卯花色のリリェ -宵の明星-   作:Eo.

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今回から語り手が主人公に変わります。
↓シャルロッタ、かなの立ち絵

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6.孤立

雪の降る街。

 

私はまだ幼い姿だ、これは...夢?

 

街はクリスマスムード一色、広場に立つ大きな針葉樹はクリスマスツリーになっている。

 

幼い姿の私はその街を一人でとぼとぼと歩いている。

 

夢の中の私の意思で歩んでいるのではなく、この幼い頃の私の視界だけを共有しているようだ。

 

夢は過去にあった、頭の記憶に残っている出来事を見せたりするというが

 

あの時の爆発の衝撃のせいか、やはり思い出せずにいた。

 

幼い私は小石に足を取られ、そのまま転んだ。

 

夢のせいか痛みは感じなかったが、視界を共有している私の目に映った擦りむいた

 

足は中々痛そうだった。

 

「大丈夫かい?」

 

ふと、誰かに声をかけられた。声がする方を振り返る、男の人が立っていた。

 

しかし顔に靄がかかっていて顔が判別できない、この人は誰...?

 

彼が手を差し伸べる。

 

幼い私はその手に手を伸ばした。

 

「...ル...ャ....ル...。」

 

かすかに声が聞こえる。

 

「シ....ル....シャ。」

 

聞いたことのある声。

 

「シャ....シャ...ル。」

 

かな...?

 

「シャル、シャル?」

 

私は目を開けた、夢から覚めたんだ。

 

「シャル...大丈夫?」

 

視界がぼやけている、でもかなが心配そうにしている表情ははっきりとわかった。

 

「私、気絶して...」

 

すぐベットの隣の机にある時計に目をやると最初に目が覚めた時から一日経った

 

午前7時過ぎだった。

 

「おはようシャル、あの後さすがに一人にするわけにも行かないからシャルの

 

お家でお泊りさせてもらっちゃった。さっき私も起きたんだけど、シャル寝てる時

 

涙流してたよ?」

 

「えっ...?」

 

目元を拭うと確かに濡れていた。

 

「何か夢でも見てたの?」

 

「うん...私の幼い時の夢、でも覚えてないんだ...」

 

「そっか...。朝ご飯つくろっか、どっちみち今日は土曜日で学校は休みだからね~。」

 

そう言うと、制服姿にエプロンをしキッチンに立った。

 

私が確認した感じだと、教室は机と椅子が散乱し、銃撃戦で壁に穴が開き、ガラス

 

が割れている状況では授業はできないと思う。

 

「私達、警察に捜索されてるかもしれない。」

 

「そうだよね、あの後警察来た時には私達もうあの場所には居なかったもんね。」

 

私の事を考えてあの後私をこの家に運んできてくれたようだ。

 

でもやはり、誰の指示でここまで来たのか、全く思い出せなかった。

 

部屋の角に置いてある黒い大きなボストンバッグとバックパックには数種類の銃器と

 

弾薬、防弾ベスト、その他装備、救急キットやなど、明らかに普通の人間ではない。

 

私は人を殺めることができる人間、それを今までずっとしてきた人間。

 

私はどこで産まれ、どういう風に育って、どんな人生を送ってきたのか、今はそれが

 

一番知りたかった。けど、今はそれを知るすべはなかった...。

 

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「はいっ、できたよ~。」

 

お皿に盛りつけられた目玉焼き、ソーセージ、レタスのサラダ。

 

白米と日本のスープ、お味噌汁。

 

「おいしそう...」

 

「簡単な感じだけど、ちゃんと食べないとね~。」

 

「いただきます。」

 

湯気のたったお味噌汁に手を伸ばす。

 

「シャル、日本の食事のマナーは忘れてなかったんだね~」

 

「えっ?」

 

「お味噌汁があるときは最初にお味噌汁をいただくっていうのがあるんだよ~。」

 

偶然だったのか、それとも私が思えていたのか

 

どうやらやっぱり、覚えていることもあるみたいだ。

 

「あったかい...おいしい。」

 

「よかった~!、じゃあ私もいただきます~!」

 

黙々と箸を進める最中、ふと私はテレビを付けた。

 

『都内の高校が謎の武装勢力に襲われ死者が出ています。』

 

『なお現場から姿を消した二名の女子生徒を警察は捜索しています。』

 

「やっぱり。」

 

「そりゃそうだよねぇ...」

 

「かな、ご飯食べ終わったら一端家に戻って荷物まとめて。」

 

