卯花色のリリェ -宵の明星- 作:Eo.
午前の授業を終え、昼休みとなった教室は賑やかになり食堂へ行く生徒や買い出しに
向かう生徒が多く見られる。
「ふぅ~、午前はつかれたね~...ってあれ!?」
「小百合さんなら教室から出てったよ?」
直前の授業を居眠りで終わらせた明星は隣に座っていたシャルロッタが
居なくなっていたことに気づいていなかった。
「あれ~、どこ行っちゃったんだろう...迷子にならなければいいけど...。」
「かなは小百合さんと一緒にご飯食べたいだけでしょー?」
「そうだけど~!」
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『うまくやってるか?』
「うん、対象の明星 かなも確認してるよ。」
学校の屋上、そこにシャルロッタは居た。
『こちらでもテログループの動きは監視しているが万が一のことがある、くれぐれ
も正体がばれないようにな。』
「うん、わかってる。」
イリジウム衛星電話を介し、メガフロートに居るリーダーと通話をしていると
屋上に訪問者が現れた。
「シャル~、シャルちゃ~ん?」
「誰か来た、またあとで。」
すぐさま電話を切ったシャルロット、"誰か"がといってもこの呼び方は
今のところ1人しか居ない。
「かな?」
「あっ!、ここに居たんだ!探したよ~にしてもどうして屋上に?」
「外の空気が吸いたかったんだ。」
「ふぅ~ん?、東京の空気は吸っても美味しくないよ?そうそう!そんなことより
お昼ご飯一緒に食べよ!」
「うん、いいよ。」
屋上を後にし、教室に戻る二人。
「さてさて~、お弁当何持ってきたの~?」
「これ。」
ごそごそっとカバンから出した弁当箱、組織に入ってから覚えた料理の作り方。
まさかここで役に立つとは彼女も予想していなかった。
タコ足ウィンナー、玉子焼きなど、定番のおかずで固めた箱に
小さなおにぎりが入っている。
「うわぁ!美味しそう!」
「いただきます。」
手を合わせ、箸でウィンナーを取り口に運ぶ。
「(あぁ~、食べてる顔かわいいなぁ~。)」
目を輝かせながら、食べている姿を見る明星。
「?」
「う、ううん!なんでもないよ!、いただきます~!」
昼食を食べたあとは、ハーフの転校生ということもあり隣のクラスからも
生徒が集まり、シャルロッタを囲んだ。
「好きな食べ物は何!?」
「えっと...」
「好きな芸能人は!?」
「えぇー...」
「彼氏とか居るの!?」
「....。」
質問の嵐。
「まぁまぁ、みんな落ち着いて...! えっと、シャルはなにか好きな食べ物ある?」
「日本の食べ物だと...うーん...お寿司かな...?」
「お寿司かー!」
そんなことをしているうちに、昼休みは終わり
また午後の授業が開始された。
「準備運動はしたかー?よしじゃあとりあえずお前ら好きなのをやってみろ、はい
開始ー。」
体育の授業、担当は担任の林田先生。
今日の内容はマット運動、体の柔軟さを高める授業である。
「うへぇ...私苦手なんだよねぇ...シャルは、って言っても
やったことないよね。」
「うん、でも雰囲気で何とかやってみる。」
「おぉ~、運動が得意なんだ?」
「普通くらいだと思うよ?」
明星の番が来る。
「うーん、じゃあこの"そくほうとうりつかいてん"って言うのやってみようかな」
"側方倒立回転" 回転時に手を90°横にして着き、そのまま横方向に回転する
技である。
「おー!出来た!」
明星は自慢気に帰ってくる。
「次はシャルの番だよ!初めてだから気をつけてね!」
「うん、じゃあやってみる。」
そう言うとシャルロッタはマットに背を向けた。
「(後転?)」
しかし、シャルロッタは立ちの姿勢で腕を振り、勢いをつけそのまま
後ろに宙返りした。後方宙返りである。
「うわ...っ...」
思わず、目を閉じてしまった明星と近くで見ていたクラスメイト達
