俺はアグネスタキオン   作:キサラギ職員

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これがやりたいから書き始めたまである


7、ギア・チェンジ

 

 足を失う夢を見る。

 栄光に手が届きかけたときに、足を失う夢を見る。

 片方は辛うじて失わなかった夢だが、大勢の人から悲しみと、嘆きの声が聞こえて来て、とても辛い。

 もう片方は劇的な痛みを伴って、それでいて目が覚めない夢だ。正確には、目が覚めなくなる夢だ。永久に。高速で流れていく景色の中で自分が舞い上がった次の瞬間には、足が無くなっている。強烈な痛みとみるみるうちに失われていく色彩の中で意識が遠くなっていって、それで……。

 

「ハッ………ハァッ、ハァッ、ハァッ…………足はついてるか……」

 

 起きてすぐ、布団をめくって足を確認する。しっかりと生えている。傷一つない。

 俺は夢を見ると大抵、早朝に目を覚ます。パジャマで。

 寝るときはいつも半裸派だったのだが、デジタルの野郎が、

 

『その恰好はまずいですよ!』

 

 と鼻血を垂れ流しながら言って来るのでパジャマを着るようになったわけだ。

 伸びをして、大あくびを噛み殺して、ベッドからのそりと起き上がる。同室のデジタルはすやすやと布団の中で眠っている。眠れる時に眠らないとか言いながらたまに徹夜して、一体何をやってるのかは知らんが、翌朝はしゃきっとしているのが謎だ。

 

「休息日か……」

 

 休息日だ。研究の日だ。

 俺はまず、朝食として前日受け取った弁当をもさもさと食べた。卵焼きとご飯と野菜のシンプルなものだが、ダシの利き方がプロだ。トレーナー君の実家はさては定食屋だろうと勝手に想像している。

 そして俺は、まずは熱いコーヒーが欲しいと思いながらも研究室に急いだのだった。

 

 研究室と言っても、ようはとある使われていないスペースを有効活用しているだけの場所だ。

 カフェの野郎がグッズ置き場にしていた場所の半分を借りているだけだ。問題児のお目付け役がとか言われて鍵を受け取ったわけだが、俺から言わせればカフェも大概だ。オカルト的存在がどうやら見えているらしいからな。問題児ではなく問題そのものじゃないのか。

 

 などと考えつつ入室しようと鍵を差したが手ごたえがない。先客がいるらしい。

 

「カフェか?」

 

 それ以外がいるとも思えない。俺が足を踏み込むと、足を組んでコーヒーを嗜むカフェがいたが。

 俺は扉を閉めてすぐ悟った。既視感。見覚えのある光景のはずだったが、その中央にいるのが異なっている。

 

「誰だ?」

「勘がいいな」

 

 雰囲気が違い過ぎた。エキゾチックというか、ミステリアスな雰囲気のカフェとは全く違う粗暴な印象。男のような低音の声を響かせて、コーヒーを一気に飲んで口元を拭う。

 

「前世を信じているか?」

「さあ、非科学的なことは専門外でねェ」

 

 髪の毛が風も無いのに揺れ始めるのを見て、恐怖を覚える。

 はずもない。まぁいつものことだよ。ポルターガイスト現象って言うんだろ。ウマソウルがどうとか抜かす学者がこの世界にいる時点で理解は諦めている。

 

「〇〇」

「!?」

 

 急に人物名が出て来て驚愕したが、聞き覚えがない名前だった。そのはずなのだが震えが止まらない。

 

「完全には記憶がないのか? ならそれでもいい。腑抜けた練習してるお前に忠告してやる」

「アァ?」

 

 腑抜け呼ばわりされてすっこんでるほど人間性ができちゃいない。

 俺がずんずんと前進するとやつも来たので、ガンつけてやった。

 そして全く同じタイミングで頭突きを繰り出した。両手で掴みかかろうとして、お互いの腕と腕が絡み合って動けなくなる。額と額でカチ合ったまま千日手状態だ。

 

「もっぺん言ってみろや!」

「腑抜けってんだよ何がトレーナーくーん↑ ……だよアホか、一生ほざいてな。お前を超えて先に“逃げて”やろうか、ええコラ。タキ公よぉ」

「誰がタキ公だよてめぇカフェに憑りつく悪霊の類か? 神社か寺で焼いてもらえば気が済むのか!? コラ」

「アア!?」

「エエッ!?」

 

 息がぴったりなのではないか?