「えっ、どうして?」

 

ご飯を口に運びながら首を傾げる。

 

「記憶が定かじゃないけど、多分昨日戦った人たちはあくまで氷山の一角...もしかするともう

 

私達の居場所を特定してるかも知れない、それに警察のこともあるし。」

 

「なるほど...」

 

「とうぶん家には帰ってこれないかもしれない」

 

「お父さんの居る場所の手がかりもつかめてないしね...」

 

私は食べ終わり、箸をおいた。

 

「必ず見つけて会わせてあげる...!」

 

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一時間後、支度を済ませ家を出た。

 

お互いの家は特定されてると予想し、待ち合わせは近くの駅にした。

 

私の荷物はバックパックに3日分の着替えと救急キットなどの小物。

 

ボストンバックに銃と弾薬が入っており、かなりの重さ。

 

銃の使い方は体が覚えてるのか、手間取ることはなかった。

 

誰かと連絡を取るために使ってたであろう衛星電話は爆発の衝撃で壊れていた。

 

通り過ぎる人が私の事を目で追う、バックパックを背負った銀髪の少女が住宅街をこの時間に

 

歩いていたらさながら海外から来たバックパッカー、見るのはあたりまえだけど。

 

そして数分歩いたところで駅前に到着。

 

「かな。」

 

「シャル!」

 

かなはカーディガンにロングスカート、リュックにバックという出で立ちだった。

 

「シャル、怪しまれなかった?」

 

「?、どうして?」

 

「こんな可愛い子がこんな時間に大きいリュック背負って歩いてたら怪しいもん。」

 

「っ...。」

 

「それで、これからどうしようか...?」

 

家からは出たものの行く宛がない、と思っていた矢先、声をかけられた。

 

「君達、ちょっといいかな?」

 

身長の高い、180cmといったところだろうか、若い男の人が立っていた。

 

「?、どうしました?」

 

かなはその男の人に返答をする。

 

しかし私はボストンバックを静かに地面に置き、ポケットに隠してある銃に

 

自然と手を伸ばしていた。

 

「君は明星かなさんだね、そしてそこにいる君は..."シャルロッタ・リリェホルム"」

 

「かな、下がって。」

 

「えっ...?」

 

私はかなの腕を引っ張りこちらに引き寄せた。

 

「あぁ、紹介が遅れたね自分は極秘組織"フォルセティ"の日本人オペレーター、武器兵器

 

から移動手段のサポートを任されている"河田 守"だ。まぁ、言っちゃってるから極秘

 

じゃないんだけどね。」

 

彼は苦笑いした。

 

「極秘組織...?」

 

「君が所属してるところだよ、今回の作戦で君のサポートを任されたのが私だよ。」

 

「私が...所属...極秘組織...。」

 

思い出そうとすると頭がズキズキと痛む。

 

「河田さん、でしたっけ、シャルは昨日学校で起きた事件のときに爆発の衝撃で記憶の

 

一部がなくなっちゃてて...」

 

私の代わりにかなが事情を話してくれた。

 

「高校に武装集団が侵入、死者1名負傷者多数のあの事件だね。立ち話もあれだし、私

 

の隠れ家に案内するよ。」

 

彼が本当のことを言っているのか私にはわからなかったが、今はこの人から

 

色々と情報をもらうことにする。

 

10分ほど歩き、人通りの少ない路地に入る。

 

「さっ、入って。」

 

中に入ると壁の両端ある大きな本棚、それに挟まれた形でPCの置いてあるデスク、来客用の

 

ソファーとテーブルがあり少し殺風景な印象だ。

 

「どうぞ腰掛けて、話の続きをしようか。」

 

彼は私達をソファーに案内すると置いてあったティーカップを手に取り

 

ティーバッグを入れ、カップにお湯を注ぎ私達に出した。

 

「あの武装集団は明星かなさん、君を狙ってたんだ。」

 

「はい...、それはシャルから聞きました。お父さんも追われてるって...」

 

「そうだね、そしてシャルロッタは君のお父さんと同じく狙われる可能性のあった

 

君を助けるために同じ高校に転校生として潜入して監視してたわけだ。」

 

「そこに案の定、人質として捕まえるためにあの学校を襲った...。」

 

「僕はあの現場に居たわけじゃないから詳しくはわからないけど、あれから

 

シャルロッタと連絡が途絶えたって上から連絡があって君の隠れ家の近くを探ってたら

 

