こんな食事はタフじゃないと耐えられない
5、腹が減っては
食事は大切だが、とにかく面倒だ。手間だ。冷凍で全て完結できるならばそれに越したことはない。むしろ一口で済むならもっとそれに越したことはないとさえ考える。
言い方がシャカールぽくなるがロジカルに考えて食事を楽しむことと、アスリートの生活は真逆に近い。何せおいしいものって大抵カロリー爆弾、塩分爆弾だからな。そういう風にヒト型生物ができているとはいっても、バクバクと食べていては、どうしても偏りが出てくる。
例外もあると言えばあるが、俺はその例外じゃない。
ある日トレーナーに、
「普段何を食べている?」
とおもむろに聞かれたことがある。
「何って……普通だよ普通」
と俺がはぐらかそうとすると、トレーナーは問い詰めてきた。
「食堂にいる姿をめったにみないと聞いたんだ。コーヒー飲んでる姿は頻繁に見るけどモノ食べてないと。何を食べてるんだ? もしかしてコンビニメシとか」
「ナイナイ。普通だよ普通。えーっと、つまり主食にプロテイン、ササミ、ブロッコリーと必要最低限の米だ。あとは野菜って感じで……ああ、あと卵の白身」
「………今度見せてもらっていい、それ。ちなみに他のものは食べてるの」
「材料が同じだけであとは焼いたか茹でるかレンジで加熱するかの違いしかないぞ」
「はー………OK、わかった。とにかく今夜行く」
ということで寮に招待したわけだが、いやしかし料理についてみせるのはなんだか恥ずかしい。もっとも料理と言っても解凍するだけでいいようにしている。何せ一日何度も食べるので。ご飯はパックなのでチンするだけ。
あとはそれを置いて食うだけである。頂きますと手を合わせてもぐもぐと食べるもとい胃袋に流し込む。ぱっさぱさである。
「ササミとブロッコリー茹でたのに野菜スープに白身だけの目玉のない焼きに米ってさあ……なんかこんなの漫画で読んだ気がするんだ」
「お、漫画読む口かトレーナーくぅん。影響受けてないと言ったらウソになるけど結構ガチな方だぞこれは。必須カロリー、過不足ゼロで計算済みだから……」
俺がそれをまずそうに食ってると、何とも言えない表情で見下ろしてくる。
実際まずい。ササミがパサパサで。マヨネーズ付けるとカロリー計算が狂うので嫌いだ。
「わかった! 食堂のメシに任せると大盛にされるのはわかるがこれはあんまりだ。これじゃエサじゃないか。もう自分で作ってくるから、それ食ってくれ」
「はぁ? 男の弁当食えって年頃の女に言う台詞じゃないぜそいつは」
俺はササミをはむはむしてから飲みこみ、口を開いた。
食堂のメシの問題点はある。それは栄養が偏るということだ。意識してバランスよくしてくれている食事もあると言えばあるが、意識しないと好きなものばかり注文しがちになって来る。計算してないというかそれじゃないと本当に足りないんスカ? と言わんばかりに盛りまくってるウマ娘を知ってるがアレは例外である。
しかし寮に入ってくるのも堂々たるもんだ。まだ若い癖になかなかやるよな、このトレーナー君は。
そして後日から弁当を持ってくるようになった。行動が早すぎて面食らったが、その料理のうまいのなんの。栄養の要素を的確に捉えつつ野菜も入ったバランスのいい弁当が三食分届けられることになった。
「古臭い考えかもしれんが一応今は女の俺より料理うまいのは癪だな……」
冷凍食品をぶち込んだ弁当だろうと高をくくっていたところ、すべて手作りと聞いてたまげる。昼食の弁当を摘まみつつ読み物をしていると、昼食から帰って来た休日のデジタルと顔を合わせることになった。
アグネスデジタル。面白い女だ。なにか漫画を描いているらしいのだが、何度言っても見せてくれない。かと思えば急におめかしして出かけていく。サブカルチャーと言えばもっぱら漫画を読む程度だったので新鮮だ。
なぜか涎を流しながら両手をうねうねさせつつ問いかけてくる。
「アッアッ……愛妻弁当たべてりゅ……アッ……タキオンしゃん、そのおべんと、もしかして担当トレーナーさんから貰ったものですか」
「愛妻……かどうかは知らんがまぁ貰ったもんだよ。栄養管理の一環らしい」
「マヂ尊い………夏コミ決まりやろなぁこれは」
デジタルが急に謎の訛りの入った言葉を呟きつつベッドに倒れ込む。
俺が弁当箱を持ち上げると、ベッドから起き上がって首をぶんぶん振った。
「腹でも減ってるんかね……これ食うか」
「いやいやいやいやいやいやおべんとはタキオンしゃんが食べてくだち! あたしなんかが食べたら間に挟まった判定になってオセロですよぉ!?」
「よくわからないが難儀な人生送ってんな………」
言ってることの半分しかわからないが、まあ、面白い女だよこいつは。漫画もよく貸してくれるので助かっている。
「はいこれ今日の分な」
「………なんかよう、最近俺らが会ってると妙にひそひそ噂話する連中がいるんだよなぁ」
翌日も翌日も弁当はつつがなく配送された。毎日寮に許可貰って踏み込んでくるその度胸たるや。女ばかりの寮、室内に遠慮なく踏み込めるあたりの胆力は認めるところだ。
が、それがいけないのか妙に噂話をされるようになってしまった。こっぱずかしいので食堂で食おうかと思ったが。
「毎日行けるのか? 欠かさずいけるのか?」
「ぐぅ」
とまあお見通しだったようで。そもそも、食堂に行くのがもう面倒の極みなのだ。がやがやとしながら食事も手間だし、かたっぱし実験体を探しまくったせいか避けられることもあって、それはもう面倒だ。
そんなわけで俺の胃袋は完全にこの男に掴まれたもとい管理されることになったのだった。
「ちなみに食材費は?」
「考えないようにしてるよ」
「そっかァ……大変だな」
「タキオンのせいじゃないか……」
それもそうだ。