虚数の中の君   作:むいてんぺん

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姉妹校交流-曙雲

 

 

 ________2018年、9月中旬。

 

「そっか」

 

 

 私が報告したここ一週間程度の出来事を、夏目先輩はソファーに腰掛けながらただ一言呟いた。

 

 

 人間を限りなく呪霊に近づけさせる、魂に触れその形を変える術式を持った継接ぎの呪霊。恐らく特級クラスのそれに二度戦い逃してしまった事。

 

 任務中その呪霊と接触したであろう吉野順平と、その家族の起きた出来事……つくづく、呪術師という仕事はクソだと考えさせられる。

 

 何よりその発端である継接ぎ呪霊を逃してしまったのは失態でしかない。

 

 

 あの呪霊、あれは子供だ。目の前の玩具に無邪気に遊び、そして成長(・・)する。

 

 似ていた________軽薄、その奥に隠れたドス黒い強さ、呪力のうねりがかの最強(五条悟)に。

 

 私の予想よりもずっと早くアレは進化を続けている、死の間際で学んでしまった事による、私では到達出来ない呪術戦での極地、領域展開すらも会得させてしまった。

 

 虎杖くんが領域内に侵入しなかったら、私は今頃死んでいたであろう。いつ死んだ所で今更悔いはない。

 

 だがあの状況で、友達になれたかもしれない自分と同年代の少年を、目の前で死なせてしまったという自責を抱えた少年の前で自身の死体を見せたくはなかった。

 

 

 ……くそ。

 

 

 少し、過去を思い出した。

 

 尊敬はしないが、信用も信頼もしている五条さんが居なければ。

 

 他者を顧みないが、呪術師としての責務を果たし続ける夏目先輩が居なければ。

 

 ________私は助けたいと思うソレを守れないのか……?

 

 

 

「焼肉、そう。焼肉がいい」

 

「は?……急に何ですか」

 

「硝子ちゃんが言うには人の奢りで焼肉を食べると幸せになれるらしい、七海くん、私に奢っても良いよ」

 

「めちゃくちゃですね」

 

「めちゃくちゃだよ?じゃあ七海くんの名前で予約しといたから、ついでに私の相談にも乗ってもらうよー?」

 

 

 ……はぁ。

 

 全くこの人は、何故こうも人の感情を敏感に反応出来るのか、五条さんにも見習ってもらいたいですね。

 

 いやあの性格で見習われると却って危険か、主に私含めたほぼ全ての呪術師が。

 

 ですがまあ……その昔から変わらない気遣いには助けられているのも事実だ。

 

 

「七海くん、辞めてもいいよ。私は追いかけない」

 

「労働はクソです、それよりはマシですよ」

 

 

「あはっ________そっか」

 

 

 

 

 

 

 ________同年同月、京都姉妹校交流会、1日目。

 

 

 

 京都姉妹校交流会、1日目団体戦“チキチキ呪霊討伐猛レース”

 

 指定された区画内に放たれた二級呪霊を先に祓ったチームの勝利となる。区画内には三級以下の呪霊も複数放たれており日没までに決着がつかなかった場合、討伐数の多いチームに軍牌が上がる。

 

 それ以外のルールは一切無し。

 

 

「私ならこのタイミングに仕掛ける」

 

「僕も居て学長も、京都校から来た教師もお爺ちゃんもいる。生徒とは言っても呪術師として日々成長している、その全てを殺せるってぐらい自信満々って訳?大前提高専結界も張られてるのに?」

 

「だからこそ油断するでしょ、先ず自殺行為としか捉えられない場所にのこのこやって来ないって」

 

「仮にそうだとしても、じゃあ目的は何だっつー話」

 

「……五条君に対する嫌がらせ?」

 

「私情絡み過ぎでしょ。つーか、僕の目の届く範囲で何か起きたとしても、僕がいれば解決出来るし、させる。だって僕最強だし」

 

 

 そう言うと夏目は心底バカにしたような呆れ顔をした……うぜ〜一発殴っても罪に問われないでしょ、まぁこいつと違って大人だからしないけどさ。

 

