俺はアグネスタキオン   作:キサラギ職員

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時系列なんもわからん問題
たぶん京都


11、腕試し

 肩慣らしでG3レースに出てみないかと言われた。

 季節は既に夏過ぎ。秋に差し掛かっていて、冬に近い。温低下が著しい。地球温暖化がどうとか言ってるがなんやかんや秋っぽくなってきた頃だ。夏服と冬服をどう切り替えていくか悩みどころの季節である。

 俺はうんと返事をしていた。研究は中々いい感じに進んでいたからだ。

 だがエントリーしているメンバーを見てみて、俺は驚愕した。

 

「カフェの野郎………」

 

 G3とはいってもGがつくレースだ。とはいっても乗りに乗ってる連中が出場するG1レースとは異なり、やはりランクが若干落ちる。今の俺の実力なら余裕ではないかと言われたので出場を決めて、少ししてエントリーしてるメンバーを再確認したところ、カフェの野郎が入り込んでいたではないか。

 俺はSNSアプリでカフェを呼び出した。

 

『なんでエントリーしてる』

 

 すぐ既読が付いた。

 

『偶然ですよ』

『偶然なわけないだろ。冷やかしなら帰れ』

『冷やかしでもないですよ』

 

 と、以降何送っても既読が付くだけになってしまった。

 マンハッタンカフェとの付き合いはそこそこあるが、ああ見えて内心では激情を隠し持ってるようなタイプである。何か考えがあるんだろうが、そうはさせるか。

 

「中距離2000mか。ステイヤー寄りのやつにとって苦手のハズ……」

 

 意図的に寄せて来たとしか思えず、これは勝つ以外の選択肢がない。

 そして俺は戦意を胸に新幹線にトレーナーと飛び乗ったのだった。

 

 

 

 

 

『天気はどんよりとした曇り。バ場は良好です』

 

『一番人気を紹介しましょう。期待の新星、アグネスタキオン!』

 

 当然だろ。俺は勝負服に身を包み、係員誘導の元、ゲートについた。

 主に俺を――――いやカフェもか――――を見に観客とマスコミが詰めかけているのがわかる。俺はともかくとして、カフェもさっそく注目の的になっているらしい。癪なのでその辺余り調べたりはしていないが。もっとも身体データだけはきっちり頂いて研究対象にはしてるがね。

 

『この評価は少し不満か?  2番人気はこの娘、マンハッタンカフェ!』

 

「よりによって隣かよ」

「負けませんよ」

 

 しかも位置が隣というのはもう神の与えたもう試練ってやつなのかね。

 こいつの持ち味はその体の柔らかさ、そして粘り強さであろう。特に後半にかけての追走には目を見張るものがある。先行に対してこいつは差しが得意とみる。

 黒。差し。なにか、懐かしさを覚えるのは気のせいだろうか。

 実際のところ、こいつと走ったことはほとんどない。練習で鉢合わせたときにレースしたことがあるが、並走だったので差しもクソも無い。

 

『各ウマ娘ゲートイン。出走の準備が整いました』

 

「……」

「……」

 

 ゲートオープン。スロットルを吹かし、クラッチを繋いでスタート。脚部を唸らせ俺は出発した。

 他のウマ娘のデータもみているが、脅威になりそうなやつはいなかった。無論油断はしないがね。

 

『逃げのファスター、先行します!』

『シンガリを務めるのはオリオールスター!』

 

 逃げの子の背後に付けて、風よけに使う。このコースは坂道がキツイ。坂道が得意と言えば――そうカフェだ。そのせいか趣味が山登りだった気がするが、今あいつはどこにいる?

 

『追いかけるアグネスタキオン!』

 

 追いかけてるんじゃなくて風よけに使ってるだけだ。レース中盤。各々が位置を整え始める。逃げはこのままペースを維持できるか、できない。ずるずると後退していくので、俺は先頭に躍り出た。ちらりと背後を窺うが、カフェの姿が見えない。

 

 

 

「―――シッ、シッ、シッ」

 

 

 

『こっ、これは!? ぴったりと付けているのはマンハッタンカフェだ! 距離が近すぎる! これはどう思いますか』

『風の抵抗を最小限にすると同時に煽っているんでしょうか。勝負の世界はルールさえ守れば、あとは決まりはありませんからねぇ!』

 

 

 

 いた。

 俺の背後にぴったりつけているらしく、近すぎて呼吸音が聞こえてくる程だ。ズドドドドと地を縫い付ける足の音が聞こえてくる。

 

「逃がさない……」

 

 亡霊のような言葉が吐きかけられる。

 

 焦るな、タキオン。焦ったら負けだ。この囁きにペースを乱されるな。

 

 俺は最後の直線に向けてインコース掠めるような軌道を取りつつ、速度を上げた。

 

『煽る煽る! 影も踏まんばかりの至近距離! まさにドッグファイト!』

 

『最後の直線に入った! マンハッタンカフェ、追走! アグネスタキオン! 二人の一騎討ちだ!』

 

 カフェが横に出る、そのタイミングを俺は待っていた。風除けで十分体力を稼いで、最後のスパートで差そうと言ってもそうは問屋が卸さない。

 

「スーッ、ハァァァァァァァッ!」

 

 ギア・チェンジ。

 一息入れてから、一気に加速。蹄鉄が地面にめり込むのを感じる。後方に芝巻きあげて、最後のスパートをかけていく。

 

『並んだ、並んだ! アグネスタキオン、マンハッタンカフェ! これは熱い! どっちが出るか!』

 

 横を見遣れば、カフェが殺気さえ感じる鬼気迫る表情で走っている。白い勝負服の俺と、黒のカフェ。二色が並んでゴールを目指している。

 

 

 そして、ゴール。

 

『決着がつきました! 一着はやはりアグネスタキオン!』

 

 

 

 

 

「勝ったぜ」

 

 ゴール後、俺はクールダウンとして軽くターフを走りながら、横を走っているカフェに声をかけた。敗者に慰めは不要だ。俺はこれっぽっちも悪いなんて気持ちは持っていない。負かしてやったという喜びで一杯だった。

 

「後少しだった……2000m走ってコンマ数秒…しかし、関係ない」

「負けは負けさ」

 

 カフェは肩をすかすと悔しそうどころか口元をにやつかせていた。

 2km走ってコンマ数秒。ないようなものだが、レースでは関係がないのである。負けは負け。ラリーに関するドキュメンタリーで危険極まりない車体を操り負けたレーサーの言葉を思い出す。

 しかし……。

 こんな性格だったか? 例の悪霊くんに影響されてないか?

 

 

 

「次は勝ちますよ、タキオンさん」

「待つさ」

 

 俺が言うとカフェは速度をあげていった。

 

 

 

「さてと……ライブかあ…」

 

 ウマぴょい伝説。

 翌日の新聞で『アグネスタキオンの可愛らしいダンス』とか書いた記者を絞め殺してやりたいよ。




マンハッタンカフェの秘密 最近甘いことで有名な某コーヒーも飲めるようになった
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