらしい。遠くには民家の他にも、ゲヘナにあったようなビル群が見える。かなり発展した都市が築かれているようだ。その都市自体もとても広範囲に広がっていて、砂漠を丸々支配しているようである。
っと、いけないいけない...。すっかり街に気を取られて、本来の目的を忘れかけていた。
この砂漠に来たのは砂を集める為。これだけ砂があれば、山ほどガラスを作れる。
私はインベントリから、鉄をケチって作った石のシャベルを取り出し砂を回収する。流石に数メートルの大穴を空けるのは申し訳ないので、表面を削るように砂を取る。
ザクッ、ザクッ...
「……。」
ザクッ、ザクッ、ザクッ...
「………。」
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ...
「…………………。」
...さっきから、あの街が気になって仕方がない。すっごく行きたい。めっちゃ気になる。
いや、だってさ。あんなデカくて目立ってる街があれば気になるよ。いくらなんでも。行くしかないなこれは。
砂漠で砂集めはいつでも出来る。何なら歩きながらでも可能だ。私は一旦砂集めをやめて、遥遠くに見える都市に向かって歩き始めた。
……………………………………
歩く事さらに数時間。真上から私に日光を注ぎ続けていた太陽は傾きだし、心なしか気温が下がってきた。
しっかしこの砂漠、いくら何でも広すぎやしないだろうか。元いた森からゲヘナに行くまでにも何回か野宿をしたが、ここでも夜を過ごすハメになるかもしれない。
しかし...遠くから見た時には分からなかったが、思ったより高低差がある。いわゆる砂丘というやつであろうか。砂漠は一見平坦でも、意外と険しいことに驚きつつ、砂丘のてっぺんに立つ。
その時、あるものが目に入った。黒っぽい、石のようなもの。砂漠の砂色の斜面にその物体はよく目立ち、存在を主張する。近づいてみると同時に、私は首をひねった。
「……瓦?」
そこにあったのは、紛れもなく瓦であった。通常それは民家の屋根に使われるものであり、砂漠にあるのはいささか不自然である。また、斜面を少し降りて分かったが、砂の中からいくつか同じような物が顔を覗かせている。
何故こんな砂漠のど真ん中にこんな物があるのだろうか。不思議なものである。
取り敢えず、先に進もう。そう考えた私は再び歩もうとして___________
ふと、足を止めた。頭に思い付いたとある可能性が、頭をよぎったからである。
私は内心、まさかと思いながらシャベルを構えて地面を掘り返す。
_____しばらくして。
砂の中から出てきた物に、私は唖然とした。
それは紛れもなく民家であった。それも2階部分が丸々出てきたのである。
私が砂丘だと思い登っていたのは、砂に埋もれた家であったのだ。
窓のガラスを外し、中をのぞく。砂の重さで潰れかけた室内は砂まみれだったが、ベッドや椅子などの家具がそのまま残されている。
辺りに見える砂丘が全て家ならば、それこそ街ひとつがそのまま埋まったと考えていいだろう。
もしそうならば、本来の規模は一体どれほどであったのか。それこそ、この砂漠を埋め尽くすほど広かったのかも知れない。
その時、風が強く吹いた。
砂が巻き上げられ、辺りに降り積もる。掘り出した2階のまわりにわずかに覗いていた瓦はすっかり見えなくなり、元の砂丘へと姿を変える。
テレビの画面越しでは見ることができない、現実。その自然の脅威に、今や畏れの感情を抱いていた。
元住宅街の砂の山を歩き続ける。何というか、結構ショックを受けている。何故こんなことになったのかとか、ここに住んでいた人はどうなったのかとか。考えても仕方がないとは分かっているが、どうしても頭から離れない。
いや、一旦忘れよう。幸い街にはかなり近づいてきたから、夜までには着くはずだ。
今登っている砂丘は、道中のものと比べて非常に高い。登ってみるとそこには、この砂丘と同じくらいの高さの山がぐるりとすり鉢状の地形を作っている。
きっと周りからみると、この中は死角となるだろう。まるで何かを隠すようなサークルの真ん中に…
ふと、
何かが見えた。
それは、酷く既視感のある見た目をしており、しかし砂漠では見慣れない赤っぽいものも見える。
あれは、まるで_____________
私は、それに向かって走りだす。
目の前に広がる、赤い池。そこに浮かぶ、1人の人間。
腑から溢れ出る血が、その人のもつ淡い水色の髪の毛を赤黒く染める。
...どうやら私は、つくづく平和な出会いというものに嫌われているらしい。
私は呆然として、嫌に冷静にその人を見下ろしていた。
(…死んでる?)
人生で死体など、見たことがない。それもこんな、明らかに事件性のあるものなど。
どうしたものか。警察に通報するか、でも携帯なんて持っていない、それならば街に行くしか無いだろう。しかし放置というのも...
そもそも死んでいるのか?見た感じでは間違いなく死体だが、万一ということだって...