 

「呪詛師の狙いが何かは起こってみないと確定しないけどさ、気を付けてよ?私はその日そこに居ないから」

 

「いやいや、何それ初耳なんだけど」

 

「私の予想が的中したら、私が高専にいる訳には行かないんだよ」

 

「その理由を話せよ」

 

「やだよ」

 

 

 ……ッチ、こいつ言いそうにねぇな。

 

 心当たりはある、夏目本人からは悟る事は出来なかったがその近くにいる硝子の目の隈がいつからか少しマシになってるのを見て、こいつらが結託して何かを隠してる事に気づいた。

 

 予想は出来る、確証は無えけどまぁ間違いなく傑に付いてきた呪詛師絡みのなんかだろ。

 

 確か悠二達とそう変わらない年の呪詛師も居たよな、匿ってんのか?……まぁ、それは見逃しても良いけどさ。

 

 としたら、夏目お前……。

 

 

「何?そのにやけ面。普通にキモいから辞めた方がいいよ」

 

「べっつに〜〜?まぁそれなら良いよ、こっちはこっちで僕が何とかするから」

 

「はいはい、まぁ一応“保険”は打っといたから、信用してないし五条君の事」

 

「は〜〜〜?」

 

 

 

 ……って話が、この日が来る前日の話。

 

 

「五条!帳が降りる前にアンタだけ先に行け!」

 

「いや無理」

 

「はぁ?!」

 

 

 んで、今実際起きてんのがコレ。

 

 まさかあいつの予想通り呪詛師がやってくるとはね……しかもご丁寧に僕対策はバッチリって訳だ。

 

 視覚情報より術式効果を優先してある、上手いじゃん。

 

 まぁだとしても下りたところで破れば良い話でしょ________そう思って帳に触れた瞬間、手が弾かれた(・・・・)

 

 なんだ?この違和感。

 

 ふとお爺ちゃんと歌姫の方を見てみると、歌姫は普通に帳の中に腕を突っ込んで平気そうだった。

 

 ……!なーる、そういう事。

 

 

「歌姫、お爺ちゃんは先行って。この帳“五条悟”の侵入を拒む代わりにその他“全ての者”が出入り可能な結界だ」

 

 

 特定の個人にのみ作用する結界……余程腕の立つ呪詛師がいる、こちらの情報をある程度把握もしている。

 

 ……夏目と殺り合った呪詛師本人か?いや、どちらにせよ生徒1人でも殺されたら僕らの負けだ。

 

 ったく、舐めてくれるよね……僕がここ(・・)にいるのを分かっているのに本当にこの日に仕掛けるなんてさ、あームカついて来た。

 

 

「さてさてどうするかな」

 

 

 夏目の危惧は確かに正しいかもだけど、まぁ大丈夫でしょ。

 

 生徒に危険が起きているのは確かだけれど、だからって僕と夏目が鍛えた生徒がそう簡単に殺される?

 

 はっ、ありえねーだろ。

 

 

 恵も悠二も野薔薇も、二年の皆も京都校の子達も、そんな柔じゃない。仮に特級が相手だとしてもだ。

 

 

「まあ取り敢えず」

 

 

 この帳がぶっ壊せるか色々試してみましょーか。

 

 

 

 

 

 

 ________帳が降りるより数刻前。

 

 

「変です」

 

 

 虎杖に東堂さんの相手を任せて数分後、違和感に気付いた俺は真希さんにそう言って足を止めた。

 

二級呪霊(ターゲット)がそっちにいるってことか?」

 

「いや二級なら余程狡猾でない限り玉犬が気づきます」

 

 仮に一級に近い二級呪霊だとしてもこの違和感は呪霊のソレじゃない。

 

 ……可能性には入れていた、まさか本当のやるとは思わなかったが、核心に近い違和感の正体。

 

 

京都校(アイツら)虎杖殺すつもりじゃないですか?」

 

「……あり得るな」

 

 

 俺達(東京校)と違って京都校は虎杖を知らない、知らない奴から見てみれば宿儺の器っていうのは恐怖の対象でしかない。

 