見事、二人でいる所を見つけたってわけ。警察より早くてよかったよ。」

 

「それで...私とシャルはどうすればいいんでしょうか...?」

 

「君のお父さんは変わらず行方不明、もうすでにテロリストの手に落ちてる可能性は

 

無きにしもあらず、こっちでも捜索はしてるみたいだけど手がかりはつかめてないんだ。」

 

「そう...ですか...。」

 

かなは俯いてしまった。

 

「そしてシャルロッタ、君のことだけど。ここに来る間に君に起こったことを上と

 

メールでやりとりした結果」

 

彼は私の目をじっと見つめた。

 

「"消せ"の一言だけ帰ってきたよ。」

 

「それってどういうことですか...?」

 

かなが聞く。

 

「"消せ"つまり"シャルロッタの存在を抹消しろ"ってこと"殺せ"ってね。」

 

「そ、そんな!?」

 

「記憶がなくなってしまった以上、下手に動かれるわけにも行かないしもしも敵に

 

捕まってしまったら不利になってしまうからね。」

 

「シャルを...この子を殺すんですかっ!?」

 

かなは大声で目の前に座っている彼に言った。

 

「いや、僕は殺すつもりはないよ。それに僕はもう組織の人間じゃないしね。」

 

「どういうこと...?」

 

私は聞いた。

 

「割が合わない、ただそれだけだよ。やり方がちょっと気に食わないし

 

僕に人殺しは向いてないからね。」

 

彼は首を横に軽く振りながらそういった。

 

「でも僕が君を殺さなかったとしても組織の人間が君を消しに来るだろう。彼らは

 

君と同じ、戦闘のプロだ君だけじゃ手に負えないだろう。君はもう覚えてないだろうけど

 

僕は君のサポートを2年位前からしているんだよ?」

 

「それってつまり...助けてくれるってことですか...?」

 

「そういうことだね、移動手段とか、その他もろもろは僕がサポートする。

 

でも君を敵から守れるほど人数も居ない、君を抜いて動けるのは僕とシャルロッタだけだから

 

だから君にも少し手伝ってもらうよ、自分の身は自分で守るってね。」

 

「でもかなは普通の高校生だよ、危険なことがいろいろ...」

 

「シャル、大丈夫...!守ってもらってばかりじゃ釣り合わないもん、私もサポートするから!

 

その代わり、私のお父さんを必ず救って!」

 

「かな...。」

 

「明星博士をどこの誰よりも早く見つけて、保護するのが僕達の任務。僕達はいろんな

 

組織を敵に回すことになるよ、政府も、国も皆味方にはなってくれないと思った方がいい。」

 

「覚悟はできてるよ。」

 

「う、うん私も...!」

 

こうして私達は、かなの父親の行方を追うためにこの世界から孤立したのだった。

 




シャルロッタのボストンバックに入っている、今後出る銃器紹介

・MAGPUL FPG(Folding Pocket Gun)
【挿絵表示】

アメリカの銃器設計者"ユージン・ストーナー"が80年代に開発したARES FMGを元に
銃器用アクセサリーメーカーのMAGPULが改良・開発した折り畳み式短機関銃。
折り畳めばポケットにぴったり入るサイズになり、その形は全く銃には見えない。
9x19mmパラベラム弾を使用し、その中身はマシンピストルGlock 18。

・Glock 17 (シャルロッタカスタム)
【挿絵表示】

オーストリアの銃器メーカーであるGlock社が開発した自動拳銃。
プラスチックを多用した自動拳銃として有名だがこれをシャルロッタは
カスタマイズし、精密性の高いSALIENT ARMS社製のスライドとバレルに変更。
グリップ周りも自分の手に馴染むように加工されている。
高校潜入時はバッグの中に隠し、テロリスト襲撃後、かなを守るために使用した。
(カスタム参考はタクティカルトレーニングインストラクターの
クリス・コスタ氏のGlock 17を参考に)

・Ak 5C(シャルロッタカスタム)
スウェーデン軍が採用しているAk 5CはベルギーのFN社製アサルトライフルFN FNCを
スウェーデンの気候条件に合わせて改良した銃Ak 5のカービンタイプ。
シャルロッタはこれをカスタマイズし、ストックをMAGPUL社製の
ACRタイプフォールディングストックに変更、同社製のAFG(Angled Fore Grip)を装着。
Aimpoint T-1マイクロドットサイトを載せ、素早くサイティングできるように
している。

*挿絵は順次追加予定。

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