そのとき、すぅ...と、わずかではあるが胸が下がった。
まだ生きている。
「!?え...?だ、大丈夫ですか!?」
そうとなれば話は別だ。今すぐにでも助けなければならない。...だが、私は救急隊員でもなければ消防士でも無い。突然重症者を目の前にして、落ち着ける筈が無いのである。
(え、え?!どうしよう?!まずは心臓マッサージ...いや止血が先?どっちだ!?)
どうにかしなくては、でもどうすれば。考えろ、何か解決策が...
「...あ!そうだ!」
今回の冒険で、いざという時の為に作っておいた
使うとしたら今しか無いだろう。
「何とかなれーっ!!!」
私は、彼女の口に金リンゴを突っ込んだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
すでに陽は落ち、空に星が輝く砂漠。
そこに私は立っている。
「……………」
砂漠の砂を真っ赤に染める、赤黒い血。周囲には生臭い鉄の香りが充満し、私の鼻を刺激する。
「……………違い、ますよね」
嘘だ。
信じられるわけがない。
ここよりほんの少し離れた場所に落ちていた、先輩の盾。けれどそれには血なんか付いていなかった。だからこれは先輩のものであるはずがない。そうに決まっている。
そう思いたかった。
でも。
見つけてしまった。
持ち主がその学校に所属していることを示し、その人の身分を証明する、その人しか持ち得ない物を。
しゃがみこみ、震える手でIDカードを手に取る。
血がべっとりとこべりついたそれは見間違うはずもない。うちの学校の、いまではたった1人となってしまった先輩のもの。
その存在は、確かにこの痕跡がユメ先輩のものであることを物語る。
それなのに、その姿は無い。
ユメ先輩は...死体すら残さず、どこかへ消えてしまった。
(……守れなかった)
私は...ユメ先輩を守れなかったのだ。
思わず、カードを持つ手に力が入る。
普段から奇跡だのなんだの...非現実的な方法に縋ろうとする先輩に対して頼りなさだったり、考えの甘さを感じていた。
同時に、いざという時には私がやらなくてはならないとも。
それが...現実はどうだ?
周りの誰よりも強く、周りからも力を認められていた私はなんてことない、たった一人の人間すら守れない存在でしかなかった。
現実を見ろと、甘えるなと責めた彼女と同様、私だってただ夢を、幻想を抱いていたに過ぎなかった。
「...帰ろう、ユメ先輩」
カードと盾を握り締め、立ち上がる。
それらを持って歩き出した私の目には、何も映っていなかった。
………………………………………
何も考えられず、まるで抜け殻のようになった私は街を歩く。辺りの家々には闇が降り、黒と灰に染まっている。回収した盾とIDカードが、酷く重く感じられた。
辺りに聞こえるのはコンクリートと、そこに覆わった砂を時折踏む音のみ。
私達の学校に向けて、ただ歩みを進める。
一歩、また一歩と歩き、後半分ほどで着くというその時________
「あ、おーい!ホシノちゃん!」
不意に声をかけられた。そちらを見るとそこには、服を着て二足歩行をする猫がいた。
彼はアビドスに古くから住んでいる所謂古参であり、先輩が高校に入学する前からずっとここに住んでいる。
「いやあ、探したよ。...ん?だ、大丈夫か?何だか凄く顔色が悪いような...」
...探していた?私を、こんな真夜中に?一体なんだというのだろうか、私は純粋に疑問を口にした。
「……大丈夫です。それで、何か用ですか」
「あぁ悪い悪い。話が逸れたな。昼頃、ユメちゃんを探してたろ?随分慌てた様子で聞いてくるから、何事かと思ったんだけどな...」
_______その名前を聞いた途端、ズキリと胸が痛んだ。ああ、その話なのか。思わず耳を塞ぎ、その場から立ち去ろうとするのを堪える。
また、私に突きつけるのか。大切な人を守れな
かったことを。
だって、ユメ先輩は消えて__________
「数時間前、病院への道を聞いてきた奴がいたんだよ。人間を抱えながらな。それでその抱えられていたのが、ユメちゃんぽかったんだよ。髪の色だって青かったし………」
………
「………は…?」
「うぉ!?」
瞬間、私は駆け出していた。景色が猛スピードで後ろに流れてゆく。
誰がユメ先輩を病院に連れて行ったのか、一体何があったのか。知りたいことは山ほどあるけれど、そんなことよりも。
───まだ......まだ、消えてなんかいなかったんですか
───まだ、間に合うんですか?
今はただ、それだけを知りたい。
明明と光る病院の扉を開け、受付に詰め寄る。どうやら先輩は、重症患者用の1人部屋に居るらしい。
階段を駆け上がり、廊下を走り抜け、勢いよく扉を開けた。
「ユメ先輩ッッッッッッ!!!!!!!」
そこには_______機械に繋がれて眠るユメ先輩と、驚いたように目を見開き、こちらを見る少女がいた。
UA3000&お気に入り150を突破しました。ありがとうございます。同時に投稿が非常に遅れて申し訳ごさいません。感想非常にありがたいです。