俺はアグネスタキオン   作:キサラギ職員

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ネオユニヴァース語難しすぎませんか


12、ネオユニヴァース

 

 

 今日も今日とて研究日和だ。季節はすっかり冬前。いい加減俺も冬服に切り替えた。こういう時スカートってのはラクじゃない。スースーするからな。

 さーて、今日はどの娘を研究しようかなと見回しても、俺から一目散に逃げていく娘までいる。失礼な、取って食うわけじゃないんだぞ。

 落第にならない程度に授業に出てる訳だが、今日はその落第にならないように出ないといけない珍しい日だ。

 

「シャカールゥゥゥ?」

「ケッ、一昨日きやがれ」

 

 同じクラスのエアシャカールに声をかけるも見事に逃げられる。初対面の頃薬飲ませたら髪の毛が伸びまくってバリカンで戻したのがいけなかったのか。

 俺はクラス中を見回してみたが、逃げるわ逃げる。少し傷つく………わけがない。怖気てる場合じゃないからな。

 

「カフェー」

「以前やった内容でよければ」

「新薬の……」

「お断りします」

 

 カフェに首を振られる。

 

「ジャ……」

「あばよ!」

 

 ……帰宅の早いやつだな。扉をピシャーンと開けて駆けていくジャングルポケット。

 

 俺は仕方がないので他を探し、見つけた。というより、向こうから来た。

 金と空色の髪の毛の、お人形のように整った容姿をしたウマ娘だ。こいつほど外見の説明が難しい女がいただろうか。ネオユニヴァース。クラスで浮いてる自覚のある俺以上に浮いた女だ。

 

「アグネスタキオン―――」

「実験台になってもらおうかなァって思うんだが、どうよ」

 

 なぜか近寄って来たので声をかけたが、最初からこいつに声をかけるつもりはなかった。というのもこいつの話す日本語、横文字が多すぎて小難しいんだよな。相対性理論とかそっち方面とかじゃなくてSF寄りというか、なんというか。

 いや協力的な数少ない子なんだが感想が難解すぎるんだよな。

 一回脳波を測定したら脳波で遊び始めるし、本当は宇宙人なんじゃないかと真剣に疑っている。

 ちなみに成績は毎回90点台の俺を余裕で抜き去る100点か、たまに数問間違えるくらいの秀才である。毎回負けるので悔しい思いをしている。

 

「アグネスタキオン、『わたし』は“観測者”として、興味深く『思う』よ」

「お、おう………その、実験をー……」

「フォローミー、『追いかけて』」

 

 相変わらず小難しいな。詩的だ。

 俺は後を追いかけた。時々振り返ってくるのでまるで猫みたいなやつだ。

 三女神像の前まで歩いてきた。今日は晴天。いい日より。

 

「………“UNKW”、『あなた』はどの“観測可能”におけるABSSでも、発見できなかった」

「あー、つまり、アビス? で俺を見つけられなかったってコト?」

 

 尻尾がぶんぶんと揺れる。表情は余り変わってないが、嬉しいらしい。

 実際のところ難しいことを言ってるようで、単語を拾っていけば読み解くことはできる。できるのだが脳波を自在に操れる女を実験材料にしたところで『この数値は正しいのか』という客観的な部分を疑わないといけないので、難しい。

 

「そのアビスが何かは知らんが、あらゆる物体を観測し、運動力を測定して、次の動きを完全に予測することはできないことと同じように、全知であることはできないぞ」

「“ラプラスの悪魔”?」

「タキオンの名前を持つ俺が言うのもアレだが、光速を超えて観測できない程に宇宙は広い。知らないことだって、世界にはたくさんあるんだ。知らなくてもいいだろ、知ったかぶりの方が危ない。この世界は多くの愛と高潔さに彩られてこの上なく美しいのだから、証拠もないおとぎ話で自分たちを欺く必要はない」

「かーる、せーがん」

 

 以前試しに漫画を引用しまくったらアホ毛が疑問符になっていた女だが、学者だとわかるらしい。コミュニケーション取れて嬉しいのか尻尾の動きが非常に面白い。

 ネオユニヴァースが心なし真面目な顔になった。

 

「アグネスタキオン、“警告”だよ」

「おう」

「ABSSの影響は、アナヴォイダブル、『避けられない』。ネオユニヴァースは危惧している。“三女神”の加護無きは――」

「不確定性原理」

「“破れ”がある、ネオユニヴァースは、それも『恐ろしく』思うよ。“世界線”の収束は。“創成”前の原理は、まだ『生きている』と思うよ」

「破れねぇ、対称性の神秘についてとっくり語るにはまだちょい科学は未熟で見通せないからなんともな。俺達が見てるのは影さ。現物を実際に手に取ってみたのかい?」

「ぷらとん? 神は、サイコロを振らない、とすれば?」

「サイコロがあるかだって小さい俺達にはわからんことさ。まァなんにせよ、ありがとよ」

 

 俺は三女神を見上げた。どんな連中なんだろうな、この三女神様ってのは。

 ネオユニヴァースは必死で自分の言葉を使って警告して来てくれている。なにかがある。そしてその核心に迫ることを言っているに違いない。それを確かめる術はないが。

 

「『見えない』。アグネスタキオンの“世界(こと)”は。“警告”することはできる。ネオユニヴァースは、『悲しみ』を抱きたくない。『ともだち』が悲しむさまは、『感情』を“アンコントローラブル”だよ………気を付けて、欲しい」

「……夢を見るんだ」

 

 俺はここでならいいかと思って言うことにした。

 

「……スフィーラ」

「バイクに乗ってて足を失う夢と、もう片方はよく見えないが……こっちも足を失う夢だ。これはその警告と無関係じゃないんだな?」

「……」

 

 ネオユニヴァースがこくりと頷く。

 こいつの言ってることは嘘じゃない。と思う。学者の端くれとしては失格かもしれないが、嘘をついてる顔じゃないからな。実際に脳波を自在に操るところを見せてもらっただけに、なにかこうとんでもない能力を秘めていてもおかしくはない。ウマソウルなんてものの実在が明らかになってる物理法則の世界なんだから。

 ロジカルじゃないなんて笑うがいいさ。レーサーはロマンチストなのさ。

 

「どこまで知ってる?」

「“()って”はいない、『見ている』だけ」

 

 こいつの青い目には何が見えてるんだろうな。

 

「実に面白い」

「?」

「いや仮説がまた一つ、事実だと明らかになって来たってことだよ。じゃあ話は変わるけど、さっそくぅ……お薬、飲んでみない?」

 

 クソ真面目な話をして疲れてきたので、俺は薬を取り出した。

 ネオユニヴァースは試験管の蓋を開けると躊躇なく飲み、そして―――。

 

「………」

「………」

「“ホワイトホール”」

「まァ、白くはなったな。ホワイトホールって言いたかっただけじゃないのそれ? 実際には白い穴じゃないわけだが……実在するならば、だけど」

 

 ネオユニヴァースの毛が真っ白になった、それだけだった。




ピコンッ

『アナザーバース』

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