 呪いを祓うのとそう感覚は変わらない、ただでさえ呪術師はその辺の感覚が外れやすくなる。

 

 くそッ、しくじった……!分断する前に気付けていた事だろ。

 

「戻るぞ伏黒」

 

「……すいません」

 

「何謝ってんだバカ、仲間が死んだら交流会も勝ち負けもないだろ」

 

 そう言って真希さんとほぼ同時に駆け出して戻って________京都校の先輩、まともそうだと勝手に思っていた加茂さんに向かって襲いかかる。

 

 反応されて防がれたがこれは想定内だ……一応、言葉で確認する必要がある。

 

 

「加茂さん、アンタら虎杖のこと殺すつもりですか?」

 

「!……その通りだ、と言ったら?」

 

「失敗したんですね、この短時間で虎杖が殺される筈がない」

 

「殺す理由がない」

 

「あるでしょ、上や御三家ならいくらでも________!」

 

 

 虎杖を殺しには向かわせない、このまま追撃して再起不能にする。

 

 今使っている旋棍でそのまま体術戦をしようとするよりも先に加茂さんが後方に駆け出す________っ思ったより足が早い、そうそう簡単にこっちのペースにはさせないって事か。

 

 自分が有利になるフィールドに誘ってる?考えた所で俺が追いかけることをやめる理由にはならないか。

 

 次々と来る矢を払いながら加茂さんを追いかける……器用ってのもあるけれど物理法則を無視しているのは加茂さんの術式だろうな。

 

 建物内、多少離れた所で加茂さんはこちらに振り返った。

 

「式神は使わないのかい?出し惜しみされるのはあまり気分が良くないね」

 

「加茂さんこそ矢ラス1でしょ、貧血で倒れても助けませんよ」

 

「心配いらないよ、これらは全て事前に用意したものだ」

 

 

 ________赤血操術、自身の血とそれが付着した物を操る。血筋大好きの御三家らしい術式だな。

 

 玉犬は仕事中、もう一種は出してないが二種出せる事は加茂さんも気付いてるだろう。俺の十種影法術は知られてると考えて良い。

 

 だからって俺がどの式神を出すかまでは分かってないだろ。

 

「フッ!」

 

 

 俺が旋棍を捨てて影絵を作るのと同時に加茂さんは天井に向かって矢を放つ。

 

 一瞬、姿が瓦礫と重なって消える、瞬く間に向かってきた腹を狙った左拳に、既の所で腕を固めてガードする。

 

 

 ________ッ重い!こんなパワーあったのかこの人、重いだけじゃない、速さもさっきまでの違う、まるで別人。

 

 血を操る……体内の血を操っているのか!

 

「ドーピングか!」

 

「よく気づいた、だが俗な言い方はやめて欲しいね!」

 

 続けて振るわれる猛攻に呪力で体を守りながら捌いていく。

 

 ついていけない程じゃないが、この状態を長く続けられると不利になるな……!

 

「何ッ!」

 

 矢が放たれる前に建物の隙間に隠すように呼んでいた蝦蟇の下で腕を拘束させて一瞬動きを止める。

 

 この一瞬の硬直の間に自らの”影“で取り出した呪具________流石に刃物系は出せないから、棍棒で吹き飛ばす!

 

「〜〜〜っ!やるじゃないかい伏黒くん、本当に二級か?」

 

 ッくそ、咄嗟に腕でガードされた。だが距離は離した、手で影絵を作る時間は作った。

 

「何でちょいちょい仲間意識出してくるんですか……」

 

「共感さ、君もゆくゆくは御三家を支える人間になる」

 

 

 ________満象。

 

 出し惜しみはしませんよ、戦っていて大体実力差は分かった。

 

 ドーピングで強化された加茂さんにも俺はやや劣勢になっても付いていける。十種で呼び出した式神混じりなら恐らく勝てるはず。

 

「私は、私個人の判断で虎杖悠仁を殺すつもりだ。それが御三家……加茂家の人間としてとして正しい判断だと思っている……君にも理解出来るはず」

 

