「初めまして。アクター。私はアルファ。共に、ディアボロス教団を倒しましょう」
突然、金髪のエルフの女の子から言われた言葉。
”アクター”って誰の事だとか、ディアボロス教団ってお伽話の? とか、聞きたいことは大量にあったが、十中八九無垢な少女に、アホなことを吹き込んだ犯人が隣ですまし顔をしているのだから、一度深呼吸をすると、開いていた本を閉じて、彼女に向き直った。
私の名前は、ファミラ・カゲノー。
男爵家の第三子であり、目の前ですまし顔を決めている男の妹に当たる。
この状況を端的に見れば、
『部屋に引きごもりがちの妹に、同い年くらいの女の子を連れてきてくれた優しいお兄ちゃん』
だろうか。
否定しておこう。
ていうか、絶対に違う。
「シャドウから聞いたわ。貴方も私を助けてくれたんですってね。ありがとう」
誰。”シャドウ”って。
流れ的に、そこのすまし顔のお兄様だろう。
そろそろ殴りたくなってきた。
殴れるかと言われれば、怪しいところだが。
「ん……? あぁ、あの……」
月夜に照らされる美しい金髪姿に気が付くのが遅れたが、目に映るその魔力に見覚えがあった。
目の前の、頭が痛くなるようなお兄様の、大変残念なご趣味のひとつに”盗賊狩り”というものがある。
悪人への私刑がまかり通る世界の、田舎の話だ。
盗賊狩りそのものは良いのだが、理由が『陰の実力者になるための資金集め』というのが、残念ポイントを加速させている。
しかも、妹を真夜中に連れ出してまでやるのだから、残念ポイント追加だ。
その内の1回に、”悪魔憑き”と呼ばれる腐りかけの肉塊を発見したことがあった。
悪魔憑きは初めて見たが、生まれ持った特殊な目が、その悪魔憑きが魔力暴走を起こしている状態だと教えてくれた。
それを、このお兄様にも教えて差し上げたところ、目を輝かせて、森にある秘密の小屋へ持ち帰った。
詳しいことは興味もなかったから、聞いてもいなかったが、結果は、御覧のとおり、美しいエルフが爆誕したらしい。
「シャドウからディアボロス教団については聞いたわ」
私は聞いてないです。
「私にも協力させて」
状況が驚くほどわからない。
これは、シド本人がテキトーに口から出まかせを伝えた結果だと思うが、アルファの真剣な目を見る限り、冗談で済むレベルではなく信じ切っている気がする。
「……っ! 私は、ふたりのように頭いいわけじゃない。けど……! 足手纏いにはならないから!」
下手なことを言えないがために、口を閉じていたが、勘違いさせてしまったらしく、泣きそうな顔で懇願された。
「そう邪険に扱ってやるな。我が右腕。アクター」
「私が邪険に扱っているのはお前くらいだよ。シャドウ」
「わかっているじゃないか」
もしかして、”アクター”が君のことだって気が付いていない?
と、クソみたいな気遣いを感じたため、直接的な皮肉を返してやれば、小さく笑われた。
あー腹立つ。
「勝手にすればいい。私には関係のないことだ」
妙なことに巻き込まないでくれと、中断していた本を開き直せば、掴まれる服。
アルファが服の袖を掴んでいた。
「必ず、貴方にも認めてもらえるように頑張るから……!」
何を……?
おままごとにしては真剣過ぎる目に、空気を読んで口を噤んでおいた。
ブームさえ過ぎれば忘れることだろう。
いくらシドとはいえ、アルファをずっと小屋に住まわせているとは思えないし、近くの村で普通に生活をしていたら、忘れることだろう。
そんなことを気楽に思いながら、念のため、アルファの帰宅後、シドへ事情聴取に行けば、ある意味予測通りの答えが返ってきた。
「すごいよね。あのアドリブ」
「人を巻き込むなよ……だいたい”アクター”って」
「ピッタリでしょ。ファミラのそれって、猫かぶりってより、演者みたいだし」
「わぁ! うれしい! 明日、クレアお姉様と買い物に行くんですが、シドお兄様もいらっしゃってください」
「遠慮します」
拒否権なんてあるわけないだろ。
シドの言っている”演者”というのは、あながち間違いではない。
なんたって、私には前世の記憶がある。
楽しい前世というわけではなく、もう一度人生をやり直せ。と言われて、やさぐれたくなるくらいには、楽しくはない前世だった。
ただ、やさぐれるにも、時と場合と家族は、しっかりと確認しておくべきだった。
まさか、ストレス発散のために盗賊を襲っていたところに、同じく陰の実力者になるために盗賊を襲っている同じ
しかも、兄。
むしろ、一番上の姉である、クレアが転生者でないことが驚きだ。
とにかく、成人式などとっくに超えていた自分が、素のままでいられるはずもなく、子供らしく演じているのは事実だ。
「”アクター”ねぇ……」
一時的なお遊びの名前だ。
気にするものでもない。
そう思って、ほとんど忘れていた頃だ。
「アクター。少し、時間をもらってもいいかしら?」
アルファがやってきた。
「私なりに、ディアボロス教団について調べてみたの。貴方たちには劣るかもしれないけど、その、聞いてもらえるかしら?」
その表情は、必死に調べてきた資料やプレゼンを上司へ披露しようとしている部下の顔のよう。
以前、つっけんどんな態度で彼女を追い返してしまったことで、この少女は少し傷ついていたのかもしれない。
一緒に遊ぼうと誘われて、連れていかれた先にいた相手に、イヤな態度をされたら、不快にもなる。
シドの話では、悪魔憑きになったアルファは帰る村もなく、ひとりなのだと言っていたらしいし、寂しかったのだろうか。
アルファからすれば、悪魔憑きが治って、一人ぼっちのところへ声をかけた友達の家で遊ぼうとしたら、急に出てきた妹から有無を言わさず出て行けと言われたようなもの。
それを遊びの設定をわかっていないからだと解釈し、自分でもう一度遊びについての理解を深めてきたから、仲間に入れてほしいと改めてやってきた。
全面的に、私が悪いな。
これを無視して帰すとか、さすがに子供にやることではない。
「構わないよ」
しかし、ここで大きく態度を変えたら、逆に気味が悪い。
いくらごっこ遊びとはいえ、彼女は真剣なのだ。子供とはいえ、ただの気分で相手をすれば、彼女の信頼は無くなる。
これだけ目を輝かせられる子供を、わざわざ自分の手で曇らせる必要もない。
ここは、話を聞いて、適当に認めてあげて、徐々に褒めていくことで、最初の態度を緩和していこう。
ひとまず、体をアルファに向ければ、緊張した面持ちでディアボロス教団について語り出した。
正直、内容なんてどうでもいい。
タイミング良く、内容を適度に褒めればいいから、内容は、どうでも……
どう、でも…………
「――――これが、私が調べたディアボロス教団について。シャドウに言われなければ、気が付かなかったけど、確かにディアボロス教団に続く手がかりはあったわ」
良くないかもしれない。
「シャドウが、言ったのか?」
「!! あくまで、助言だけ……! 確証を得るための行動は、私一人でやったわ」
つまり、アイツがテキトーに吐いた言葉が、全て事実だったと。
どーすんだ。これ。