再び目を開けると、そこには顔色一つ変えずに立つシャルロッタの姿があった。
「す...すごい!」
近くで見ていたクラスメイト、林田先生から拍手が上がる。
「マット運動やったことなかったんじゃないの!?」
明星が駆け寄る。
「マット運動はやったことはないけど、これは出来るよ。」
「は、はぁ...」
明星は拍子抜けした顔だった。
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午後の授業も終わり、帰りの準備を始める生徒たち。
「ん~!今日も学校疲れた~、シャルはお家遠いの?」
「うーん、そんなに遠くはないよ、あっちの方。」
シャルロッタが指差す。
「私と同じ方向だ!、じゃあ一緒に帰ろっか~!」
「うん。」
荷物をまとめ、校門へ向かう。
「シャルってお父さんお母さんと暮らしてるの?」
「ううん、一人だよ。」
「そっかぁ、私も実は一人なんだ~」
「へぇ...」
「そうだ!ちょっと寄り道していかない!?」
「寄り道?」
そう言われると、学校からほど近い商店街に向かった。
「ここのアイスクリームすっごく美味しいんだよ!!。」
「アイスクリーム...?」
「アイスだよアイス、冷たいの。」
「????」
シャルロッタはアイスクリームを知らなかった。
一般的な子供ならアイスクリームを知らないなんてほぼありえない
ことなのだろうが、彼女は他の子供達とはかけ離れた人生を送ってきた。
「もしかして知らない...?」
「うん。」
「(宙返りはできるけどアイスクリームは知らないんだ...)」
「とりあえずいっぱい種類あるから好きなの頼んでみるといいよ!」
「わかった。」
数分後明星の助言もあり、なんとか購入できた。
「...二段。」
「チョコレートにバニラ、定番の組み合わせだね~。」
「いただきます...。」
二段ある一番上、バニラアイスに口をつける。
「わぁ...美味しい。」
「ほっぺたにくっついてるよ~、スプーンあるからこれ使って。」
「うん...!」
「本当に食べたことなかったんだね~、もうそんなに急いで食べなくても!」
「おいしいね。」
「あんまり笑わないと思ったけど、笑うんだね~」
「そ、そんなこと...」
笑っている、なんて言われるまで気付かなかったシャルロッタ。
普段、感情を表に出さない彼女がこの時ばかりは普通の少女に戻ったのであった。
「この器はどうするの?」
「コーンのこと?それも食べられるよ~。」
「えっ...。」
試しにかじってみると、さくっと音がした。
「アイスと一緒に食べると美味しい...。」
「ね~。」
歩きながら食べていると、明星の自宅についた。
「私ここだけど、シャルは一人で帰れる?」
「大丈夫、私そこだから。」
明星が住む一軒家のすぐ隣にあるアパートを指指した。
「えっ!?すぐ隣だったの!?」
「うん、そうだったみたい。」
「じゃあ朝も一緒に学校行けるね!」
「そうだね、一緒に行こう。」
「やったぁ!、じゃあまた明日ね~!」
「うん、また明日。」
明星は手を振り、玄関へと入っていった。
「....。」
シャルロッタは何事もなかったかのように、アパートの階段を上がり一番近い
部屋に入った。
「リーダー、一日目終わったよ。」
鞄を置き、中から衛星電話を取り出しリーダーへと話しかけた。
『ご苦労、特に問題はなかったようだな。』
「うん、アイスクリーム美味しかった。」
『ほう、まぁ任務に支障をきたさない限りは自由なことして構わないぞ。』
「分かっているよ。」
『では、また何かあったら連絡してくれ。』
「うん。」
通話を切り、何もない部屋の一角にあるベットに倒れこむ。
「これって、楽しいって...言うのかな。」
今までの人生をずっと戦うことしか歩んでいなかったが、今回の任務で普通の
少女として生活できるこの時間は、彼女にとって貴重なのかもしれない。
「また明日、楽しみ。」
こうして彼女の一日目が終了したのである。