「しませんよ……ていうかそういう話は真希さんとして下さい。そもそも俺は自分が正しいとか間違ってるとかどうでもいいんです」

 

 

 俺はただ自分の良心を信じてる、自分の良心に従って人を助ける。それを否定されたら後は、呪い合うしかない。

 

 

 ________加茂さんが動くよりも先に満象による水流を放出させる。

 

 量と質で押し流して広い場所に出させた、すぐさま追いかけて鵺を呼び出して追撃に向かわせる。

 

 宙に浮かせれば選択肢は限られる、このまま鵺で戦闘不能にさせようと考え、だが加茂さんは懐から何かを取り出すと鵺に投げた。

 

 輸血液……!事前に用意していた血で拘束された。ただダメージは残っている筈、さっきみたいに動けるとは思えない、このまま畳み掛ける……!

 

「私は、負ける訳にはいかんないのだ!」

 

 

 そう言いながら体内に血を巡らせて俺に向かってくる加茂さんと相対し。

 

 

 ________刹那。

 

 

「なっ……!」

 

「はっ!?」

 

 

 建物を遥かに凌駕する木の根の質量が、視界の隅で展開された。

 

 

 

 

 

 

 

 ________伏黒が満象を呼ぶより少し前。

 

 

 分かってた。

 

 真希には私にはない才能がある。

 

 メカ丸と同じある意味逆の天与呪縛、本来術式を持って生まれたはずだったアンタは術式(ソレ)と引き換えに人間離れした身体能力を与えられた。

 

 禪院家では認められなかった才能。私にはなかった才能。

 

 

「素手で触るもんじゃねえな」

 

「……でしょうね」

 

 

 もう一度私は拳銃を真希に向ける、その行いに真希は疑問に思って、今漸くソレに気づき始めた。

 

 構築術式________己の呪力を元に物質を0から構築する術式。

 

 領域展開における結界内での生得領域の具現化とは異なり構築術式で一度生成された物質は術式終了後も消えることがない。

 

 それ故に呪力消費が激しく体への負担が大きい、私には一日一発の弾丸を作るのが限界。

 

 分かりやすく弾数でブラフを貼るためのリボルバー、六発放ち切った後の7発目は先ず間違いなく当たると思っていた。

 

 それでもアンタは対応した、本当大っ嫌い。

 

「私が具現化した物質は生成から術式終了後3秒後に消える」

 

「術式開示……いや違えーな、はっ……縛りか?」

 

「夏目さんは苦手だけど、アンタと違って嫌いじゃない……!」

 

「なるほどね________そーゆーことかよ!」

 

 

 受け売り通りに自分の術式を縛る事が出来ても私の呪力量が変わった訳じゃ無い、元となる呪力量が少ない私が、術式に対して縛りを加えたとしても飛躍的に構築術式が扱えるようになった訳じゃ無い。

 

 そもそも一度物質を作っている時点で呪力が減るのは確定事項、近代兵器を使うと決めた以上弾丸以外を創らない縛りも加えても、私が物質(弾丸)を創り出せる数は精々一日に7発、限り限りで8発程度!

 

 だからってアンタは私がどれだけ物質を作れるか知らないでしょ……っ!

 

 

「っぶね!」

 

 

 放つ銃弾を手に持った刀で弾く、続けて撃ち出した2発目は体を捻る事で避けられる。

 

 真希と目が合う________もう目と鼻の先、近接戦闘で勝てるとは思えない、私は一歩下がって、その一歩を真希の踏み込みが大きく超えてきた。

 

「まだよ」

 

 トリガーが引くよりも先に私の足が払われる。

 

 不発に終わる弾丸、体勢を崩しても私の手はまだ拳銃を持っている、近距離________ゼロ距離からの射撃。

 

 

「っのやろ……!」

 

「ぐっ!」

 

 

 トリガーを引いた先の真希の腹部に私の弾丸が命中した。

 

 それを顰めっ面で堪えるような顔をしながら、真希は私の拳銃を蹴り飛ばして薙刀の棒の部分で私を薙ぎ払って木に叩きつけた。

 

 ……予備の拳銃、持ってきて正解だった。

 