 いや、こんないけ好かない奴は知らない。そのはずなのだが妙に懐かしい。

 以前にもカフェは何かに憑りつかれたように言動が変わったことがあったが、ここまで攻撃的なやつではなかった。

 カフェの大声が耳にキンキン響いてくる。

 

「誰も塗り替えられない前人未到のラップタイム出してんじゃねぇぞオラ、ブチ殺すぞ!」

「ンの話だよそりゃあ………離せ悪霊が!」

「名前も覚えちゃいねぇなら、オレだってタキ公ってお前のことを呼ぶぜ。タキ公よぉ」

 

 同時に手を離すと、お互いが拳を構え合う。カフェの額はうっすら赤くなっていた。

 一発くれてやろうと俺が振りかぶると、カフェがフラフラし始める。

 

「……………そろそろ限界か、糞が。まぁいい。バイクでケリ付かないなら、親からもらった体で勝負付けるまでよ。有馬で……………」

「ちょ、カフェ!?」

 

 カフェの瞳から力が失われていくと、糸の切れた人形のように崩れ落ちそうになったので、俺は咄嗟に抱きかかえた。

 

「“あの方”は随分と乱暴ですね……頭が痛いです……」

「悪い。つい……いやあの方ってなんだ、説明してくれるんだろうな」

「いいですよ、その前にまず」

 

 コーヒーをもう一杯とカフェが言った。

 

 

 

 ある日もう一人“お友達”が増えていたのだという。

 

 

「………それだけ?」

「それ以上は言うなと言われているので」

 

 時間にして数十秒程度だった。説明にすらなっていない。

 俺とカフェは椅子に腰かけ机越しに話していた。

 俺は、カフェが淹れてくれたコーヒーの水面を見つめて、一口飲んだ。

 

「友達って増えるものなのか」

「はい」

「友達じゃないのは?」

「いますよ。例えばホラ……そこに……」

 

 俺の背後をおもむろに指差し始めるので、俺はのけぞった。

 こんなことなら掃除機でも持ってくればよかった。

 

「あーわかった! わかった! 怪奇現象起こすと書類が燃えたりするからやめろや。俺の負けだ。とにかく、整理するとそいつに乗っ取られていたと」

「………」

 

 カフェはなぜか肯定も否定もしない。

 

「前世ねぇ……ウマソウルってのはあんなに狂暴なのかねぇ」

「ウマソウルじゃないと思いますよ」

「そうかい、それで……そいつは追い出せそうなのかい」

「…………無理、と思います」

 

 若干ラグがあったが意図が読めない。もともとカフェは意図が読みにくい子だから。俺のようなズボラじゃわからんものはわからん。

 

「有馬ねェ………有馬と言えば俺も出るつもりだが」

 

 

 

「負けませんよ」

 

 

 急にカフェの口調が変わったので俺はまたかと身構えたが、

 

「これは本心です。“彼”の言葉じゃありません。負けませんよ、絶対」

「そうかい。ブチ抜くぜ、ケツから」

 

「……」

「……」

 

「なんか調子が狂うな、今日は。解散にしよう。研究も無し、お茶会も無しだ」

 

 俺は、なんだか居心地の悪さを感じていた。いつもの穏やかな―――マァカフェは迷惑そうな顔をするが―――研究室の雰囲気じゃない。これじゃレースサーキットのピットレーンのような感覚だ。わずかなミス一つで億円が消し飛ぶあの戦場のそれだ。

 ……しかし、こんな感覚、どこで俺は経験してきたのだろう。今までは単純に嗜好の問題と思ってきたが、あるいは……。

 

 俺が部屋を出る間際に、カフェが何かを呟いたがついに聞こえなかった。




じゃああとは誰かよろしくね………ブロマンス? 知らない子ですね

いる?

  • いる
  • イラストもいる
  • イラストはいいから本文書け
  • なんでもいいから完結させろ
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