 

「________まだやるか?」

 

「げほっ……当たり前、でしょ」

 

 

 腹部と背中の痛みを無視して、木に手を付けて予備の拳銃を真希に向けながら私はそう口にした。

 

 ……残り2発が限界、それ以上は多分気を失う。

 

 それでも、私は。

 

 

 そう思って、真希に目を向けた瞬間。

 

 

 夥しい程の呪力のうねりが、この空間を支配した。

 

 

「何……!?」

 

「あの方向……っまずいな」

 

 

 そう言って真希は私に背を向けて駆け出し始める。

 

「っ逃げるの!?」

 

「バカかよ!交流会とかそれどころじゃねーだろ、緊急事態だ!おい真衣、倒れてる釘崎と三輪って奴連れてここから離れろ!それから教師連中にも」

 

「うるさい!」

 

「________真衣、おまえ……」

 

 自分の感情が、呪いが、止められなくなって言葉に出る。

 

 

「私は……私は、呪術師になんてなりたくなかった……ッ」

 

「今は話してる場合じゃ……」

 

「なんで、家を出たの?どうして一緒に落ちぶれてくれなかったの?」

 

 

 腹の底から出た本音、あの日確かに約束してくれた筈の言葉を、どうして裏切ったの。

 

 

「……あのままじゃ私は私を嫌いになってた、それだけだよ________ごめんな」

 

 それを真希は目を伏せながら、静かにそう口にしてその場から離れていった。

 

 私を置いていって誰かに縛られる事なく、また。

 

 

「嘘つき……」

 

 ただ、一緒にいて欲しかっただけなのに。

 

 

 真希も……私も。

 

 

 大っ嫌い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________帳が降りてから数分後。

 

 

 高専結界内、帳の中にて現れた推定特級呪霊「花御」

 

 決行された計画に対しての“囮役”である花御は、予め呪詛師による助言により高専の生徒を殺すまで追い込む事はせず、されど戦闘不能程度には追い込みように調整しつつ戦闘を開始。

 

 呪言師である犬巻棘は呪言の反動により戦闘不能、加茂家時代当主加茂憲紀は花御による打撃の応酬で戦闘不能。

 

 助太刀に来た四級術師禪院真希は度重なる呪い合いの果てに、戦意は失ってないまでも肉体の消耗が激しくこれ以上の行動は限界。

 

 その最中に乱入して来た一級術師東堂葵、同じく乱入した宿儺の器虎杖悠仁。

 

 しかし花御が今、何よりも不可解で何よりも疑問なのは。

 

 

 ________あの東堂とかいう人間も宿儺の器も私より弱い……それはこの影を使う少年もその筈。

 

 だというのに決め切れなかった……!

 

 戦闘時に於けるセンスか、或いは実戦経験、訓練量によるものか。

 

 打ち込む筈だった根を間一髪の所で蝦蟇を呼び出して盾にする事で直撃を避け、瞬時に術式を解いて完全に破壊される事を防ぐ事に成功させていた。

 

 事実として伏黒恵は、禪院真希や虎杖悠仁並みに身体能力が高い訳ではない。

 

 一級術師東堂葵と比べれば呪力量も並びこそすれど超えている訳ではない。

 

 にも関わらず特級相手に圧倒的劣勢ながらも動けているのは、花御が殺害を禁じている事の影響か?

 

 

 否。

 

 

「パンダ先輩、俺はまだやれます。真希さん達を連れて帳を出て下さい」

 

 

 今漸く、伏黒恵は自らが「強敵相手との戦闘」に対して自らの現時点での実力の一歩先のポテンシャルを発揮出来る事を実感する。

 

 それは極稀に過去の因縁から本気で殴りかかる五条悟による教育(・・)や、夏目鮮花の虚数術式を用いた実用的戦闘訓練。

 

 そしてそれらを含めた上で少年院での出来事、呪いの王両面宿儺との戦闘。

 

 それが決定打となって伏黒恵は対強敵に対して、呪術師としてのステージを昇格することになった。

 

 それはつまりこれから始まる戦闘に付いて来れるという事。

 

 

「ククッ……やはりお前は面白い男だな(・・・・・・・)、伏黒!」

 

「は?なんすかいきなり」

 

「ふっ……お前のタイプの女は俺とは真逆だがその在り方は認めてるぞ……」

 

「えっ何何?その話詳しく教えてくれたりしない?」

 

「うっぜぇ……!お前も東堂さんも状況分かってますか……!」

 

 特級呪霊相手に、生徒三人。

 

 数では有利だとしてもそれでも個々の質では花御が数段上である事には変わらない。

 

 

 ________どうする?俺もそうだが虎杖にとっては敵う相手じゃ無い、少年院の時とは訳が違う。東堂さんは俺たちより強くてもあの呪霊相手に一対一で祓える程強くはないだろ……!

 

 徒党を組んで祓えるとも思えない、時間稼ぎに専念するしかない……だとしても、この呪霊相手にどこまで通用出来る?俺が致命的な攻撃を受けて居ないのは、単純にあの呪霊が俺相手に“本気”になってないだけだ。

 

 いつ本気になるかわからない、その時が来たとして、虎杖を守り切れる自信はない、自分の事で精一杯になった上で、俺自身も無事でいられるかわからない……どうやってこの帳が晴れるまで持ち堪える?

 

「俺は手を出さんぞ、無論伏黒も手を出すな」

 

「はぁ?!何言ってんすかアンタ!」

 

 

 伏黒の思考を遮るように東堂葵はそう宣言する。

 

「虎杖が黒閃をキメるまでどんな目に遭おうとも俺はお前を見殺しにする!」

 

「押忍!」

 

「押忍じゃねえよ……ッ!虎杖、お前________」

 

 

「伏黒、大丈夫」

 

 

 振り向いた虎杖悠仁の顔は、あの時同じ言葉を言った人間とは思えない程に、心の底からの「笑み」を浮かべて。

 

 伏黒恵はその言葉を受けて、続けようとしていた言葉を止めた。

 

 

「羽化を始めた者に何人も止めることは許されない、虎杖は今そういう状態だ」

 

「ッ……!次死んだら殺す!」

 

「そんじゃ死ぬワケにはいかねーな」

 

 口に血が出るほどに噛み締めて、伏黒は握り拳を作りながら虎杖悠二の羽化を尊重した。

 

 花御はその様子を観察しながらも、会話の応酬を考察する。あの東堂とかいう男の謎の胆力、余程の術式を持っているのか。そしてコクセンとは……?

 

 

「お前、話せるのか……一つ聞きたいことがある」

 

 

「________お前の仲間にツギハギ型の人型呪霊はいるか?」

 

 

『いる、と言ったら?』

 

 

 瞬間、水面を叩く強烈な打撃と共に、虎杖悠仁と花御の殺し(呪い)合いが開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________同時刻、呪物庫前にて。

 

 

 高専にある寺社仏閣そのほとんどがハリボテで、天元の結界術によって日々配置を替えている。

 

 その中の千を超える扉の内一つが“指”を含める危険度の高い呪物を保管する“蔵”へと通じている。

 

 その日どの扉が蔵へと繋がっているかは天元しか知らないから邪魔は入らないはず。

 

 以前高専に回収させた指に、回収前に呪詛師が特級呪霊真人の呪力で作った札を貼っていた、一層の内部の封印だからまず気付かれない。

 

 だから本人________真人なら簡単に辿れる、ここまでは良いだろう、実際その通りで呪詛師と呪霊側の計画は順調に進んでいた。

 

 

 問題なのは次。

 

 

 門番的なモノについて真人が呪詛師に聞いた時、扉と蔵の間に天元の側近が2人、ただの雑魚がいるということを真人は聞いた。

 

 帳が降りる前に高専に待機している呪術師を静かに殺してあげて、そろそろ宿儺の指辿るかと考え行動を開始して、真人は扉の前に来た。

 

 ここまでは良い、何の問題はない。

 

 そう、さっきも思ったけど問題は次、今この瞬間って事。

 

 

「なーんで君がいるのさ……七三術師ィ!」

 

「______夏目先輩の相談はいつだって、面倒な事を押し付けてくる合図ですね」

 

 

 扉の先の蔵に“指”がある、その扉の前に一級術師七海健人はため息を一つ溢しながら、目の前に現れたあの日逃した特級呪霊に相対した。

 

 きっかけは七海の奢りで夏目鮮花と共に焼肉屋での会話だ。

 

 

 ________念の為、姉妹校交流会の日に宿儺の指が管理されている扉の前に居てくれない?嫌な予感がするんだよね。

 

 そう夏目鮮花は七海健人に対してお願い(・・・)をした。

 

 夏目鮮花にとって七海健人という人間は自らの直属の後輩であり、そして夏目にとって“最も”信用と信頼をおいている出来る(・・・)後輩なのだ。

 

 その出来る後輩に自らの懸念を語り、説得し、その結果がこの瞬間だ。

 

 大前提として指の在処は天元本人しか知らない、その認識は呪術師も同じ。

 

 だから夏目鮮花は機会を見計らって天元と限りなく近い位置まで接近(・・)した。

 

 虚数術式を用いて代用した結界術によるその力技は、己の居場所を悟られる事を拒絶した天元に対して「会話」という手段を取らせる事に成功したのだ。

 

 それによる指の在処の特定、その扉前に自らの信用も信頼もしている後輩をその日だけ配置。

 

 

 ________ハハッ、読み合い負けてんじゃんかアイツ……!

 

 

 作戦決行前、真人は何気無しに「なーんか他に注意事項とかある?」と呪詛師に聞いた際「……強いていうなら、夏目鮮花がどう動いているかだけど……私達の動きを気取った様子は無いし、大丈夫」と言っていた事。

 

 だというのに、目の前の状況はどうだ?

 

 真人は笑った、あれだけ慎重に行動している呪詛師が、些細なミスすら気を遣ってるであろうあの少女の皮を被ったアイツが、思考戦に於いて夏目鮮花という特級呪術師に一歩先をいかれている!

 

 ああなるほど確かに!今漸く分かった、五条悟だけじゃなく夏目鮮花も今後の計画に邪魔だって理由のその核心が!

 

 真人は呪詛師に共感した。あぁ確かに邪魔だ、呪術師としての実力以上に、その異様なまでの思考の発想……発展、そしてそれらを実行出来る胆力と行動力、そのすべてが。

 

 しかしその共感を超える感情もまた、真人の中で渦巻いていた。

 

 それは、あの日の呪術戦の続き、つまり_______純粋なまでの、戦闘意欲。

 

 

「虎杖無しで俺を祓えんのかよ七三術師!」

 

「正直難しいでしょうね、ですから________数分後、あなたを祓える術師が来ます。その間この扉を通さずに時間を稼げば良い」

 

「ハハッ、その数分で君も殺すし呪物も奪えるさ!」

 

 

 夏目鮮花が到着するまでここで時間を稼ぐ、何故夏目鮮花本人がこの扉の前で守らなかったのか、その理由は知っている。

 

 そしてそれが本当なら夏目にとって高専での呪物よりも優先順位の高いモノ、七海は夏目鮮花が自らの指標で動く人間だと理解している。

 

 だからこそ、この時間稼ぎは自分にしか出来ない事だと理解してしまった(・・・・・・・・)

 

 

 七海健人にとって幸運だったのは、呪物を奪いに来たのが一度戦闘を行った事のある継接ぎの呪霊であった事。

 

 仮にここに居たのが夏目鮮花と交戦した呪詛師だった場合、時間稼ぎすらもままならないまま殺されていたであろうと七海は考えていた。

 

 

「領域、使えないんでしょう?私を殺す事は出来ても、領域程の呪力の起こりを五条さんが先ず見逃す筈が無いですから」

 

「ははっ、だとしても何度も触れれば君も呪霊の仲間入りさ!」

 

 

 両者共に戦闘を開始する。

 

 

 

________それは時同じくして、虎杖悠仁と花御の戦闘が始まるのとほぼ同時刻であった。

 




次話は明日か明後日。
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